ページトップへ戻る

Volume 26, No.3 Pages 265 - 267

2. ビームライン/BEAMLINES

SPring-8構造生物ビームラインにおける新しい遠隔測定システム
New Remote Measurement System in SPring-8 MX Beamlines

水野 伸宏 MIZUNO Nobuhiro、熊坂 崇 KUMASAKA Takashi

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

Abstract
 SPring-8構造生物ビームラインの遠隔測定システムを更新し、運用を開始した。ビームラインの機器やその制御系の高性能化が進む中で、更新が難しくなっていた従来の専用ソフトに代わり、リモートデスクトップを用いて、来所時と同等の測定環境が利用できるように開発を行った。本システムは、従来通り放射線安全、一般労働安全、第3者による不正アクセスの防止を担保した安全性を重視しており、ユーザーに対しインターネットを介した安全な測定環境を提供する。本稿ではその内容を紹介する。
pdfDownload PDF (1 MB)
SPring-8

 

1. はじめに
 SPring-8構造生物ビームラインでは、測定条件が定まった多数の試料に対するルーチン的な結晶回折測定に一定のニーズがあり、そうした測定の自動化に関する開発を早くから進めてきた。それらの技術を活用することで、様々な要因でSPring-8に来所できないユーザーのために、Pythonを用いた専用ソフトウェアによる遠隔測定システム(Ver.1)[1][1] G. Ueno, T. Hikima, K. Yamashita, K. Hirata, K. Hasegawa et al.: AIP Conference Proceedings 1741 (2016) 050021.を開発し、その運用を2010年より行ってきた。これまで多くの利用があり一定の評価をいただいていたが、ビームラインでの結晶試料操作や回折測定等を管理するソフトウェアBSS[2][2] G. Ueno, H. Kanda, T. Kumasaka and M. Yamamoto: J. Synchrotron Radiat. 12 (2005) 380-384.の更新に遠隔実験用専用ソフトウェアの開発が追いつかず、来所測定との隔たりが大きくなっていた。そこで、遠隔測定においても最新の測定環境を提供するために、リモートデスクトップを用いて来所時の測定環境にできるだけ近い形で利用できる新しい遠隔測定システム(Ver.2)の開発を行った。本稿ではこのシステムについて紹介する。

 

 

2. 遠隔測定システムVer.2の特徴
 遠隔測定は、ユーザーが遠隔地より、放射光施設のビームライン機器を操作して測定を行うことができ、放射光施設への来所が不要なメリットの一方で、インターネットを介することによる安全性と操作性の面でのデメリットが発生する。特に安全性については、放射線安全と一般労働安全(外部からの機器操作によってビームラインでの人的被害が起こらないようにすること)という人的な安全を担保することに加え、ネットワークに接続する機器・流れるデータへの第3者からの不正アクセスの防止を担保することが必要となる。特に、このシステムではリモートデスクトップ技術を活用しているが、これはログインした計算機を直接操作することができるため、従来と比べて安全対策をさらに厳しく行う必要がある。こうした安全面に対策を施し、来所測定と同様の測定環境を提供する点が、本遠隔測定システムの最大の特徴である。

 

 

3. リモートデスクトップによる遠隔測定システムの操作性
 リモートデスクトップとして、国内外の多くの放射光施設で利用されているNoMachine(https://www.nomachine.com)を利用することとした。遠隔測定はインターネットを介して操作を行うため、回線速度により応答の遅延は避けられない。リモートデスクトップの情報量は一般に多く、低い回線速度では、遅延時間が長くなり、快適な測定操作を行うことができなくなる。さらに、回線速度に対する試験測定も行い、1 Mbps以下の回線速度環境でも、十分測定操作を行えることを確認した。ただし、ウィンドウの移動や拡大・縮小、あるいはマウスカーソルの移動といった動きのある動作では遅延が見られた。このことから、ユーザーには、実際の測定の前に、SPring-8のネットワーク内に設置した回線速度を計測するWebサイト(LibreSpeed)にアクセスしてもらい、快適に操作できる環境か確認できるようになっている。
 また、リモートデスクトップでログインする測定用計算機には、測定用ソフトウェアであるBSSに加え、吸収線量を見積もり、露光条件を設定するKUMA[3][3] K. Hirata, J. Foadi, G. Evans, K. Hasegawa and O. B. Zeldin: Advanced Methods in Structural Biology (2016) 241-273.、回折スキャン像の解析を行うSHIKA[4][4] K. Hirata, K, Yamashita, G. Ueno, Y. Kawano, K. Hasegawa et al.: Acta Cryst. D75 (2019) 138-150.、回折像が観察できるImageview(SPring-8)、Albula(Dectris)、Adxv(Scripps Research)がインストールされており、予備測定~本測定前試料確認~本測定という一連の流れを、ユーザー本人によって直接操作が可能になっている。また、実験ハッチ内の観察カメラ表示、自動解析ソフトKAMO[5][5] K. Yamashita, K. Hirata and M. Yamamoto: Acta Cryst. D74 (2018) 441-449.によるレポートの確認も、リモートデスクトップ上で行うことができ、遠隔測定のリアルタイムの状況を確認することが可能になっている。ただし、不正アクセス防止の観点から、計算機の基本設定が変更できてしまう一部のソフトウェア、コマンドが入力可能なターミナルソフト、ファイル編集が可能なエディタやファイルマネージャーは利用ができない。

 

 

4. 遠隔測定システムの安全性
 先に述べた安全面における放射線安全については、SPring-8の放射線安全インターロックシステムが担保している。
 一般労働安全については、動作制限ユニット(図1)と呼ぶコントロールボックスを用い、担保している。このユニットは、放射線安全インターロックシステムから、光学ハッチ及び実験ハッチが正常閉(無人かつ立ち入りができずビーム照射が可能な状態)であるという信号を受け取った時のみ、ユーザーがビームラインの測定用計算機に接続できる仕組みとなっている。また、不測の事態が起こった際に、ビームラインの物理キーにより、現場の担当者によって強制的に接続を切断することもできる。

 

図1 動作制限ユニット

 

 

 第3者による不正アクセスの防止は、①SPring-8ネットワークへのアクセス認証(VPN認証キー/ID/パスワードによる制限)、②ファイアウォールによる他の計算機器へのアクセス制限(IPアドレス/ポート/プロトコルの制限)、③測定用計算機へのアクセス認証(定められたビームタイム中のみ有効化されるID/パスワードによる制限とID毎に定められたディスク領域へのアクセス制限)、④測定用計算機での操作制限(許可されたGUIアプリケーション以外の使用禁止やコマンドアクセス制限、デスクトップ設定の変更禁止)という制限を加え、定期的なログ監視を行い、担保している。さらに、⑤ユーザーがアクセス可能なSPring-8のビームラインネットワークは、機器保護の観点から、他のSPring-8ネットワークから切り離されており、他の計算機へアクセスすることを制限している(図2)。

 

図2 ネットワーク不正アクセス防止を目的とする遠隔測定用計算機/サーバ接続の流れ

 

 

5. 利用にあたって
 2021年6月現在、共用ビームラインBL41XUで運用を行っている。通常のビームタイム申請手続きに加え、遠隔測定システムを安全に利用していただくための事前講習を行っている。受講したユーザーは教育記録に署名し、上記の安全対策を理解した上での利用をお願いしている。
 受講したユーザーには、担当者よりSPring-8ネットワークに接続するためのVPN認証キー/ID/パスワードを送付するので、事前にこの認証キーを使用してSPring-8に接続していただく。回線速度測定やサーバへの接続テストにより接続状況の確認をお願いする。
 試料については、タンパク結晶試料を液体窒素温度で安全に輸送するために開発され、国内外の多くの施設で利用されているUnipuckトレー(http://smb.slac.stanford.edu/robosync/Universal_Puck/)に収納し、測定実施日前日までに必着となるように送付をお願いしている(送料はユーザー負担)。試料の送付に関しては事前に担当者との相談をお願いする。
 測定当日には、担当者より測定用計算機へログインするためのID/パスワードを連絡する。ビームタイムが始まる前までに、担当者が試料をビームラインへ設置するので、ビームタイムが始まったら、測定用計算機にログインし、測定を始めていただく(図3)。
 ビームタイムが終了すると、ユーザーは強制的にログアウトされるため、終了5分前までには測定終了作業を行っていただく。その後、担当者が試料を回収し、回折像データと自動解析処理ソフトKAMOによって得られる構造因子データ/解析レポートと共に、ユーザーへ返却する(送料はユーザー負担)。

 

図3 遠隔測定利用の流れ

 

 

6. 最後に
 SPring-8構造生物ビームラインにおいて、安全性を重視したリモートデスクトップによる遠隔測定システムを開発し、共用ビームラインBL41XUで運用を開始した。今後、他の構造生物ビームラインへの展開を準備している。詳細については、JASRI構造生物ビームラインWebサイト(http://bioxtal.spring8.or.jp)を参照してください。

 

 

謝辞
 遠隔測定システムVer.2の開発にあたり、タンパク質結晶解析推進室の長谷川和也氏、増永拓也氏、情報処理推進室の松下智裕氏、古川行人氏、光源基盤部門の竹下邦和氏、理化学研究所の山本雅貴氏、上野剛氏には多大なるご支援・ご助力をいただいた。ここに感謝の意を表す。遠隔測定システムの開発にあたり行った測定は、BL45XUにおいて、インハウス課題2020A2030に基づいて行った。

 

 

 

参考文献
[1] G. Ueno, T. Hikima, K. Yamashita, K. Hirata, K. Hasegawa et al.: AIP Conference Proceedings 1741 (2016) 050021.
[2] G. Ueno, H. Kanda, T. Kumasaka and M. Yamamoto: J. Synchrotron Radiat. 12 (2005) 380-384.
[3] K. Hirata, J. Foadi, G. Evans, K. Hasegawa and O. B. Zeldin: Advanced Methods in Structural Biology (2016) 241-273.
[4] K. Hirata, K, Yamashita, G. Ueno, Y. Kawano, K. Hasegawa et al.: Acta Cryst. D75 (2019) 138-150.
[5] K. Yamashita, K. Hirata and M. Yamamoto: Acta Cryst. D74 (2018) 441-449.

 

 

 

水野 伸宏 MIZUNO Nobuhiro
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : nmizuno@spring8.or.jp

 

熊坂 崇 KUMASKA Takashi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : kumasaka@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794