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Volume 27, No.3 Pages 268 - 273

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

専用ビームラインにおける評価・審査の結果について
Review Results of Contract Beamlines

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構及び国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の各専用ビームラインについて、2022年6月の専用施設審査委員会で中間評価を実施した結果、共に専用ビームラインの運用を「継続」することは妥当との結論に至り、その結果を2022年7月開催のSPring-8選定委員会に諮り、承認されましたので報告いたします。

 

 

中間評価
・JAEA重元素科学Iビームライン(BL22XU)
・JAEA重元素科学IIビームライン(BL23SU)
 (設置者:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)
・QST極限量子ダイナミクスIビームライン(BL11XU)
・QST極限量子ダイナミクスIIビームライン(BL14B1)
 (設置者:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構)

 

 

 詳細は、以下に示す各施設の中間評価報告書をご覧ください。

 

 

JAEA重元素科学I・IIビームライン(BL22XU・BL23SU)
中間評価報告書

 

 JAEA重元素科学I・IIビームライン(BL22XU、BL23SU)は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)、物質科学研究センター、放射光エネルギー材料研究ディビジョンによって設置、運用されている専用ビームラインである。2005年10月に専用施設となり、2度の契約更新を経て、2016年から2025年までの約9年間の契約で運用が続けられている。2018年11月に専用施設審査委員会が中間評価を行い、6年契約の他施設に倣って3年後を目処に再度中間評価を設けることを勧告した。この勧告に基づき、今回の中間評価を実施した。
 今回の評価においても、中間報告書等の資料と口頭によるプレゼンテーションをもとに、「装置の構成と性能」、「施設運用及び利用体制」、「研究課題、内容、成果」、「今後の計画」の4項目について評価を行った。その結果、当該ビームラインの継続は妥当であるものの、運営面で改善の努力が必要と判断した。
 当該施設は、原子力研究の発展と成果の社会還元を目指して設置され、現在の重点課題として「アクチノイド基礎科学」、「環境・エネルギー材料科学」、「福島第一原子力発電所事故からの復興に資する研究(廃炉研究を含む)」の3項目を掲げている。ビームラインに先進的な実験装置を整備し、質の高い研究を進めている点は高く評価され、継続の判断につながった。しかし、個々の研究開発の方向性がまとまっておらず、ビームラインの設置目的に沿って戦略的に研究が推進されているとは認め難い。JAEAの専用施設でしか実施できない特色のある研究に資源を集中し、重要課題に組織的に取り組むよう、運営の改善が求められる。今後も社会的関心の高い成果を生むことでJAEA経営層からもより一層の支持を得て、安定した運営を続けることを期待する。
 なお、中間報告書と口頭でのプレゼンテーションの内容に齟齬があり、中間報告書の改訂と再提出が必要と判断した。今後も安定したビームライン運営が可能であるかを評価するには、JAEA経営層からの評価や、JAEA本体の中長期計画と当該ビームラインの運用計画との関連は大変参考になる情報である。改訂に際しては、このような情報も報告書に含めることを期待する。
 以下に、各評価項目についての審査結果をまとめる。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 BL22XUはアンジュレータを光源とし、テンダー領域(~4 keV)から高エネルギー帯(~70 keV)までの硬X線を利用可能なビームラインである。RI実験棟を活用したこのビームラインは、国際規制物質、放射性物質の測定に適した環境を有することが最大の特徴である。RI実験棟にはXAFS分析装置、硬X線光電子分光装置、応力・イメージング測定装置、κ型多軸回折計が導入されている。
 一方、BL23SUはツインヘリカルアンジュレータを光源とする軟X線(0.4~1.9 keV)ビームラインであり、キッカー磁石により高速円偏光切り替えが可能である。RI実験棟には角度分解光電子分光装置、X線磁気円二色性測定装置が設置されており、新たに走査型X線顕微鏡ステーションの立ち上げが進められた。また、蓄積リング棟には非放射性物質を取り扱う表面科学実験ステーションが設置されている。
 これらの装置群はJAEAのミッションに沿ったものであり、必要な高度化が行われている。これまで複数のビームラインで「入れ子構造」にあったJAEA装置群とQST装置群の装置再配置を進め、JAEA装置群をRI実験棟へ集約したことにより、RI実験棟の特色を活かす研究環境の整備が進んだことは大いに評価できる。今後、基礎から応用まで幅広い研究・技術開発が、このビームラインにおいて進展すると期待される。また、低線量デブリ分析を可能とする少量核燃料使用施設の実現に向けた手続きが進んでいる点もJAEAのミッションに沿った活動としてだけではなく、施設の高度化への貢献として評価できる。
 一方、現在、故障しているBL23SU挿入光源については、円偏光切り替えができず、光強度が半分になっている。そのため、予算確保も含めて、早期復旧を見越したスケジュールの策定が望まれる。また、多数の装置群を活用してミッションを十分に達成するには、今後、装置の有機的な連携も考慮した明確なビジョンのもとに個々の課題が実施される必要がある。JAEAとして組織的に取り組み、特色のある先端放射光利用を先導されることを期待する。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 安全体制については、QSTとの間で入れ子構造になっていた組織体制の整理がなされた。JAEAの保安管理部職員が常駐し、一般安全衛生や安全管理の支援が行われている点など、安全管理に対する具体的かつ積極的取り組みが行われている点は評価できる。また、JAEAで情報を収集して理研・JASRIなどに一元的に連絡する体制が構築され、QSTと毎月の安全連絡会議で情報を共有し、緊急時には合同で現地対策本部が組織される状況にあるなど、組織間連携も強化されている。核燃料物質の取り扱い管理体制については、RI実験棟のパフォーマンスを最大限に引き出すため、また、多岐にわたるJAEAの研究・開発実施項目を実行するため、マンパワーの確保も含めたより一層の努力を期待する。
 外部利用については、BL22XUにおいてJAEAとQSTで2割から3割、BL23SUにおいてはJAEAのみで3割から4割の割合で推移している。これら利用に対して、事前技術相談や利用者への技術支援を行っており、広範な研究対象の実施についても支援体制の構築を進めている点は評価できる。一方で、研究方針が発散傾向にあること、JAEAのミッションの中核となる外部課題を取り込むことなどに対し、改善の検討がなされるべきである。また、RI関係の利用実験が10回/年程度と少なく、宣伝活動などを通じてユーザーの拡大を図っていくことも必要である。同様に、多数の組織との連携活動があり、その努力は大いに評価できるが、資源不足の中で手を広げている感が否めない。ビームライン運営に関するこれらの取り組みは、JAEA本体と連携して行われるべきであり、例えば、JAEAのロードマップと播磨地区における運用計画の関係、中性子との相補利用による研究・開発の方向性などを組織として示し、明確なビジョンのもと、戦略的に各項目が実施されることが重要である。この観点から、JAEAとして取り組むオープンファシリティプラットフォームの活用には期待するところであり、ビームラインの一層の高度化、研究・開発の活性化を進める具体的方策が示されることを望む。
 また、BL22XU、BL23SUにおける成果非公開利用の件数は低調であるため、産業(企業)利用に関わる成果創出を今後促進されることを期待する。この点において、供用装置登録が予定されている硬X線光電子分光装置、走査型X線顕微鏡の戦略的活用を期待する。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 概して個々の研究のレベルは高く、放射性廃棄物や燃料デブリに関する研究、アクチノイド基礎科学研究、原子力関連材料の研究などで質の高い成果が得られている。特に、放射性元素の分離技術の開発、燃料デブリの分析、放射光と中性子の相補利用など、JAEAの強みを活かした特色のある研究は高く評価でき、今後のさらなる発展を期待したい。前回の中間評価での指摘を受けて、学会発表やプレスリリース等による成果の発信を積極的に行ってきたことも認められる。ただし、JAEAのミッションと直接的に関連する成果の発表件数は、依然として十分とは言えない。引き続き、専用施設としての特色が明確に伝わるよう、効果的な成果の発信をお願いしたい。
 JAEAのミッションと直結する研究が展開される一方で、エネルギー変換材料や超電導物質に関する研究については、研究自体の科学的意義は高いものの、ミッションとの関連がはっきりしていない。外部利用も含めた全体の成果を見渡しても、個別の研究結果を集めた成果リストのようであり、専用施設としての独自性が出ているとは認め難い。しかも、今回の報告からは、他のビームラインと比べて生産性が高いとは認められなかった。
 上述のような状況を見る限り、研究者個々の裁量に任せることによって、個別の研究では高いレベルを維持できているものの、組織的な活動が妨げられている懸念がある。研究者の自主性に任せる部分と、適切なマネジメントが必要な部分の線引きが適切であるか、再検討を求めたい。その上でJAEAとして重点的に取り組むべき研究課題を改めて精査し、組織的かつ戦略的に遂行することが求められる。

 

4. 「今後の計画」に対する評価
 当該施設が掲げる重点課題は、いずれも科学技術的に重要であるだけでなく、社会的な注目度も高く、妥当なものと認められる。特に、放射光と中性子の相補的利用や福島第一原発の燃料デブリ分析など、JAEAならではと言える特色ある研究の発展を期待する。また、少量核燃料の使用許可が認められれば、原発の廃炉に関する研究など、重要な課題の解決へ向けた取り組みが一層加速されるであろう。
 一方で、これら重点課題に取り組むための実施計画・体制については、妥当性に疑問が残る。現状では、JAEAのSPring-8における多様な研究を、無理矢理BL22XUとBL23SUの中で進めようとしている印象がある。結果として、現状のように共用ビームラインとの違いが不鮮明となり、専用施設としての独自性が見えにくくなるであろう。また、計画される研究が、BL22XUとBL23SUの現有装置で実施できる範囲に制限される懸念もある。今後は、例えばSPring-8の共用ビームラインやナノテラス等も活用し、企業と連携することも視野に入れて研究計画を検討するべきである。そのような計画のうち当該施設において実施するものについては、RI実験棟でしか実施できない特徴的な研究に絞り込んでいくことが重要である。近い将来には、SPring-8のアップグレードへの対応や、契約期間満了(2025年)を控えていることもあり、今後の運営体制と計画について大幅な見直しを求めたい。
 安全管理に関わる取り組みについては、前回の中間評価での指摘を受けて安全管理の一貫性が向上するなど、改善が進んでいることが認められる。今後は核燃料物質の取扱いも始まるため、安全に関する管理体制と手続きを再確認するとともに、規則の順守を一層徹底していただきたい。

 

以 上

 

 

QST極限量子ダイナミクスI・IIビームライン(BL11XU・BL14B1)
中間評価報告書

 

 QST極限量子ダイナミクスI・IIビームライン(以下、本施設)は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、QST)の専用ビームラインという特性に対応して、荷電粒子、放射性同位元素(RI)、中性子、放射光など様々な量子ビームの発生・制御やこれらを用いた高精度な加工や観察などに係る最先端の技術開発を行うことを目的として設置された。本施設を構成するBL11XUにおける最先端の放射光メスバウアー分光装置と共鳴非弾性散乱装置を活かした研究実績、BL14B1における水素利用先進材料を始めとした物質研究・材料開発の成果を評価し、専用施設審査委員会(以下、本委員会)は本施設の設置と運用の「継続」を勧告することが妥当であると判断した。

 

 以下、QSTから本委員会に提出された「QST専用ビームライン中間報告」、2022年6月30日に開催された本委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 本施設は先端的放射光利用技術の開発拠点BL11XU(QST極限量子ダイナミクスビームラインI)と物質研究・材料開発ビームラインBL14B1(QST極限量子ダイナミクスビームラインII)から構成されている。
 BL11XUは、標準型アンジュレータを光源とし、6~70 keVの広範囲の単色エネルギーの高輝度硬X線を利用できる。各実験ハッチには先進的放射光メスバウアー分光装置、共鳴非弾性X線散乱分光装置、表面X線回折計がそれぞれ設置されている。前回の専用施設評価委員会における、QSTと国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)との装置混在化を解消すべきという勧告を受け、BL22XUでQSTが実施していた磁気光学効果の研究テーマを、BL11XUの共鳴非弾性X線散乱分光装置で展開できるようにした。先進的放射光メスバウアー分光装置では、計測深度を実際の多層膜磁気デバイスにおける界面深さに届く約10 nmにまで拡大させた。共鳴非弾性X線散乱分光装置では、5d遷移金属に対象元素を拡大し新たにReおよびWのL3吸収端での計測を可能とした。表面回折計は、基板の前処理の効率化を実現し、その結果として、グラフェンなど2次元物質上での窒化物半導体の結晶成長の研究も可能となった。
 BL14B1は、偏向電磁石を光源とし、白色X線と高エネルギー単色X線の両方を利用できる。白色X線実験用の実験ハッチ1には、高温高圧プレス装置(QST)、および、分散型XAFS分析装置(JAEA)を設置している。BL22XUでQSTが実施していた応力研究テーマについては、高温高圧プレス装置上で継続可能とした。高温高圧プレス装置では、高温高圧発生・制御およびその場X線回折測定の一連の操作を自動化する開発を行った。また、水素脆化の研究も含めた応力研究のテーマを実施できるように、同装置をエネルギー分散型の回折計としても利用できるようにした。XAFS分析装置では、ガス圧環境下測定や低濃度試料測定の整備を進め、新たにQSTの量子生命・医学部門との内部被曝時の体内核種の動態に関する研究も開始した。汎用4軸回折計では、本装置の最初の利用として、放射光単色X線とナノ粒子を用いたがんの新規放射線治療に関する研究を開始した。
 以上のように、装置の高性能化を計画的に進捗させ、QST専用ビームラインとしてのミッションを達成し得る高い性能目標を達成していることは高く評価できる。QSTとJAEAの装置の混在の解消が指摘されていた点について、カッパ型多軸回折計(JAEA)と汎用4軸回折計(QST)の装置がBL14XUとBL22XUで入れ替えられ、解消に向けて進展したことも評価できる。ただしBL22XUにQSTの装置が2台残っており今後解消する計画である一方、BL14B1に残っているJAEAの装置については、成果最大化の観点から、今後も利用を続ける予定とのことなので、前者については装置混在の解消の継続、後者については十分な相互連携を期待したい。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 前回の中間評価で指摘された安全管理や課題審査における懸念や指摘について、2022年4月から、JAEAの装置があるビームラインBL14B1のビームライン担当者をQST職員に変更したり、JAEAとの月1回の連絡会議を開催したりするなど、適切に対応、改善したことが評価できる。
 外部利用課題が各期とも概ね30%確保されていることは高く評価できる。高崎研、関西研など他の拠点との連携の強化や新分野への利用拡大を推進させていることも評価できる。さらに、QST内のニーズに応えるとともに、QSTの戦略的な利用を促進するうえでは、内部課題の選定や戦略の策定において、QST全体での一層のシステマティックな施設運用や運営を目指すべきであろう。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 BL11XUの放射光メスバウアー分光装置では、一原子層単位の局所磁性探査技術を活用して、磁石の代表である鉄の表面付近の磁性を調べ、鉄の最表面から深さ方向に磁力が一原子層毎に増減する現象を世界で初めて観測することに成功した。X線磁気円偏光発光を利用した磁気顕微鏡では、電磁鋼板の観察に適用して、10 μmの面内分解能で磁区像を得ることに成功した。共鳴非弾性X線散乱装置では、パイロクロア型イリジウム酸化物In2Ir2O7における特異な5d電子状態を解明した成果などが得られた。表面回折計では、窒化ガリウム/グラフェンの初期成長メカニズムを解明した成果などが得られた。
 BL14B1の高温高圧プレス装置では、アルミニウムと鉄からなるレアメタルを含まない新規水素化物が、錯体水素化物や侵入型水素化物、イオン結合性水素化物のいずれにも属さない新しいクラスの水素化物であることを明らかにした。同装置をエネルギー分散型の回折計として利用し、延伸加工したTRIP鋼における水素脆化と残留応力との関係を解明した。分散型XAFS装置ではイオンビーム照射による燃料電池触媒の活性向上の機構解明を行った成果が得られた。
 成果の公開については、BL11XU及びBL14B1について、前回報告以降の約3年半の間に原著論文がそれぞれ52報及び80報である。BL11XUでは年平均で15報程度、BL14B1では、年平均で20報強の論文が創出されている。
 以上のように、研究成果は、極めて高い水準のものであり、高く評価できる。他方、個別の装置を利用した各個人研究者の成果リストという印象もあり、研究成果を通じたQSTのミッションへの貢献や成果創出の戦略性は大変分かり難かった。また、他のビームラインの研究成果数と比較して、生産性は高いとはいえない。以上から、装置の取捨選択なども含め、QSTの重点戦略や長期戦略とマッチングさせた成果創出を推進できるように施設運営の見直しが必要であろう。

 

4. 「今後の計画」に対する評価
 BL11XUでは磁性・スピントロニクス研究を中心とし、「先端的放射光利用技術開発拠点」を掲げた研究、およびBL14B1では水素利用先進材料を中心とし、「物質研究・材料開発ビームライン」を掲げた研究、の展開を計画している。また、マテリアル先端リサーチインフラ事業における先端的な放射光測定手法を提供しデータを創出の役割を担当している。さらに、BL11XUではビームの高品質化についても計画している。
 計画方針は明確であり、期待できる。一方で、他のビームラインとの棲み分けをより意識し、QSTの基本・長期戦略や方針に合致し、専用施設としての位置づけや社会への還元を明確にした利活用を進めていくべきである。そのためには課題の選定や研究資源の集中、装置の整理などを含め、専用施設を維持する場合のメリット・デメリットについて、QSTとしてしっかり検討いただきたい。

 

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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