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Volume 22, No.4 Pages 340 - 348

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPring-8シンポジウム2017報告
SPring-8 Symposium 2017 Report

木村 昭夫 KIMURA Akio[1]、西堀 麻衣子 NISHIBORI Maiko[2]

[1]SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/広島大学大学院 理学研究科 Graduate School of Sciences, Hiroshima University、[2]九州大学大学院 総合理工学研究院 Faculty of Engineering Sciences, Kyusyu University

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SPring-8

 

はじめに
 去る9月4日、5日の2日間にわたり、広島大学東千田未来創生センターにおいてSPring-8シンポジウム2017が、SPring-8ユーザー協同体(以下、SPRUC)、高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)、理化学研究所(以下、理研)、広島大学(創発的物性物理研究拠点)の4者の主催により開催されました。第6回目となった本年のシンポジウムは、「SPring-8の目指す将来」と題し、持続可能な社会を実現するためにSPring-8が目標にすべき先端性について、基礎科学から産業応用までの幅広い分野の視点からの討論の場となりました。260名を超える参加者があり、メイン会場となった講義室に熱気のこもったシンポジウムとなりました(写真1)。学術界のみならず、産業界の研究者や技術者の参加により、将来のSPring-8の活性化に向けた活発な議論が繰り広げられました。

 

写真1 メイン会場(M401-402講義室)

 

 

Session I オープニングセッション
 オープニングセッションでは、中川敦史SPRUC会長(写真2)より開会の挨拶がありました。続いて理研の小安重夫理事(写真3)からは、SPring-8供用開始から20年となり、国内外から多くのユーザーが利用している現状を踏まえ、施設の安定な運用とアップグレードに関して、来年度からスタートする理化学研究所の第4期中期計画とも連携し、しっかりと支援していきたいという趣旨のご挨拶をいただきました。次に、JASRIの土肥義治理事長(写真4)より、今年度はSPring-8の運転時間を約1割アップしてユーザー時間4,500時間を確保できたこと、これにより独創的な研究の推進と新しい利用者の開拓を通して、今まで以上に学術や社会、産業のイノベーションに貢献していきたいというご挨拶をいただきました。最後に挨拶に立たれた広島大学の越智光夫学長(写真5)は、広島市内にある広島大学東千田未来創生センターにおいてSPring-8シンポジウムが開催されたことに歓迎の意を表され、広島大学には、世界トップレベルの研究活動を展開できる拠点として選定した「創発的物性物理研究拠点」や、「キラル国際研究拠点」を始め、SPring-8を利用して成果を上げている研究者が数多くおり、SPring-8ユーザー協同体代表機関の一つとして、今後もその活動を支援するとともに、放射光科学研究センターを有する本学は、人材育成の面からも放射光科学の発展に貢献し続けるつもりであると述べられました。なお、セッションの最後にご挨拶をいただく予定でありました、文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室の西山崇志室長は、予算要求等の業務多忙で代理の派遣も困難な状況のため来賓挨拶は取りやめとなり、開会に先立ち西山室長からのご伝言のみが披露されました。

 

写真2 中川敦史SPRUC会長

 

写真3 理研 小安重夫理事

 

写真4 JASRI 土肥義治理事長

 

写真5 広島大学 越智光夫学長

 

 

Session II 施設報告
 Session IIでは、石川哲也理研放射光科学総合研究センター長と、櫻井吉晴JASRI利用研究促進部門長から施設報告がありました。
 石川センター長(写真6)は、Solving Problems ring-8 GeVと役割を強調した名前の話から始まり、SPring-8の現状に続き、日本の放射光科学、放射光施設群を踏まえた上でのSPring-8の将来のお話をされ、最後に今後の課題を示されました。年間延べで16,000人が利用され、ユーザータイムも4,125時間から4,512時間に増大し、23時間と大変少ないダウンタイムから安定した運転状況にあることを強調されました。ユーザーの研究成果も順調に創出されており、来年度は目標ユーザータイム5,000時間とさらに増加させる要望を出されていること、産業利用は共用課題の20%を占めているが、産産学学とグループの連携に進化するとともに、SPring-8が分析ツールとしてだけではなく企業の経営戦略ツールへ質的に変化していると言及されました。将来の施設像と接続する老朽化対策や省エネルギーの推進に関して、サイト内のリソースの例を挙げて説明され、順調に進んだ結果、長期間シャットダウンが必要な改善(たとえば受電設備の更新など)については一巡したとの報告もありました。SACLAの現状や世界の放射光施設の状況を、次のセッションの講演の要約的なお話も紹介されました。1)SX領域をどのように考えるのか、2)専用施設BLのあり方、を今後の課題として提示されました。将来の施設像の構想については、共用BLだけでなく専用BLに関しても白紙状態(ゼロ)から考えられている印象を受けました。

 

写真6 石川哲也 理研放射光科学総合研究センター長

 

 

 櫻井部門長(写真7)は、成果の創出例の紹介から話が始まり、共用BLの現状の紹介、共用BLの今後の方向性と続き、終わりに今後検討すべきことを示されました。現場のビームラインのサイエンティストからの情報に加え、SPRUCの調査冊子「SPring-8の利活用促進および成果創出の最大化に資する利用者の動向等調査」の分析を基に、共用BLの方向性や検討すべきことを作成されました。その中から現状の紹介として、BL02B1/BL40XU/BL40B2/BL08W/BL04B2/BL04B1における検出器の新規導入やそれによって期待される計測技術の高性能化を紹介されました。さらに計測手法ごとに各BLを表を用いて対比させて特徴づけられました。こういった情報はビームラインサイエンティストにとっては作成しやすく、また分かりやすいものであるが、材料開発におけるsolutionを求める(潜在)ユーザーが求める情報とはギャップがあるように感じました。1)コヒーレント光源の利用、2)ナノ集光の利用、3)高エネルギーX線の利用、を共用BLの方向性の柱とすることが紹介されました。SPRUC、JASRI、理研での検討すべきこととして方向性は正しいか、利用支援の体制、利用制度のあり方、滞在利便性の向上、を挙げられました。石川センター長から、これから使ってみたいという潜在的なユーザーの掘り出しについての質問やサジェスチョンがあり、理研の田中均氏からはスクラップ&ビルドに関するサジェスチョンやコメントがありました。

 

写真7 櫻井吉晴 JASRI利用研究促進部門長

 

 

Session III SPring-8-IIに向けて
 まず理研放射光科学総合研究センターの田中均氏(写真8)より、「SPring-8-IIに向けた加速器システム開発-日本の光源ポートフォリオにおける硬X線先端光源に相応しい性能の実現-」と題して講演がありました。講演では利用者の目線でSPring-8-IIへの光源性能の向上と安定性・信頼性の両立の観点から、挿入光源に最適化したリング設計、光軸の再現性と長期間の維持、安定なTop-up入射、電子ビームの安定化について詳しい解説が行われました。

 

写真8 田中均氏(理研)

 

 

 次にJASRI XFEL利用研究推進室の登野健介氏(写真9)より、「SACLAの利用研究の歩み」と題して講演がありました。2012年3月に供用を開始して以来5年の節目を迎え、これまでX線自由電子レーザー(XFEL)を利用した重要な研究成果が多く生み出されてきたことに言及され、現在では年間4,000時間を超えるビームタイムを供給し、学術界から産業界に至るまで幅広い分野のユーザーの利用があると報告されました。新たなXFEL施設が世界で次々と生まれている現在、あらためてSACLAの利用研究について考え、今後の方向性を議論する必要があり、ユーザーとの協力体制や既存光源の有効活用などの経験は、世界各地で計画が進む次世代光源の利用研究を開拓する上でも大きなヒントを与え、引き続きユーザーの皆様からの支援をお願いしたいと締めくくられました。

 

写真9 登野健介氏(JASRI)

 

 

 本セッションの最後は、JASRIの矢橋牧名氏(写真10)より、「海外施設の動向と国際戦略」について講演がありました。海外の放射光・XFEL施設の動向について紹介の上、SPring-8/SACLAの今後の国際戦略について触れられました。海外放射光施設の一つESRFは、最近ではビームラインのスクラップ&ビルドを計画的に実施し、国際競争力の保持と向上に努めつつ、世界で初めての超低エミッタンスリング(150 pm・rad)へのアップグレードに挑み、2020年から新リングの運用を開始する予定であると述べられました。一方、スイスに目を向けると、最近PSIキャンパス内にSACLA方式のコンパクトXFELコンセプトに基づくSwissFELが建設され、超高速光化学・光物性を中心とした先端分野の開拓が加速されるとのことでした。また、SLAC Linac Coherent Light Source(LCLS)は、最初のXFEL施設として、2009年より利用を開始し成果を創出してきているが、SACLAの運用の成功やEuropean XFELの利用開始を控えて、早くもLCLS-IIというアップグレードプロジェクトを計画しているとのことでした。最後に、SPring-8でのアップグレードの検討にあたっては、国際的な動向をきちんと把握し、狙いをしっかり定め、計画を立案し、準備していくことが極めて重要であると締めくくられました。

 

写真10 矢橋牧名氏(JASRI)

 

 

Session IV パネルディスカッション
 始めに、今回のシンポジウムを今後の20年の発展の起点にするため、施設者理研、登録機関JASRI、そしてユーザーが為すべきことをともに議論すべくパネルディスカッションを企画したとの趣旨説明が、モデレータの中川敦史SPRUC会長からなされました。その後、パネラー9名の方がそれぞれ意見表明をされました。パネラーは、上村みどり氏(帝人ファーマ株式会社)、岸本浩通氏(住友ゴム工業株式会社)、巽修平氏(川崎重工業株式会社)、有馬孝尚氏(東京大学)、山本雅貴氏(理研)、藤原明比古氏(関西学院大学)、後藤俊治氏(JASRI)、高橋幸生氏(大阪大学・理研)、雨宮慶幸氏(東京大学)で、会場から様々な意見とともに議論が交わされました(写真11、12)。

 


上村みどり氏

岸本浩通氏

巽修平氏

有馬孝尚氏

山本雅貴氏

藤原明比古氏

後藤俊治氏

高橋幸生氏

雨宮慶幸氏

写真11 意見表明するパネラーの方々

 

 


写真12 熱気のこもったパネルディスカッションの風景

 

 

懇親会
 パネルディスカッションの熱気の冷めやらぬまま、シンポジウム初日のプログラム終了後に同会場の1階にあるBIBLA Sendaにて懇親会が開催されました。約100名近い参加者に見舞われ、熱気のこもった懇親会になりました。懇親会では本シンポジウムの実行委員長を務める広島大学教授の乾雅祝氏と、SPRUC中川敦史会長の挨拶の後、理研の石川哲也センター長からお言葉をいただきました。そして、東北大学教授(総長特別補佐)の高田昌樹氏より乾杯の挨拶をいただき、懇親会が始まりました。会の途中では、2日目に受賞講演を控えたSPRUC 2017 Young Scientist Award受賞者お二人からの挨拶もありました。広島大学のメインキャンパスは東広島市にありますが、同市の西条は吟醸酒の町としてよく知られ、JR西条駅近辺を中心に蔵元が並んでおります。今回はお料理とともにその西条の日本酒も振舞われ、将来の放射光科学について参加者の間で熱く意見が交わされ、大いに盛り上がった懇親会となりました。

 

 

Session V SPRUC総会・YSA受賞講演、授賞式
 シンポジウム2日目の最初は、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)総会が行われました。総会では、2016年度決算報告および2017年度予算案についての説明の後、続いて、SPRUC 2017 Young Scientist Award授賞式が行われました。冒頭に雨宮慶幸選考委員長より、5名の選考委員によって6名の応募者の中から2名が選ばれたことなどの選考過程の説明と受賞理由の紹介が行われ、その後、中川会長より三輪真嗣氏(大阪大学)と坂巻竜也氏(東北大学)にそれぞれ賞状と楯が授与されました。授賞式の後、三輪氏と坂巻氏による受賞講演が行われました(写真13)。

 

写真13 SPRUC 2017 Young Scientist Award授賞式。左から雨宮委員長、坂巻氏、三輪氏、中川会長。

 

 

Session VI 分野融合研究
 SPRUCは、SPring-8の利用により新たな学際領域・境界領域を開拓することを目指し、活動母体となる、「分野融合型研究グループ」を創成しました。2017年度は、ナノデバイス科学グループと実用グループの2つのグループが活動中であり、それぞれから目標と進捗が報告されました。ナノデバイス科学グループの報告では、京都大学の小野輝男氏(写真14)より、材料開発、物性研究、デバイス開発の融合の重要性を示した上で、2015B期からの第1期、2017B期からの第2期、さらにその先の展望が示されました。報告の中では、HDD用読み取りヘッド材料の高機能の起源や3次元軸構造の可視化の成果を紹介されました。実用グループの報告では、元パナソニックの高尾正敏氏(写真15)より、環境エネルギー関連の国家的物質系研究の共通課題である固液界面を対象としながら、これまで未開拓であった液体側を対象として、複数ビームラインのフル活用による新しいサイエンス開拓の展望が示されました。講演の中で、産学の融合による新しい分野融合の様子が示されました。両グループとも分野融合という大きな取り組みを進める上で、主軸がぶれることなく継続的に取り組みながらも、常に新陳代謝を進めていくことの重要性も指摘されました。

 

写真14 小野輝男氏(京都大学)

 

写真15 高尾正敏氏

 

 

Session VII ポスターセッション
 ポスターセッションは、1階ラウンジおよび4階コミュニケーションスペースにおいて行われました。今年度の発表件数は、SPRUC研究会30件、共用BL14件、理研・専用BL22件、施設2件、パートナーユーザー8件、長期利用課題19件および新分野創成利用課題2件の合計97件でした。大勢の参加者による活発なディスカッションが行われました。

 

 

Session VIII 利用トピックスI
 まず、「先端エネルギー材料研究と放射光」と題して、広島大学大学院工学研究科の市川貴之氏(写真16)から研究成果の報告がありました。再生可能エネルギーを現実的なコストで利用できる技術を早急に開発するため、水素貯蔵材料および二次電池材料のエネルギー密度の向上が強く求められている中で、市川氏を中心に研究開発を進めている次世代型の水素貯蔵材料および二次電池材料の能力および開発の経緯について紹介がありました。反応性を著しく向上させるために必要な触媒をターゲットとして、放射光を用いたX線吸収分光によるキャラクタリゼーションが大いに役立ってきたとお話になられました。

 

写真16 市川貴之氏(広島大学)

 

 

 次に、「次世代シリコンナノエレクトロニクスのためのマイクロ回折法による局所ひずみ構造の分析」と題して、名古屋大学大学院工学研究科の中塚理氏(写真17)が講演され、ひずみゲルマニウムは、従来のひずみシリコンを越えるキャリア移動度の向上が期待でき、有望な候補材料の一つである中、微細加工したゲルマニウム表面にゲルマニウム錫混晶を形成し、両者の格子定数差を利用してゲルマニウムに局所的なひずみ印加を試みられました。講演では、放射光マイクロ回折法を用いてこの微細構造に生じる局所ひずみの詳細分析について述べられ、結果的にキャリア移動度向上に有望な最大1.2ギガパスカルもの圧縮応力の印加が実証されたとの報告がなされました。

 

写真17 中塚理氏(名古屋大学)

 

 

 本セッション最後には、産業技術総合研究所の文石洙氏(写真18)より、「次世代エンジン開発におけるX線噴霧計測技法の活用と課題」についての講演がありました。ご講演では、脱石油化、温暖化の抑制は世界共通の課題であり、従来エンジンの超高効率化による低炭素・グリーン社会の実現が急務であるとし、これまで構築されてX線噴霧計測技法と、評価可能なノズル内部および近傍流動の計測について紹介されました。また、X線噴霧計測技法から生み出した研究成果と産業技術開発への貢献についても紹介がありました。

 

写真18 文石洙氏(産業技術総合研究所)

 

 

Session IX 利用トピックスII
 最後のセッションですが、多くの聴衆が集まり、SPring-8が誇る3つの成果について講演がありました。最初は、JASRIの尾原幸治氏(写真19)による、「高エネルギーX線全散乱による非晶質材料の動的構造変化計測の実現へ」と題した講演でした。ガラスや液体など平均構造から乱れた非晶質材料や、異相共存した試料の構造情報である詳細な二体相関を迅速に解析する手法を可能とするために、高次光エネルギーカットの可能なCdTe二次元検出器(Pilatus3 CdTe-300K)を導入することによって、測定時間を約10-4以下に短縮できたというとことでした。これは驚異的な時間短縮です。この測定技術を応用し、全固体電池用の固体電解質であるイオン伝導体の、イオン伝導特性と、局所、中距離構造を含む結晶構造との相関を明らかにすることを目的に、結晶とガラス構造が混在する硫化物ガラスLi2S-P2S5の詳細な二体相関を解析し、TEMとの解析結果を合わせることで、結晶とガラス構造の界面に存在する微結晶体がイオン伝導の特性に大きく関与していることが明らかになったと報告されました。今回開発された計測手法により、非晶質材料の秒オーダーの時分割動的構造観察が期待されます。

 

写真19 尾原幸治氏(JASRI)

 

 

 2番目のご講演は、大阪大学の清水克哉氏(写真20)による、「マイクロX線ビームを使った硫化水素の高温超伝導相の結晶構造解析」で、物質科学分野で話題となっている150 GPaを超える超高圧下で発見された203 Kの最大超伝導転移温度を示す硫化水素の組成とその結晶構造の解析に関するものです。この現象は、2015年に発見されましたが、発見当初、超伝導を示す水素と硫黄の組成とその構造は解っていませんでした。これを明らかにするためには、超高圧、低温下で電気抵抗測定とX線回折実験を同時に行うことが必要であり、この稀有な技術を有する講演者の清水グループと、発見者のMax-Planckのグループが共同研究されたのも頷けます。仕込み試料組成は、H2Sだったようですが、超高圧下ではH3SとSに分離し、超伝導を示すのは、H3Sであり、S原子が体心立方で配置する構造であることを明らかにしました。このH3Sが超高圧下ではありますが、室温にもう一歩という高温で超伝導を示すことが明らかになったことは、超伝導現象が、室温に近い高温でも発現するという事実が明らかになったことであり、室温超伝導探索研究に大きな自信を与えたのではないでしょうか。

 

写真20 清水克哉氏(大阪大学)

 

 

 最後のご講演は、京都大学の竹田一旗氏(写真21)による、「超高分解能X線構造解析によるタンパク質価電子の可視化」で、機能に密接に関与している原子の化学状態を電子密度から直接判別することを目標とした研究です。価電子にd, p電子を持つタンパク質を構成する原子の電子分布は球対称ではないことを、残余電子密度という概念を導入してsp3 likeの結合の存在を明らかにし、その密度分布の可視化に成功したものです。この解析において、結合エネルギーや結合次数、共有結合、水素結合の性質についての情報も得ることに成功しています。このようにして得られた電子密度や結合状態を考慮することで、電子移動経路を推定することも可能となりました。さらにタンパク質中におけるペプチド結合の多くは歪んでおり、これらが電子移動をブロックしていることも明らかになったようです。今回の研究成果の報告は、高度化された放射光X線の利用により、あらためてタンパク質の構造研究が、固体物理や固体化学の研究分野の中に入ってきていることを感じました。

 

写真21 竹田一旗氏(京都大学)

 

 

Session X クロージング
 クロージングセッションでは、主催機関を代表して島田賢也広島大学放射光科学研究センター長(写真22)による閉会の挨拶がありました。シンポジウムで繰り広げられたSPring-8、SACLAからの世界最先端の研究成果やSPring-8-IIなど将来計画に関する話を興味深く聞かせていただいたという感想を述べられました。また、広島大学放射光科学研究センターHiSORについて、平成8年度の設置からの経緯に加え、平成22年度から文部科学省より共同利用・共同研究拠点の認定を受けており、真空紫外線域の高輝度放射光を利用した物性物理学の研究に特色があることを紹介されました。最後にSPring-8、SACLAとともに、わが国の世界トップレベルの放射光科学の一翼を担っていきたい、と締めくくられました。

 

写真22 島田賢也 広島大学放射光科学研究センター長

 

 

おわりに
 SPRUCが発足して6回目のシンポジウムを無事終えることができました。これも多くのユーザーの方々に参加いただき、活発な議論をいただけたことに尽きると思います。また、JASRI事務局の方々には準備段階から深く関わっていただきましたことを心より感謝いたします。本報告書をまとめるにあたり、乾雅祝先生(広島大学)、坂田修身先生(NIMS)、雨宮慶幸先生(東京大学)、中川敦史先生(大阪大学)、杉本宏先生(理研)、藤原明比古先生(関西学院大学)、水木純一郎先生(関西学院大学)にご協力いただきました。心より感謝申し上げます。

 

 

SPring-8シンポジウム2017プログラム
9月4日(月)
Session I オープニングセッション

13:00-13:05 開会挨拶
中川 敦史(SPRUC会長、大阪大学 教授)
13:05-13:25 挨拶
小安 重夫(理化学研究所 理事)
土肥 義治(高輝度光科学研究センター 理事長)
越智 光夫(広島大学 学長)
13:25-13:30 来賓挨拶
西山 崇志(文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室 室長)

 

Session II 施設報告

13:30-14:00 SPring-8サイトの現状と将来
石川 哲也(理化学研究所)
14:00-14:30 共用ビームラインの現状と方向性
櫻井 吉晴(高輝度光科学研究センター)
14:30-14:45 休憩(コーヒーブレイク)

 

Session III SPring-8-IIに向けて

14:45-15:10 SPring-8-IIに向けた加速器システム開発 −日本の光源ポートフォリオにおける硬X線先端光源に相応しい性能の実現−
田中 均(理化学研究所)
15:10-15:35 SACLAの利用研究の歩み
登野 健介(高輝度光科学研究センター)
15:35-16:00 海外施設の動向と国際戦略
矢橋 牧名(高輝度光科学研究センター)
16:00-16:15 休憩

 

Session IV パネルディスカッション

16:15-17:45 モデレータ 中川 敦史(大阪大学)
18:00-19:30 懇親会

 

9月5日(火)
Session V SPRUC総会・YSA受賞講演、授賞式

09:00-09:20 SPRUC活動報告、2016年度決算・2017年度予算報告等
09:20-09:30 SPRUC 2017 Young Scientist Award授賞式
09:30-09:45 SPRUC 2017 Young Scientist Award受賞講演1
X線磁気円二色性分光による電圧制御型スピントロニクスデバイスの研究

三輪 真嗣(大阪大学大学院)
09:45-10:00 SPRUC 2017 Young Scientist Award受賞講演2
放射光X線で探る地球深部・地球の核組成の制約に向けて

坂巻 竜也(東北大学大学院)

 

Session VI 分野融合研究

10:00-10:30 SPRUCナノデバイス科学グループに関する目標と進捗状況
小野 輝男(京都大学)
10:30-10:50 分野融合研究・実用グループの活動目標と進捗
高尾 正敏(元パナソニック)

 

Session VII ポスターセッション

11:00-13:30
SPRUC研究会 30件
共用BL 14件
理研・専用BL 22件
施設 2件
パートナーユーザー 8件
長期利用課題 19件
新分野創成利用 2件
合計 97件

(コアタイム奇数 11:15-12:15、偶数 12:15-13:15)

 

Session VIII 利用トピックスI

13:30-14:00 先端エネルギー材料研究と放射光
市川 貴之(広島大学)
14:00-14:20 次世代シリコンナノエレクトロニクスのためのマイクロ回折法による局所ひずみ構造の分析
中塚 理(名古屋大学)
14:20-14:40 次世代エンジン開発におけるX線噴霧計測技法の活用と課題
文 石洙(産業技術総合研究所)
14:40-14:50 休憩(コーヒーブレイク)

 

Session IX 利用トピックスII

14:50-15:10 高エネルギーX線全散乱による非晶質材料の動的構造変化計測の実現へ
尾原 幸治(高輝度光科学研究センター)
15:10-15:30 マイクロX線ビームを使った硫化水素の高温超伝導層の結晶構造解析
清水 克哉(大阪大学)
15:30-15:50 超高分解能X線構造解析によるタンパク質価電子の可視化
竹田 一旗(京都大学)

 

Session X クロージング

15:50 閉会挨拶
島田 賢也(広島大学 放射光科学研究センター センター長)

 

 

 

木村 昭夫 KIMURA Akio
広島大学大学院 理学研究科
〒739-8526 広島県東広島市鏡山1-3-1
TEL : 082-424-7471
e-mail : akiok@hiroshima-u.ac.jp

 

西堀 麻衣子 NISHIBORI Maiko
九州大学大学院 総合理工学研究院
〒816-8580 福岡県春日市春日公園6-1
TEL : 092-583-7130
e-mail : m-nishibori@mm.kyushu-u.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794