Volume 27, No.1 Pages 35 - 37
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン第11回研究発表会
The 11th Conference on Consortium of Advanced Softmaterial Beamline (FSBL)
1. はじめに
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(FSBL)は、第11回研究発表会を2022年1月11日に開催した。
FSBLは、ソフトマターの分野で日本を代表する企業と大学によって、放射光利用によるソフトマターの研究開発の発展を目指して結成された連合体である。FSBLは、(国研)理化学研究所と(公財)高輝度光科学研究センターの多大なご協力のもと、大型放射光施設SPring-8のBL03XUに、日本で初めてのソフトマター研究開発専用ビームラインを設置した。2010年4月より供用を開始し、2019年9月に第一期の活動を終了した。現在、FSBLは2019年10月より第二期となり、活動を継続させている。FSBLはビームラインにおいて創出された研究成果を、広く一般に発表するとともに、参加メンバー間での情報を共有し、さらに効果的かつ高度な成果を輩出するため、年に1回研究発表会を開催している。今回の第11回研究発表会は第二期FSBLとして最初の研究発表会となった。第11回研究発表会は、新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、昨年に引き続きオンラインでの開催とした。
今回はオンラインミーティングツールとして多くの人が利用しているZoomを利用し開催した。
以下にその概要を示す。
2. 開会の挨拶
FSBL代表 松野信也(旭化成)より、研究発表会の開会が宣言され、4名の来賓より挨拶を頂戴した。
まず、文部科学省 科学技術・学術政策局 研究環境課 古田裕志課長より、産学連携での新たな取り組みで多くの成果が創出されており、今後の活動にも更なる期待が寄せられていることなど、挨拶のお言葉をいただいた。続いて、(国研)理化学研究所 放射光科学研究センター 石川哲也センター長より、第一期の10年間で産学連携により特徴のある有意義な成果が多く創出されてきたが、今後は更なる飛躍のためにも、FSBLがこれまでの体制を見直し、新たな形への変革を成し遂げることを期待していることなど、挨拶のお言葉をいただいた。
さらに、(公財)高輝度光科学研究センター 雨宮慶幸理事長より第一期の10年で多くの成果が得られたが、今後は新たな取り組みを行うことは必要であることなど、挨拶のお言葉をいただいた。最後に、FSBL企画戦略アドバイザーで、(一財)光科学イノベーションセンター 高田昌樹理事長より、さまざまな困難を乗り越えて設立したFSBLの更なる発展を期待しているとの挨拶のお言葉をいただいた。
引き続き、FSBL運営委員会委員長 竹中幹人(京都大学)より、FSBLの概要、沿革、最近の活動についての紹介を行った。
3. 講演会第1部
FSBL副代表 小島優子(三菱ケミカル)を座長とし、研究発表会講演会第1部を開始した。
「コヒーレントX線を用いたナノ構造可視化技術の開発と産業利用」と題して、兵庫県立大学 大学院理学研究科 X線光学分野 高山裕貴助教に特別講演を行っていただいた。ご講演では、コヒーレント回折イメージング(CDI)法およびその走査型であるタイコグラフィシステムによる、機能環境下での構造変化や劣化過程も含めた可視化のBL24XUにおける実施状況をご紹介いただいた。
次に、FSBLメンバーのクラレグループ(三重大学 鳥飼直也教授)より、「一次粒子径の異なる親水性フュームドシリカの混合添加による高分子コンポジットの粒子分散と粘弾性特性」と題し発表が行われた。高分子コンポジットについて、特性が異なる固体粒子を混合添加することによる、粒子の分散・凝集状態およびコンポジットの粘弾性特性に及ぼす影響についての報告がなされた。
引き続き、三菱ケミカルグループ(三菱ケミカル 小林貴幸氏)より、「エポキシ樹脂の架橋構造解析」と題し発表が行われた。熱硬化性樹脂の一つであるエポキシ樹脂(DGEBA(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)とDGEBF(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、これらに比べてエポキシ当量が小さく架橋密度の高い構造を形成すると推定されるGAN(グリシジルアニリン))の架橋構造を溶媒膨潤SAXS法で解析したところ、GANの硬化物には架橋密度の不均一性の存在が示唆され、溶媒膨潤SAXS法の有効性を確認したことが報告された。
講演会第1部終了後は、Zoomの機能の一つであるブレイクアウトルームを利用し、ポスター発表が行われた。ポスターはFSBLメンバーの15グループと2020年度に実施したアドバンス課題6課題の発表で、それぞれのブレイクアウトルームでポスター発表が行われ、聴講者との議論が活発に行われた。
4. 講演会第2部
講演会第2部においては、FSBL運営副委員長 山本勝宏(名古屋工業大学准教授)を座長とし、九州大学 大学院工学研究院 田中敬二教授の特別講演および4つのFSBLからの講演が行われた。
田中先生による特別講演は、「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築と放射光への期待」と題し、(国研)科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業大規模プロジェクト「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」の研究事例を交えた進捗状況の紹介と産学連携の進め方についてのご講演を賜った。
次に、FSBLメンバーの住友化学グループ(住友化学 板東晃徳氏)より、「FSBLを活用した環境負荷低減に対する取り組み」と題し、(1)樹脂の薄肉化・強靭化に関する検討と、(2)乾式ポリプロピレン(PP)セパレータの加工条件最適化について、マイクロビームSAXS測定による樹脂の高次構造の解析や延伸過程の時分割SAXS/WAXS測定による製造工程の最適化を進めることにより、環境負荷の低減を進めていることが報告された。
続いて、東洋紡グループ(京都大学 小川紘樹准教授)より、「Tikhonov正則化によるSAXS-CTイメージ上のアーティファクト除去」と題して、SAXS-CT法を用いた試料測定後の再構築したCT像に発現する強いアーティファクトをTikhonov正則化を用いて除去する解析法を確立したことについての報告がなされた。
特別講演とFSBLメンバーからの報告は以上となり、引き続きビームライン担当者よりBL03XUの整備状況についての報告がなされた。
2020年度に実施されたBL03XUのハイスループット化により、測定性能や設備の安全性能が向上し、2021年度はさらに実験条件の変更などによる調整をより効率的に実施するため、試料と検出器との距離(カメラ距離)変更の全自動化および試料周りの空間を容易に変更できるシステム整備が実施され、その内容についての報告がなされた。
最後にFSBLアドバンスチャレンジ課題の中から、すでに論文化され、高い評価が得られた課題の実績報告がなされた。
FSBLでは2017年度より、全グループにとって重要かつ本ビームラインで着手される機会のなかった斬新な課題を、FSBL共用ビームタイムである「アドバンスチャレンジビームタイム」で、FSBL全メンバーより課題を募集し産学連携将来高度化委員会にて審査され、採択された課題を実施している。今回は2019B期に採択され、その後Macromolecules誌に掲載された「スピンコート中における対称性PS-b-P2VP薄膜の転移過程に及ぼす分子量の影響」について、課題責任者 小川紘樹准教授(京都大学 化学研究所)より報告がなされた。
5. 総括
FSBL学術諮問委員会 金谷利治委員長(京都大学名誉教授)ならびにFSBL堀江賞選定委員会・産学連携将来高度化委員会 田代孝二委員長(豊田工業大学名誉教授)より、引き続き活発な活動がFSBLで実施されるとともに、多くの成果が創出されることを祈念する言葉をいただき、閉会とした。
6. まとめ
今回もオンライン開催となり、発表の時間をうまく知らせることができなかったり、ポスター発表については発表者側も聴講者側も参加しづらい点があったなど運営側で多くの反省点があったが、参加登録者数206名、最大同時接続者数181名となり、FSBLの活動を広く多くの方々に報告することができた。
謝辞
FSBL第11回研究発表会は、以下の14団体より協賛をいただいた。深く感謝申し上げる次第である。
・(国研)理化学研究所 放射光科学研究センター
・(公財)高輝度光科学研究センター
・(一財)光科学イノベーションセンター
・(公社)高分子学会
・(一社)繊維学会
・(一社)日本ゴム協会
・(公社)日本化学会
・日本中性子科学会
・日本放射光学会
・産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム)
・電気自動車用革新型蓄電池開発(京大ビームライン)
・東京大学 放射光連携研究機構(東大ビームライン)
・(株)豊田中央研究所(豊田ビームライン)
・(公財)ひょうご科学技術協会(兵庫県ビームライン)
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体
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