ページトップへ戻る

Volume 24, No.2 Pages 157 - 159

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2019年度に指定されたパートナーユーザーの紹介
A Newly Designated Partner User FY 2019

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

pdfDownload PDF (327 KB)
SPring-8

 

 2013年度まで運用していた「パワーユーザー」制度について、2014年度より名称および一部運用を変更し、「パートナーユーザー」(以下「PU」という)として運用を開始しました。2019年度は、4名の応募があり、PU審査委員会による審査の結果、4名が指定されました。指定されたPUおよびPU審査委員会からの審査結果を以下に示します。

 

 

PUの概要

・PUは、2013年度までの「パワーユーザー」の名称および一部運用を変更したもの。

・2014年度以降のPUは、共用ビームラインおよび測定技術を熟知し、放射光科学・技術の学術分野の開拓が期待できる研究者で、
1)ビームライン実験設備の開発および高度化への協力
2)上記高度化等に関連した、先導的な放射光利用の実施および当該利用分野の拡大・推進
3)上記高度化等に関連した利用者支援
のいずれも満たすユーザーを指す。

・PUの指定期間は原則2年間(PU審査委員会が必要と認めた場合には延長可。最長5年間。ただし、2019年度以降に新規指定された場合は最長4年間)。

 

[指定期間]
2019年4月1日から2021年3月31日まで(2年間)

 

[指定されたPU]
1. 池永 英司(名古屋大学)

(1)実施内容

 研究テーマ:固液界面現象解明のための液体電子状態探索と大気圧溶液セル開発の高度化

 高度化:化学反応状態解析のための実環境下反応セル開発によるHAXPES測定技術の高度化
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL47XU

(3)審査コメント
 本PU申請課題は、申請者が開発してきた硬X線光電子分光(HAXPES)装置と大気圧溶液セルを組み合わせることにより大気圧湿潤環境下の試料に対する電子状態観測を可能とする測定技術を開発し、これにより固液界面現象に関する研究の進展を目指す課題である。測定装置の高度化として、光電子透過窓材の高導電化、パルス電圧印加可能な機構開発、温度制御可能な機構開発、時分割計測開発高度化、高真空状態復旧時間の緩和システムの開発を行う計画である。当面の研究対象としては、Liイオン二次電池開発における陽極担持Li酸化金属粒子と電解液界面での劣化研究とDNA修飾Auナノ粒子コロイドを用いた一塩基変異体分析を挙げている。
 本申請課題による高度化は、施設のBL高度化計画に合致している。また、差動排気アナライザーを用いた装置では難しい大気圧下での測定を可能にするため、固液界面現象における電子状態研究という研究分野の拡大・推進につながることが期待される。安定なオペランド計測技術はユーザー側としての期待が大きく利用拡大が望める。新規ユーザー開拓についての具体策が示されていない点が気になるものの、ユーザーの実験の遂行にはPUグループの支援が不可欠と考えられ、実際に支援を期待することができると考えられる。これらの点から、本申請課題はPU課題の趣旨にあっており採択に相応しいと判断される。
 申請グループには本課題を通したBLの高度化を進め、当該研究で世界を先導する成果をあげていただきたい。また、特徴のある実験技術を活かして、新たな研究テーマの創出にも期待したい。ただし、技術開発を独立で行っていることは自身の研究のアイデンティティーを保つ上では重要と思われるが、類似の技術開発について情報収集を行うことにより開発時間の短期化が見込め、また、PUメンバーによる類似課題が新分野創成利用課題で採択されている状況でもある。これらの点を考慮し、SPring-8全体のマシンタイムの効率化の観点から申請された45シフトに対して配分シフトを33シフトとした。


2. 森吉 千佳子(広島大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:外場変化物質科学研究を実現する高エネルギーX線多目的一次元回折
 高度化:外場変化物質科学研究を実現する高エネルギー粉末X線回折の多角化
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL02B2

(3)審査コメント
 本パートナーユーザー申請は新規課題であるが、申請者は2015年度よりパートナーユーザー課題の代表者を務めており実質的には継続課題と考えられる。前回の4年間の課題期間では、MYTHEN検出器を利用した高速化と蛍光抑制、ガス・溶媒を外場とする構造解析等に取り組み当該ビームラインの高度化に貢献するとともに、その技術を数多くの利用者の支援へとつなげ、成果の輩出に多いに貢献してきた。
 今回の申請では、自動試料交換におけるマウント試料数の増加、測定の自動化、ビーム集光と可変ビームサイズ機構の導入、温度制御の温度範囲拡張など、さまざまな目標が掲げられている。これらの目標は、当該ビームラインを利用する多くのユーザーからの個別の希望に沿ったものであり、利用研究支援の観点からSPring-8の運営への協力が期待できる。したがって、本委員会としてはこの課題を採択するという結論に達した。
 一方で、本申請課題については、パートナーユーザーグループ自体がこの期間内に主体的に行おうとする研究の中身については、あまり評価が高くない。また、ビームの集光、高エネルギー回折パターンのpdf解析などが果たしてベンディングのビームラインの特徴を活かしたものになっているかどうかは疑問である。その他、ビームライン担当者が行うべき業務との切り分けなども含めて、ビームライン担当者とともに再度検討すべきであろう。


3. 河野 義生(愛媛大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:大容量プレスを活用した動的地球深部科学の開拓
 高度化:高圧下ダイナミクス測定に向けた時分割測定基盤の整備
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL04B1

(3)審査コメント
 本申請は、BL04B1の基幹計測となる大容量プレス内試料のX線回折、X線イメージング、超音波測定において、多種計測を同期した自動計測システムの開発を通して、短時間で起こる現象のその場観察を目指すものである。さらに、構築したシステムを活用し、地震発生素過程の理解から液体・ガラスなどの非晶質物質の構造・物性解明への展開を計画している。
 ビームライン実験設備の開発および高度化に関しては、計測手法変更に伴うスリット切り替えを自動化することにより、実験効率の飛躍的向上を達成し、ビームタイムの有効活用という量的改善のみならず、測定タイムラグの解消により時分割測定を可能とし、質的に意義深いデータ取得を可能とするもので評価できる。また、これらを用いた先導的な放射光利用研究では、高圧地球科学の先端的研究を担ってきた申請者グループが、これまでの静的地球深部科学から動的地球深部科学を切り拓く実験を推進することが期待される。
 利用分野の拡大・推進に関しては、申請者グループの組織によるパワーユーザー課題、パートナーユーザー課題の実施において利用分野の拡大が期待されたが、材料系の利用者開拓は限定的であった。本申請においては、実験責任者の材料科学のバックグラウンドや所属組織での新分野開拓と連携を活用して、更なる展開を期待する。
 以上より、本申請は、パートナーユーザーとしての選定が適当であると判断する。


4. 澤 博(名古屋大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:オペランド計測を含めた精密電子密度解析による軌道物理の研究
 高度化:オペランド計測を目指した精密電子密度解析の高性能化
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL02B1

(3)審査コメント
 本課題は、従来のイメージングプレートに代わって導入された高エネルギーX線対応の二次元検出器であるCdTeピラタス検出器を活用することにより、高精度かつハイスループットな単結晶構造解析基盤を確立することを目的としている。そのための第一段階として、ピラタス特有の受光素子構造や不感時間の存在による回折強度の数え落としの影響を評価するとともに、物性的に興味深い複数の試料に対して精密構造解析を実際におこなうことで、ピラタス検出器の検証をおこなう。これらの結果をふまえ、第二段階では、AIの援用を含む測定自動化の推進、大量に得られる高品質回折データの解析ソフトウェアの整備をおこなうこととしている。以上の研究計画は、BL02B1で進められているオペランド計測を目指した精密電子密度解析の高性能化の方向性と完全に整合するものである。
 ピラタス検出器は、イメージングプレートに比べ、強度データの読み出し時間の大幅な短縮や、高いS/N比など、測定の高度化および高精度化に有用な利点を有していることは疑いない。このような性能を十二分に活用するためには、検出器の性能を多方面から系統的に検証することが重要であるのは明らかで、本申請のねらいはきわめて適切である。それにより得られる成果は、当該ビームラインを利用するユーザーのほとんどすべてにとって有益であり、パートナーユーザー課題としてふさわしい。
 一方で、測定や解析の自動化のためのAIの導入は、一般ユーザーの受ける便益も大きく、期待も高いが、本申請においてどこまでの開発を実施する計画なのか、不明確な点がみられる。各期の課題申請においては、具体的な実施内容や到達目標を明確にすることを求めたい。
 申請者は、単結晶構造解析分野において多くの実績があり、当該施設におけるパワーユーザーの経験もあることから、課題遂行そのものに不安要素はないが、本申請の共同実験者が比較的少数であることは、ユーザー層拡大の観点から懸念が残る。パートナーユーザーとして、一般ユーザー支援はもちろんであるが、新規ユーザー開拓も強く意識したうえでの活動を期待したい。
 また、目的・検証項目において明確に区別されるが、ピラタス検出器の検証を内容とする別グループによる長期利用課題が採択されていることにも留意が必要である。本PU課題の実施にあたっては、長期利用課題との重複が生じないように、施設側を介した十分な情報共有が求められる。
 結論として、本申請は、パートナーユーザー課題として適切であり、採択と判断するが、実施にあたっては、上述した事項を十分に検討することが望まれる。

 

 

以 上

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794