Volume 24, No.4 Pages 394 - 396
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第5回SACLA Users’ Meeting報告
Report on the 5th SACLA Users’ Meeting
1. はじめに
2019年8月28日から29日にかけて、SACLA Users' Meeting 2019がSACLAで開催された。SACLAの利用者会議としては通算で5回目となるが、第3回(2017年12月開催)より使用言語を英語とし、“International Users' Meeting”として開催されている。今年は国内から97名、海外8名が参加し、最新のSACLAの性能に関する情報共有や、XFEL利用研究の在り方について、施設とユーザーコミュニティーおよび利用者同士で議論が行われた。学術界からの参加者に加えて、産業界からも4名(2企業)の参加があり、多様な立場からの意見が交わされた。
写真1 参加者の集合写真
2. 会議の内容
第1日目は、午前中に施設見学および実験データ処理実習(Hands-onセッション)、午後からは全体セッションとして、施設の現状報告(3件)と2018年度より開始されたSACLA基盤開発プログラムの進捗報告(5件)が行われた。
今回初の試みとなるHands-onセッションでは、SACLAの高性能計算機(HPC)システムを利用した実験データ処理の基礎を実習する場が設けられた。午後の施設報告では、SACLAの概要およびSACLA基盤開発プログラム(理化学研究所 矢橋牧名氏)、最新のビームライン状況(JASRI 登野健介氏)、昨年のUsers' Meetingで挙げられた要望への対応状況(JASRI 籔内俊毅氏)に関する報告が行われた。
SACLA基盤開発プログラムは、利用者の要望に応えながらSACLAの特色をさらに伸ばし、ユニークな成果の創出につなげることを目的として、昨年度より新たに募集が開始された。本年度は8件の課題が採択され、実験プラットフォームの開発などが進められている。本会議では、軟X線の集光・結像システム(東京大学 本山央人氏)、軟X線オプト・スピントロニクス実験装置(東京大学 平田靖透氏)、XFELイメージングのための溶液試料保持技術(北海道大学 鈴木明大氏)、X線分光と回折計測のためのタンパク質結晶供給技術(岡山大学 梅名泰史氏)、ハイパワーナノ秒レーザー集光技術(大阪大学 尾崎典雅氏)といった装置や技術の開発について、進捗状況などが報告された。SACLA基盤開発プログラムの詳細については、下記サイトを参照されたい。
http://xfel.riken.jp/topics/20190326.html
第1日目の全体セッションの後にはポスターセッションが開催された。施設からは10件の発表があり、BL1~BL3、同期レーザーに関する発表が行われた。特に前回(2018年9月)からの更新情報として、波面分割遅延光学系(BL3)や自己シード型FEL(BL3)、ハイパワーフェムト秒レーザーシステム(BL2)に関する最新情報に加え、同期レーザーのアップグレード(BL1~BL3)などが報告され、参加者の関心も高かった。また、利用者からも17件のポスター発表があり、最新のSACLA利用研究成果について、施設側、利用者を交えて活発な議論が行われた。
第2日目の午前は、全体セッションとして招待講演(2件)、分野毎のブレイクアウトセッション(4セッション)が行われた。Majed Chergui教授(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)およびDavid Reis教授(スタンフォード大学)による招待講演では、超高速化学や物質科学などの最新の研究のほか、SwissFELやLCLS-IIといった海外のXFEL施設の動向なども交えた講演が行われた。
ブレイクアウトセッションでは、“Applications of advanced capability of BL3”、“New instruments for condensed matter”、“Extension of pump-probe capabilities for Biology and Chemistry”および“Development of experimental platforms with high-power lasers”の4つのセッションが行われ、それぞれ利用研究の今後の方向性や、施設の共用実験装置・実験環境などの運用や開発に関する要望などについて議論が行われた。どのセッションも発表3~4件とディスカッションで80分間を予定していたが、時間を超過しても議論が繰り広げられるセッションが多かった。以下に、各セッションの内容を簡潔にまとめる。
“Applications of advanced capability of BL3”
2色発振、自己シード型FELやアト秒FELなど、SACLAの独自性を高めるための特殊な運転および光診断技術について、利用者とビームライン研究員だけでなく、加速器研究員も交えた議論が行われた。
“New instruments for condensed matter”
主に固体物理分野の研究者により、SACLA BL2、BL3における強磁場パルスやテラヘルツレーザーを用いたポンプ・プローブ実験装置の開発と最近の研究に関して議論が行われた。さらに、SACLA基盤開発プログラムによってBL1利用者向けに開発が進められているオプト・スピントロニクス実験プラットフォームなどについても情報共有と意見交換が行われた。
“Extension of pump-probe capabilities for Biology and Chemistry”
これまでのポンプ・プローブ実験では、化学反応のトリガーとして専ら光学レーザーが用いられてきたが、新しい反応トリガーとして温度ジャンプや2液混合などを使った手法や、反応を観測するためのX線吸収/発光分光法について、実験プラットフォームの開発も交えた議論がなされた。
“Development of experimental platforms with high-power lasers”
大出力のナノ秒レーザーまたはフェムト秒レーザーとXFELを同時利用するための実験システムの共用が2018年度に開始されたことを受け、両システムの現状と最新の実験成果が報告された。これらを踏まえ、今後の基盤開発の重要項目や方向性などについて、既存の利用者だけでなく、将来の利用を検討している参加者からも意見が出され、議論が行われた。
第2日目午後にはショートプレゼンテーションのセッションが設けられ、5件の口頭発表を通じて、新しい実験の提案や施設への要望などが挙げられた。その後、それぞれのブレイクアウトセッションを総括するサマリーセッションが開催され、全参加者で情報を共有するとともに、分野横断的な議論が活発に交わされた。
写真2 全体セッションの様子
3. まとめ
SACLA Users' Meetingは、一般的な学術発表のための会議ではなく、利用者と施設および利用者間の情報共有と意見交換を主な目的として開催されている。今回も、ブレイクアウトセッションやそれに続くサマリーセッションにおける議論などを通じて、ある程度目的を果たせたように思える。今後も、利用者からの要望に対する施設側の対応や、施設側からの情報を活かした利用研究の展開などに注目していただきたい。2020年度以降も、SACLA Users' Meetingは毎年開催される予定となっている。次回については詳細が決まり次第、SACLAのホームページ(http://xfel.riken.jp)などで情報が公開される予定である。
通算5回目となるSACLA Users' Meetingを盛況のうちに終えることができたのも、多くの利用者の方々に参加いただき、活発に議論していただいたことに尽きると思われる。本ミーティングに関わった皆様に厚く御礼を申し上げ、SACLA Users' Meeting 2019の報告とさせていただく。
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