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Volume 24, No.2 Page 91

理事長室から -相対化の時代における研究開発型公益法人JASRIのあり方-
Message from President – Mission and Management of Research Institute JASRI on Relativistic Era –

土肥 義治 DOI Yoshiharu

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 「相対化の時代」は、国際政治学者の坂本義和教授が著した岩波新書の表題である。20世紀は、国家イデオロギーが優先する絶対化の時代であったという。20世紀前半の帝国主義と全体主義の対立による世界戦争、そして後半の民主主義と共産主義の対立による冷戦の時代において、イデオロギーの絶対化が国家対立の軸を構成した。冷戦終了までの絶対化の時代において、わが国の企業、大学、研究所など多くの組織は国策に従って船団を形成して行動した。
 1991年のソ連崩壊により米国の一極化が進むと、米国自身の世界への関心が低下し、内向き政治という後退現象が起こった。その結果、国家や民族においてイデオロギーの相対化と多元化が進み、世界の各地域で文明の衝突が起こるようになった。21世紀に入ると市場経済の世界化が一気に進み、国家や組織の相対化を加速した。資本主義市場経済の世界化が、企業、大学、研究所などの組織に自立を促し、その自律的発展に必要な秩序維持的役割を国家に求めた。
 競争的な社会環境となり、高輝度光科学研究センター(JASRI)は2007年に放射光利用研究促進機構の国指定が解除され、登録施設利用促進機関として再出発し、必然的に組織の自立と自律的な経営が必須となった。相対化の時代においてこそ法人を再定義して、その普遍的な原点を強化する必要がある。原点を喪失した組織は漂流して、この時代を生き抜くことは困難であろう。JASRIの原点は、一人ひとりの研究員、技術員が真実一路の科学者精神を大切にして、科学的知見をもとに新しい技術を開発することである。この科学者精神が、ヴェーバーのいう価値合理性の追求である。目的合理性が支配する経済社会において、経営者は科学者精神を発揮するよう研究員、技術員を励ますとともに、法人JASRIの組織力を強化して社会的使命を着実に実行し、共用施設の利用研究成果を最大化するシステムを構築すべきと考えた。
 6年前にJASRI理事長に就任するにあたり、理事長室からの記事に次の経営方針を述べた。JASRI経営の基本は、第一に公正で透明性の高い組織運営を実行すること、第二に放射光科学における高い技術力と調査能力を維持して学術と産業の発展に貢献すること、第三に利用者から信頼されるSPring-8/SACLAの供用業務を行うこと、第四にJASRIの職員がやる気を出せて元気に活動する労働環境を整備すること、そして時代の変化に的確かつ柔軟に対応する組織運営を行うことを方針に掲げた。上記の方針を実現するために役職員とともに努力を続けてきたが、SPring-8/SACLAの利用者の方々の全幅の信頼を得るには道半ばであり、JASRI理事長として自省することが多い。これまでの6年間、ご支援とご協力をいただいた多くの関係各位に心より感謝し御礼を申し上げたい。
 最後に、私事を述べることをご海容いただきたい。研究室を主宰し学生の教育に責任を持ち始めた30代後半から、海洋や土壌のなかで生分解するバイオプラスチックの研究を独自に進めた。20年余り東京工業大学と理化学研究所において、大学院生や研究員らとともにバイオプラスチックに関する研究を発展させた。研究室から多くの若い研究者が巣立ち、国内外の大学に20人以上が教授や准教授として赴任して研究室を立ち上げている。50代後半に研究現場から離れて研究所経営が本務となり、理研とJASRIにおいて15年間その責務を継続してきた。自ずと科学論文を読むよりも、万葉集や歴史・哲学関連の書籍に親しむ時間が増えた。10年程前より、自然、旅、日常、仕事、芸術、科学などを素材として毎月10首以上の短歌を詠んできた。詠み積み増した短歌のうち548首を選び収めた歌集「学問の香」を角川書店より4月に上梓した。研究所経営者として働いてきた期間の感慨と足跡を歌集として残すことができたことは誠に幸いであった。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794