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Volume 25, No.1 Pages 74 - 76

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

利用系グループ活動報告
放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 イメージンググループ
Activity Reports – Imaging Group, Spectroscopy and Imaging Division

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 イメージンググループは2018年4月の旧利用研究促進部門の改組により発足した。2019年4月からは、分光・イメージング推進室に設置された1つのグループとして活動している。このグループは3つのチームで構成される。X線顕微鏡チーム・先端画像計測チーム・放射光位相画像計測チームである。X線顕微鏡チームと先端画像計測チームにより通常の業務を行っている。放射光位相画像計測チームは東北大学の百生教授が代表者である、ERATO百生量子ビーム位相イメージングプロジェクトの受け皿として機能しており、プロジェクト最終年度の2019年度で終了予定である。
 本グループとして中心に据えているのは、放射光X線画像計測法の性能向上とユーザーへの利用展開である。グループメンバーはビームラインの特性を最大限に生かした装置開発から、ユーザー利用における企画からサポートまでを担う。グループにはJASRIとしての業務を担う2つのチームがあるものの、明確な棲み分けはなされておらず、メンバーそれぞれの専門性を持ちつつもお互いの技術や経験を共有する関係にある。これにより、突発的なトラブルにもある程度の自由度を持って対応可能な体制を維持している。

 

 

2. 活動概要
 本グループが主体的に関わるビームラインは、BL20XU、BL20B2、BL28B2、BL47XUの4本である。BL20XUとBL20B2は全長210 m以上の中尺ビームラインである。BL28B2とBL47XUは蓄積リング棟内に収まるビームラインであり、この2つに関しては他のグループと共同運用している。図1に各ビームラインの棲み分け状況、つまりどのようにビームラインを使い分けているかを示した。横軸は空間分解能を、縦軸は使用可能なエネルギー領域を示している。カラースケールは1ショットあたりに要する代表的な露光時間を示している。視野は空間分解能の約1,000倍が一般的である。点線の囲みは代表的な計測手法を表しており、投影型(図中ではProjection-type)・結像型(図中ではImaging-type)・回折格子干渉計を利用した位相計測法[1][1] A. Momose et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 42 (2003) L866.(図中ではGrating interferometer、本稿では単に位相計測とする)の3つが示されている。

 

図1 イメージンググループが担当しているビームラインとその棲み分け状況。矢印は開発の方向性。測定時間は短縮する(図では赤くなる)方向に進める。

 

 

 投影型は4つすべてのビームラインで実施される最も基本的かつ応用範囲の広い手法で、疑似平行光を利用した単純投影による吸収コントラスト像もしくは試料と検出器の距離を調節することで、屈折コントラスト像を得る計測手法である。これは空間分解能で100ミクロン程度から1ミクロン程度まで、エネルギー範囲で7 keVから200 keV程度までをカバーしている。結像型はBL20XUとBL47XUで実施されており、X線画像において1ミクロンよりも高い空間分解能を達成するための計測方法である。このためにX線顕微鏡光学系を利用するが、照明・対物および状況に応じて位相計測用の光学素子を必要とする。標準的には、電子線リソグラフィーなどの微細加工技術により製作されたフレネルゾーンプレート(FZP)を光学素子として利用する。図1で結像型の対応するエネルギーが連続的でないのは、運用の問題とこれらの光学素子の制限による。位相計測は主にBL20B2で実施されている。試料と検出器の間の適切な位置に2つの透過型回折格子を配置することで、試料での位相シフト量の積算値を定量的に求めることができる。
 各装置の光源を除いた構成要素は、分光器(あるいは金属フィルター)[2,3][2] M. Yabashi et al.: Proceedings of SPIE 3773 (1999) 2.
[3] M. Hoshino et al.: AIP Advances 7 (2017) 105122.
・精密ステージ・X線光学素子・X線画像検出器である。次に主な要素技術について説明する。
 X線画像検出器はレンズカップルもしくはファイバーカップルを利用した可視光変換型[4][4] K. Uesugi et al.: J. Synchrotron Rad. 18 (2011) 217.を基本としている。図2にレンズカップル式の模式図を示す。検出器は、蛍光面・ミラー・レンズ・撮像素子により構成されている。途中に配置されるミラーにより、レンズや撮像素子にX線が直接照射されることを防いでいる。蛍光面は密度・形状・発光波長により特性が異なり、使用エネルギーや必要とする空間分解能あるいは時間分解能により最適なものを使い分けている。レンズはタンデムレンズ系を構成しており各レンズの焦点距離の比により拡大率を変化させることができる。これは可視光顕微鏡の無限遠補正光学系も同様である。撮像素子に関してはここ数年は浜松ホトニクスORCA Flash 4.0やpco edgeに代表されるような高ダイナミックレンジ・高フレームレートという特性を持つScientific CMOS(sCMOS)が主に使用されている。この撮像素子を交換するだけで高精細型あるいは超高速型検出器に変更可能となる。以上のように、レンズカップル式は非常に自由度が高く、X線イメージングにおける有用性は高いと言える。本グループでは、これらの検出器を評価し、実験ごとに変化する最適な条件にあわせた検出器開発を行っている[5,6][5] M. Hoshino et al.: J. Synchrotron Rad. (2020) accepted.
[6] K. Uesugi et al.: Journal of Physics: Conf. Series 849 (2017) 012051.
。特に最近では30 keV以上の高エネルギーX線の利用や高精細画像の取得がトレンドとなっており、正確な評価とテンポの速い開発が求められている。

 

図2 レンズカップル式画像検出器の模式図。

 

 

 結像型システムの根幹であるX線顕微鏡光学系は高い空間分解能のX線画像を得るための手法で、本グループのメンバーのほとんどがJASRI着任後に多かれ少なかれ関わっている。図3に現行のX線顕微鏡光学系の模式図を示す。Zernike位相板もしくは回折格子干渉計を配置した位相計測も実施されているが、ここでは省略している。2000年ごろの開発当初は、分光器からのX線をそのまま試料に照射する準平行照明であったが[7][7] A. Takeuchi et al.: Rev. Sci. Instrum. 73 (2002) 4246.、画質改善と撮影時間の短縮を目的として、コンデンサーゾーンプレート(CZP)を導入した[8][8] A. Takeuchi et al.: J. Phys. Conf. Series 186 (2009) 012020.。さらに画質を上げるためにCZPを回転させるという技術開発を行った[9][9] Y. Suzuki et al.: AIP Conf. Proc. 1365 (2011) 160-163.。これと並行して高分解能型や高効率型FZPの開発も進められた。特筆すべきはApodization型FZPの開発であろう[10][10] A. Takeuchi et al.: Journal of Physics: Conf. Series 849 (2017) 012055.。これは電子線リソグラフィーによるFZPの製造工程の弱点を利用した構造をしており、メーカーとしては半信半疑の製作だったようである。結果としては、開発目的であるX線画像の高画質化がなされ、さらにFZPの利用可能エネルギー領域を拡大する道筋もつけられた[11][11] A. Takeuchi et al.: Microsc. Microanal. 24 (2018) 108-109.。ただし、X線エネルギーが上がると焦点距離が長くなるため、現時点では20 keV以上の高エネルギー領域の計測は中尺BLのBL20XUでのみ実施されている。

 

図3 X線顕微鏡光学系の模式図。

 

 

 次にいくつかの計測技術について現状報告を行う。参考文献[9]にも挙げたが、結像型と投影型をあわせたマルチスケールCT計測の装置開発がBL20XUとBL47XUで進められている。開発当初、大きな試料中の一部の領域のX線CT像を得るには、不完全再構成や照射X線エネルギーの最適値の問題などがあったが、結像型における位相計測の利用である程度回避できることが明らかとなった。さらに、この入れ替えにはX線顕微鏡光学系一式の動作が必要となる。計測時の安定性と位置の再現性が達成可能な構成を見出し、結像型と投影型は約2分で自動入れ替えが可能となった。これを利用した研究も成果を上げつつある[12][12] G. Ohkuma et al.: Scientific Reports 9 (2019) 11595.
 X線画像から分かるのは、物体によるX線の吸収もしくは位相シフト量(換算して屈折率あるいは密度とすることも可能)である。X線画像は高精細な空間的情報を持つが、物質科学的には物体の鉱物相やその方位(X線回折)、あるいは元素の情報(蛍光X線)などが同時に取得できるとさらに利用価値が高まる。特に材料の変形破壊、あるいは凝固時の相転移現象はX線その場観察でないと分からないことが多く、実際マルチモーダル計測を目的とした装置開発が進められている[13-15][13] H. Su et al.: Acta Materialia 159 (2018) 332.
[14] H. Yasuda et al.: Nat. Commun. 10 (2019) 3183.
[15] J. M. Dake et al.: PNAS 113 (2016) E5998.
。そのような装置では、X線画像用の検出器の他に、回折像取得用の大面積検出器や蛍光X線分析用のSDDが試料を取り囲むように設置され、非常に混雑した構成になっている。

 

 

3. 今後の課題など
 X線イメージングは生体組織や動物のin-vivo計測、金属材料・高分子材料・岩石鉱物・歴史遺産、さらには電池やデバイスのoperando計測など適用分野が広い。それ故に図1に示したような広い範囲にわたる利用がなされ、時間・空間分解能に対する要求性能は高まるばかりである。この図に表されない性能としては、超高精細画像の取得や濃度コントラスト性能の向上も重要な取り組みである。またその際既存の画像処理技術だけでは対処できない問題も生じる可能性がある。その場合は外部専門家のサポートを得ながら取り組むことが必要になろう。
 本グループとしては、これらの要求に応えるだけでなく、実験室光源はもちろん他の放射光施設では取得できないような画像情報を得るため、SPring-8の光源性能を生かした技術開発を進めていく。

 

 

 

参考文献
[1] A. Momose et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 42 (2003) L866.
[2] M. Yabashi et al.: Proceedings of SPIE 3773 (1999) 2.
[3] M. Hoshino et al.: AIP Advances 7 (2017) 105122.
[4] K. Uesugi et al.: J. Synchrotron Rad. 18 (2011) 217.
[5] M. Hoshino et al.: J. Synchrotron Rad. (2020) accepted.
[6] K. Uesugi et al.: Journal of Physics: Conf. Series 849 (2017) 012051.
[7] A. Takeuchi et al.: Rev. Sci. Instrum. 73 (2002) 4246.
[8] A. Takeuchi et al.: J. Phys. Conf. Series 186 (2009) 012020.
[9] Y. Suzuki et al.: AIP Conf. Proc. 1365 (2011) 160-163.
[10] A. Takeuchi et al.: Journal of Physics: Conf. Series 849 (2017) 012055.
[11] A. Takeuchi et al.: Microsc. Microanal. 24 (2018) 108-109.
[12] G. Ohkuma et al.: Scientific Reports 9 (2019) 11595.
[13] H. Su et al.: Acta Materialia 159 (2018) 332.
[14] H. Yasuda et al.: Nat. Commun. 10 (2019) 3183.
[15] J. M. Dake et al.: PNAS 113 (2016) E5998.

 

 

 

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : ueken@spring8.or.jp

 

 

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