Volume 28, No.4 Pages 373 - 375
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第37回メスバウアー効果の応用に関する国際会議ICAME2023会議報告
Conference Report: ICAME2023 (XXXVII International Conference on the Applications of the Mössbauer Effect)
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 精密分光推進室 Precision Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
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1. はじめに
ICAME2023(XXXVII International Conference on the Applications of the Mössbauer Effect)が2023年9月3日から8日までの日程で、コロンビアのカルタヘナで開催された[1][1] https://www.udea.edu.co/wps/portal/udea/web/inicio/campanas/icame-2023。会議の名前にもあるメスバウアー効果とは、原子核の無反跳共鳴吸収現象を指しており、ICAMEではこのメスバウアー効果を応用した測定手法を取り入れた研究が議題の中心になっている。ICAMEは2年毎の開催であり、ルーマニアで開催された前回のICAME2021に続いてICAME2023も対面・オンラインのハイブリッド形式で開催された。しかし大半の参加者がオンライン参加であったICAME2021とは異なり、ICAME2023は多くの参加者が現地に足を運んでいた。また、ICAME2021は超微細相互作用とその応用に関する国際会議(International Conference on Hyperfine Interactions and their Applications, HYPERFINE)との共催であったが、今回のICAME2023は単独の開催である。
筆者は日本から地球の反対側に近いコロンビアまで移動するため、フライトだけでもかなりの時間が必要だった。関西国際 - ロサンゼルス - マイアミ - カルタヘナという、アメリカをほぼ横断する計19時間近いフライトでようやくコロンビアに降り立った。会場であるHotel Caribe by Faranda Grandはカリブ海のビーチすぐそばに位置するホテル(写真1)であり、空港から5、6 km程度の距離をタクシーで移動し会場に到着した。
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写真1 ICAME2023会場であるHotel Caribe by Faranda Grandの外観。
2. 会議の概要
初日にはTutorial Lectureのみが行われ、Opening Ceremonyは2日目に行われた。Opening CeremonyではUniversidad de Antioquia学長のJohn J. Arboleda氏、メスバウアー効果の応用に関する委員会(International Board on the Applications of the Mössbauer Effect、IBAME)委員長のR. Röhlsberger氏、IBAMEのコロンビア代表でありICAME2023議長のC. A. Barrero Meneses氏の挨拶が行われた。Scientific Programは従来のICAMEと同様のトピックで分類されていた。そのトピックは以下の通りである:
- Magnetism and solid-state physics
- Chemistry
- Nanostructures and thin films
- Materials science and industrial applications
- Biological and medical applications
- Earth sciences, mineralogy, cultural heritage and environmental sciences
- Lattice dynamics and vibrational properties
- Experimental techniques, methodology and coherent phenomena
会議スケジュールはハイブリッド開催にあたりオンライン参加者の時差を考慮した結果、セッション内でトピックが統一されてない進行となった。このことはClosing Ceremony内の総括でもハイブリッド開催のデメリットとして取り上げられていたが、会議参加へのバリアを考えると難しいところである。
発表内容の概要を紹介する前に、ICAMEと放射光を用いた実験の関係について少し述べる。メスバウアー効果を用いた測定で最も主流なのは放射性同位元素(RI)から自然放射されるγ線を用いた吸収分光測定であり、放射光を利用しない測定である。その一方でSPring-8を含む各放射光施設でも核共鳴散乱という括りでメスバウアー効果を用いた測定が行われている。放射光とメスバウアー効果を組み合わせることで得られる測定手法には、核ブラッグ散乱を用いることで高フラックスな偏光γ線を利用するエネルギー分光法(Synchrotron Mössbauer Source、SMS)、RI線源を利用することが難しい短寿命の原子核励起を利用する吸収分光法、特定の原子核の振動を観測する核共鳴非弾性散乱法などがあげられる。南米で核共鳴散乱実験を実施できる放射光施設が存在しないこともあってか、ICAME2023での大多数の発表がRI線源を用いた測定についてであったが、放射光ユーザーを読者として想定し、放射光施設が関係する発表内容からいくつか紹介する。
解析手法についてESRFのS. Yaroslavtsev氏は、SMS用の解析プログラムSYNCmossを開発したという報告を行った。RI線源の代わりに放射光メスバウアー線源を用いるSMSでは、高いフィッティング精度を得るために放射光メスバウアー線源特有の装置関数を考慮する必要がある。今回発表されたSYNCmossはその装置関数を標準試料の測定から導出し、これを用いて試料のスペクトル解析を行うソフトウェアとなっている。これはオープンソースプロジェクトであり、Voigt関数を用いることでSMSだけでなくRI線源を用いるような従来のメスバウアー分光法のスペクトル形状も利用可能なソフトウェアであるという[2][2] S. Yaroslavtsev: J. Synch. Rad. 30 (2023) 596-604.。興味がある方はダウンロードしてみると良いだろう[3][3] https://gitlab.esrf.fr/yaroslav/syncmoss
放射光を用いた核共鳴散乱測定は、高輝度である以外にも原子核励起の特徴の一つである電子系の励起と比べて長い寿命を利用することで、ダイナミクスの測定にも有用である。本会議でもいくつかのダイナミクスに関する発表が行われた。例えばESRFのD. Bessas氏は低温高圧下での57Fe SMSと149Sm核共鳴前方散乱測定(Nuclear Forward Scattering、NFS)を用いることで鉄系超伝導体SmFeAsOの磁気揺らぎを観測した結果を、Helmholtz Institute JenaのS. Sadashivaiah氏はレーザーパルスを用いることで原子核量子状態の制御を可能にする実験結果をそれぞれ報告していた。
メスバウアー効果を応用することで科学の重要な発展に貢献した研究者に贈られるIBAME Awardには、Kyoto UniversityのM. Seto氏とAGH University of Science and TechnologyのS. M. Dubiel氏が選出された。特に放射光分野においてはSeto氏は散乱体を用いる放射光メスバウアー吸収分光法、核共鳴非弾性散乱測定や準弾性散乱測定の手法開発・発展に大きく貢献されている。この場を借りて改めてお二人にお祝い申し上げる。
ポスターセッションではオンサイトでのポスターセッションとオンラインでのポスターセッションがそれぞれ開催された。オンラインのポスターセッションはZoomを用いて行われた一方で、オンサイトのポスターセッションで掲示されたポスターについてオンラインから議論することはできなかったようだ。コロナ禍の収束までに学会の様式も大きく変化したが、ポスターセッションは未だ発展の余地があるように思うのは筆者だけだろうか。
3. その他
初日の夜にはWelcome Cocktailと称し飲み物と軽食がふるまわれ、参加者同士が再会を懐かしみ喜びながら談笑する声が多く聞こえた。Excursionではカルタヘナの観光ツアーが実施され、サン・フェリペ要塞(写真2)やビーチ、旧市街をガイドしていただいた。Social Program(写真3)では食事を堪能しながら伝統的な音楽、踊りを楽しんだ。
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写真2 Excursionで訪れたサン・フェリペ要塞の写真。要所ごとにガイドから説明を受けながら、複雑な通路やトンネルを通って頂上に登った。
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写真3 Social Program開催にあたり、ICAME議長の挨拶の様子。Social ProgramはICAME会場と同じホテルで実施された。
日本のIBAME代表に今回の会議参加者数について教えていただいたところ、口頭、ポスター発表を合わせた総発表者131名、内オンサイト84名、オンライン47名であり、Webでの最大同時接続は32アカウントであったそうだ。各国からの参加人数としては、やはり開催国のコロンビアが最も多く25名、次いでドイツ、日本という順番であった。
最後に、Closing Ceremonyでは次回開催についての案内があった。次回は2025年の9月7日から12日にかけてポーランドのGdańskにて、HYPERFINEとの合同開催が予定されている。ICAMEでは各ICAME組織委員会の代表が代々バトン代わりにハンマーをリレーしているが、前回のICAMEはオンライン参加によってリレーができなかったため、今回は会議始めにコロンビア代表に、会議終わりにポーランド代表に、と2回の授与式が行われた。日本でもコロナウイルス感染症が5類に移行して随分経つが、全体を通してコロナ禍での制限からの脱却が感じられる会議であった。
参考文献
[1] https://www.udea.edu.co/wps/portal/udea/web/inicio/campanas/icame-2023
[2] S. Yaroslavtsev: J. Synch. Rad. 30 (2023) 596-604.
[3] https://gitlab.esrf.fr/yaroslav/syncmoss
(公財)高輝度光科学研究センター
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