Volume 21, No.3 Pages 204 - 207
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第16回SPring-8夏の学校を終えて ~実行委員長から~
The 16th SPring-8 Summer School
夏の学校の概要
「第16回SPring-8夏の学校」は、7月3日(日)~7月6日(水)の3泊4日の日程で、全国27校から91人の学生の参加を得て、放射光普及棟およびSPring-8蓄積リング棟・SACLA実験研究棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関((公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)、理化学研究所放射光科学総合研究センター、日本原子力研究開発機構(JAEA)物質科学研究センター、量子科学技術研究開発機構(QST)放射光科学研究センター)と、これらの機関と連携大学院協定を持つ大学(兵庫県立大学大学院物質理学研究科・生命理学研究科、関西学院大学大学院理工学研究科、岡山大学大学院自然科学研究科)、およびSPring-8サイトにビームラインを持ちそこで教育を行っている大学(東京大学放射光連携研究機構、大阪大学・光科学連携センター・蛋白質研究所・核物理研究センター)が主催して、ビームタイムや教官を供出し合って行ったものです。校長は東京大学新領域創成科学研究科の雨宮慶幸先生(東京大学放射光連携研究機構・機構長)にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務局はJASRI研究調整部と利用推進部が行いました。なお、主催大学の中には夏の学校への参加を講義として単位認定しているところもあります。
参加人数について
今年は主催団体に大阪大学が加わり、実習ビームラインが2本増えました。さらにJASRIが共同利用を担当しているビームラインの実習本数も増やして、実習ビームラインは20本となりました。これに伴って受け入れ可能人数も増えましたが、昨年の66人、これまでの最高だった2011年、2014年の76人に対してどこまで参加者を増やせるか、何が上限を決めるかは未知でした。実習は担当者の教えやすさや教育効果を考慮すると、各ビームラインで受け入れの上限が決まってきます。夏の学校では毎年実習担当者に最大受け入れ人数の希望調査を行い、その総和を参加人数の上限の目安としていますが、今回は20ビームラインで合計96人となりました。しかし一方で参加者には実習希望のビームラインを聞いており、全ビームラインに最大数まで参加者を割り振ると、希望しないビームラインで実習を受ける人が出てきます。このような状況だったため、まず募集人員60人程度として募集しましたが、主催各大学からの推薦も含めて106人の応募がありました。募集要項では大学院博士課程前期(修士)を対象とし、余裕があれば学部4年生の参加も可能としているので、結局実行委員会で4年生と募集対象外の博士課程後期の学生を除外して、92人を参加者として決定しました。その後1人の辞退があって、参加者91人(27校)となりました。参加者は北海道から九州までのさまざまな大学から来ています。今年参加をお断りした学部4年生の方々には、来年申し込みがあれば優先的に参加していただく方針です。昨年4年生で参加できず、今年参加した学生も数人いました。
講義について
夏の学校では通例として、初日に3講座、2日目に4講座の講義を行い、その後の2日間に2テーマの実習を行っています。講義題目と講師(敬称略)は以下の通りです。
放射光発生の基礎(理研:金城良太)、X線光学の基礎(JASRI/兵県大:山崎裕史)、X線の強度を測る(東大:雨宮慶幸)、X線自由電子レーザー(理研:大和田成起)、回折・散乱の基礎と物質科学研究への応用(関学:藤原明比古)、X線分光の基礎(JASRI:水牧仁一朗)、軟X線を用いた磁性体研究入門(東大:和達大樹)。
昨年から講師陣はかなり若返りました。専門外の学生が聴衆に多いことを考慮して、今年は講義内の数式の数を減らすこと、数式を提示する場合にはなるべく丁寧に説明することを特にお願いしました。数式は多少減っていましたが、まだあまり説明されていない数式も多いようでした。その一方で今年は参加者からの質問が多く、80分の授業を講師が時間配分を勘違いして60分で終わった時にも、その後に20分の質疑がありました。中には学会のような質問もあり、参加人数が増えると各講義の専門に近い学生も多いのかとも思いましたが、それだけでは説明できない講義への関心の高さが伺えました。また今年は特別に、昨年SPring-8萌芽的研究アワードを受賞された慶応大学の櫻木俊輔さんに、受賞対象の研究や大学院生提案型課題を申請した経験談などをお話ししていただきました。専門的な研究発表についても質問が相次ぎ、本人も驚いていました。
見学について
2日目午前にはSACLAの見学、夜にはSPring-8蓄積リング実験ホールの見学を行いました。さらに3日目の夕方には、SPring-8蓄積リング収納部の見学が行われました。参加者が増えてもこれらの見学が問題なく実施できるかが、今回の夏の学校の最大の懸念の一つだったのですが、関係者の配慮と努力によって大きな混乱もなく見学を実施することができました。特に蓄積リング収納部の見学は、このためにわざわざ蓄積リングの運転を止める必要があり、しかも普段は見学者の入らない場所に大人数の見学者を入れるため、気を使うことが多かったと思いますが、大勢の方達の協力を得られて問題なく実施することができてほっとしました。しかしどの見学も、これ以上参加者が増加した場合には、何らかの工夫が必要であることは共通していると思います。
ビームライン実習について
実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。
BL01B1 | “その場”XAFS計測 |
(宇留賀朋哉・加藤和男・伊奈稔哲(JASRI)) | |
BL02B1 | 単結晶構造解析の入門 |
(池田直(岡山大学)・杉本邦久・安田伸広(JASRI)) | |
BL02B2 | 粉末X線構造解析の基礎 |
(杉本邦久・河口彰吾(JASRI)) | |
BL04B2 | 高エネルギーX線を用いたガラスの構造解析 |
(尾原幸治(JASRI)・小野寺陽平(京都大学)) | |
BL07LSU | 推理の放射光元素分析 |
(松田巖(東京大学)) | |
BL11XU | 半導体結晶成長のその場X線回折測定 |
(高橋正光・佐々木拓生(QST)) | |
BL13XU | サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 |
(木村滋(JASRI/岡山大学)・隅谷和嗣(JASRI)) | |
BL14B2 | XAFS分析の基礎 |
(本間徹生・大渕博宣・内山智貴(JASRI)) | |
BL17SU | 光電子顕微鏡~ナノ分解能で見る元素分布と磁気構造~ |
(大河内拓雄・保井晃(JASRI)、大浦正樹(理研/関西学院大学)) | |
BL20B2 | 放射光X線画像計測の基礎 |
(上杉健太朗(JASRI)) | |
BL23SU | 放射光光電子分光法による物質の電子状態分析 |
(藤森伸一(JAEA)) | |
BL24XU | 放射光X線計算機トモグラフィ(CT)法の基礎 |
(篭島靖・漆原良昌(兵庫県立大学)) | |
BL25SU | 高分解能軟X線光電子分光 |
(横谷尚睦(岡山大学)、中村哲也・室隆桂之(JASRI)) | |
BL33LEP | GeV光ビームと物質の相互作用 |
(中野貴志・與曽井優・郡英輝(大阪大学)、新山雅之(京都大学)) | |
BL38B1 | 単結晶回折(タンパク質) |
(熊坂崇(JASRI/理研/関西学院大学)) | |
BL40B2 | X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 |
(関口博史・八木直人(JASRI)) | |
BL43IR | 顕微赤外分析による種々の組織分布解析 |
(池本夕佳・森脇太郎(JASRI)) | |
BL44XU | 単結晶回折(タンパク質) |
(中川敦史・山下栄樹・東浦彰史(大阪大学)) | |
BL45XU | X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 |
(引間孝明・吾郷日出夫(理研)) | |
BL46XU | 硬X線光電子分光 |
(安野聡・小金澤智之(JASRI)) |
写真1 講義風景
写真2 実習風景
写真3 懇親会風景
いつものように参加者の専門と思われる第1希望の実習は必ず受けられるようにしました。そのため実習担当者の最大受け入れ人数を越えたビームラインもありましたが、工夫して実施していただきました。今回はタンパク質結晶解析と小角散乱は2つのビームラインで同一内容の実習を行いましたし、XAFSは若干内容が違いますが2つのビームラインで実習がありました。これらはどれも希望の多い実習です。第一希望以外の実習も、参加者が挙げてきた第4希望までの実習を割り振ることができたので、学生の満足度は高かったと思います。しかしこれは専門分野外の実習を受ける機会を逸しているという見方もできます。例えば2日とも軟X線ビームラインの実習を受けたり、タンパク質の結晶解析と小角散乱のように、近い分野の実習を受けた参加者も多かったようです。その一方で、BL33LEPの実習を希望した参加者が7人いたことは、正直なところ驚きでした。このビームライン実習は大阪大学が今回から参加したために初めて行ったものですが、一般的な放射光利用実験とは全く異なる領域の実習を選択する学生の好奇心の高さは、大いに評価すべきでしょう。
参加者間の交流について
夏の学校の目的は放射光科学の勉強だけではなく、同世代の異なった研究分野の人達との交流を通じて知り合いの輪を広げ、将来の研究につなげることも重要です。初日には参加者の各1分間の自己紹介を行い、その後に懇親会をもちました。総勢91人ともなると自己紹介だけでも1時間半かかりましたが、お互いのことを知る機会があることはその後の交流に役立っているはずです。3日目には萌光館で教官と参加者が一緒になって110人でバーベキューを行いました。参加者の多くは修士1年生なので、ここでの会話が博士課程後期に進学するモチベーションになったことを期待します。また懇親会後に雨宮校長が参加者達と話し込んでいる姿も印象的でした。
最後に
熱意のこもった講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を熱心に指導していただいた実習担当の皆様、分かりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、特に大人数の参加者にSPring-8蓄積リング収納部の見学を可能にしていただいたJASRI加速器部門の方々に感謝致します。また、事務局としてWeb作成から懇親会・バーベキューのお世話までご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々にも感謝したいと思います。参加者は91人ですが、実は講義・実習・見学などに関わった人達の総人数も同程度に及ぶことを特記しておきたいと思います。
なお夏の学校では、参加者に、各講義・実習・見学など詳細にわたるアンケートを記入してもらっています。今後はその結果を解析して、来年の資料として活用したいと思います。
写真4 記念写真
(公財)高輝度光科学研究センター
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