Volume 24, No.2 Pages 126 - 127
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第5回大型実験施設とスーパーコンピュータとの連携利用シンポジウム報告
The 5th Symposium Report about Cooperative Use of Quantum Beam Facilities and Super Computer
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
1. はじめに
2019年3月25日に東京秋葉原UDXにて、「大型実験施設とスーパーコンピュータとの連携利用シンポジウム−熱電材料−」が、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)、一般財団法人高度情報科学技術研究機構(RIST)の主催により開催された。本シンポジウムは、大型実験施設であるSPring-8/SACLA(JASRI)、J-PARC MLF(CROSS)と「京」(RIST)をはじめとするスーパーコンピュータとの連携利用を行うことで、実験的手法と数値シミュレーション手法の特性を活かした新しい研究成果の創出を目的として開催されており、今年度で5回目となった。今回は、熱電材料研究における実験と計算科学との連携利用をテーマとして、最新の研究に関する講演とパネルディスカッションを行った。参加者総数は82名で、プログラムは下記のようであった。
・開会挨拶
(CROSS・横溝英明、JASRI・土肥義治)
・施設紹介
(JASRI・櫻井吉晴、CROSS・金谷利治、RIST・奥田基)
・フォノンエンジニアリング・プラットフォーム(実験×数値シミュレーション)を活用した熱電材料研究
(東京大学・塩見淳一郎)
・電子−格子間非平衡状態を活用した熱電変換特性の向上
(日立製作所・藪内真)
・熱電変換材料としての金属酸化物の可能性
(北海道大学・太田裕道)
・トンネル構造を有したジントル化合物系熱電材料の開拓と評価
(東北大学・山田高広)
・IV族半導体微細加工による熱電材料の機能発現と物性評価
(明治大学・横川凌)
・大振幅原子振動を活用した熱電材料の開発
(九州大学・末國晃一郎)
・パネルディスカッション「大型実験施設と計算機を用いた熱電材料の研究開発の現状とこれから」
図1 シンポジウム会場の様子
2. 会議報告
冒頭に主催者を代表してCROSS、JASRIから開会挨拶が行われ、続いて施設紹介とそれぞれの施設での最新の研究成果の例が示された。
第1セッションでは、主にハイパフォーマンスコンピュータやスーパーコンピュータを利用した研究事例に関する講演が2件行われた。1件目は、東京大学・塩見淳一郎教授から、時間的・空間的に高効率な熱アロケーションを達成するナノ材料開発に資する研究事例の発表や、海外の例を元に、計算と実験の一層の連携推進には各施設の専門家が1つの場所に集まる機会があると良いのではないかという提案があった。2件目の「電子−格子間非平衡状態を活用した熱電変換特性の向上」では、株式会社日立製作所・籔内真氏より、原子中の電子と格子(フォノン)に温度差があり、この熱非平衡状態を積極的に活用した熱電変換特性向上のための研究事例が発表された。
第2セッションでは、主に中性子線活用事例の側面から2件の講演が行われた。1件目の「熱電変換材料としての金属酸化物の可能性」では、北海道大学・太田裕道教授より、人体に安全、資源量が豊富(低コスト)、かつ熱的に安定した、高い熱電変換特性を有する金属酸化物の探索に係る研究事例が発表された。2件目の「トンネル構造を有したジントル化合物系熱電材料の開拓と評価」では、東北大学・山田高広准教授より、約3分の2が大気中等に捨てられている1次エネルギーの有効活用を目指したトンネル構造化合物系熱電材料の開発に資する研究事例が発表された。
第3セッションでは、主に放射光活用事例の側面から2件の講演が行われた。1件目の「IV族半導体微細加工による熱電材料の機能発現と物性評価」では、明治大学・横川凌氏より、環境発電、すなわち“電力の自給自足”を目指した高熱変性能電極材料開発のうち、微細化されたSiナノワイヤの物性理解に資する研究事例が発表された。2件目の「大振幅原子振動を活用した熱電材料の開発」では、九州大学・末國晃一郎准教授より、ラットリングと呼ばれる大振幅原子振動による低熱伝導率の物質として知られるクラスレート化合物等のダイナミクスの理解を目指した研究事例の発表があった。
次に「大型実験施設と計算機を用いた熱電材料の研究開発の現状とこれから」をテーマにしたパネル・ディスカッションが行われた。第1セッション講演者の塩見氏がモデレータを務め、第1から第3セッションの講演者である籔内氏、太田氏、山田氏、横川氏、末國氏の5名がパネリストを務めた。内容は、1)施設利用の現状、2)連携利用について、3)今後の課題の3点であった。1)に関して、様々な意見が出されたが、成果を出すだけではなく、教育の場としての役割も大いにあるとの意見が出た。2)に関しては、各施設の高度な技術を持った人がいて、それらを利用したい人(ユーザー)がいるが、各施設間やユーザーと施設間の有機的かつ組織的なつながりを牽引することができる人がいないことが問題であるとの意見が出た。また制度としては、一つの課題申請でSPring-8、J-PARC、「京」の利用可能なものがあると良いとの意見があった。3)において、2)でも議論になったが、ユーザーと3つの施設がざっくばらんな会合を定期的に開催されるとより有機的なつながりを持てるのではないかとの意見があった。
3. おわりに
本シンポジウムでは、熱電材料の研究開発において第一線でご活躍の先生方に、ご講演頂いた。またパネルディスカッションにおいても活発な議論が展開され、有意義なシンポジウムとなった。参加者に対して行われたアンケートで、シンポジウム全体として「満足」と「やや満足」を合わせて9割というコメントを頂いた。主催者としては非常にうれしい結果であった。本シンポジウムをきっかけに大型実験施設と大型計算機施設とユーザーの三者が有機的につながったコミュニティを形成し、連携利用による発展がなされることを期待したい。
(公財)高輝度光科学研究センター
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