Volume 24, No.1 Pages 39 - 40
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
重点領域「産業新分野支援」評価報告書について
The Reviewing Report on New Industrial Area Proposal
公益財団法人高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」という。)では、従来SPring-8の利用が少なかった、或いは利用が無かった産業分野の新規利用を開拓することを目的として、2014A期から2017B期までの4年間、SPring-8共用ビームライン重点研究課題(領域指定型)において「産業新分野支援課題」を設定し、重点的に利用支援を実施いたしました。本重点研究課題を通じて、食品、金属加工、資源分野など、新しい産業分野の方々にSPring-8を利用いただきました。
JASRIでは、本重点研究課題の領域指定期間の終了を期に、本重点研究課題の実施結果についての評価を行う重点領域「産業新分野支援」評価委員会を設置し、2018年9月7日に同委員会を開催いたしました。2018年12月10日付にて同委員会よりJASRI理事長あてに評価報告書の提出がありましたので、同評価委員会事務局であるJASRI利用推進部より以下に紹介致します。
重点研究課題「産業新分野支援課題」評価報告書
重点領域「産業新分野支援」評価委員会
委員長 雨宮 慶幸
1. はじめに
特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(共用促進法)に基づく、登録施設利用促進機関である公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)は、2014年度より新たな領域指定型重点研究課題として、それまで放射光利用が少なかった産業分野におけるSPring-8利用拡大を目的とした産業新分野支援課題の募集を開始した。当初は2年間を実施期間として予定していたが、新規分野利用促進の効果が見え始めていたことから、更に2年間延長し2017年度まで実施した。本委員会は、産業新分野支援課題の制度、JASRIによる課題実施支援、達成度について評価を行い、今後の新規産業利用分野の拡大に向けた取り組みについて提言するものである。
2. 利用制度に関する評価
放射光利用が少ない産業分野の利用拡大を行うにあたり、放射光利用可能性に関する十分な事前調査を行った上で、領域指定型重点課題の主な対象分野を食品、金属加工、資源開発、資源再生としたことは適切であったと判断する。中でも、生化学分野に比べて利用が少なかった食品分野の利用拡大には特に有効に機能したものと考えられる。
3. 実施支援体制に関する評価
事前調査や課題実施状況に基づいてBL46XUにX線同軸光学顕微鏡やBL19B2にX線CT用試料冷却装置を整備するなど、適切な機器整備が行われている。また、冷凍食品を対象としたX線イメージング技術を開発して、JASRI職員が自ら先行的に実施した12条課題の成果を食品分野の学会で発表や展示を行うなど、利用拡大を目指す分野での啓発活動が積極的に行われたことは高く評価できる。また、以前から実施されていたコーデイネーターやビームライン担当職員による課題申請書作成支援活動は、新規利用分野拡大においても有効に機能したと考えられる。
4. 達成度に関する評価
2014Aから2017Bまでの実施期間において全75課題が実施され、例示されたすべての産業分野において2013B以前よりも実施課題数が大幅に増加した。特に、食品分野での実施課題数の増加が目覚ましく2012年度は1件、2013年度は0件だった実施課題数は2014年度には10件を超えている。また、産業界利用者のうち60%以上が新規利用者であったことから、利用が少なかった産業分野での新規利用拡大の目標は概ね達成できたものと判断する。
実施期間の制約からか、従来からの産業技術上の課題がSPring-8利用により完全に解決するには至らなかったが、今後の研究方向を判断するため有用な知見が数多く得られている。2018年9月5日現在、産業新分野支援課題により得られた成果を報告した16編の論文が学術誌に掲載され、特許も1件出願されている。また、研究会での利用成果発表が奨励賞を受賞する例もあることから、産業新分野支援課題は新規分野の放射光利用拡大に有効だったばかりでなく、放射光利用実験を通じて対象分野における研究の深化・発展にも貢献できたものと評価できる。
5. 今後の新規産業分野利用拡大についての提案
産業新分野支援課題が新規産業分野拡大に向けて有効に機能したことは前述のとおりであるが、その実施を通じて更なる取り組みが有効と思われる事項もあるため、将来、新規産業分野利用拡大の施策を検討する際の一助にできるよう、以下の通り提案する。
産業新分野支援課題により新規利用者開拓には成功したが、放射光実験により技術的課題がすべて解決できたわけではない。新分野での放射光利用の発展を目指すのであれば、課題内容に応じた継続的な放射光利用による新規利用者の定着を意識した取り組みも有効と考えられる。また、放射光実験の測定データを十分に活用するには測定や解析に関する知識と技術が必要になるため、大学等の研究機関に所属する専門家と産業界利用者の連携促進に向けた仕組みづくりや、新規利用者を対象にした放射光利用技術教育の実施なども検討に値する。
食品など具体的な分野を例示した課題募集は新規産業分野での利用拡大に非常に有効であったが、その一方で、鋳造や金型など例示はされなかったが放射光利用の可能性を期待できる分野が残されているように思う。今後も積極的に技術動向調査を行い、事業規模が小さい企業が担っている分野や地場産業も視野に入れて新規分野の利用拡大に向けた努力の継続を期待したい。また、食品など産業新分野支援課題によって新規利用が拡大した分野においても、放射光利用は緒に就いたばかりで更なる利用拡大の可能性が期待できるため、これらの分野においても利用拡大に向けた重点的な取り組みを再度行うことを排除することは避け、学会や論文誌での成果発表等を継続的に行って放射光利用の認知度向上に努めていただきたい。
6. おわりに
領域指定型重点研究課題「産業新分野支援課題」の実施を通じて、食品等の新たな産業分野でSPring-8の利用を拡大することができた。今後も産業分野での利用拡大と成果の創出を目指し、利用技術や利用制度の最適化に向けて総合的、多面的な検討と実施を引き続き行うことを期待する。
7. 重点領域「産業新分野支援」評価委員会について
(1)委員(50音順、〇:委員長)
〇 雨宮 慶幸 国立大学法人東京大学 特任教授
安逹 修二 学校法人京都学園京都学園大学 教授
宮﨑 司 一般財団法人総合科学研究機構 中性子科学センター 次長
吉本 則之 国立大学法人岩手大学 教授
(2)開催日時及び場所
平成30年9月7日(金)12時10分より14時10分
兵庫県民会館9階 会議室902号室
以 上