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Volume 14, No.4 Pages 350 - 353

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

ICALEPCS2009会議報告
Conference report on ICALEPCS2009

田中 良太郎 TANAKA Ryotaro

(財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門   Controls and Computing Division, JASRI

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はじめに

 ICALEPCS2009は、2009年10月12日から16日まで神戸市ポートアイランドの神戸国際会議場で開催された。これに先立ち、5つのプレカンファレンスが10月10日から2日間に渡って開催された。ICALEPCS(International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems、加速器と大型実験物理制御システムに関する国際会議)の実行委員会を代表して会議報告をすることになった筆者は、今回ICALEPCS2009の議長を務めた。ICALEPCS会議シリーズはヨーロッパ、アメリカ、アジア大陸の順で2年に1回開催される。第1回目は1987年にCERN主催で開催されて以来、神戸での会議は日本では2回目となる第12回目の会議となった。ICALEPCS2009は、(独)理化学研究所と(財)高輝度光科学研究センターの共同主催で開催され、日本物理学会、日本加速器学会、ヨーロッパ物理学会、アジア太平洋物理学会連合、IEEE電気電子学会、兵庫県の後援を受けている。日本・SPring-8での開催は2年前のICALEPCS2007で、上海・SSRFとプレゼンテーションで競った結果、投票で決まった。強力な主催者と会議運営経験をバックに、神戸は空港、新幹線などアクセスが良く、神戸国際会議場があり、宿泊施設も近傍に確保できるので開催地に適していた。

 神戸の夜景を配したWeb(http://icalepcs2009. spring8.or.jp/)を立ち上げ(これが評判良い)、アブストラクトの募集を2月に開始し、4月に締め切ったところ、432本の申し込みがあった。ひょっとしたら、沢山来日するかも知れないと実行委員会の期待が高まる。

 案の定、参加者は事前の予想を超えて直近の過去10年間で最大数になり、世界23カ国から575名(通常参加351名、同伴者65名、企業参加159名)が参加した。家族連れで来日してくれた知己、10年以上も毎回会議で会う常連なのに初めて婦人同伴で出席してくれたアドバイザリー委員も複数いた。企業協賛は31社に上り、最新の自社技術が展示ブースに並んでいた。参加者からも大きな関心を呼んでいた。同伴者イベントにもいろいろ工夫を凝らし、有意義な時間を過ごして頂けるように準備して会議を迎えた。10月は台風シーズンでもあり(実際きわどかった)、新型インフルエンザの流行も懸念され、制御屋にとって制御不可能な事態が心配されたが、開催期間中お天気にも恵まれてスムーズに会期を終えることができた。

 

 

神戸の夜景を背景にしたICALEPCS2009のポスター

 

 

 

多数の参加者で692席のホールも結構埋まっていた

 

 

プログラム

 4月に受け付けたアブストラクト数は432本、これから予想される多数の論文を処理するためにJACoW国際混成チームを編成し、JACoWチームの巧みな編集作業で会期中にオンライン出版した論文は386本。本会議場での発表は特別招待講演2件(XFEL理研石川氏、トヨタ井上氏)、口頭講演91件(招待講演9、通常講演82)、ポスター発表は286件にのぼった。発表はプログラム委員会によって、12の学術テーマ(Trackという)に分けられて連日、気合いの入った発表と熱心な議論が展開された。

 初日の12日朝、議長のオープニング挨拶、JASRI白川理事長の歓迎挨拶に引き続いて、理研石川プロジェクトリーダーによるXFELプロジェクトに関する特別招待講演で幕を開けた。紙面の関係もあり、さすがに93もある発表を網羅することはできないので、各Trackの座長による纏めを参照しながら気になった発表について述べてみたい。

 

 

会議の発表風景

 

 

 初日の通常講演はStatus Reportsから始まるのが慣例になっている。ここでは核融合のITERとMegaJuleの発表から始まった。ITERについてはお馴染みのKlotz(元ESRF制御リーダー)がプロジェクトの進捗と制御システム設計のここ1年半の進捗を発表した。ITERは巨大、複雑、挑戦的なプロジェクトで、8つの挑戦、#1:Long Plasma Pulses、#2:Nuclear Installation、#3:Huge and Complex、#4:Plant System Integration、#5:In Kind Procurement、#6:High Performance Networks、#7:Data Driven Auto-Configuration、#8:Heavy Contract Managementがあると述べていた。MegajileはNIF/LLNLに次ぐ2番目に大きなレーザー核融合施設で、運転開始の初段階にあり、NIFの知見をもとに作られている。2008年末に建屋が完成し、現在レーザー束装置がアセンブル中である。またLHCのpower converter(“power supply”)について発表があった。LHCには1700ものmagnet circuitがpower converterでドライブされる。Power converterは組み込みシステムのFunction Generator/Controller(FGC)で制御される。2000個が製作され1700個が使用された。通信にはWorldFIPを用い、トンネル内は冗長化、地上は非冗長となっている。動作順調だが耐放射線性能を試験中。PETRA3の新制御系の報告もあった。最初のX線ビームは今年の7月13日に観測。ユーザー実験は2010年1月に始める予定。制御系のアプリケーション使用言語はJava, C/C++, MATLAB, LabVIEWで、制御フレームワークはTINE、Data acquisition systemsはPXI、Equipment electronicsはCAN、Ethernet、TwinCATで、NetworkはTCP/IP、Computing infrastructureはWindowsとLinux(以上Mike Mouat)。火曜日にもStatus Reportsがあり、電波望遠鏡2件、核融合トカマク2件、加速器制御が2件あった。合計6件の内4件がEPICS制御フレームワークを用いており、加速器はもとより適応領域を超えて新しい入出力制御系の提案、データ収集系の収集サイクルの要求、制御系データと実験系データの協調(放射光実験もこうなりつつあるが)が示された。ITER、NIF、LMJ、ALMAを支える安定感ある制御系と、SPring-8やDESYのXFELを支える制御系と新技術は、豊かな未来を見せた。(以上Jean-Francois Gourney)。

 Fabric ManagementではSPring-8の杉本の発表が高い評価を得た。このセッションでは標準的なメーカー製の機器を用いたネットワークとIT技術に関する報告がなされた。EthernetとTCP/IPを使うネットワークではレイヤー2ベースのネットワークは次第に衰退して行く。巨大なネットワークを少数の人員で短期間に入れ替えるという大変印象的な更新が杉本らによって明確に示された。彼らは優れた計画を立て、ファイアウォールとルーターを賢く用いることで成果をあげた(以上、Niko Neufeld)。

 Hardwareセッションでは、CERNから“white rabbit”プロジェクトの報告があった。このプロジェクトは複数の研究機関とメーカーが共同して、Ethernetを媒体として精度の良いタイミング信号を配るというもので、興味深い。正確なタイミングを配るには整合する機能を有するスイッチを用いる必要があるが、通常のスイッチでもある程度の精度は可能とのこと(以上、Larry Hoff)。

 Project Managementセッションでは、Euro-XFELとESOからSysModeling Languageを用いたシステム設計の話があった。要件の文書化と各開発段階での要件定義に有用であったと報告された。Soleilからはコンピュータによるメンテナンス管理システムによって、制御系とデータ収集系の可用性が向上できたとの報告があった。CERNからも同様の論文があり、システマティックな保守が研究所にとっていかに大切かについて述べられている。ORNLからは制御系で用いるRequest Trackerの発表があり、作業開始から事象の追跡・把握、チーム作業の計画立案にも有効であったと報告された。ITERからはCODAS(COntrol and Data Acquisition. Systems)の今後10年間のソフトウェア開発計画が資金ベースと作業ベースで述べられた(以上、Karen White他)。

 Protection Systemのセッションでは、LHC加速器のビームダンプシステム、ITER核融合炉の安全インターロックシステムなど、チャレンジングな人的安全システムの報告があった。国際安全基準IEC 61508、IEC 61511、IEC 61513に対応した経験値とJefferson Lab、ALBA、LHCにどのように適応されたかについて報告があった。安全について定評のあるPLC(シーケンサ)は保護システムを構築するための役に立つツールになっている(注:SPring-8加速器とビームライン、XFEL加速器安全インターロックもPLCで構築されている)。安全基準SIL-3(IEC 61508)を満たすシステムは、シーメンス、Pilz、およびB&Rから提供されている。安全システムにおいても、FPGAは複雑な機器保護ロジックを構築するために欠かせないデバイスとなっている。J-PARCでは機器保護ステイタスをモニターするVirtex4 Power-PCベースの組み込みEPICS IOの実装について報告があった(以上、Eric Bjoklund他)。

 Data and Information ManagementセッションのCERNの発表では、CERNではデータ管理における2つの転機があったこと、1つは1983年に商用のRDBMSを導入し、施設管理に使用したこと。2つ目は2003年の加速器とビーム関連データを統一したことにある。LHCは最重要で、多くの既存のDBを合理化して、統合化する必要があり、満たすべき要件の収集から開発が始められた。古いデータベースはQuality Assuranceが弱いので、QA原則を導入し、オラクルツールを採用してデータへのオンラインアクセスを許している。結論として、データ管理は技術によるというよりも、1)データの単一性、一貫性を確実にすること。2)データベースの質をデータの品質と同じにすること。3)ソフトウェアは移ろいやすいが、データは永続的であることを意識することにある。

 発表は多岐にわたり、また、読者の興味もわかれるところなので、更に詳しい情報はプロシーディングス論文など、JACoWにて検索して頂きたい。

 最終日はトヨタ自動車株式会社技術統括部 先端・先行企画室長の井上秀雄さんによる「Integrated System Engineering for Sustainable Mobility」があり、LEXUS LS460をベースに最新の安全・安心な車作りと、人と車が安全に共存できる社会インフラ整備のお話しがあり、研究段階の自動運転制御などとても面白く聞かせて頂いた。感謝致します。

 

 

写真左から右に、ICALEPCS2009議長(筆者)、Jeffrey O. Hill、Martin R. Kraimer、Leo R. Daleisio、国際学術アドバイザリー委員会委員長In Soo Ko。

 

 

授賞式

 10月15日(木)は神戸花鳥園で会議恒例のバンケットが催された。席上、余興となるポスター賞の授賞式を行い、プログラム委員会によって選出された3名が表彰された(Paul Van Arsdall/LLNL、Elder Matias/CLS、Antonio Caruso/INFN/LNS)。副賞は龍力大吟醸米のささやき。続いて久々に若手研究者に与えられるEPCS賞の授賞式がありBEPC、BEPC II加速器制御系への貢献が認められて中国IHEPのGe Leiが受賞した。ヨーロッパ物理学会長サインの賞状と賞金を授与。普段はこれで終わりだが、この後に栄えある第1回Lifetime Achievement Awardの授賞式を迎えることになった。20年以上の長きにわたって研究所の枠を越え、EPICSの製作とEPICSコラボレーションに貢献したMartin R. Kraimer/ANL, Leo R. Daleisio/BNL、Jeffrey O. Hill/LANLの3名が晴れやかに表彰され、記念の盾と賞状(議長、ISAC委員長のサイン)が贈られた。

 

 

おわりに

 ICALEPCSの会議運営は結構大変なものだなあと、準備中はもとより終わってみて実感することになった。JASRI研究調整部と制御・情報部門を中心に実行委員会を形成し、皆が一心に準備に邁進した。意気軒昂な実力派ぞろいのスタッフなしでは会議の成功はなかったに違いない。神戸国際観光コンベンション協会からは国際会議場の準備、各種催し物の手配など随分とご協力頂いた。ポートライナー座席にICALEPCSのお知らせを貼ってもらい、臨時便まで出してもらうという武勇伝も生まれた。同伴者にも配慮した質の高い会議構成と、美しい神戸の夜景で彩られたWebによる的確な情報発信が認められ、多数の参加者+同伴者に来て頂いた。準備の顛末について、本会議の1テーマであるProject Managementセッションで話ができるかも知れない(笑)。実行委員会を始めサポーターの入念な準備のおかげで、手前味噌だが、会議運営に関して、連日のように多数の賞賛をいただいた。もう言うことがなくなって、「いいお天気まで運営してくれるとは素晴らしいね」とまで言われた。

 最終日の午後に予定されたSPring-8ツアーでは、バス7台で多数の見学者が蓄積リング棟実験ホール、SCSS試験加速器、建設中のXFEL、普及棟に立ち寄った。試験加速器はマシンタイムの予定にもかかわらず配慮して頂き収納部に入ることができ、熱心に質問する姿が見受けられた。XFELでは「今度来るときはユーザーになってきます」と言い置いて行く参加者もいた。見学対応のJASRIスタッフと理研スタッフに感謝。

 次回、ICALEPCS2011は2011年10月にESRFの主催で、フランス・グルノーブル市で開催される。その次になるICALEPCS2013は、2013年10月にNIF/LLNLの主催で、米国サンフランシスコ市で開催される。二人の次期議長達からは「神戸の会議でハードルが高くてなってしまった、我々は越えられるかなあ」とのつぶやきが聞こえた。

 

 

建設中のXFEL施設見学では熱心に質問していた

 

 

 

実験ホールの見学風景

 

 

 

田中 良太郎 TANAKA Ryotaro

(財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0980 FAX:0791-58-0984

e-mail:tanaka@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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