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Volume 21, No.4 Pages 321 - 329

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第16回APS-ESRF-SPring-8-DESY三極ワークショップ報告
Report on the 16tn APS-ESRF-SPring-8-DESY Three-way Meeting

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko[1]、大橋 治彦 OHASHI Haruhiko[2]、早乙女 光一 SOUTOME Kouichi[3]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 三極ワークショップは、1年半おきに、日本、欧州、米国の3地域(三極)に位置する4つの大型放射光施設(SPring-8、ESRF、PETRA-III、APS)の代表者が集まり、現状、将来などの情報交換を行う会議である。2016年は、9月14~16日にかけて、ドイツ、ハンブルグのDESYで開催された。会議に使われたDESYの講堂前での集合写真を図1に示す。ちょうど、PETRA-IIIの拡張工事が終了し、これまでの実験ホールに加え、北と東に2棟の実験ホールが完成し、そこに、X線の研究で顕著な業績を示したEwaldとAda Yonath両氏の名前を冠するセレモニーが14日夜に開催されるのと合わせての会議となった。図2の写真は、Ada Yonathホールの前を歩いている会議参加者である。

 

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図1 参加者の集合写真。

 

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図2 拡張工事の終了した、PETRA-III東実験棟(Ada Yonath Hall)の前を歩く会議参加者。

 

 

2. X線光学ワークショップ
 初日はまず、第10回三極X線光学ワークショップ(3-Way X-ray Optics Workshop: 3WOW)が開催された。三極ミーティングのサテライトとして2001年以降開催され、このたび4周目に入った。前回は2015年2月にSPring-8で開催されたがPETRA-IIIの都合がつかず、ESRF、APS、SPring-8からの参加であった。今回は直前に、ESRFの光学グループのスタッフに不慮の事故があり急遽欠席となり、PETRA-III、APS、SPring-8からの12件の講演となった。プログラムは別添の通りである。最初にDESYのChristian Schroerが開幕の挨拶を行い、引き続き、今回の3WOWのOrganizerを務めた、Horst Schulte-Schrepping(DESY)、Lahsen Assoufid(APS)と大橋治彦(SPring-8)がそれぞれの施設のビームライン光学系の現状を報告した。以下、個別発表内容も交えて施設ごとにまとめて報告する。
 APSでは、2015年3月に5ヵ年計画の策定が行われ、APSアップグレード(APS-U)に向けたOptics Advisory committee meetingで次のような提言がなされた。結晶ラボにおいて0.01度の精度の加工、研磨工程の高度化、アップグレードに向けて光学系の最適化とビームラインでのR&Dが推奨されている。現在、OpticsグループはX-ray Science Divisionのもとにあり、18名が所属している。今回、3施設ともビームラインにおけるX線の振動計測結果を報告したが、APSでは、RMS0.2~0.4 μradのレベルであった。“Development of coherence preserving mirrors project”がDOEにより予算化され、ANL、BNL、LBNL、SLACが参画している。これは、新たなactive cooling(ヒーターを併用し入熱に合わせて冷却制御)、at-wavelength計測や制御をFELやSR向けに開発する国家プロジェクトである。集光システムに関して、Deming ShuらによるFlexure stageを用いた20~50 nm集光サイズのKBミラーのアライメント調整機構や、6枚のゾーンプレートを重ねて27 keVで28%の効率の集光系が紹介された。結晶ラボでは、2013年と2016年にスタッフ交換プログラムを実施している。この春にはESRFの技術者1名がAPSに2週間程度滞在し、ピッチ研磨や結晶切断の技術を修得した。ダイヤモンド結晶に関して、Y. Shvydkoらを中心に、放物面形状のレンズ加工や、極薄完全結晶の製作、湾曲単結晶によるステレオグラフが紹介された。Thomas Gogは、共鳴非弾性散乱(RIXS)光学系について発表した。Sub-10 meV分解能を目指し、コリメータミラーと平板結晶による光学系を構築した。コリメータはMontel mirror(放物形状で、傾斜多層膜を積層したミラーを直交させて一体化)とし、平板結晶はQuartz(3,0,9)面で、角度受け入れは12 μrad、11.215 keV(Ir L3端)にて、9.5 meVの分解能を達成した。Ray Conleyは、多層膜ラボのアップグレードで、モジュラー型の成膜システムの整備状況を報告した。1.5 m長の大型ミラーの形状修正や、3次元傾斜多層膜素子の開発、低歪みの多層膜ミラー・分光素子の開発など多様な膜形成に役立てることを目的としている。成膜時のその場観察のため、フィゾー干渉計の参照面を真空内に配置する機構や、成膜時に形状をアクティブに調整可能な多段の小型アクチュエータをつけたスリットを紹介した。ミラー表面の形状計測法に関して、広範な角度範囲を計測できるSlope profilerの開発をL. Assoufidが報告した。ここ数年多くの施設で採用されている既製のオートコリメータを角度センサに用いる方式に加えて、レーザーペンシルビーム法への回帰を模索し始めている。OpticsとDetector用に1-BMがテストビームラインであるが、新たにAPS-UのR&Dのために、2017年第二四半期にはIDビームラインの一つにハッチの建設を目指している。
 DESYでは、PETRA-III extensionが完了した。実験ホールを2ヵ所増築し、それぞれ5本ずつ計10本のビームラインが新たに整備され、そのうちビームラインP65は、2016年4月からユーザー利用が開始された。P21、P22、P23はそれぞれスウェーデン、インド、ロシアのビームラインである。DESYにはDORIS時代の古い機材があるので、100 Wまでのパワーのビームラインに水冷の二結晶分光器(DCM)として再利用している。Jan Horbachは、DCMの安定化のためSPring-8と同じように液体窒素配管内部に平滑化を施し、導入分岐部の滑らかな接続、主軸のサーボ制御の停止により、RMS50~100 nradの振動レベルを紹介した。主軸のダイレクトモータードライブが振動源であること、長期ドリフトが課題であることを報告した。Andreas Schroppは、ビームラインP06のナノプローブ装置のアップグレードについて報告した。全長98 mで、蛍光、小角散乱、広角散乱、吸収、タイコグラフィー、コヒーレントX線回折など様々な手法で顕微分析を行うビームラインである。ミラーで25 nm、多層膜ラウエレンズ(MLL)で8 nm、屈折レンズで46 nmなど多様なビームサイズを各種の素子で対応している。空間分解能を制約するような振動があり、この改善のためフレームやスキャナ、レンズアライメントシステムの改造に取り組んでいる。蛍光X線用にVortex検出器をほぼ直交方向に構え、後方にEiger X-4Mを配置する。チルトステージを工夫し、ラミノグラフィーとトモグラフィーを容易に切り替え可能とした。タイコグラフィーで、触媒粒子Pd、Ptなどを200 nm分解能で、タンデムの太陽電池セルのZnOを40 nmで分離観察した例を示した。1画像あたり8.4 MBで、投影像あたり924 GBに達するため、3次元のデータセットにすると圧縮しても3 TBに達し、この処理が課題である。計測は12分ほどかかるが、その主因は107~108 ph/sのフォトンフラックスにあるようだ。Sasa Bajtは、DESYのラボで製作している非対称の多層膜回折格子について紹介した。多層膜を間隔d = 6.9 nmで積層後、7.8度でカットし、その端面を回折格子とする。刻線本数密度20,000本/mmの超高密度回折格子となり、波長6~7.2 nmあたりで反射率50%程度を実現している。断面の電子顕微鏡写真や、表面の原子間力顕微鏡の写真が示された。表面粗さは、Rq = 0.53 nmで、利用について触れることはなかったが、FLASHでのパルス圧縮などを念頭に置いているものと推察される。
 SPring-8からは、最初に液体窒素循環システムの液体窒素温度制御系の最適化により、33%(9 kW)の省エネ化と、従来の1/10の時間(5分)で、1/10以下の温度安定性(0.02 K)を実現したことを報告した。DCMの安定化への取り組みについて触れ、将来光源向けの定位置出射で高安定な分光器としてダブルチャンネルカット分光器(DCCM)の可能性について述べた。チャンネルカット結晶の内面の高品質化には、大阪大学山内研究室で開発されたプラズマ化学気相マシーニング(PCVM)法が有望である。引き続き、新たなミラー集光光学系を3種類紹介した。SPring-8で開発しているX線用の深い楕円ミラーや部分回転楕円面の計測に関して、湯本博勝から、スティッチング干渉計とChromatic-confocalセンサーを用いたゼロメソッド走査型プローブプロファイラ(ZSP)の開発とその現状について報告した。100 mm長さで100 μmの非球面形状の深いミラーに対して、測定再現性1.2 nmRMSを確認している。この計測装置を用いて、従来手法では困難な深いミラーの製作を現在、SPring-8内で進めている。軟X線用の新たな集光ミラーとして、東京大学三村研究室が開発した電鋳法による回転楕円ミラーとリング集光ミラーのSPring-8における実験結果を紹介した。X線ミラーを作り上げるように母材であるマンドレルをナノ精度で作り込み、その上に、低温でニッケル電鋳し、型を抜いたミラー内面の形状を波面エラー計測からイオンビームにより補正加工し仕上げる独創的なプロセスである。試作した回転楕円ミラーをBL25SUに整備した試験ステーションを用いて集光試験し、フォトンエネルギー300 eVで試作ミラーにおいてほぼ回折限界に近い、縦240 nm × 横220 nmを実証した。回転楕円ミラーはその形状から全面照明したとき、中央部は素抜けになるため、ビームストップによりスループットをロスする。そこで前段にリング状の照明光をもたらすリング集光ミラーを配置すると有用である。300 eVできれいな円環の照明光が実現できている様子を示した。次に、大阪大学山内研究室で進められているAdvanced KB(AKB)システムの優れた結像性能を示した。明瞭な50 nmのラインアンドスペースのテストチャートが得られているが、全長45 mと長い焦点距離を要し一般的とはいえない。そこで現在、同研究室の松山・山田らはWalter-III型光学系を提案している。高い拡大倍率を有するため、全長2.1 mに収めることができ、PSF(Point Spread Function)で61 nm、λ/4の波面エラー以下が確認されている。SPring-8からは前回の3WOWに引き続き、ミラー光学系のダメージや汚染問題について取り上げた。汚染の形態を分類し、超高真空環境においても進行する軟X線領域の炭素汚染の原因とその対策について最近の進展を述べた。昇温刺激ガスクロマトグラフ質量分析(TD-GC/MS)を用い、光学素子近傍に使用される真空材料の表面汚染有機物量をng/cm2単位で調べ、清浄化したシュラウドを用いることで1年半の利用でも炭素のK吸収端での汚染が進行していないことを報告した。多くの施設で同様の課題を抱えているためか、講演後も多数の質問を受けかなりの関心を呼んだ。小山貴久から、成膜ラボの現状とコーティング膜のダメージに関する最新の実験結果を発表した。25 mradの入射角を有する深いミラーに傾斜多層膜(Cr/C)の成膜が進められている。4 keVで100 nmの集光サイズを目指し、CDI実験に用いる計画である。新たなクリーニングシステムの整備と合わせ、コーティング膜のダメージ問題では、石英基板上の金属膜のダメージ条件やその形状の詳細を調べ、シリコン基板の優位性について報告した。3WOWの最後に、Horst Schulte-Schreppingが、全体を通して簡単なまとめを行った。過去数回の3WOWを通じて感じることだが、学会とは異なり、互いの施設のビームラインや光学系の進展を定期的に交換するだけでなく、それぞれの抱えている技術的、組織的課題を垣間見ることができる貴重な機会であると再認識した。

 

 

3. 三極ワークショップ本会議
 2日目の本会議のオープニングは、DESYの所長である、Helmut Dosch氏の挨拶で幕を開けた。その後、Stephen K. Streiffer(APS)、Francesco Sette(ESRF)、石川哲也(SPring-8)、Edgar Weckert(DESY)の各氏から、各施設の現況報告や将来計画の紹介があった。また、それぞれの施設の成果のハイライト紹介は、Dennis Mills(APS)、Jean Susini(ESRF)、櫻井吉晴(SPring-8)、Oliver Seeck(DESY)の各氏によって行われた。
 APSでは、年間6,100ほどの実験が実施されており、700余りの研究所から5,500人のユニーク数のユーザー利用があるとのことである。課題の採択率は57~64%程度である。500名程度のスタッフが所属しており、年間2,000報に迫る勢いで論文が発表されている。そのうち、高いインパクトファクターの雑誌に約200報の論文が発表されているとのことである。APSでは超伝導アンジュレータの開発が進んでおり、より高エネルギーX線の利用を目指している。年間5,500時間を超える運転が実現しており、12時間程度のクエンチによるトラブルが起こっているとのことであった。そのほか、キッカー電磁石や高周波加速の話題が紹介された。また、最近ではビームラインで軌道をモニターし、軌道補正も実験ステーション側から行えるようになったとのことである。APSの次期計画は、6 GeVで、41 pmradのエミッタンスで、200 mAの蓄積電流を目指すリングへの改造である。予算獲得には苦労しているようであるが、2022年にはアップグレード工事を行いたいとのことであった。
 APSの話題の中では、RIXSの高分解能ビームラインが2015年に建設されたこと、最近、高速のショックウェーブを材料に与え、そのダイナミクス観察を回折やイメージングで観測するビームラインが建設されたことが紹介された。350 GPaまでの高圧を瞬間的に発生させ、その力が材料の中を伝搬していく様子が紹介されていた。また、生命科学関係ではリオデジャネイロオリンピック前から世界の話題となっていたZIKA熱ウィルスの研究の話題が紹介されていた。放射光の照射下で、STM実験を行い、数nmの空間分解能で、元素選択的なイメージングを可能にしていることも最近の成果である。
 ESRFでは、年間2,200余りの課題が申請され、そのうちの960課題程度が採択されるとのことである。年間論文発表は約1,800報、そのうち、270余りが高いインパクトファクターの雑誌への掲載であるとのことである。産業利用も拡大してきており、100余りの企業から200万ユーロ程度の収入が入ってくるようになったとのことである。2009年から始まった第1期の改造計画は2015年に完了し、ナノビームサイエンスを志向したビームラインのアップグレードが行われた。ナノビーム以外でも、唯一の軟X線ビームラインでは、高エネルギー分解能を実現し、30,000を超える分解能でRIXS実験が可能になったことが最近の大きな話題である。
 すでに第2期の改造計画がスタートしており、それは蓄積リングのアップグレードになる。85%のデザインが終了しており、いろいろなコンポーネントの契約を2016年中に完了することを目標にしているとのことである。
 このように、次期計画が進行しているのは非常に印象深かった。年度内執行が原則の日本の予算の仕組みではなかなか難しいことであるが、ESRFでは次期計画のために、2018年を中心とした何年かは赤字予算を組み、それ以降は維持費に使用するお金を削って、その借金分を補う予算計画になっているとのことである。
 改造が完了したビームラインからは、ナノメータサイズのビームを生かした成果がいくつか紹介された。GaNワイヤーのドメイン境界が、100 nmサイズのビームで回折像を取ることで研究されていたり、時間分解の小角散乱で筋肉の収縮過程を観察した様子の画像が示されていた。タンパクの構造解析ビームラインではオートメーション化が進み、インフルエンザの解析なども進められているようである。また、古代エジプトの文化財のイメージングの結果も興味深かった。
 SPring-8からは、2015年度より2年にまたがって実施されている電源工事、クライストロン置き換えなどのインフラ整備の話題、非球面集光ミラーの開発、低ノイズで高速、高ピクセル数の高性能検出器開発の状況のほか、日本国内の次期計画(3 GeV計画、SPring-8-II計画)に関する話題が紹介された。また、代表的な成果として、住友ゴム工業の高性能タイヤ、大阪大学を中心としたグループの高圧下で高いTcを示す超伝導体の研究、Ptフリーの排気ガス触媒、電池電極材料の開発、エンジン内のインジェクションの観察、元素戦略の成果である、Nd磁石のドメイン観察の結果などが紹介された。
 DESYからは、2014年から行っていたPETRA-IIIの改造が終了し、徐々にアクティビティが増えてきている現状が紹介された。これまでは、1グループあたり、年間4日程度のビームタイムしか配分できず、課題採択の競争率もビームラインによっては5倍余りに達していたこと、これまで14本だったビームラインが今後35本にまで増え、いろいろ課題に対応できるようになること、などが説明された。現状では年間4,000時間運転だが、2018年には5,000時間まで回復予定とのことである。利用者の内訳は、ヨーロッパ58%、ドイツ38%、残り6%であり、分野別では、産業利用4%、応用26%、基礎科学70%である。年間250~300報の論文が発表されている。Extension Hallの工事が完了し、ビームラインの建設が進んでいる。SPring-8でも盛んに実施されている、HAXPESのアクティビティは東棟に移る予定である。尚、東棟では、ロシア、インド、スウェーデンの3ヵ国との共同出資によるビームラインも建設中である。
 現状ではPETRA-IIIの拡張工事が終わり、ビームライン建設やアクティビティの回復拡大に努めているところであるが、2024~2025年頃を目指し、PETRA-IV計画も予定しているとのことである。5~6 GeVの加速エネルギーで、10~20 pmradのエミッタンスを目指し、さらにビームラインも30本程度増やしたいとのことである。当然実験ホールの増築も予定されている。
 講演ではさらに新しく立ち上がった自由電子レーザーFLASH2、さらに建設の進んでいるEuro XFELの様子が紹介された。Euro XFELでは、injectorでのビーム加速が2015年に成功し、2016年10月にはいよいよ超伝導空洞の冷却が開始されるとのことである。
 PETRA-IIIのアクティビティでは、いろいろなExtreme conditionでの測定例の紹介が目に付いた。惑星科学、有機分子、プラズマなど、その分野は多岐にわたっている。例えば、原子分子の分光実験では炭素原子からのオージェ電子観察で、ダブルオージェ、トリプルオージェまでの観測に成功していた。また、超高圧実験では、750 GPa条件でのOsの構造変化の様子が紹介され、また、強相関超伝導物質での16.5 Tの磁場下での分光実験の結果も紹介されていた。ほかの放射光施設同様、電池電極の研究にも力を入れているほか、水銀とNaFの固液界面の研究で、水銀に電圧をかけることで、その表面張力を制御するような試みがなされていたのは興味深かった。
 2日目の午後には、データ関連、Sample environments & infrastructure、Nano-positioning & stability、加速器関連の4つに分かれてのセッションが開催された。
 データ関連のセッションでは、大容量のデータを高速に取り扱う必要性から、その技術開発や整備の様子が紹介されたほか、オープンデータ、オープンサイエンスに関する各施設の取り組み、方向性などについて議論された。ESRFでは、オープンデータなど、データポリシィに関する議論がほぼ完了し、実際の運用に向けた取り組みが開始されていた。DIAMOND、SLS、BESSYなどとも協力しながら各施設で統一した方針でオープンデータを進めていくようである。実験終了後、50日経過後、実験責任者が了承すれば、データが、サーバーにアップロードされる仕組みを作っている。ビームラインごと、実験手法ごとなどデータのフォーマットをどうするかなどはまだ課題のようであるが、システムの大枠はすでに完成しているようである。10年間のデータ保存が原則とのことである。アメリカでは、DOEの方針もあり、(おそらく予算に対する費用対効果に対する疑問があるものと思われる)、データの責任は実験責任者にある、という方針以外は議論されていないようである。日本では、オープンサイエンスに関しては様々なところで推奨されているが、特にデータの公開に関する議論はまだコンセンサスが得られていない。今後各施設での議論が深まっていくことが望まれる。
 Sample environments & infrastructureのセッションでは、オペランド測定に向けたセル開発、放射光以外の関連研究施設との連携、SEM/EDXなどの電子顕微鏡、STM/AFMなどの電子顕微鏡、LEED/AES、XRD、FTIR、XPSなどの標準的なサンプル評価装置、dedicated sample environment、FIB、高圧環境、など様々な測定技術や環境を整えることに関する必要性が議論された。また構造生物学の分野では、ヨーロッパ内での連携がますます進んでいく様子である。
 Nano-positioning & stabilityのセッションでは、今後ますます高度化していくマイクロスコピーの技術革新についての議論がなされた。より小さなビームをより安定に供給すること、さらに精密にサンプル位置と合わせること、場合によっては高速なスキャンも必要になるので、ステージの技術開発、非球面ミラーの開発など、様々な議論がなされた。3WOWに欠席だったESRFからも参加があり、高安定のナノ集光ビームラインの成果は印象的であった。
 加速器関連のセッションでは、各施設のアップグレード計画に関する技術的な報告を中心に議論が進められた。機器の設計・製作はESRFが最も先行しているが、高磁場の磁石や真空機器を狭いスペースに精度良く設置するのに苦心している(もっともこれは各施設に共通する問題ではあるが)。SPring-8からは、電子ビームの非線形性制御とSACLAからのビーム入射について報告した。PETRA-IV計画のラティス設計案が興味深かったが、これはスキュー4極磁石を使って水平・垂直方向の電子ビームの運動をリングの2ヵ所で交互に入れ替えるというものであった。ビームの安定領域を保ちながら到達エミッタンスを小さくできるということであるが、実現に向けた詳細な検討が必要であろう。
 2日目夜には、参加者によるハンブルグ港のボートツアーとバンケットが開催され、親睦を深めた。会議参加者のほか、DESYのスタッフも加わり、いろいろな情報交換の場ともなっていた。
 最終日には、Euro XFELの開発状況が、Thomas Tschentscherから報告された。3つのビームライン、6ステーションを建設予定であり、年間200課題を実施予定とのことである。FEL本体のほか、検出器やサンプル周りの技術の開発も同時に進めており、本年9月に加速器建設は終了し、2017年春にはX線を発生予定であり、最初のユーザーによる実験開始は2017~18年を目指しているとのことであった。
 また、Chuck Dooze(APS)からは、APSの超伝導アンジュレータ(SCU)の開発状況について報告された。10名ぐらいのチームを組み、1999年頃から開発を開始していること、その後、いくつかの種類のアンジュレータの開発を行っており、来年はヘリカルSCUを開発予定であるとのことである。超伝導を利用するのは短周期磁石のfieldを高くするためであり、APSでは高次光を使い、140 keVを越えるエネルギーのX線発生を目指していることが説明された。如何にコイルを精密にまくかが鍵である。
 最後の講演は、Serial crystallographyの話題で、Henry Chapman(DESY)による発表であった。この手法は、主にFEL施設で最近盛んになっている手法で、溶液中のタンパク結晶をジェットで噴射しつつ、そこにパルスX線を照射して回折パターンを取得するものである。FELばかりでなく、通常の放射光でもいろいろなメリットのある手法であるように感じた。小さな結晶でも実験可能であること、室温での測定ができること、放射線損傷が避けられること(FELの場合には損傷前のデータをフェムト秒の時間スケールで取得、放射光の場合は、100 psの時間スケールであるものの、パルスあたりの光子は少ないので、損傷は少ない)、回折パターンがきれいであること、アラインメントの必要がないこと、ポンプ&プローブ法による時間分解測定が可能なことなどである。
 最後のセッションでは、前日に開催された、4つのパラレルセッションの議論内容がそれぞれのセッションの代表者から紹介され、会議は終了した。次回はAPSがオーガナイズを担当するとのことである。オプティクス、データに関して、各セッションを取りまとめた代表者からは、次回も引き続いて議論の場を設けてほしいとの要望が出された。

 

 

4. DESY施設見学
 会議終了後、大多数の参加者は、Euro XFELの施設見学に出かけたが、大橋、木下の2名は、PETRA-IIIとFLASHを見学した。古くからの資産を生かしつつ、建屋やビームラインは、振動や空調など、ビームの安定性に最大限に配慮した施工がされており、またキャンパスのスペースの活かし方などにも感銘を受けた。また、所内の技術者のスキルが高く、ナノ集光のためのゾーンプレートのアセンブリなども自前で製作しているとのことであった。
 早乙女は、Euro XFELの見学に参加した。見学場所は、ワークショップ会場のあるDESYサイトからおよそ3 km離れたユーザー実験施設のため車で往復した。建物の地上部分はほぼ完成しており、玄関を入って実験準備室などを見ながらエレベーターで地下に降り、実験ハッチを見学した。地下全体は一見してまだ工事現場という雰囲気である。ハッチの大部分もまだ建設途中であり、仮設の階段が組まれて建設資材が床に置いてあるという状況であった。しかし、先行して整備されたハッチのいくつかはすでに完成し、ハッチ内を清浄な状態に保つためにドアが閉鎖され、光学機器も置かれていた。試料の遠隔操作のためのロボットや地上と結ぶエレベーターも設置されていた。加速器トンネルには最下流部の扉から入室したが、光源や加速器のコンポーネントは遥か上流にあり、それらの見学は残念ながらできなかった。長いトンネルの中に、真っ直ぐなダクトだけが見渡す限り延々と続いているのが印象的であった。

 

 

5. 会議プログラム

Wednesday, 14 September 2016
Optics Workshop

8:30 Welcome
Christian Schroer (DESY)
8:45 Overview of Optics at SPring-8
Haruhiko Ohashi (SPring-8)
9:25 Overview APS
Lahsen Assoufid (APS)
10:05 Beamlines and Optics Overview DESY
Horst Schulte-Schrepping (DESY)
10:45 Coffee Break
11:15 Scanning Microscopy
Andreas Schropp (DESY)
11:45 Optical Metrology Updates
Lahsen Assoufid (APS)
12:15 Scanning probe profilometer for highly-sloped aspherical mirrors
Hirokatsu Yumoto (SPring-8)
12:45 Lunch
13:30 The Commissioning of the APS Modular Deposition System
Ray Conley (APS)
14:00 Development of thin film coatings at SPring-8
Takahisa Koyama (SPring-8)
14:30 Overview of the Multilayer Laboratory
Sasa Bajt (DESY)
15:00 Coffee Break
15:30 New approaches for inelastic scattering optics
Thomas Gog (APS)
16:00 Stability Studies
Jan Horbach (DESY)
16:30 Final Discussion
17:00 End of Workshop
17:30 Inauguration PETRA-III Extension experimental hall (for all)
Evening reception after Inauguration (for all participants)

 

Thursday, 15 September 2016
Three-Way Meeting (main part)

8:30 Welcome
Helmut Dosch (DESY)
8:45 Status Report APS
Stephen K. Streiffer (APS)
9:15 Status Report ESRF
Francesco Sette (ESRF)
9:45 Status Report SPring-8
Tetsuya Ishikawa (SPring-8)
10:15 Status Report PETRA-III
Edgar Weckert (DESY)
10:45 Coffee Break
11:15 Science Highlights APS
Dennis Mills (APS)
11:45 Science Highlights ESRF
Jean Susini (ESRF)
12:15 Science Highlights SPring-8
Yoshiharu Sakurai (SPring-8)
12:45 Science Highlights PETRA-III
Oliver Seeck (DESY)
13:15 Lunch

 

Parallel session 1: Data policy, big data, fast evaluation

14:45 APS Scientific Computing and Data Processing Strategies
Nicholas Schwarz (APS)
15:15 Central storage (gpfs)
Martin Gasthuber (DESY)
15:45 Implementation of the ESRF data policy
Alejandro de Maria Antolinos (ESRF)
16:05 Metadata management
Andrew Goetz (ESRF)
16:25 Discussion about Data Policy and Metadata
Andrew Goetz, all
16:45 Coffee Break
17:15 Computational toolkits for imaging and analysis
Doga Gursoy (APS)
17:45 Data acquisition and experiment control
Thorsten Kracht (DESY)
18:15 DAQ system and online analysis at SACLA
Kyo Nakajima (SPring-8)

 

Parallel session 2: Complementary laboratory infrastructure and special sample environments

14:45 Sample Environments for High-Energy X-ray Techniques
Jonathan Almer (APS)
15:15 Sample environment services for extreme conditions science
Gaston Garbarino (ESRF)
15:45 PETRA-III specific sample environments, labs, and detectors
Oliver Seeck (DESY)
16:15 Infrastructure for Electrochemical and Catalysis Experiments
Mali Balasubramanian (APS)
16:45 Coffee Break
17:15 DESY-Nanolab
Andreas Stierle (DESY)
17:45 Cryo EM infrastructure at SR facility
Koji Yonekura (SPring-8)
18:15 User support at the Partnership for Structural Biology (PSB)
Montserrat Soler-López (ESRF)

 

Parallel session 3: Nano positioning and stability

14:45 Fast scanning X-ray microscopy
Jan Garrevoet (DESY)
15:15 APS Velociprobe
Curt Preissner (APS)
15:55 Nano-positioning for fast in-situ scanning experiments: future requirements and perspectives regarding ESRF-EBS
Manfred Burghammer (ESRF)
16:05 The ID16A Nano-imaging endstation at the ESRF
Francois Villar (ESRF)
16:45 Coffee Break
17:15 Development of high-stability nanopositioning stages for x-ray optics and instrumentation at APS
Deming Shu (APS)
17:45 High precision/stability mechanics for coherent X-ray applications
Hirokatsu Yumoto (SPring-8)
18:15 NFFA universal sample handling
Manuel Abuin (DESY)

 

Parallel session 4: Machine developments

14:45 PETRA-III machine development, bunch cleaning
Rainer Wanzenberg (DESY)
15:10 APS-U Accelerator Design and R&D Progress
Glenn Decker (APS)
15:35 Magnet design and fabrication for the ESRF-EBS
Joel Chavanne (ESRF)
16:00 PETRA-IV lattice studies
Ilya Agapov (DESY)
16:25 Coffee Break
17:00 Nonlinear Optimization for SPring-8 Upgrade
Kouichi Soutome (SPring-8)
17:25 Beam Injection scheme for SPring-8 Upgrade
Hitoshi Tanaka (SPring-8)
17:50 ESRF-EBS systems engineering
Jean-Claude Biasci (ESRF)
18:15 APS-U Beamlines and other experimental systems
Dean Haeffner (APS)
19:00 Transfer to Boat trip
19:30 Boat trip and conference dinner

 

Friday, 16 September 2016
Three-Way Meeting (cont.)

8:30 European XFEL
Thomas Tschentscher (European XFEL)
9:15 New developments in superconducting undulators
Chuck Dooze (APS)
10:00 Serial crystallography at X-ray FELs and SR sources
Henry Chapman (DESY)
10:45 Coffee Break
11:20 Summary Optics Workshop
11:40 Summary Parallel Session 1
12:00 Summary Parallel Session 2
12:20 Summary Parallel Session 3
12:40 Summary Parallel Session 4
13:00 Discussion
13:30 Lunch
14:00 Facility tours for interested colleagues

 

 

 

木下 豊彦  KINOSHITA Toyohiko
(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0961
e-mail : toyohiko@spring8.or.jp

 

大橋 治彦  OHASHI Haruhiko
(公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : hohashi@spring8.or.jp

 

早乙女 光一  SOUTOME Kouichi
(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0851
e-mail : soutome@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794