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Volume 24, No.4 Page 364

理事長室から -高輝度研究者センター-
Message from President – High-Brilliance (= Highly-Motivated) Researcher Center –

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 JASRIの正式名は、高輝度光科学研究センターである。題目の「高輝度研究者センター」とは何?と思われたであろう。題目に込めた私の思いは、SPring-8/SACLAのユーザーの研究支援を行うJASRI研究者がこれまで以上に高輝度化して輝き、そのような高輝度化した研究者群からなる「高輝度研究者センター」を共に目指そう、という思いである。このことは、SPring-8/SACLAが今後も世界のトップランナーであり続け、このサイトから引き続き優れた研究成果を創出し続ける上で、最も重要な要件であると確信している。
 SPring-8が1997年に稼働を開始して以来、20年余りが経過した。研究施設のハードウェア・ソフトウェアが老朽化する時期であると同時に、ややもすれば、研究施設を維持・運営する研究者の姿勢にマンネリ化、蛸壺化という傾向が現れ易くなる時期でもある。その意味でも今こそ、「高輝度研究者センター」を目指す時期である。
 高輝度化した研究者とは、人目に目立つ研究者のことではない。高い志と強い動機付けを持つ研究者、highly-motivated researcherのことである。ともすれば、研究支援を行う研究者は、支援される研究者に比べると人目には目立たない。そのことは事実であるが、そのことを理由にした、「研究支援する立場は割が合わない。高いモチベーションを保てない。」という主張は当たらない。そのような主張は、魅力ある研究テーマを探索したり、主体的に研究に取り組む姿勢がない場合の言い訳であることが多い。
 研究を支援する立場であれ、支援される立場であれ、研究者に求められる資質は同じである。それは、高い志と強い動機付けを持って主体的に研究に取り組むことのできる資質だと考えている。では、その資質とは何であろうか?それは、好奇心(Curiosity)、使命感(Mission)、情動(Passion)である、と私は学生に(実は、私自身に)言い続けてきた。その要点を以下に紹介させて頂く。
 人間の心(精神性)には知・意・情の3つの機能がある。それは、「知性」と「意志」と「情動」である。アリストテレスは、その3機能が各々「真、善、美」という価値を追求すると述べている。研究に取り組む時に、これら3つの機能を持続的に活性化し続けることが大切である。
 1番目の「知性」。知性を健全に保つためには、「素朴な好奇心、飽くなき探究心」が大切。そして、物事を論理的にかつ実証的に考える習慣性を身に付けることが大切である。
 2番目の「意志」。「好奇心」に加えて、「何かのために役立ちたいという意志」、すなわち、「使命感(Mission)」を持って取り組むことが大切である。現代では死語になった感があるが、所謂、世のため人のため、という使命感を自分の心の中に育てることが重要である。競争的公的研究資金には、curiosity-drivenな研究課題と、mission-orientedな研究課題がある。この仕組みを見ても分かるように、研究を進める上で、「好奇心(Curiosity)」と「使命感(Mission)」は車の両輪である。
 3番目の「情動(Passion)」。これは、人や物事に対する愛情や感動する心である。この情動は、好奇心や使命感を持続的に活性化するための車のエンジンに相当する。学問は哲学、すなわち、Philosophyから始まった。Philosophyは、Phil-「親しむ、愛する」という語と、Sophy「知、知識体系」という語からできている。すなわち、知を愛すること=Philosophyである。日本にも「好きこそ物の上手なれ」という諺がある。研究対象を愛し、その中にある美しさ・精緻さ・不思議さに感動する心(=情動)が好奇心を刺激する。さらに、情動は使命感をも強固にする。隣人や社会、ひいては、人類や世界に対する愛情があってこそ、使命感は持続可能なものとなり得るからだ。
 私はPhoton Factoryで14年間研究支援を行う立場で、その後、東京大学で21年間Photon FactoryやSPring-8で研究支援される立場で研究に携わってきた。この間、立場は変わっても、研究に対する動機付けは同じであり、上記は私にとって重要な羅針盤であった。
 SPring-8/SACLAが今後もトップランナーであり続け、優れた研究成果を創出し続ける上で、ユーザーの研究支援を行うJASRI研究者が、これまで以上に各自の好奇心(Curiosity)、使命感(Mission)、情動(Passion)を高輝度化して輝き、研究に取り組んで頂くことを願っている。
 舞台上でフラッシュライトを浴びることは嬉しい。しかし、それと同じく舞台下からユーザーに高輝度フラッシュライトを浴びせて、優れた研究成果を創出させることも大きな喜びである。そのような情動(Passion)を持つhighly-motivated researcherのプロ集団を目指したい。そのようなプロ集団こそ、今後益々高度化する放射光科学の担い手であると確信している。
 そのためにも、JASRI研究者においては、科研費、理事長ファンド、12条枠等々を最大限に活用して各自の高輝度化を目指して頂きたい。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794