Volume 15, No.4 Page 240
理事長室から −成果なくして利用なし−
Message from President - No Beamtime if No Output –
8月号の本欄でESRFの運営体制に触れましたが、ESRFを訪問してもう一つ感心したのは、その成果発表物(refereed publications)の productivityの高さです。ESRFでは実験の session(一纏りの実験で、一つの課題(proposal)に複数のsessionsが含まれ得る)あたりほぼ一つの成果発表物が産み出されており、単純な比較は無理としても、SPring-8のざっと1.5倍程度の成果生産性があると言っていいと思われます。
SPring-8の利用研究の大部分(約8割)を占める学術研究の成果物は、やはり査読付き論文であると思いますが、SPring-8ではESRF等と比べて発表論文数が少ないこと、長期にわたってかなりのシフト数を使った利用実験を行いながら一本も発表論文がない(JASRIへの論文登録がない)という事例も見られたことなどから、登録施設利用促進機関としてのJASRIもかねてから強い問題意識を持っていました。そこで、(5月号の本欄でも触れたように)選定委員会に成果公開の促進方策について検討をお願いしましたところ、選定委員会ではワーキンググループを設けるなどして鋭意ご議論頂き、去る10月25日開催の選定委員会において検討結果を取り纏めて、10月27日付けで坂田委員長から理事長あてにご提言を頂きました。
提言内容の詳細については、既にSPring-8のホームページ上で公表されておりますので、そちらをご参照頂きたいと思いますが、主要点は、
① ビーム使用料が免除される成果非専有課題では、課題終了後3年以内の査読付き論文の公開を義務付ける(産業利用の場合は企業の技術報告書等の公開でも可)。
② (所期の結果が得られなかった場合など)①の公表が出来ない場合は、実験結果についての十分な情報が記載され、かつJASRIにおいて査読を行うSPring-8レポート(仮称)の形で公開する。
③ ①または②による成果の公開がなされない場合は、義務付けられた成果の公開が履行されるまで、利用研究課題の申請は受け付けない(「成果なくして利用なし」の原則の徹底)。
④ ②のSPring-8レポートの査読を行う体制を含め、JASRIは運用上の詳細を至急検討し、平成23年度後期(2011B期)から新制度を開始する。
提言では、このほか、研究分野の特殊事情や課題の難易度等により3年以内に成果を公開できない場合の公開時期延伸制度や、成果の公開状況をその後の課題選定に反映させる仕組み、成果非専有課題から成果専有課題への変更の可否等についても述べられており、JASRIでは今後早急にこれらの諸点を検討の上、2011B期からの新制度移行を目指して準備を進める予定です。
新制度は、選定委員会の提言にもあるとおり、成果非専有課題の利用者の方々に本来公開すべき成果物の公開を明確に義務付けることにより、SPring-8における成果発表の促進を図るものです。「成果の公開」の厳格化は、決してチャレンジングな課題の申請を妨げるものではありません。仮に実験が不本意な結果に終わっても、SPring-8レポートによって他の研究者に有益な報告が可能となる仕組みを盛り込んだのもその趣旨です。利用者の皆さまには、新制度の趣旨をよくご理解頂き、「成果なくして利用なし」の原則に立ち返って、更なるSPring-8の利活用と新たな成果の発信に一層のご協力をお願いいたします。