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Volume 28, No.1 Page 1

理事長室から 階層構造とウロボロスの蛇-宇宙~物質・生命・人間~素粒子-
Message from President Hierarchical Structure and Ouroboros Serpent – Universe ~ Matter, Life, Human ~ Elementary Particles –

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 物質・生命の時空間の階層構造を計測することは、放射光科学の重要なテーマであり、空間では10-11~10-2 mの階層(9桁)、時間では10-9~100 sの階層(9桁)1)が測定対象である。いわゆるmultiscale計測が重要な計測技術として位置づけられている所以である。一方、自然界の空間の階層構造は、ウロボロスの蛇2)で表現されるように10-26 m(素粒子)~1028 m(宇宙の大きさ)であり54桁にも及ぶ。ウロボロスの蛇の頭は宇宙を、尻尾は素粒子を象徴し、頭が尻尾を飲み込み、蛇が1つのリングを構成している。頭が尻尾を飲み込みお互いに繋がっているのは、宇宙の解明と素粒子の解明が密接に関係しているからである。SPring-8がリング状であるので、リング状のウロボロスの蛇を身近に感じている。
 自然界の54桁にも及ぶ空間階層構造に驚異の念を感じざるを得ない。空間階層構造という言葉は私が小角X線散乱に携わっていた頃によく用いたが、小角X線散乱で測定できる階層は高々5桁。放射光の他の計測法を組み合わせれば上述の9桁まで広がるが、自然界の54桁と比べるとなんと狭い階層かと思わざるを得ない。
 自然界には4つの力(電磁気力、強い力、弱い力、重力)がある。しかし、人間の日常生活の空間階層(10-3~104 m)で直接関係する力は電磁気力と重力であり、物質・生命科学が対象とする空間階層(10-11~10-2 m)では電磁気力のみである。従って、他の3つの力に関する知識がなくても研究を行うことができ、このことは物質・生命科学研究者にとってはありがたいことである。逆に言えば、電磁気力をしっかり理解しておかなければならない。
 自然界の54桁の空間階層の丁度真ん中に位置するのは101 mの階層であり、これは我々人間の大きさの階層にほぼ一致することに気がついた。これは偶然の一致か、それとも人間の空間階層が自然界の真ん中になるようにデザインされてでもいるのか? 人間原理3)という考え方があるが、その妥当性に関して、好奇心と空想が広がる。人類は太古から3つの大きな未知を解明すべく自然科学を推進してきた。宇宙(蛇の頭)、物質・生命・人間(蛇の真ん中)、素粒子(蛇の尻尾)である。放射光科学は、物質・生命の未知を解明する研究、及び、ウロボロスの蛇の真ん中に位置する人間の生活向上に資する研究を行うために必須なツールである。
 リング状のウロボロスの蛇は、自然界のより本質的な形態は直線(並進運動)ではなく円(回転運動)ではないかという思いを抱かせる。量子論を特徴付けるプランク定数は、[長さ]×[運動量]という次元の物理量4)であり、これは自然界の回転運動(角運動量)の最小値を定めている。ちなみに、SPring-8の回転電流は地球上で最も大きい磁気モーメントを創っている5)
 皆さんにも是非、リング状のウロボロスの蛇を身近に感じて頂き、自然界のロマンについて色々と語り合いたいと思っています。

1)SACLAの場合は、10-15~10-2 sの階層(13桁)。
2)https://www2.kek.jp/ipns/ja/special/belle2-nicolive/particles-and-universe/
3)https://ja.wikipedia.org/wiki/人間原理
4)作用と呼ばれ、[エネルギー]×[時間]という物理量でもある。

5)[磁気モーメント]=[円の面積]×[電流]であり、SPring-8は巨大な磁気モーメントを創る。しかし、磁化は単位体積当たりの磁気モーメントであるので、磁化に換算すると桁違いに小さくなり、周りの磁場に影響を与えることはない。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794