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Volume 27, No.3 Page 186

理事長室から SPring-8, be sustainable for SDGs!
Message from President SPring-8, be sustainable for SDGs!

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 猛暑や集中豪雨の異常気象を身近に感じる昨今、地球温暖化対策に向けた取り組みの必要性を強く感じます。SPring-8/SACLAでは昨年8月に、SDGsやカーボンニュートラルに資するグリーンイノベーションを目指す研究開発活動を一層推進するグリーンファシリティ宣言を行いました1)。人類の活動が地球の生態系に与える影響が無視できなくなった地質時代における時代区分は「人新世」2)と呼ばれ、その影響が特に第2次世界大戦後に劇的に増加していることから、地球温暖化は科学技術の進歩がもたらした負の側面であることは明らかです。その意味でも、問題解決のために科学技術の果たすべき責任、特にSPring-8が果たすべき責任は非常に大きいと考えます。
 SDGsには、成長の限界3)や地球の限界4)という考え方が大きく反映されています。ここでいう限界とは、「増加に関わる上限」を意味していますが、日本国内に目を転じると、皮肉にも、解決すべき問題は、「減少に関わる下限」に関することが山積しています。人口の減少、それに伴う後継者の不足、地方都市機能の不全、老朽化による社会インフラの不全、電力の不足等々の問題です。
 「万物は流転する」、「諸行無常」といわれるように自然界は絶えず変化しているので、人間活動や人間社会が変化すること自体に問題があるのではなく、「増加」であれ「減少」であれ、それがレジリエント(回復可能)であることが求められるのだと思います。物理学の言葉でいえば、その変化が不可逆的か可逆的、塑性的か弾性的かの問題であり、人間活動や社会の変化の時定数が自然界の有する時定数と整合するようにデザインできるか否かが重要なポイントです。気候変動、海洋汚染、土地汚染、オゾンホールや生物多様性の問題、然りです。
 我が国には、式年遷宮という伝統があり、三重の伊勢神宮では原則20年ごとに新しい社殿を造ってご神体を移します。この伝統があるため、伊勢神宮は約1300年に渡ってSustainableであり続けてきました。20年という時間の長さは、社殿の老朽化の時定数、また、社殿を造る宮大工の世代交代の時定数に整合した時間の長さであり、式年遷宮は古来の日本人の知恵であり、世界に誇るSDGsの良き見本であるといえます。
 SPring-8は稼働を始めて25年の節目を迎えました。施設の主要部の老朽化も顕著になりつつあります。SPring-8を支える研究者の世代交代、若い人材の育成が必須な時期を迎えています。SDGsを目指すSPring-8自体がSustainableであることが必要であり、25年の節目を迎えたSPring-8は、変化(SPring-8→SPring-8-II)の時定数に至っていると強く感じます。皆様の引き続きのご支援をよろしくお願いします。


1)http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2021/210823/
2)https://ja.wikipedia.org/wiki/人新世
3)https://ja.wikipedia.org/wiki/成長の限界
4)https://ja.wikipedia.org/wiki/プラネタリー・バウンダリー

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794