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Volume 23, No.3 Pages 238 - 245

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第13回放射光装置技術国際会議(SRI2018)報告
The 13th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI2018) Report

仙波 泰徳 SENBA Yasunori[1]、安田 伸広 YASUDA Nobuhiro[2]、小谷 佳範 KOTANI Yoshinori[2]、馬場 清喜 BABA Seiki[3]、井上 伊知郎 INOUE Ichiro[4]、大坂 泰斗 OSAKA Taito[4]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, JASRI、[4](国)理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center

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SPring-8

 

1. はじめに
 2018年6月11日(月)~15日(金)の期間に台湾・台北市でThe 13th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation(SRI 2018)がNational Synchrotron Radiation Research Center(NSRRC)をホストとして開催された。この会議はシンクロトロン放射光・X線自由電子レーザーに関連した新しいコンセプトや利用技術、装置開発などに関する国際会議で3年毎に開催されており、2015年にアメリカ・New Yorkで開催されたSRI2015に続くものである。前回、前々回ともに7月だった開催時期は、今回は台風シーズンを外すため6月となったそうだ。会場は建設当時に世界一の高さを誇った台北101のすぐそばのTaipei International Convention Center(TICC)であった。

 

写真1 会場TICC(左側)と台北101

 

 

 Opening ceremonyでは台湾副総統によるスピーチがあり、放射光科学に対して国を挙げて取り組む姿勢が示されたように思う。学会会場入り口でセキュリティーチェック(金属探知ゲートと持ち物検査)を受けるのが初めてだったのは筆者だけではなかっただろう。会議への参加者は850名以上(25ヵ国)で、国別では多い順に台湾204名、ドイツ160名、日本125名、アメリカ98名、中国60名と報告された。

 

写真2 Opening ceremonyの様子

 

 

 Plenary sessionは、1~3日目の朝8:30~10:00と5日目の13:30~14:30にそれぞれ2、3件(計10件)の講演があった。Tetsuya Ishikawa(理研)は、放射光科学全般におけるこれまでの開発史の詳細をレビューし、今後の展望について報告した。Christoph Quitmannは、2017年に利用を開始しているMAX IVのリングやビームラインの現状について報告した。Pantaleo Raimondi(ESRF)からは、今年の冬に控えているアップグレードに関し、現在の準備状況や工程などの報告があった。シャットダウン期間は2018年12月~2020年8月で、そのうちの1年間はリングの改修に、残りの9ヶ月が加速器とビームラインのコミッショニングにあてられると報告された。
 Poster session(約380件)は1~3日目の10:30~12:30に、Taiwan Photon Source(TPS)サイトツアーが3日目の午後にあり、残りの時間は4会場に分かれたParallel session(226件、うち招待講演135件)という日程であった。以下にParallel session名を示す。
 ・SR Facility
 ・XAS
 ・Coherent techniques I, II
 ・X-ray optics I, II, III
 ・Novel ID's
 ・IXS, emission and RIXS I, II
 ・Facility updates
 ・Structural biology techniques
 ・FEL facilities I, II
 ・Time resolved spectroscopy
 ・Imaging I, II, III
 ・BL innovation I, II, III
 ・BL diagnosis I, II
 ・Photoemission
 ・Crystallography & scattering
 ・Detectors I, II
 ・Integrated facilities & novel ID
 ・Scanning imaging & magnetism
 ・Data acquisition I, II
 ・High-pressure
 ・Sample environment & delivery systems
 ・Industrial applications
 ・Bioimaging
 ・IR & imaging
 多数の分野の発表が4会場で平行して進められたため全ての分野を網羅できていないことをお断りして、以下に筆者らが分担した会議報告を記す。

(仙波)

 

 

2. Crystallography & scattering
 回折や散乱を主題としたセッションは3日目の午後に行われ、“Crystallography & scattering”というタイトルになっている。口頭発表者は7名で、以下に簡単に紹介する。詳細に関しては予稿やプロシーディングを参照いただきたい。
 Björn Wehinger(University of Geneva)は、ESRFを利用した散漫散乱測定によって鉱物試料の弾性テンソルを決定した手法について報告した。
 Takashi Tomizaki(PSI)は、超音波によって浮遊させたタンパク質結晶を含む液滴を利用した結晶解析法について報告した。Nigel Kirby(Australian Synchrotron)は、タンパク質溶液の小角X線散乱測定の際のX線損傷を軽減するためin-line SEC-SAXS法を利用できるようにし、その効果について報告した。また、その有用性についてPETRA IIIでの実験を行っている。Dmitry I Svergun(EMBL)からも、PETRA IIIでのタンパク質溶液による小角X線散乱を利用した研究の紹介がなされた。
 Timothy Spain(Diamond Light Source)からは、Diamond Light SourceでのPair Distribution Function(PDF)解析に関して報告がされ、non-expertユーザーのための自動測定技術に関する紹介がなされた。
 BL13XU担当者であるYasuhiko Imai(JASRI)からは、BL13XUに新しく建設された実験ハッチでのナノビームの性能や最近の成果に関する紹介がなされた。最後の講演者であるWei-Tsung Chuang(NSRRC)からは、dendron-jacketed block copolymers(DJBCPs)と言われる高分子材料のSACS/WAXS測定をTaiwan Light Source(TLS)で行ったことが紹介された。
 本セッションでは台湾、日本が1名ずつであるが、その他はヨーロッパの放射光施設の実験結果が報告されている(Australian SynchrotronのNigel KirbyもPETRA IIIでの実験結果を一部紹介している)。また、利用している検出器に関しても、5名が同一メーカーのフォトンカウンティング型の検出器を利用していた。ヨーロッパの放射光施設は検出器のメーカーとの共同開発も多く、ランチミーティング中に新しい検出器の発表も行われており、検出器に関するポスターも多く見られた。SPring-8においても現在検出器に関してはフォトンカウンティング2次元検出器の導入が活発になっており、光源のアップグレードも見据え、目となる検出器や検出方法の研究開発をより精力的に行う必要があると思われた。

(安田)

 

写真3 ポスター会場の様子

 

 

3. Sample environment & delivery systems
 試料環境や取り扱いに関することを主題に、“Sample environment & delivery systems”のセッションが5日目の午前に行われ、4名の口頭発表がなされた。
 Sebastian Goede(European XFEL)からは、液体水素ジェットのFELによる観察結果について紹介がなされた。Chris Benmore(Argonne National Laboratory)からは、APSで行われている放射性物質(UO2)のガス浮遊状態でのレーザー加熱による溶融状態のPDF解析結果とともに、放射性物質を安全に取り扱うための機器に関する発表がなされた。また、Wladek Minor(University of Virginia)からは、タンパク質構造解析における問題点に関する研究とともに測定効率に関する指摘が講演の中でなされている。最後にTim van Driel(SLAC National Accelerator Laboratory)からは、レーザーによる時間分解測定を液体散乱によって解析した結果について講演がなされた。
 本セッションで一番興味深いと感じた講演は放射性物質の溶融状態の解析であった。UO2のような放射性物質の測定についてはSPring-8でも行われているが、それを溶融させて測定を行っているのは非常に興味深い。PuO2の測定も行うとのことであり、放射性物質とまではいかなくても、このような高度な試料の取り扱い手法や測定環境に関する開発を進めていく必要性を感じる講演であった。

(安田)

 

 

4. タンパク質結晶解析
 タンパク質結晶構造解析関連の発表は、複数のセッションに分かれていた。今回の報告では、発表された次世代光源のビームラインの計画、最新の測定技術などについて報告する。
 次世代光源でのビームラインの計画について、Robert Fischetti(APS)は、ビームサイズの微小化、pink beamを利用したserial millisecond crystallography(SMX)を、Thomas Ursby(MAX IV)は、multi-bend achromat storage ringのwide bandpass beamを用いたSerial Crystallographyについて報告していた。また、Antoine Royant(ESRF)も、ビームサイズの微小化、pink beamを利用したビームラインの計画を報告していた。
 最新の測定技術として、微小結晶からのデータ収集/解析の高速化、高効率化についての発表が多数あった。Masaki Yamamoto(理研)は、SPring-8で開発されたhigh-throughput data collectionパイプライン“ZOOシステム”(高速高精度なX線を用いた結晶位置のスキャン測定と結晶のサイズに合わせた測定手法、取得データの自動処理を組み合わせた高難度(微小)結晶からの自動測定)などについて発表した。シンクロトロン、XFELともに微小結晶からの結晶構造解析においては、複数結晶から取得した微小回転角度分もしくは静止の回折像から同型性の高いデータを選択して処理を行う必要がある。他の施設の発表でもこれらの自動解析の実用例が発表されていた。
 Adam Round(European XFEL)は、2017年に立ち上げたビームラインでのInjectorによる試料搬送システムと光励起によるポンププローブ実験の実験環境構築と実験を開始している事例を報告した。このXFELのserial femtosecond crystallography(SFX)に対して、シンクロトロンではSMXに向けた技術開発としてSFX用に開発されたInjectorシステムの利用のみでなく、試料をX線に照射する手段、試料搬送装置の開発が報告されていた。Gleb P. Bourenkov(PETRA III)は、室温環境下でのSerial、in-situ-、time-resolvedのための測定手法、装置について報告しており、Chia‐Ying Huang(PSI)は、In meso in situ serial crystallography(IMISX)について発表していた。また、Aina Cohen(SSRL)は、SSRLとLCLSで開発されている結晶を照射位置に配置するための独自開発の装置類、試料を搬送するMESH injectorについて発表した。Takashi Tomizaki(PSI)は、ultrasonic acoustic levitationを用いたタンパク質結晶のタイムラプス測定手法の開発成果を報告した。
 Armin Wagner(Diamond)は、低エネルギー領域を利用可能であるビームラインI23の利用事例を発表した。試料周辺を真空にする独自の技術を導入することで空気による減衰、バックグラウンドの低減を実現していた。2.1から11.5 keVまでのエネルギーが利用可能となることで、phosphorus、sulfur、potassium、calciumの吸収端での測定が可能となり、SAD法による位相決定のみでなく、金属の種類の同定に利用できることが報告された。

(馬場)

 

 

5. Scanning imaging & magnetism
 Scanning imaging & magnetismのセッションでは、4日目の午前中に6件の口頭発表(招待講演2件を含む)が行われた。また、関連性の高いポスターセッションとしてScanning image/microscopyというタイトルでその前日に8件の発表が行われた。
 Rachid Belkhou(SOLEIL)が、集光ビームを利用した走査型透過X線顕微鏡(STXM)と平行ビームを利用する光電子顕微鏡(XPEEM)の2タイプのイメージング装置を紹介した。ともにHERMESビームライン上に設置され、空間分解能20 nm以下を目指している。STXM開発では最外輪帯幅8.8 nmのゾーンプレートを製作していることから集光性を追求した設計と見える。XPEEMの研究例では試料の上部に張ったワイヤーのシャドウ部でMCDコントラストが得られるという報告があった。
 SPring-8 BL25SU担当者であるTetsuya Nakamura(JASRI)からは、XMCD研究としては世界最大磁場となる40 Tパルス磁場型XMCD装置の紹介があった。加えて、ナノ集光XMCD装置によるイメージング技術の報告も行われた。
 Yao-Jui Chan(National Sun Yat-sen University)らによる直交ダブルウェッジ形成したFe/Co薄膜のキラル磁性ドメインに関する研究発表があった。これは台湾のNSRRCで実施されたものである。Fe/Co二重層ではスピン再配向転移(SRT)による強磁性結合が主であるが、それに加えてネール磁壁とブロッホ磁壁の競合によって発生するキラルバブルドメインが観察され、これは各々の膜厚で制御できるという報告であった。
 Hiromichi Adachi(信州大学)は、共鳴磁気X線散乱を偏光分光法に適用するために、磁化反転時の相対的強度変化の理論式は、共鳴が結晶場の介在しない電気双極子遷移のモデルによって導出することを示し、共鳴磁気散乱偏光計の展望について議論した。
 Paul Steadman(Diamond Light Source)が、XMCD計測のための14 Tクライオマグネットの開発について報告した。これは軟X線ビームラインBLADE(400 eV~1.6 keV)のエンドステーション用の超伝導スプリットペアコイルである。完全磁場反転に要する時間は60分と、充分に実用的な変更速度と言える。測定環境としては試料冷却が可能で、X線吸収は全電子収量法と蛍光収量法が利用できると報告した。磁化曲線でダブルステップが観測されたDyFe2/YFe2多層膜を研究例として示した。
 Patrick Zeller(Elettra)は、アンビエント光電子分光によるイメージング装置を報告した。ゾーンプレート集光によってビームサイズを縮小可能であるため、高い空間分解能で試料のマッピングができること(Resolution < 50 nm)、また、微小領域からのlocal-XPS測定が可能であること(Resolution ~120 nm)が特徴である。さらに、数100 µm径のピンホールを介して試料槽と測定槽が隔たれているために0.1~1 mbarの圧力差も許容できるとした。これらの機能を満たす試料セルの概形図は予稿集に掲載されているので確認していただきたい。アンビエント測定を活かした銅の酸化条件下の研究を紹介した。
 全体を通して、放射光施設におけるイメージング装置は数10 nm程度の空間分解能を有していることはスタンダードであり、これにどのような付加機能を設けられるかが各個装置の特徴となり、さらには研究分野の選択となるようである。一方で、さらなる空間分解能の向上にはミラー集光やFZP集光では頭打ちとなり、別の手法、例えばコヒーレント回折イメージングなどが有力な候補となるだろう。近い将来Scanning imaging & magnetismのセッションでも盛んに議論される兆しを感じた。

(小谷)

 

 

6. Optics、ビームライン関連
 Saša Bajt(DESY)は、Multilayer Laue Lens(MLL)の開発状況について報告した。多層膜形成時にマスクの半影を利用して傾斜をつけたMLLを作成し、タイコグラフィー法を用いてサブ10 nmの2次元集光が実現されていることが示された。
 Kawal Sawhney(Diamond Light Source)は、集光光学系の波面補正をrefractive compensatorで行うことを提案した。多段屈折レンズやKBミラーの集光波面誤差を透過型のrefractive structureにより補正することで集光サイズの微小化および増大化が達成されることが報告された。
 Yi-Wei Tsai(NSRRC)は、“interference‐monochromator”としてFabry Perot干渉計と2結晶分光器を組み合わせた新しい高エネルギー分解能分光器について発表した。測定結果として、単色化されたX線(14.439 keV)のエネルギー幅3.45 meVが示された。温度を300~360 Kの間で変化させることにより、取り出されるエネルギー範囲を2 eV程度変えることが可能とのことである。
 高エネルギーX線(40 keV以上)用の光学素子として、Kenneth Evans-Lutterodt(Brookhaven National Labs)は、シリコンKinoform Lensでサブミクロン集光が実現されていることを報告した。また、John Patrick Sutter(Diamond Light Source)は、1 m長の多層膜形状可変ミラーを用いて80%以上の反射率で10 µm程度の集光を達成していることを示した。
 Jumpei Yamada(大阪大学)は、SPring-8で行っている凹面と凸面のミラーを組み合わせたimaging mirrorの開発状況について、Hidekazu Mimura(東京大学)は、SACLAでのKBミラーと回転楕円ミラーを組み合わせたSX用2段集光系について、Yasunori Senba(JASRI)は、SPring-8 BL25SU用のモノリシックWolterタイプ集光鏡について、それぞれ報告した。
 Hongchang Wang(Diamond Light Source)は、集光調整自動化のためのスペックル観測による波面計測について発表した。この手法をKBミラーの入射角度調整やバイモルフミラーの形状最適化に用いることで、従来のナイフエッジを用いた調整に比べてより高精度な調整が短時間で実現できることを報告した。
 Hirokatsu Yumoto(JASRI)は、coherent diffractive imagingシステムの開発について発表した。多層膜ミラーを用いることで大強度サブミクロン集光ビームを形成し、金ナノ粒子のイメージの回復に成功していることが示された。
 Haruhiko Ohashi(JASRI)は、SPring-8標準型液体窒素冷却2結晶分光器の安定化に関して報告した。結晶の振動を抑制するために液体窒素配管の低振動化やステージの高剛性化、液体窒素の高精度温調により角度振動量は6年前の1/10となっていることが紹介された。
 今回のSRIでは驚くような技術的進歩は見受けられなかったように思われるが、多くの施設でサブミクロン・数10 nmの集光ビームが安定にユーザー利用に供されているという印象を受けた。また、従来のナイフエッジ法だけでなくタイコグラフィー法などを用いた素子の評価や集光調整も一般的になりつつあるようだ。

(仙波)

 

 

7. XFEL
7-1 施設報告
 XFELは2つのセッションが設けられており(FEL facilities I, II)、そのうちの1つのセッションでは各XFEL施設のオーバービューがあった。Robert Feidenhans'l(European XFEL)からは、レーザー発振から4ヶ月で利用実験を開始したことが報告された。利用実験の採択率が20%程度と非常に競争率が高く、来年末までにさらに2本のアンジュレータを稼働させて軟X線から硬X線まで広い波長範囲をカバーするようである。パルスの繰り返しが設計値(2,700バンチトレイン@10 Hz)にまだ届いていないものの、1秒間あたり300パルスを超えるような高繰り返しFELが既に実現されている。また、パルスエネルギーも1 mJ程度と既存のFEL施設と同程度の値が得られている。
 Ki Bong Lee(PAL-XFEL)からは、加速器やビームラインのR&Dが一段落し、2018年3月から通常のユーザー運転に入ったことが紹介された(それまではearly user experimentと呼んでいたそう)。典型的なパルスエネルギーは500 µJ程度で、ごく最近ダイヤモンドを利用したセルフシードによって単色のXFEL発振にトライしていることが紹介された。
 Luc Patthey(SwissFEL)は、3 keVまでの光子エネルギーのFEL発振に成功したことを報告した。光子エネルギーが硬X線領域に届いていないのは、モジュレータ関係のトラブルによって電子ビームのエネルギーが2.7 GeVまでしか達成できていないためである。2018年の10月までに硬X線領域のFELが実現される見通しだそうである。
 SACLAからは、Toru Hara(理研)が現状報告を行った。振り分け電磁石を用いたビーム振り分けによって2つのビームラインで同時にXFEL利用ができるようになったことや、大きく波長が異なった2色XFELの発振技術について紹介した。

 

7-2 光源・光学系
 European XFELからセルフシード用に作成された35 µm厚のダイヤモンド結晶とその駆動機構についての報告があった。高繰り返しXFELマシンであるEuropean XFELではX線照射による結晶の温度上昇が無視できないほど大きいため(European XFELのバーストモードの2,700パルストレインの最初と最後のパルスで結晶の温度が24°C異なるそうだ)、結晶の角度を動かすことで温度上昇による結晶の格子定数の変化を補償するそうである。
 Ichiro Inoue(理研)からは、Siチャネルカット結晶を利用したセルフシード技術について報告した。ダイヤモンドのforward Bragg diffractionを利用した従来のセルフシードと比較して、本手法ではより効率よく強いシード光を得られることができる。この手法を利用することで、SACLAにおいて通常の運転モードのスペクトル密度を超える高強度の狭帯域XFELが実現できたことを紹介した。
 Diling Zhu(LCLS)からは、Si(220)のチャネルカット結晶のみで構成された硬X線分割遅延光学系の報告があった。一方の刃のエッジ部を利用して硬X線パルスを波面分割可能なチャネルカット結晶2個と、分割パルス間の遅延時間を制御するための非対称チャネルカット結晶2個とで構成されており、遅延時間を約10 psの範囲で連続的に走査した際でも、集光位置の変動を約1 µm以下に抑えることに成功している。チャネルカット結晶内壁部に残存するダメージによる波面の乱れ、非対称反射の影響による波面の傾き等、課題は多く残っているものの、安定性が問題となっている分割遅延光学系に対する新たなアプローチとして興味深い。
 Taito Osaka(理研)は、SACLAにおける分割遅延光学系の開発状況について報告した。試作機で問題となっていた遅延時間変更時の角度変化を、剛性の高い直進ステージを利用し、さらに小さな移動量でも遅延時間変化の大きな配置を採用することで改善する。また、BL3の光学ハッチに常設することで、事前調整の短縮や実験手法の拡大が可能になることを紹介した。

 

7-3 新規な実験手法
 Henry ChapmanとRalf Rohlsberger(DESY)から、高次コヒーレンス計測による量子イメージング・構造解析の発表があった。強度干渉などの高次コヒーレンス現象を観測する場合には、光のコヒーレンス時間とパルス幅(または、検出器の応答時間)が同程度である必要がある。FELの登場によって短パルスX線が利用可能になり高次コヒーレンス現象が比較的簡単に観測できるようになったため、このような研究が行われるようになったのであろう。可視光領域で、量子イメージングや非古典光の生成法の研究が最近流行していることを考えると、X線領域での高次コヒーレンス現象の開拓は非常に面白い研究テーマになり得るだろう。
 Stefan Eisebitt(MBI)の発表では、FEL利用におけるショット毎の特性診断の重要性を強調し、中でもサンプル上での集光ビームのフルーエンス分布の評価に関して報告があった。周期が2次元的に分布した回折格子上に試料を配置することで、試料からの散乱を取得しつつ、±1次の回折ピークの形状からサンプル上のビームプロファイルが分かる。また、正負の回折ピークの違いを解析することで、光軸方向にプロファイルの変化しているビームに対しても適用可能だとのこと。空間分解能は回折格子周期の約10倍となるそうで、ナノビームの評価には至っていないが、測定と診断とを同時に行えるという点で興味深い。

(井上、大坂)

 

 

8. サイトツアー
 NSRRCの敷地内には1994年から利用されている1.5 GeVリングTaiwan Light Source(TLS)と2016年に利用開始された3 GeVリングTaiwan Photon Source(TPS)が併設されており、会議4日目の午後にTPSのサイトツアーが開催された。学会会場からNSRRCのある新竹市へバスで約1時間移動し、昼食ののちに加速器収納部内のツアーやビームラインのツアーが一定時間毎に行われた。収納部ツアーでは、見学に合わせたのかもしれないが、コンポーネントの入れ替え作業が行われており、収納部上部の屋根を外してツアーに参加しない人も上部から見学ができるようになっていた。また、挿入光源などの説明も各所で行われており、興味深そうにコンポーネントを見ている写真がクロージングで紹介されていた。ビームラインツアーでは、Phase-Iで建設された7本のビームラインを含む計9本のビームラインが公開された。

 

写真4 TPSサイトツアーの様子(加速器収納部を上から)

 

 

 Temporally Coherent X-ray Diffraction(09A)ではX線回折による時間分解計測をターゲットにしており、高精度粉末回折計や多軸回折計、高精度モノクロメータ用架台が所狭しと並べられていた。また、ハッチ下流にはレーザーブースが設けられており、レーザーを利用したポンププローブ実験ができるとのことである。また、X-ray Nanodiffraction(21A)では巨大な真空チャンバーがハッチに設置され、特注のラウエ回折用ハイブリッド検出器のコントローラがぶら下がっているという迫力のある光景が見られた。チャンバー内に回折用の検出器の他にも蛍光X線やSEMが入れられており、ナノビームを利用した同時測定が可能になっていた。

 

写真5 TPSサイトツアーの様子(実験ハッチ09A)

 

 

 軟X線ビームラインは3本公開されており、うち2本のアンジュレータビームライン(41A、45A)では、分光器としてC. T. Chenが開発したDragon型分光器の発展版であるActive Grating Monochromator(AGM)が採用されていた。不等刻線間隔回折格子を25個のアクチュエータにより形状制御することで収差を低減しエネルギー分解能数万が達成されており、2000年台初頭から開発を継続してきた技術が高い水準に到達していることが示された。RIXSエンドステーション(41A)ではスペクトロメータとしてもAGMが採用されており、酸素K-edgeでトータルエネルギー分解能20,000以上を達成しているとのことであった。各光学素子の架台や実験装置架台にはヘキサポッドステージが組み込まれており、このステージが共通基盤として採用され安定に運用されている様子をうかがうことができた。

(仙波、安田)

 

 

9. おわりに
 Closing sessionではKai Siegbahn賞、SRI Young Engineer/Scientist賞、SRI Poster賞、Photonics Poster賞の授賞式が催された。Makoto Hirose(大阪大学)が、SPring-8での成果の発表“Development and application of hard X-ray spectro-ptychography using Kirkpatick-Baez mirrors”で見事ポスター賞を受賞されたことを報告しておく。
 終わってみればあっという間の5日間で非常に内容の濃い会議であった。会場の雰囲気は気温に負けず熱く活気にあふれていたと思う。次回のSRI2021はDESYとEuropean XFELをホストにハンブルクで2021年8月31日~9月3日に開催されることが報告された。ハンブルクは記念すべき第1回目のSRI1982が開催された都市であり、39年ぶりとなる第14回SRIも盛り上がることを期待したい。

 

 

 

仙波 泰徳 SENBA Yasunori
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : ysenba@spring8.or.jp

 

小谷 佳範 KOTANI Yoshinori
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 3361
e-mail : ykotani@spring8.or.jp

 

安田 伸広 YASUDA Nobuhiro
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 3106
e-mail : nyasuda@spring8.or.jp

 

馬場 清喜 BABA Seiki
(公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : baba@spring8.or.jp

 

井上 伊知郎 INOUE Ichiro
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 9705
e-mail : inoue@spring8.or.jp

 

大坂 泰斗 OSAKA Taito
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 7866
e-mail : osaka@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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