Volume 24, No.2 Pages 179 - 180
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SACLA利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the PRC (Proposal Review Committee) of SACLA
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University
1. はじめに
2017年4月~2019年3月の2年間、雨宮慶幸前委員長から引き継いで、SACLA利用研究課題審査委員会(2017B期~2019A期の審査委員会)の委員長を務めさせていただきました。何かと不慣れな点もあったことから、JASRI利用推進部の方々には、色々とお手数をお掛けしました。本委員会委員の皆様や関係者の方々のご協力で無事任を終えることができ、皆様に感謝申し上げます。以下に、この2年間の審査を振り返っての簡単な感想を述べさせていただきたいと思います。
2. 本委員会での審査に関して
2.1 審査方法に関して
審査は、第3期(2015年4月~2017年3月)における審査方法をほぼ踏襲して行いました。以下にその骨子をまとめます。
1. 使用できるビームラインが3本(BL1、BL2、BL3)であること、応募課題総数は100程度であることから、分科会に分けるより審査委員会で総合的に議論する方が効率的であると考え、SPring-8で行っているレフェリー・分科会・審査委員会の3段階の審査と異なり、SACLAでは分科会に分けず、レフェリー・審査委員会の2段階で行う。
2. 原則として、本委員会委員が全ての応募課題の審査を行い、本委員会で調整の上、選定案を決定する。
3. 年間ビームタイム設定は、SPring-8と同様、24時間連続運転、および、同時期を想定する。ただし、1シフトは12時間とする。
2.2 レフェリーに関して
本委員会の施設外委員は、レフェリーとして、応募課題の、1)科学技術的妥当性(絶対評価)、2)SACLAの必要性(絶対評価)、3)総合評価(相対評価)に関する審査を1課題あたり5名程度で事前に行い、施設側委員は、4)実施可能性評価(絶対評価)、5)奨励シフト数評価、6)安全評価(絶対評価)の審査を事前に行い、本委員会に臨みました。
2.3 本委員会での主な議論のポイント
本委員会では、上記のレフェリーによる審査の結果を踏まえて、総合的に課題の採否に関して議論を行いました。特に、供給できるビームタイムの制約との関係で、レフェリー審査結果が採否のボーダーラインの近傍にある課題に関して詳細に議論を行いました。その際、以下の点に留意しました。
①委員(=レフェリー)間の評価結果のバラツキの程度:採否ボーダーライン前後の課題について、個別に各委員間の評価のバラツキを吟味。
②科学技術的意義およびSACLAの必要性(いずれも絶対評価)と総合評価の相関:上記ボーダーライン前後の課題について、科学技術的意義およびSACLAの必要性と、総合相対評価との相関を吟味。
③利用機会:申請者の多様性(申請者の重複、所属機関、国内外、産学、等)を確保するための配慮。
④これまでに本申請に関連したSACLA実施課題がある申請者は、課題申請時に進捗報告書を記入し、当該申請課題は、審査時の参考資料とする。
また、本委員会での議論の結果、不採択となった課題の申請者に伝える情報の中に、不採択課題の中での評価結果が上位、中位、下位のどの位置にあったかの情報を盛り込むとともに、SACLA産業利用の一層の促進の観点から、産業界所属者が実験責任者の不採択課題については、個別の不採択理由等のコメントをつけることとしました。また、2019A期の審査からは、次回以降の申請につなげていただくために、不採択課題については、個別事前審査において各課題に付された審査コメントをとりまとめ、課題申請者にフィードバックすることとしました。
3. 審査結果の概要
2017B期(BL1:54シフト、BL2:72.5シフト、BL3:117シフト、延べ243.5シフト)では、応募85課題に対して50課題を採択しました(採択率=59%)。採択された50課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は49%でした。
2018A期(BL1:51シフト、BL2:79.5シフト、BL3:127シフト、延べ257.5シフト)では、応募79課題に対して55課題を採択しました(採択率=70%)。採択された55課題におけるシフト配分率は52%でした。
2018B期(BL1:51シフト、BL2:75シフト、BL3:139シフト、延べ265シフト)では、応募94課題に対して56課題を採択しました(採択率=60%)。採択された56課題におけるシフト配分率は47%でした。また、成果専有利用制度である時期指定課題においては、1課題/0.17シフト(2時間)を採択しました。
2019A期(BL1:45シフト、BL2:86シフト、BL3:131シフト、延べ262シフト)では、応募93課題に対して55課題を採択しました(採択率=59%)。採択された55課題におけるシフト配分率は49%でした。
3本のビームラインは効率良く利用されていますが、何れの期においても、採択率およびシフト配分率はSPring-8の場合に比べて低くなっています。
4. 申請書の書き方について
委員会の議論の中で、学生等に代筆させたと思われるような稚拙な文章や、文章の整合性が取れておらず、過去の申請書の切り貼りと思われる文章が、いくつか指摘されました。さらに、適切な引用がされていない、あるいは引用文献の内容と違う論理で新規性を謳ったと疑われるような内容の申請書があるのではないかという議論もありました。こちらについては、委員間での判断が分かれる微妙なものでしたが、もし故意に書かれたのであれば研究者倫理にもとるものであると言わざるを得ません。
近年の国の厳しい財政事情から、常に競争的資金を獲得するために多くの申請書を書かなければならず、また、大学等の運営面でも多くの書類を書くことに忙殺されていることは十分に理解できますが、本委員会からは、本記事を通して、申請者の皆様に、SACLAの貴重なビームタイムを利用するということは、多くの研究資金を獲得するということと同じであるということを改めて理解した上で、適切な審査ができるような申請書の作成を心掛けていただきたいというメッセージを送らせていただくことになりました。
5. まとめと今後の課題
SACLAは、2012A期の共用開始から5年以上経過し、立ち上げフェーズから安定利用のフェーズに移行してきたと言えると思います。そのような状況下で、社会からは最先端のX線光源から最大限のアウトプットを引き出し、新しいサイエンスを開拓していくことが強く求められてきています。そのような要請の下に、いかに「良い」課題を選んでいくかということが、本委員会での審査に益々求められてきています。一方で課題数が100に近づき、今後もさらに増えてくると予想されます。また、新しい分野への更なる展開も期待されています。そのような中で、公平性と透明性を担保した課題審査を行っていくことの重要性も痛感しています。
最後になりましたが、より良い課題を選定するという熱い思いで多くの申請書を細部にわたって熟読しさらに長時間にわたって活発なご議論をいただきました、本委員会の委員の皆様に深く感謝いたします。また、委員会を支えていただきましたJASRIスタッフの皆様の御尽力に敬意を表すとともに心より感謝申し上げます。
大阪大学 蛋白質研究所
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