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Volume 21, No.4 Pages 315 - 317

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

Joint SPring-8 – MAX IV Laboratory Workshop on New Light Sources and Biological Applications会議報告
Report on Joint SPring-8 – MAX IV Laboratory Workshop on New Light Sources and Biological Applications

熊坂 崇 KUMASAKA Takashi

(公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, JASRI

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SPring-8

 

 日本とスウェーデンは、高輝度放射光やX線自由電子レーザーといった世界トップレベルのX線領域の光源技術を有している。これら次世代X線光源を利用した生命科学分野(特に、巨大分子結晶学:以下、MXと略)における新しい研究の可能性について議論することを目的とする本会議は、日本学術振興会(JSPS)と大阪大学蛋白質研究所で昨秋(2015年)に着想され、その後、Uppsala Univ.とMAX IVを擁するLund Univ.、さらにMAX IVと施設間で協定を結んでいるSPring-8(JASRI、RIKEN SPring-8 Center)の連携の下で実現した。会期は2016年9月8、9日の2日間、会場はMAX IV Laboratoryの4階Lecture Roomにて行われ、演者としては18名(内訳はスウェーデン10名、日本8名)が参加した(写真1)。

 

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写真1 参加者集合写真

 

 

 以下、講演の内容を中心に議論の様子を述べるが、一部講演順を無視して内容を考慮して並べ直している。プログラムはJSPSストックホルム研究連絡センターのウェブサイト(http://jsps-sto.com/)に掲載されているので、そちらを参照されたい。
 初日の12演題の進行役は、Jonas Hadju氏(Uppsala Univ.)が務めた。Opening remarkで、自身の構造生物学研究におけるPhoton Factoryでの実験とその折の日本人研究者との友誼についても触れ、日本とスウェーデンのこの分野における研究交流について紹介した。なお、2日目6演題については、MAX IVの構造生物学研究を束ねるMarjolein Thunissen氏(MAX IV)が座長を務めた。
 MAX IVの現状については、所長を務めるChristoph Quitmann氏(MAX IV)が講演のトップバッターとして施設全体の報告を行った。MAX IIの利用開始以来、国内外の生命科学研究における硬X線利用を拡大し続けてきた自負とともに、“Making the invisible visible”をキャッチコピーとするこの最新施設を順調に立ち上げつつある。MAX IVは3 GeVの線型加速器に1.5 GeVと3 GeVの2つのSRリングが接するデザインとなっているが、現時点で硬X線用の3 GeV側に9本、軟X線およびUV用の1.5 GeV側に4本、そして線型加速器の末端に時分割解析用ビームライン1本の計14本の設置を検討している。2日目の午後には、MAX IV見学の時間が設けられたが、実験ホールの見学場所に置かれていたコンパクトなMulti-bend achromat latticeモジュール(写真2左)が印象的であった。

 

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写真2 見学の様子。(左)中央にMBA Lattice。(右)BioMAXの横置DCM。

 

 

 今回の話題の中心である生命科学研究について、MAX IVの取り組みは、先述のM. Thunissen氏が総括した。生物研究においては高輝度性と高コヒーレンス性を生かし、生きた動物から蛋白質分子の原子構造まで、幅広いスケールでの研究が期待されており、複数のビームラインでの対応を進めている。先行的に建設が進んでいるMX用BLのBioMAXは、実際に見学でも拝見したが、横置き二結晶分光器(DCM:写真2右)とKBミラーで構成される特徴的かつシンプルな光学系からなる。建設も順調に進んでおり、すでにFirst beamを導いてThaumatinの構造解析に成功していた。検出器には仮置きのピクセルアレイ検出器(PAD)が実験定盤に載っていたが、今後は自動測定を最終目標に、最新鋭のPADと試料交換ロボットを含め、顕微分光、湿度調整、プレートスクリーニングなど一通り実験が可能な環境を整備する。最近進歩の著しい微小結晶測定については、UndulatorからのPink beamも利用できるMicroMAXが計画中(2020年頃利用開始目標)で、いわゆるシリアル測定法に対応する。小角散乱BLとしてはCoSAXSが多目的利用用途で2018年の共用開始を目指し、NMRとの連携も視野に入れているようである。BalderBLはWigglerを光源としてSからLaまで幅広い核種の(Bio)XAS/XES測定に対応し、2017年の利用開始に向けて準備が進んでいる。そのほか、生きた動物など医療用イメージングへの応用を目指すMedMAXも建設が予定されている。
 XFELはSRに併設されることは多いものの、それらを連携利用する施設は限られている。MAX IVではそのSRの入射器がXFELのそれを兼ねるデザインになっている。時分割測定用BLのFemtoMAXについては、Jörgen Larsson氏(Lund Univ.)が紹介した。線型加速器からの電子ビームをバンチ圧縮して挿入光源に通し、原子振動の解析に適したパルス長100 fsのX線を発生させる。単結晶の時分割測定はもちろんXASやGISAX、AMOなど多様な研究に対応する。また、さらにコヒーレントな光を発生させるため、SR用の熱電子銃に加えてRF電子銃を設置、線型加速器にUndulatorを繋いでXFELとする計画MAX-FELがあり、Sverker Werin氏(MAX IV)が紹介した。軟X線(0.25 − 1 keV)と硬X線(1.2 − 9 keV:専用の加速器を延長して設置し、5 (or 6) GeVまで加速)それぞれに対応したビームラインを設置する。詳細は理解が及ばなかったが、生命科学分野ではCXDIやSAXSなどで軟X線の利用も狙っているようであった。一方、先行するSPring-8とSACLAの現状については、山本雅貴氏(理研)が、全体の概要として運転および利用状況、SACLAの開発状況を説明し、さらに構造生物学研究の現状として、SRのMXビームライン群の開発状況とSACLAでの研究成果としてCXDIを中心に紹介した。
 放射光における測定技術についても複数の話題提供が行われた。筆者は試料雰囲気の制御法である湿度調整法と、これによって明らかとなった蛋白質の動的構造を紹介し、構造多様性解析の可能性について議論した。渡邉信久氏(名古屋大)は、数百MPaの高圧条件での蛋白質の構造を調べ、酸解離定数の変化や水分子および分子空隙の挙動など機能発現との相関について議論した。Ida Lundholm氏(Uppsala Univ.)は、蛋白質結晶解析へのTHz分光法の応用について紹介した。分子内の複数原子の協同的な運動は低振動数領域にも見られ、機能発現に深く関わっている。THz光照射によりαヘリックスの収縮も見られ、分子運動の制御の可能性も議論された。
 精密構造や電子状態の解析は、酵素の反応機構解明にも重要である。三木邦夫氏(京都大)は、SPring-8での30 keV付近の硬X線を用いた超高分解能構造解析を進め、蛋白質では初めて鮮明に描かれた鉄の3d電子の構造について紹介した。氏らは中性子回折も進めておりX線・中性子併用の意義も議論された。それに先立って、MAX IVに近接して建設中の中性子施設European Spallation Source(ESS)について、Esko Oksanen氏(ESS/Lund Univ.)が報告した。ターゲットにタングステンを採用し、5 MWのパルスの長い陽子ビームで大線量を稼ぐ計画で、MX用にはTOF quasi-Laue法で測定する回折計を設置するとのことである。
 放射光利用研究の話題としては、XFELにおける最新の結果も報告された。岩田想氏(理研/京都大)は、SACLAにおける試料インジェクターなどの装置とシリアルフェムト秒結晶構造解析法(SFX)の開発について紹介した。これにより解析されたバクテリオロドプシンの光励起状態の時間分解構造では、このプロトンポンプの作動機構が詳細に示された。一方、スウェーデンからはUppsala大学の研究者が主に米国LCLSを使って行った構造研究を紹介した。Marvin Seibert氏(Uppsala Univ.)が、LCLSの構造生物学と題してSFXの概要と現状を中心に説明、微小結晶構造解析の将来展望を述べた一方で、Filipe Maia氏(Uppsala Univ.)は、FELを用いた単粒子イメージングの概要を説明した。特にTapered UndulatorによるさらなるFlux向上とインジェクターの改良によるヒット率向上の必要性を強調した。Gijs van der Schot氏(Uppsala Univ.)は、シアノバクテリア生細胞の解析の現状を示し、試料間の非同型性の克服を進めていると述べた。岡本健太氏(Uppsala Univ.)は、XFELに加えCryoEMを併用して、0.2 μmを超える超巨大ウイルス単粒子の解析を行っており、その進捗を紹介した。また日本からは、ホットな蛋白質の構造解析として、沈建仁氏(岡山大)が、光合成反応において水分解にかかわる光化学系IIの結晶構造と反応機構の解析について、最近のSACLAを用いた反応中間体解析にも触れつつ紹介した。続いて清水敏之氏(東京大)が、Toll様受容体の構造を紹介し、自然免疫の活性化に必要な外来核酸の認識機構を示した。
 以上、最新の低エミッタンス・省エネSRであるMAX IVにて開催された本会議は、MAX IV計画に加えて生体高分子の立体構造解析が中心の話題であった。XFELやCryoEMの最新の成果も含んだ盛りだくさんの内容で、どの講演についても討論時間や休憩、レセプションなどの時間に活発な議論と交流が行われた。また2日目午後の施設見学も含めてMAX IVの取り組みを知ることができたことは日本の参加者にとっても有意義であった。
 両国の研究交流については、川窪百合子氏(JSPS)より、JSPSの活動とストックホルムセンターの現状が講演された。両国間で毎年多くの会議が設定されていることが紹介され、盛んな交流が行われていることが理解できた。また、Opening/Closing remarkや初日夜の懇親会でも、積極的な連携を模索したい旨、複数の発言があった。特に、今回の会合の実施に中心的な役割を果たした中川敦史氏(大阪大)は、継続的なやりとりの重要性を強調されており、今後この機会を契機として、両施設を中心とした日本とスウェーデンの研究交流が深まることが期待される。

 

 

 

熊坂 崇  KUMASAKA Takashi
(公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : kumasaka@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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