Volume 21, No.1 Pages 26 - 28

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第1回SPring-8文化財分析技術ワークショップ2015報告
SPring-8 Workshop on Analytical Techniques for Cultural Heritage : Report

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 Communications and Outreach Section, User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 去る11月6日に、東京の国立科学博物館(図1)において「第1回SPring-8文化財分析技術ワークショップ2015」を(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)主催により開催致しました。会場となった国立科学博物館は東京国立博物館、国立西洋美術館などの文化施設が集中する上野恩賜公園内にあり、本ワークショップを検討するにあたり、文化財研究の拠点である上野での開催に最もこだわったところでもあります。

 

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図1 国立科学博物館

 

 

 今回のワークショップは、SPring-8における文化財研究の潜在的利用者の発掘を目的として、SPring-8スタッフと文化財科学研究者のコミュニケーションを密にするのみに留まらず、学会や専門分野にとらわれない研究者相互の情報交換の場として、文化財の科学研究あるいはSPring-8放射光の利用に関心の高い方々を対象に参加者を募集しました。その結果、文化財研究機関、大学、博物館・美術館の方を含む56名に参加頂きました。中には、当日国立科学博物館に掲示した本ワークショップポスターをご覧になられ、是非とも参加したいとのことで事前申し込みなしの急遽飛び入りで参加された方も2名おられました。

 

 

2. ワークショップ
 冒頭にJASRI土肥理事長より、文化財分析ワークショップを今後3年間は続けて実施することにより、SPring-8の利用分野を広げていきたい、学術研究、産業利用に続く第三の柱にしたいとの挨拶がありました。
 プログラムは、「蛍光X線分析」、「赤外分光分析」、「イメージング」、「X線回折」、「XAFS」、「SPring-8利用制度について」の6つのセッションで構成され、それぞれJASRI研究員による研究手法の紹介、次にユーザーによる研究事例を紹介する形を基本として行われました。
 最初の「蛍光X線分析」のセッションでは、JASRI伊藤真義副主幹研究員により「蛍光X線分析-原理・装置と実際・実例-」として、蛍光X線発生の原理、蛍光X線分析装置の概要、蛍光X線分析の特徴、放射光蛍光X線分析の特徴が紹介され、高エネルギー蛍光X線分析を用いた文化財の分析事例として、九谷伊万里古陶磁器伝世品の産地特定、古墳出土のガラス皿の分析、さらには、海外の分析事例としてゴッホのPatch of Grassの下にもともと描かれていた女性の肖像画についての分析が紹介されました。
 「蛍光X線分析」の事例としては、東京理科大学の中井泉教授により、「116 keVの高エネルギー放射光を用いた蛍光X線分析によるサーサーン・ガラスの起源推定」として、岡山オリエント美術館収蔵の円形切子装飾8点、浮出切子装飾2点、突起装飾3点、アーケード状文1点、壺・瓶3点のサーサーン・ガラスの蛍光X線分析をSPring-8のBL08Wにおいて行った事例などが紹介されました(図2)。

 

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図2 ワークショップの様子

 

 

 次に、「赤外分光分析」のセッションでは、JASRI池本夕佳主幹研究員により、「赤外放射光を利用した文化財研究」として、赤外分光は分子振動による化学組成の解析であること、SPring-8の放射光=高輝度性を利用した赤外分光については、高輝度性を活かした顕微分光が得意であること、試料作成手法であるプレス、ミクロトームやそのハンドリングのためのマイクロマニピュレータなどが紹介されました。文化財分析事例では、オーストラリアンシンクロトロン(オーストラリアの放射光施設)での矢に付着している毒物の有無と種類の鑑定についての紹介がありました。
 「赤外分光分析」の事例としては、奈良県立橿原考古学研究所の奥山誠義研究員により「放射光赤外分光分析を応用した出土染織文化財の研究」として、文化財をよりよい状態で遺すためには腐朽作用の解明、文化財へストレスを与えない調査手法の研究が急務であることが指摘されました。これまで繊維の主な調査法は顕微鏡による鑑定であり、数mmの試料が必要とされていたこと、劣化が進行し触れるだけでも粉々に崩壊するような文化財は観察に堪えないなどの問題があったが、SPring-8の利用によって分析が可能となったとのことで、顕微FT-IRによる下池山古墳や藤ノ木古墳で出土した染織文化財の材料と劣化状態の研究の紹介がありました。
 コーヒーブレイクを挟んで「イメージング」のセッションでは、JASRI上杉健太朗副主幹研究員により「放射光X線イメージング」の説明がありました。放射光X線イメージングは、平行度の高い単色光を利用することで、実験室光源では得られないような画像データの取得が可能であること、さらにCT法を適用することにより3次元情報が得られること、空間分解能は150 nm~30 µm程度の範囲で、視野はその500~1000倍であること、撮影枚数は最高毎秒1000フレーム程度であることなどが紹介されました。
 「放射光X線イメージング」の事例紹介としては、京都大学生存圏研究所の杉山淳司教授による「放射光で文化財をみる-イメージング例-」の発表がありました。興福寺所蔵の世親立像の剥離した木質小片を高解像度観察して樹種がカツラの木であることを同定した事例、また2007年1月に熊本県八代市で発見され、16世紀末の豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に農民が朝鮮から持ち帰ったとされる木製の仮面についても研究例が紹介されました。この仮面は韓国で国宝に指定されている河回仮面のうちの一つではないかと言われていましたが、剥離した破片からはヤナギ属であると同定され、河回仮面に伝統的に使われるハンノキではないことを明らかにしています。
 「X線回折」のセッションでは、JASRI梶原堅太郎副主幹研究員により「X線回折-SPring-8文化財分析技術ワークショップ-」として、文化財産地を推定した「粉末X線回折法を用いたリートベルト法による多層試料の定量分析法の開発と古代セラミックスの産地推定への応用~古代流通ネットワークの構築」の研究と、加工技術を推定した「紀元前5000年期の人類最初の人造青色着色ビーズの粉末X線回折による成分同定」の研究が紹介されました。次にX線回折の原理についての説明があり、ひずみ・応力の分析事例として、シンバルの残留歪分布と音色に関する研究の事例紹介がありました。
 「XAFS」のセッションでは、JASRI宇留賀朋哉利用研究促進部門副部門長により、「XAFS-手法と事例-」として、XAFS計測法、XAFSから得られる情報、XAFSの特徴、高感度蛍光XAFS測定、顕微XAFSによる2次元化学状態イメージングについて紹介があり、海外の著名な絵画研究事例としてカドミウムイエロー劣化の化学過程、光照射によるクロムイエロー(PbCrO4)退色の化学過程、絵具層の断面の2次元化学状態イメージングなどの紹介がありました。
 最後に「SPring-8利用制度について」としてJASRI木下豊彦利用推進部長より、SPring-8の利用制度全般、社会・文化利用課題、応募方法、課題審査、放射線業務従事者登録、大学院生提案型課題についての紹介が行われました。

 

 

3. 技術交流会
 ワークショップ終了後に行われた技術交流会には、今回ワークショップに参加頂いた56名のうち33名に参加して頂きました。約1時間半の時間を設けておりましたが、議論が尽きることなくあっという間に時間が過ぎてしまいました。文系・理系、学会や専門分野にとらわれない交流の場となりました(図3)。

 

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図3 技術交流会の様子

 

 

4. おわりに
 次回は2016年1月30日(土)に、奈良春日野国際フォーラム 甍~I・RA・KA~において、第2回SPring-8文化財分析技術ワークショップを開催予定です。

 

 

 

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2785
e-mail : kouhou@spring8.or.jp

 

 

SPring-8/SACLA INFORMATION

ISSN 1341-9668 EISSN 2187-4794