Volume 28, No.3 Pages 272 - 275
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第23回SPring-8 夏の学校を終えて
The 23rd SPring-8 Summer School
夏の学校の概要
「第23回SPring-8夏の学校」は2023年7月9日(日)~7月12日(水)の4日間の日程で、全国31校から87名の学生の参加を得て、放射光普及棟およびSACLA実験研究棟大会議室、SPring-8蓄積リング棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関(理化学研究所 放射光科学研究センター、日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター、量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所)と、これらの機関と連携大学院協定を持つ大学(兵庫県立大学理学部・大学院理学研究科、関西学院大学理学部・工学部・生命環境学部・大学院理工学研究科、岡山大学、茨城大学大学院理工学研究科)、SPring-8サイトにビームラインを持ち、そこで教育を行っている大学(大阪大学光科学連携センター・蛋白質研究所・核物理研究センター)、および(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)が主催して、ビームタイムや講師を供出し合って行ったものです。校長は関西学院大学教授の藤原明比古先生にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務局はJASRI利用推進部が行いました。なお、主催大学の中には夏の学校への参加を講義として単位認定しているところもあります。
図1 講義風景
カリキュラムについて
夏の学校では通例として、初日に3講義、2日目に4講義を行い、その後の2日間に2テーマの実習を行っています。また、SACLAとSPring-8の実験ホールの見学、さらにはSPring-8蓄積リングの電磁石や挿入光源の見学を行いました。今年の実施スケジュールは以下の通りでした。
第23回SPring-8夏の学校 日程表 − 2023年7月9日(日)~12日(水)
ビームライン実習について
実習は27ビームラインで行われました。実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。
BL01B1 | “その場”XAFS計測 (加藤和男・伊奈稔哲・片山真祥(JASRI)) |
BL02B1 | 単結晶構造解析の入門 (野上由夫(岡山大学)・中村唯我・一栁光平(JASRI)) |
BL04B1 | 大容量高圧プレスと白色X線を用いたX線回折実験 (肥後祐司(JASRI/茨城大学)・柿澤翔・辻野典秀(JASRI)) |
BL04B2 | 高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析 (尾原幸治・廣井慧(島根大学/JASRI)・山田大貴・下野聖矢(JASRI)) |
BL05XU | 初めてのビームライン光学技術 (湯本博勝・小山貴久(JASRI)) |
BL08W | コンプトン散乱イメージング (辻成希(JASRI)) |
BL10XU | ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧X線回折実験 (河口沙織・門林宏和・岡健太(JASRI)) |
BL11XU | 自作の高速X線検出器でSPring-8のバンチ構造を観測しよう (三井隆也・藤原孝将(QST)) |
BL13XU | サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 (隅谷和嗣(JASRI)) |
BL14B2 | XAFS分析の基礎 (大渕博宣・渡辺剛・本間徹生(JASRI)・佐藤眞直(JASRI/岡山大学)) |
BL17SU | 光電子顕微鏡~ナノ分解能で見る元素分布と磁気構造~ (濵本諭(理研)・大河内拓雄(JASRI)) |
BL19B2 | 粉末X線回折 (大坂恵一・伊藤華苗・桑本滋生・仲谷友孝(JASRI)・佐藤眞直(JASRI/岡山大学)) |
BL22XU | X線回折法を利用した金属材料応力・ひずみ評価 (菖蒲敬久・冨永亜希(JAEA)) |
BL25SU | 軟X線光電子分光を用いた電子状態解析 (山神光平(JASRI)) |
BL26B2 | 単結晶回折(タンパク質) (上野剛(理研)・河村高志(JASRI)) |
BL29XU | X線ライトシート顕微鏡実験 (香村芳樹・高野秀和・Sierra Dean(理研)) |
BL31LEP | GeV光子ビームの生成と粒子・反粒子対の検出 (石川貴嗣・郡英輝・小早川亮・橋本敏和・桂川仁志(大阪大学)) |
BL35XU | 放射光メスバウアー分光測定 - 放射光パルスと電子状態解析 - (依田芳卓・永澤延元(JASRI)) |
BL37XU | 走査型顕微分光法の基礎 (新田清文・関澤央輝(JASRI)) |
BL40B2 | 小角X線散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 (八木直人・関口博史(JASRI)) |
BL41XU | 単結晶回折(タンパク質) (熊坂崇(JASRI/関西学院大学)・長谷川和也・坂井直樹・水野伸宏(JASRI)・山口峻英(茨城大学)) |
BL43IR | 赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析 (森脇太郎・池本夕佳(JASRI)) |
BL43LXU | X線非弾性散乱による原子振動測定 (石川大介・福井宏之(JASRI)) |
BL44B2 | 全散乱計測における誤差解析 (加藤健一(理研)) |
BL44XU | 単結晶回折(タンパク質) (中川敦史・山下栄樹・櫻井啓介(大阪大学)・山口峻英(茨城大学)) |
BL46XU | 硬X線光電子分光 (安野聡・Seo Okkyun・髙木康多(JASRI)) |
BL47XU | 放射光X線イメージングと基礎データ解析 (安武正展・上杉健太朗(JASRI)) |
図2 実習風景
新型コロナウイルス対策として、例年行っていた懇親会やバーベキューは感染防止のため今年も実施しませんでした。終了後のアンケートの回答を見ると参加者からは交流の機会を望む声が多数寄せられていました。
謝辞
熱意のこもったわかりやすい講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を熱心に指導していただいた実習担当の皆様、わかりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、SPring-8蓄積リング放射光発生装置の見学を可能にしていただいたJASRI加速器部門の方々、SACLAの見学にご尽力いただいた理研およびJASRI関係者の方々に感謝いたします。また、事務局としてご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々にも感謝したいと思います。
第23回SPring-8夏の学校に参加して
奈良女子大学大学院
人間文化総合科学研究科 数物科学専攻
山野 優里子
私は、現在大学が所有する加速器を用いた放射線実験を行っております。もともと加速器などの装置に興味があり、大学1年生の頃から見学会に参加させていただいていました。そして学部4年次に放射線物理学研究室に所属し、世界最先端の放射光施設に行って学んでみたいと思い、今回の夏の学校に参加させていただきました。
夏の学校では全4日間の日程で講義、実習、実験施設の見学の日程が組まれています。SPring-8夏の学校の前半2日間は、放射光に関する原理から、放射光を応用した実際の手法を含む測定まで、非常に幅の広い講義を受けることができました。事前に放射光実験の基礎編としてオンラインセミナーを受講することができ、普段馴染みがない方でも段階を踏んで学ぶことが出来ると感じました。講義では放射光の基礎から、X線のイメージングや検出器の原理や測定など応用的な講義まで幅広く学ぶことができました。また、その分野の専門家の方から直接講義を聞き、質問をすることができるという機会は本当に貴重であり、とても素晴らしい経験をすることができたと感じています。特に装置の原理等は加速器にも通ずる部分が多く、理学系の研究室では普段は実験で使用する加速器周辺機器の原理原則をじっくり学ぶ機会は少ないので大変貴重な学びとなりました。
講義に加えて、2日目の朝にSACLA、SPring-8のビームライン、3日目の夜にSPring-8蓄積リング(放射光発生装置)の見学を行いました。施設を実際に見ながら説明を受けることで、講義で聞いた内容もさらに理解が深まりました。普段は入れない箇所も見学することができ、装置の規模感や精巧さなどを肌で実感しました。また、講義で学んだことと照らし合わせながら楽しく見学することができました。特に印象に残ったことは、SPring-8蓄積リングの見学です。ビームを生成されている制御室にも入ることが出来ました。そこにある多数のモニターは3交代で管理されているようでした。SACLAを含め世界トップの技術が集まる施設においても人の手で制御されていて、装置はもちろん全てにおいて世界のレベルを直接体感できたことは、これからの研究生活において、非常に良い刺激になりました。
実習では少人数に分かれて実際にビームラインを使った実習を体験することができます。1つ目の実習はBL17SUで光電子顕微鏡を使ってナノ分解能でみる元素分布と磁気構造の実習を行いました。そして軟X線ビームラインのPEEM装置を用いて、空間分解XASによる微小領域の元素分析と磁性体表面の磁区観察を行いました。試料の準備やセットの仕方など、一から丁寧に教えてくださり、測定装置の扱い方も講義を交えながら手を動かして学ぶことができたので大変勉強になりました。2つ目の実習はBL11XUで実習を行いました。SPring-8は高輝度なX線を生成できる以外に、様々なタイミングパターンのX線パルスを生成できる特徴があります。この実習ではアバランシェフォトダイオード(APD)検出器という高速な検出器を実際に作成し、放射光のパルスを測定することでSPring-8の蓄積リング内にある電子の塊(バンチ)の構造を観測するという内容でした。自分たちで配線から考え検出器を作成することで測定に関する仕組みを知る機会となり、より理解を深めることが出来ました。また丁寧に原理や方法の説明をしていただいたことで初めての実験でも考察をしながら進めることができました。これらのビーム実習では、普段の研究とは異なる分野の実習を選択しても基礎から教えていただき実際に実験ができます。
夏の学校において、講義や実習と同じく大事なことは、同世代の方々と交流できることであると思います。同世代と言っても、大学や研究分野が違えば発想も様々ですので、同じ分野ではない参加者の方に声をかけることに躊躇することもありましたが、このような交流の場においては殻に閉じこもることなく、学校や学年、研究分野の垣根を越えて話してみることで様々な視点や発想に触れることができる良い機会であると思います。私はこの4日間の夏の学校の体験を通して研究者を目指す方々の考え方や研究に触れることができ、広い世界を見させていただきました。私事ではありますがここで出会った方々とは、以降も関わりを持ち相談させていただいたり、また何か進展があった時にはご報告したいと思う方ばかりでした。来春からは重工業の研究者として働く予定ではありますが、この学校での経験を糧に、日々研鑽を積みたいと考えております。
最後に、第23回SPring-8夏の学校を開催してくださった運営の皆様、講師の先生方、ビームライン担当者の皆様、そして見学引率者の皆様に深く御礼申し上げます。4日間に渡るカリキュラムでここまで充実し、原理原則を一から学ぶことだけに焦点を当てた貴重な機会は今後ないと思います。ご尽力いただきました皆様に恥じないよう、今回の経験をもとに、より一層努力して参ります。
改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。
図3 見学風景
図4 記念写真