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Volume 27, No.3 Pages 218 - 221

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第22回SPring-8夏の学校を終えて
The 22nd SPring-8 Summer School

八木 直人 YAGI Naoto

SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 SPring-8 Summer School Executive Committee, Chair

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SPring-8

 

夏の学校の概要
 「第22回SPring-8夏の学校」は2022年7月10日(日)~7月13日(水)の4日間の日程で、全国23校から77名の学生の参加を得て、放射光普及棟およびSPring-8蓄積リング棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関((公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)、理化学研究所・放射光科学研究センター、日本原子力研究開発機構・物質科学研究センター、量子科学技術研究開発機構・関西光科学研究所)と、これらの機関と連携大学院協定を持つ大学(兵庫県立大学理学部・大学院理学研究科、関西学院大学理学部・工学部・生命環境学部・大学院理工学研究科、岡山大学、茨城大学大学院理工学研究科)、およびSPring-8サイトにビームラインを持ち、そこで教育を行っている大学(東京大学シンクロトロン放射光連携研究機構、大阪大学未来戦略光科学連携センター・蛋白質研究所・核物理研究センター)が主催して、ビームタイムや講師を供出し合って行ったものです。校長は関西学院大学教授の藤原明比古先生にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務局はJASRI利用推進部が行いました。なお、主催大学の中には夏の学校への参加を講義として単位認定しているところもあります。

 

図1 講義風景

 

 

カリキュラムについて
 夏の学校では通例として、初日に3講座、2日目に4講座の講義を行い、その後の2日間に2テーマの実習を行っています。また、SACLAとSPring-8の実験ホールの見学、さらにはSPring-8蓄積リングの電磁石や挿入光源の見学を行いました。今年の実施スケジュールは以下の通りでした。

 

第22回SPring-8夏の学校 日程表 − 2022年7月10日(日)~13日(水)

 

 

ビームライン実習について
 実習は21ビームラインで行われました。実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。

BL01B1 “その場”XAFS計測
(加藤和男・伊奈稔哲・片山真祥(JASRI))
BL04B1 大容量高圧プレスと白色X線を用いたX線回折実験
(肥後祐司(JASRI/茨城大学)・柿澤翔・辻野典秀(JASRI))
BL04B2 高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析
(尾原幸治・山田大貴・廣井慧(JASRI))
BL07LSU タイコグラフィによる軟X線顕微イメージング
(木村隆志・松田巌・原田慈久(東京大学))
BL08W コンプトン散乱イメージング
(辻成希(JASRI))
BL10XU ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧X線回折実験
(河口沙織・門林宏和(JASRI))
BL11XU 自作の高速X線検出器でSPring-8のバンチ構造を観測しよう
(三井隆也・藤原孝将(QST))
BL14B2 XAFS分析の基礎
(大渕博宣・渡辺剛・本間徹生(JASRI)・佐藤眞直(JASRI/岡山大学))
BL17SU 光電子顕微鏡~ナノ分解能で見る元素分布と磁気構造~
(濵本諭(理研)・大河内拓雄(JASRI))
BL19B2 粉末X線回折
(大坂恵一・伊藤華苗(JASRI)・佐藤眞直(JASRI/岡山大学))
BL23SU 放射光光電子分光法による物質の電子状態分析
(芝田悟朗・角田一樹・藤森伸一(JAEA))
BL25SU 軟X線光電子分光と光電子ホログラフィー
(松下智裕・橋本由介(奈良先端科学技術大学院大学)・小谷佳範(JASRI))
BL31LEP GeV光ビームの生成と粒子・反粒子対の測定
(與曽井優(大阪大学)・村松憲仁・時安敦史・松村裕二(東北大学))
BL39XU 高エネルギー分解能蛍光X線検出X線吸収分光法による電子状態解析
(河村直己・東晃太朗(JASRI))
BL40B2 小角X線散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析
(八木直人・関口博史(JASRI))
BL41XU 単結晶回折(タンパク質)
(熊坂崇(JASRI/関西学院大学)・長谷川和也・坂井直樹・河村高志・水野伸宏(JASRI)・山口峻英(茨城大学))
BL43IR 赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析
(森脇太郎・池本夕佳(JASRI))
BL43LXU X線非弾性散乱による原子振動測定
(石川大介・福井宏之(JASRI))
BL44B2 全散乱法による材料構造解析
(加藤健一(理研))
BL44XU 単結晶回折(タンパク質)
(中川敦史・山下栄樹・櫻井啓介(大阪大学)・山口峻英(茨城大学))
BL46XU 硬X線光電子分光
(安野聡・Seo Okkyun(JASRI)・佐藤眞直(JASRI/岡山大学))

 

図2 実習風景

 

 

 新型コロナウイルス対策として、例年行っていた懇親会やバーベキューは感染防止のため実施しておらず、夏の学校の重要な目的の一つである参加者間の交流は大きく制限されています。とはいえ、感染防止のためマスクを着用し、距離をあけての夏の学校であっても、終了後のアンケートの回答を見ると参加者同士でコミュニケーションをとる機会はあったようですし、実習担当者との会話でも多くの刺激を受けているようでした。
 昨年から、5月から6月にかけてSPring-8/SACLA先端利用セミナー基礎編として、毎週1時間のX線に関するオンラインセミナーを行い、参加者に視聴するよう勧めています。多くの参加者にとって、基礎物理学を完全に理解するのは難しかったようですが、夏の学校の講義や実習を理解するための手助けになったようです。

 

 

謝辞
 新型コロナウイルスの感染が収まらない中で、熱意のこもったわかりやすい講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を熱心に指導していただいた実習担当の皆様、わかりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、SPring-8蓄積リング放射光発生装置の見学を可能にして頂いたJASRI加速器部門の方々、SACLAの見学にご尽力いただいた理研およびJASRI関係者の方々に感謝いたします。また、事務局としてご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々にも感謝したいと思います。

 

 

八木 直人 YAGI Naoto
(公財)高輝度光科学研究センター
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2750
e-mail : yagi@spring8.or.jp

 

 

 

 

第22回SPring-8夏の学校に参加して

 

 

東北大学大学院 農学研究科
堀井 菜摘

 

 

 私は現在、環境有害物質が生体に与える影響解析の研究を行っております。普段は生化学的手法を用いて実験をしておりますが、今後生体内の環境有害物質の局在を解析するために放射光を利用する実験計画を立てております。そこで、講義や実習を通して放射光に関わる知識を学び、実験のイメージを掴むために夏の学校に参加いたしました。
 1、2日目は放射光に関する基礎講義を受けました。私は大学ではおろか、高校物理でさえまともに触れてこなかったため、夏の学校に参加したものの内容を理解できるか最初は不安を感じていました。しかし、「SPring-8/SACLA先端利用セミナー基礎編」としてオンラインセミナーを事前に配信していただいていたので、聴講して基礎知識を頭に入れてから講義に臨んだところ、原理から理解することができました。事前知識のおかげだけではなく、先生方の講義には学生が理解しやすいように説明やスライドに多くの工夫がされており、理解の助けになっていると感じました。特にX線イメージングの講義では、生物試料を用いた研究の説明やCT、元素分析のお話を聞くことができ、自分の研究と直結する知識を得ることができました。今後自分で実験をデザインする際には原理の部分から放射光を理解している必要があるので、ラボ内でも知識の共有を行なっていきたいと思います。
 3、4日目は少人数に分かれて、ビームライン実習を行いました。事前に興味のある実習についてのアンケートがあったため、自分が希望した実習を行うことができました。一つ目の実習はBL19B2で粉末X線回折実習を行いました。試料の準備やセットの仕方など、今後自分が行う予定の実験に似ていたため、作業のイメージを掴むことができました。得られたデータを実際にどのように解析していくのか、講義も交えながら手を動かして学ぶことができたので大変勉強になりました。二つ目の実習はBL07LSUでタイコグラフィによる軟X線顕微イメージングの実習を行いました。普段プログラミングに触れていないため解析に苦労しましたが、実習担当の先生方に分かりやすく教えていただきました。今後は自分の解析のためにも勉強していこうと強く思っております。また、新たな軟X線顕微鏡の開発についてお話を聞けたり、軟X線を用いた生体試料の研究例などを紹介していただけたりと、貴重なお話を伺うことができました。
 講義や実習に加えて、2日目にはSACLAとSPring-8ビームラインの見学、3日目にはSPring-8蓄積リングの見学を行いました。普段は入れない箇所も見学することができ、装置の規模感や精巧さなどを肌で実感しました。特に蓄積リングの見学では、電子ビームが周回する装置を見ることができ、講義で学んだことと照らし合わせながら楽しく見学することができました。見学の移動の際には他の参加者と自分の研究を紹介し合ったり、進路などを話したりと、様々な刺激を受けて今後のモチベーションにも繋がりました。

 

図3 見学風景

 

 

 今まで生命科学分野にしか触れる機会が無かったのですが、こうして全く異なる分野に触れることで研究の幅が広がったように思います。見ること聞くこと全てが新鮮でとても楽しかったです。今後は分野の垣根を越えて学際的な研究を推進していくため、夏の学校で得た知識や経験を生かして参ります。
 最後になりますが、第22回SPring-8夏の学校を運営していただいた皆様、講師の先生方、ビームライン実習担当者の皆様、関わっていただいた皆様へ心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

 

図4 記念写真

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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