Volume 14, No.4 Pages 302 -311
3. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
「重い電子」系化合物のフェルミオロジー研究の新展開 −混晶化合物に対する共鳴角度分解光電子分光実験−
Latest Development in the Research of Fermiology of ‘Heavy-electron’ Compounds – Resonant Angle-resolved Photoemission Spectroscopy Experiments for Substitutional Solid Solutions –
[1](独)日本原子力研究開発機構 放射光科学研究ユニット Synchrotron Radiation Research Center, JAEA、[2](財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
1. はじめに
固体が示す様々な電気伝導現象や磁性現象のメカニズムを解明することは、基礎研究的な関心のみならず、産業応用上の期待もあることから、物性物理の中心課題の一つです。特に、遷移金属元素や希土類金属元素、アクチナイド元素を含む化合物では、電子の間に強い相関が生じることによって伝導性や磁性に関して多様な振る舞いが見られます。このような物質は強相関電子系と呼ばれ、その物性は活発な研究分野となっています。その中で、セリウム化合物やウラン化合物などのf電子系化合物の金属は、電気伝導を担う電子の見かけ上の質量が通常の電子質量の10〜1000倍に大きく見える「重い電子」状態が観測されることから興味が持たれています[1][1] テキストとしては例えば上田和夫、大貫惇睦:「重い電子系の物理」(裳華房物理学選書23、1998).。これは原子核近傍で空間的に局在する性格の強いf電子が、ある特性温度(近藤温度)の低温側では伝導電子と軌道混成することによって電気伝導に関与するようになり、言わば“動きにくい伝導電子”が出現するためと考えられています。「重い電子」系化合物の示す物性には、磁性と共存する超伝導やメタ磁性転移など強相関電子系で特徴的な物理現象が広く包含されていることから、「重い電子」系化合物の物性の系統的理解は強相関電子系全体の理解へと拡張され得る重要な課題です。
金属の示す物性のメカニズムを解明するための基本情報となるのが、エネルギーバンド構造とフェルミ面です。電子のエネルギーと運動量の関係を表した曲線を「バンド構造」と呼び、フェルミ準位に存在する電子の運動量を3次元的に表したものを「フェルミ面」と呼びます。これらを実験的に決定することによって、伝導に関与する電子の性質を微視的な視点で記述できるようになります。フェルミ面から物性を理解しようとする研究を「フェルミオロジー」と言います。一方、物質の電子状態を最も直接的に調べることができる実験手法として「光電子分光法」を挙げることができます。特に、検出する光電子についてエネルギーだけでなく放出方向まで特定した「角度分解光電子分光法」では、物質中の電子が持っていたエネルギーεkを運動量kの関数として決定することによりバンド構造を調べることができます。さらに、バンドがフェルミ準位EFを横切る運動量kをマッピングすることによって、フェルミ面形状を調べることができます。フェルミ面を実験的に調べる手法としてより伝統的なde Haas van Alphen(dHvA)効果測定実験ではフェルミ面を外部磁場に垂直な方向に切った断面積の極大値が求められるのに対し、角度分解光電子分光ではフェルミ面の全体形状とそのk空間内での位置が仮定の導入無く直接的に求められることがメリットであり、近年多くの物質系で角度分解光電子分光によるフェルミオロジーの研究が急速に発展しています。軟X線領域の放射光を用いた角度分解光電子分光実験は、そのバルク敏感性と高い光エネルギー分解能の両立、d電子やf電子といった強相関電子系の物性を主に担っている電子への高い感度、エネルギー可変性を利用した3次元的な測定など、実験ツールとしての優れた特長を数多く有しており、今後の研究の発展が期待されています。
軟X線放射光を用いた角度分解放射光実験による強相関電子系の電子状態の研究の全般については、基礎から丁寧に説明した優れた解説[2][2] 関山明、矢野正雄、今田真、菅滋正、室隆桂之:SPring-8利用者情報 Vol.12 No.2 (2007) 180-188.が既にSPring-8利用者情報に掲載されていますので、そちらを参照していただきたいと思います。本小文では、角度分解光電子分光による「重い電子」系化合物のフェルミオロジー研究において試料の点と測定手法の点の二つからもたらされた最近の新しい展開[3][3] T. Okane, T. Ohkochi, Y. Takeda, S.-i. Fujimori, A. Yasui, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Matsumoto, M. Sugi, N. Kimura, T. Komatsubara and H. Aoki: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 216401-216404.について紹介をさせていただきたいと思います。
2. 希釈系化合物に対する角度分解光電子分光実験
角度分解光電子分光は前述のようにバンド構造やフェルミ面を直接的に観測することができる優れた実験手法ですが、一方で「重い電子」系化合物の電子構造を研究するためのツールとしては重大な弱点を抱えています。それは、物質から超高真空中に放出された光電子を検出するという実験の性格上、高い圧力や磁場をかけた状態の試料について測定を行うことが困難であるという点です。「重い電子」系化合物では物性を担うf電子の性質において遍歴性と局在性が拮抗しているために、外部から圧力や磁場をかけることによって物性を容易に変調できることが極めて重要な特徴となっており、常圧では存在しなかった超伝導が加圧により発現する例や、高磁場下で磁気秩序が変化する例などが多く見つかっています。「重い電子」系化合物の物性のメカニズムの解明のためには、このような物性変化に応じたバンド構造やフェルミ面の変化を追跡することが求められているのですが、圧力や磁場に応じた変化を観測することは角度分解光電子分光実験にとってはたいへんハードルの高い課題です。そこで代替策として元素置換により物性を変調させた混晶化合物試料について角度分解光電子分光測定を行うということが考えられます。
元素置換がもたらす効果は、母体と置換物質の種類に応じてキャリア数の制御など様々なものが考えられますが、一部のf電子系混晶化合物では主に結晶格子のサイズを変える「化学圧力効果」に集約されると考えられる例があり、その場合には元素置換による物性の相図について、圧力変化による相図とほぼ同等のものが得られることが知られています。その例として、図1に今回の研究対象であるCeRu2(Si1-xGex)2混晶化合物の磁気相図を示します[4,5][4] M. Sugi, Y. Matsumoto, N. Kimura, T. Komatsubara, H. Aoki, T. Terashima and S. Uji: Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 056401-056404.
[5] Y. Matsumoto, private communications.。CeRu2Si2の基底状態は常磁性ですが、これのSiサイトをGeで置換していきますと、結晶格子が拡げられるとともに反強磁性基底状態が発現するようになり、CeRu2Ge2の近くでは強磁性基底状態を持つようになります。図1の相図はCeRu2Ge2に圧力をかけた時に得られる相図と良く一致していることから、ここでの元素置換がもたらすものはほぼ圧力効果であると考えられています。そこで、元素置換によって物性を変化させた時のこれに対応する電子状態の変化を観測することによって、圧力効果による電子状態変化と同等の情報を得ることができるのではないかと期待されます。
図1 CeRu2(Si1-xGex)2混晶化合物の磁気相図[5][5] Y. Matsumoto, private communications.。横軸は組成比、縦軸は温度を示す。
しかしながら、角度分解光電子分光実験には試料に関しての制約があります。光電子分光という実験手法は試料から真空中に出てくる光電子を検出する実験手法ですが、電子が試料中で進むことができる距離(平均自由行程)に制限があるため、比較的試料の表面に近いところから出てくる光電子しか検出にかからないことになります。したがって、例えば表面が酸化膜などで覆われていると本来観測したい試料のバルク電子状態を観測することができません。そこで、試料の清浄表面を超高真空槽内で得る作業が必要となります。一方、角度分解によって運動量に関する情報を得るためには、観測領域が単一の結晶の周期性を持っていることが必要不可欠です。つまり、測定される試料は単結晶でなければならず、しかも清浄表面を得た際にも、そこでバルク結晶の周期性が保たれていなければなりません。このような清浄表面は通常劈開によって得ることができますが、全ての金属試料が劈開性を持っているわけでは当然ありません。特に元素置換をした混晶試料では、単結晶でありかつ劈開性を有するというのはたいへんシビアな条件であり、そのような条件を満足する化合物は希少です。
今回の我々の研究は、東北大学大学院理学研究科の青木晴善教授、松本裕司氏らによる研究グループ(以下、「東北大学グループ」)、によって一連のCeRu2(Si1-xGex)2混晶化合物(x = 0〜1.0)が育成されたことにより実現しました。ここで得られた一連の試料はdHvA効果が測定できるくらい純良なものであり、かつ良好な劈開性を有していることから、角度分解光電子分光実験によって化学圧力効果によるバンド構造やフェルミ面の変化を観測するのに理想的な試料ということができます。CeRu2(Si1-xGex)2混晶化合物のフェルミ面形状の元素置換に依存した変化に関しては、「東北大学グループ」によってdHvA効果実験により調べられましたが[4][4] M. Sugi, Y. Matsumoto, N. Kimura, T. Komatsubara, H. Aoki, T. Terashima and S. Uji: Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 056401-056404.、この実験ではCe 4f電子の寄与の大きいフェルミ面ブランチを観測することができておらず、角度分解光電子分光実験に期待が寄せられていました。
3. 共鳴角度分解光電子分光実験
角度分解光電子分光は、光電子の角度(放出方向)を特定しながら検出することで、電子の運動量についての情報を得る実験手法であり(図2(a))、励起光のエネルギーが固定されていても試料を回転させることで角度分解データを取得してバンド構造やフェルミ面を調べることが可能ですが、エネルギー可変の励起光を用いることによって新しい可能性が拓けてきます。
まず、光電子の放出角度を試料表面に垂直な方向(注)通常、結晶の高対称軸方向に合わせる)に固定してエネルギーをスキャンしながら角度分解光電子スペクトルを測定することによって、試料表面に垂直な方向についても電子のエネルギーと運動量の分散関係を調べることができます。これと角度スキャンによって得られる試料表面に水平な面内方向の分散関係を合わせることによって、3次元的なバンド構造及びフェルミ面形状を実験的に求めることが可能です。これについては、先に挙げたSPring-8利用者情報の記事[2][2] 関山明、矢野正雄、今田真、菅滋正、室隆桂之:SPring-8利用者情報 Vol.12 No.2 (2007) 180-188.に詳細な解説があります。
一方、励起光のエネルギーを特定の内殻準位の吸収エネルギーに合わせると、価電子帯にある複数の電子軌道のうち特定の軌道からの光電子放出強度を選択的に強めることができます。これを「共鳴光電子放出」と言います。Ceの3d→4f共鳴光電子放出過程(図2(b))を例にとって説明します。3d内殻の吸収エネルギー(図2(c))に励起光のエネルギーを合わせて価電子帯の光電子スペクトルを測定することを考えます。この場合、価電子帯にある4f軌道からの直接の光電子放出過程の他に、いったん3d内殻から双極子遷移によって4f軌道の空準位に電子が励起され、これが3d内殻に空いた正孔を埋める際に放出するエネルギーを受け取って4f軌道の電子が光電子として放出されるsuper Coster-Kronig過程というものが存在します。つまり、価電子帯からの光電子放出のうち4f軌道からの光電子放出についてだけは、始状態と終状態が共通である直接過程とsuper Coster-Kronig過程の二つの過程が存在します。これら二つの過程の間に働く干渉効果によって、価電子帯からの光電子放出のうち4f軌道からの光電子放出だけが選択的に強められることになります。実際、CeRu2Si2について測定した価電子帯の角度積分光電子スペクトルでは、共鳴でのスペクトルは非共鳴でのスペクトルと比べてスペクトル強度が著しく増強されるとともに、スペクトル形状も非共鳴のものと比べて大きく変化しています(図2(d))。
図2 (a) 角度分解光電子分光の模式図。(b) 共鳴光電子放出の模式図。(c) CeRu2Si2の3d→4fX線吸収スペクトル。(d) 共鳴エネルギー(881 eV)と非共鳴エネルギー(860 eV)とで測定したCeRu2Si2の角度積分光電子スペクトル。
今回の我々の研究のアイディアは、共鳴光電子放出が起こるエネルギーに励起光のエネルギーを合わせて角度分解光電子スペクトルを観測すれば、Ceの4f電子の寄与が大きいバンド構造やフェルミ面を選択的に強めた形で観測することができるのではないかというものです。これにより、観測されたバンド構造やフェルミ面の中で、どれが4f電子の寄与が大きいものであるかを判断することもできると期待されます。一つ注意しなければならないことは、励起光のエネルギーを特定の内殻吸収エネルギーに合わせるということは、運動量空間において、試料表面に垂直な軸上の位置として高対称平面に対応する位置に合わせることが通常できないという点です。そのため、得られたデータを議論するにあたっては、高対称平面から位置的にずれている点を考慮に入れて慎重に議論する必要があります。
4. SPring-8 BL23SUにおけるCeRu2(Si1-xGex)2に対する共鳴角度分解光電子分光実験の例
先に述べましたように、CeRu2(Si1-xGex)2置換型混晶化合物ではx = 0から1.0に向かって基底状態が常磁性→反強磁性→強磁性と変化していきます。この両端にあたるCeRu2Si2とCeRu2Ge2に対してはdHvA効果測定実験が行われており[6,7][6] C. A. King and G. G. Lonzarich: Physica B 171 (1991) 161-165.
[7] H. Ikezawa, H. Aoki, M. Takashita, C. J. Haworth, S. Uji, T. Terashima, K. Maezawa, R. Settai and Y. Onuki: Physica B 237-238 (1997) 210-211.、局所密度汎関数法による相対論的バンド構造計算[8,9][8] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 61 (1992) 2388-2398.
[9] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 62 (1993) 592-603.との比較がなされています。図3にバンド構造計算から求められた遍歴4f電子を仮定したCeRu2Si2のフェルミ面(a)と4f電子を含まないLaRu2Si2のフェルミ面(b)を示します。dHvA効果測定実験の結果は、CeRu2Si2のフェルミ面は図3(a)と一致するのに対し、CeRu2Ge2のフェルミ面は図3(b)のLaRu2Si2と同等となることを示しています(注)LaRu2Ge2のフェルミ面はLaRu2Si2のものとほぼ同等[10][10] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 63 (1994) 2290-2302.)。つまり、CeRu2Si2(常磁性状態)のフェルミ面は4f電子が遍歴的になってフェルミ面形成に参加していると仮定したバンド構造計算結果とよく合うのに対して、CeRu2Ge2(強磁性状態)のフェルミ面は4f電子が局在的でフェルミ面形成に参加していないと仮定したバンド構造計算結果とよく合うということことになります。そうしますと、CeRu2Si2に始まってCeRu2Ge2に至る過程のどこかで4f電子が遍歴的なフェルミ面から4f電子が局在的なフェルミ面に変化するということが期待されます。ちょっと単純化して模式図化しますと、図4のような状況が生じると期待されます。4f電子が完全に局在している状況では、遍歴的な伝導電子だけが作るフェルミ面が観測されます(図4(a))。これに対し、4f電子が伝導電子と混成して遍歴性を獲得してフェル面形成に参加するようになると、元の伝導電子の性格が強いフェルミ面と遍歴的性格を獲得したもとの4f電子の性格が強いフェルミ面の双方が出現します(図4(b))。このようなフェルミ面変化がどこで起こっているか、その変化は不連続であるか連続的であるかといった点が、CeRu2(Si1-xGex)2混晶化合物のフェルミオロジーにおいて興味が持たれる点です。
図3 バンド構造計算によって得られた、(a) CeRu2Si2と(b) LaRu2Si2のフェルミ面の3次元形状[8,9][8] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 61 (1992) 2388-2398.
[9] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 62 (1993) 592-603.。
図4 (a) f電子が局在している場合のフェルミ面と、(b) f電子が伝導電子との混成によりフェルミ面形成に参加している場合の模式図。
一方、重い電子系化合物に対する最近の研究の傾向として、圧力や元素置換等によって発現する反強磁性秩序の極低温での発現境界が「量子臨界点」にあるとする立場から実験結果を解釈しようという研究が活発になっています[11][11] この研究分野の最近のレビューとして例えばP. Gegenwart, Q. Si and F. Steglich: Nature Phys. 4 (2008) 186-197.。ここでの磁気量子臨界点の近くでは、通常の金属電子論が破綻し、様々な非フェルミ液体的振る舞いや非BCS的超伝導が観測されています。つまり、量子臨界点近くでのf電子の性質を明らかにすることは、重い電子系化合物に特徴的な、磁性と密接に関連した超伝導の発現機構を解明するためにも必要不可欠な課題と考えられています。この量子臨界点付近でのf電子の性質の解釈に関し、量子臨界点のところでフェルミ面の形状がf電子の性質が遍歴から局在に転じることによって劇的に変化すると考える立場と、必ずしも反強磁性発現境界がフェルミ面変化の場所ではないと考える立場とがあります。つまり、CeRu2(Si1-xGex)2置換型混晶化合物において反強磁性秩序発現境界に当たる臨界組成付近でのフェルミ面の変化を実験的に検証することが、上の二つの考え方のどちらが妥当であるかのテストとなります。
組成変化の両端に当たるCeRu2Si2とCeRu2Ge2については軟X線領域の角度分解光電子分光実験により常磁性状態でのフェルミ面とバンド構造を調べた実験例があります[12,13][12] M. Yano, A. Sekiyama, H. Fujiwara, T. Saita, S. Imada, T. Muro, Y. Onuki and S. Suga: Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 036405-036408.
[13] M. Yano, A. Sekiyama, H. Fujiwara, Y. Amano, S. Imada, T. Muro, M. Yabashi, K. Tamasaku, A. Higashiya, T. Ishikawa, Y. Onuki and S. Suga: Phys. Rev. B 77 (2008) 035118-035125.。この実験からは、CeRu2Si2の近藤温度付近の常磁性状態でのフェルミ面は遍歴4f電子を仮定したバンド構造計算の結果とよく合うのに対して、同じ温度域で測定したCeRu2Ge2の常磁性状態についての実験結果は局在4f電子を仮定したバンド構造計算結果についてフェルミ準位EFの位置を高エネルギー側に若干(100 meV程度)シフトした電子構造を考えれば説明できると主張されています。つまり、近藤温度と同程度の低温域において、CeRu2Si2の常磁性状態とCeRu2Ge2の常磁性状態との間で、4f電子の遍歴的性質の強いフェルミ面と局在的性質の強いフェルミ面、というような明瞭なフェルミ面形状の違いが角度分解光電子分光実験によって観測されていることになります。そこで興味が持たれる点が、4f電子の遍歴・局在転移に相当するフェルミ面の変化が量子臨界点近傍の常磁性状態間で観測され得るか、ということです。
本研究では、CeRu2Si2と反強磁性基底状態を持つCeRu2(Si0.82Ge0.18)2について軟X線領域での角度分解光電子分光実験を行い、CeRu2Si2の近藤温度付近の温度(20 K)での常磁性状態において、反強磁性基底状態の発現境界である臨界組成xc = 0.07の前後でバンド構造やフェルミ面に4f電子の遍歴・局在転移に相当するような劇的な変化が存在するか否かを検証することを試みました[3][3] T. Okane, T. Ohkochi, Y. Takeda, S.-i. Fujimori, A. Yasui, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Matsumoto, M. Sugi, N. Kimura, T. Komatsubara and H. Aoki: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 216401-216404.。実験はSPring-8の原子力機構専用ビームラインBL23SUを用いて行いました。励起光のエネルギーはCeの3d→4f吸収のしきい値(881 eV)の周辺で価電子帯の光電子放出強度の共鳴増大が起こるエネルギーと起こらない(非共鳴の)エネルギーとで測定をすることで、バンド構造やフェルミ面について4f電子の寄与が大きいものと小さいものとを区別して観測することを試みました。また、4f電子が完全に局在している場合のリファレンスとして、LaRu2Si2に対しても測定を行いました。
BL23SUでの共鳴エネルギー領域での角度分解光電子分光スペクトル測定の実際について簡単にまとめます。試料を試料マニピュレーター先端に設置した後、20 Kまで冷却し、試料準備槽内で劈開することにより清浄(001)表面を得ました。劈開後直ちに測定槽に試料を移送し、単色化された軟X線放射光を照射した際に試料から放出される光電子について、静電半球型光電子エネルギーアナライザー(VG-SCIENTA社製SES2002)でエネルギー並びに放出角度(θ)を同時分析することによって角度分解光電子スペクトルを得ました。励起光のエネルギーは不等刻線間隔回折格子分光器によりE/ΔE〜10000のエネルギー分解能まで単色化されます。角度分解光電子スペクトルの取得は、(1)励起光のエネルギーを固定して、試料の角度を変えながら測定する、(2)試料の角度を固定して励起光のエネルギーを変えながら測定する、という2つの方法によって得ています。(1)の方法では、図5(a)に示すような運動量空間中において、kx-ky平面内でのスキャンができます。(2)の方法では、kz方向についてのスキャンを行うことができます。(1)と(2)の方法を組み合わせることにより、バンド構造やフェルミ面について3次元的な情報を得ています。
まず、非共鳴での測定結果について解説します。図5はCeRu2Si2、CeRu2(Si0.82Ge0.18)2、並びにLaRu2Si2について測定した角度分解光電子スペクトルであり、励起エネルギーは、図5(a)のブリルアンゾーン中の高対称点であるΓ、Z、X点を含むようなkx-ky平面内でのスキャンに相当するように選ばれています。いずれの化合物についても明瞭なバンド構造のエネルギー分散が見られています。一見してわかる点は、LaRu2Si2とCeRu2Si2のバンド分散の様子には明らかな違いが見て取れるのに対して、CeRu2Si2とCeRu2(Si0.82Ge0.18)2のバンド分散は似通っていることです。つまり、臨界組成を超えたCeRu2(Si0.82Ge0.18)2についても「4f電子が局在化してバンドの形成に参加しなくなってLa化合物的な状態を実現する」といったことは起こっていないように見えます。
図5 (a) CeRu2(Si1-xGex)2の結晶構造に対応するブリルアンゾーン。(b)&(c) LaRu2Si2、(d)&(e) CeRu2Si2、及び(f)&(g) CeRu2(Si0.82Ge0.18)2について非共鳴のエネルギーで測定した角度分解光電子スペクトル[3][3] T. Okane, T. Ohkochi, Y. Takeda, S.-i. Fujimori, A. Yasui, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Matsumoto, M. Sugi, N. Kimura, T. Komatsubara and H. Aoki: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 216401-216404.。
この角度分解光電子スペクトルのフェルミ準位EF近くの積分強度をk空間内でマッピングすることによってフェルミ面のイメージを得ることができます。図6は非共鳴のエネルギーで測定した角度分解光電子スペクトルから得られたCeRu2Si2、CeRu2(Si0.82Ge0.18)2、並びにLaRu2Si2のフェルミ面イメージです。比較のために、遍歴4f電子を仮定したCeRu2Si2のバンド構造計算から得られたフェルミ面並びにLaRu2Si2のバンド構造計算[8,9][8] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 61 (1992) 2388-2398.
[9] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 62 (1993) 592-603.から得られたフェルミ面を横に並べています。計算結果の方のフェルミ面の図には、各々のバンド構造との対応から、フェルミ面に1番から5番までの番号を振ってあります。まず、LaRu2Si2とCeRu2Si2について実験的に求められたフェルミ面を比較しますと、どちらの化合物でもΓ点とZ点のところに小さなフェルミ面が観測されている他、Z点を囲むような大きいフェルミ面が観測されていますが、この大きなフェルミ面がLaRu2Si2では四角がかっているのに対して、CeRu2Si2では丸みを帯びていることがわかります。一方、バンド構造計算結果を見ますと、LaRu2Si2ではバンド4によるフェルミ面(赤線)が四角がかった形状で大きくZ点を囲んでいるのに対して、CeRu2Si2ではバンド5によるフェルミ面(青線)が丸みを帯びた形状で大きくZ点を囲んでいることがわかります。つまり、実験結果においてZ点を囲む大きなフェルミ面は、LaRu2Si2ではバンド4によるもので、CeRu2Si2ではバンド5によるものであると解釈すると良いように見えます。一方、CeRu2(Si0.82Ge0.18)2について実験的に求められたフェルミ面のイメージは、明らかにLaRu2Si2のものとは異なり、CeRu2Si2のものとほとんど同じ形状に見えます。つまり、CeRu2(Si0.82Ge0.18)2においても4f電子が遍歴的性質を保ってフェルミ面形成に参加していることを示唆する結果となっています。
図6 角度分解光電子スペクトルから得られた(a) LaRu2Si2、(b) CeRu2Si2、(c) CeRu2(Si0.82Ge0.18)2についてのΓ-Z-X平面内のフェルミ面イメージ[3][3] T. Okane, T. Ohkochi, Y. Takeda, S.-i. Fujimori, A. Yasui, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Matsumoto, M. Sugi, N. Kimura, T. Komatsubara and H. Aoki: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 216401-216404.。バンド構造計算[8,9][8] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 61 (1992) 2388-2398.
[9] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 62 (1993) 592-603.により求められた(d) LaRu2Si2と(e) CeRu2Si2についてのΓ-Z-X平面内の2次元的フェルミ面イメージと、バンド4によるフェルミ面((f) CeRu2Si2、(g) LaRu2Si2)並びにバンド5によるフェルミ面((h) CeRu2Si、(i) LaRu2Si2)の3次元的イメージ。
しかし、ここで一つ重大な問題があります。図6のCeRu2Si2のバンド構造計算から得られたフェルミ面を見ますと、Z点を大きく囲むフェルミ面にはバンド5によるもの(青線)だけでなく、バンド4によるもの(赤線)も存在するはずなのですが、実験結果ではバンド4によるフェルミ面に相当するものを明瞭に観測することができていません。バンド構造計算からは、バンド4によるフェルミ面こそが4f電子の寄与が最も大きい重い準粒子バンドが作るフェルミ面と考えられていますので、このフェルミ面が実験的に存在しないということになってしまいますと、CeRu2Si2の4f電子が遍歴的でフェルミ面形成に参加しているとする結論は根底から揺らいでしまうことになります。ここで、非共鳴での実験結果について考えられることは、強く観測されているフェルミ面はRu 4d電子の寄与が大きいバンドによるものであるということです。もう一つ考えられることは、Ce 4f電子の寄与が大きい重い準粒子バンドはエネルギー分散が小さいために緩やかな角度でフェルミ準位EFを横切っており、EF近傍の積分強度分布をk空間内でマッピングした時に、EFを急峻な角度で横切っているバンドほどはっきりしたコントラストがつかないために明瞭に観測することができていない、ということです。
このように重い4f電子が作るフェルミ面を明瞭に観測することは角度分解光電子分光をもってしても困難な仕事です。この困難を解決する一つのアイディアとして、コントラストが弱いために見えないだけなら、4f軌道からのシグナルを他の軌道成分に比べて相対的に増強してしまうことによって、4f電子の寄与の大きいフェルミ面を見えるようにすることができるのではないかと考えられます。そこで、Ce 3d→4f共鳴を利用して4f成分を強めて観測した結果が、図7に示すCeRu2Si2とCeRu2(Si0.82Ge0.18)2について共鳴エネルギーで測定した角度分解光電子スペクトルです。図5の非共鳴でのスペクトルと比べると、フェルミ準位EFの近くの強度が強くなっていることが特徴的で、4f電子の寄与がEFに近いエネルギー領域に集中していることを示唆しています。非共鳴の場合と同様に、角度分解光電子スペクトルのフェルミ準位EF近くの積分強度をk空間内でマッピングすることによって得られたフェルミ面のイメージを図8に示します。注目すべきことは、共鳴で得られたフェルミ面イメージは非共鳴でのものとは劇的に異なっている点です。まずCeRu2Si2についての実験結果に注目しますと、非共鳴で見えていたZ点を大きく囲む丸みを帯びたフェルミ面が見えなくなっていて、その代わりにZ点を四角く囲むブリルアンゾーン境界(破線)のすぐ内側に四角がかったフェルミ面が新たに見えています。共鳴での測定においてだけ見えているこのフェルミ面の位置や形状は、図6(e)、(f)のCeRu2Si2のバンド構造計算結果におけるバンド4によるフェルミ面に相当しているように見えます[14][14] 共鳴でのエネルギーでは、kz方向についての位置が、Γ-Z(X-X)の距離をπ/cとして、非共鳴で観測していた高対称面と平行に0.3 π/c程度ずれた平面についての観測となっており、これによってフェルミ面の形状が異なってきている可能性がある。しかし、計算によって得られたバンド4によるフェルミ面の3次元形状(図6(f))を0.3 π/cのkz位置で切って得られたフェルミ面形状を求めると、図8(a)、(b)に重ねた赤い線のようになり、共鳴での実験で観測されている四角がかったフェルミ面と良い一致を見せる。。これは、非共鳴では明瞭に捉えることができなかった重い4f電子が寄与するバンド4によるフェルミ面が、共鳴で4f電子のシグナルの強度を相対的に増強することによってはっきり見えてきたと解釈できることから、CeRu2Si2の4f電子が近藤温度程度の低温域では遍歴的な性格を持ってフェルミ面形成に参加しているという結論が引き出されます。また、Ce 4f電子の寄与がバンド4によるフェルミ面では強くバンド5では強くないことが示されたように、角度分解光電子分光測定の結果を共鳴と非共鳴とで比較することにより各フェルミ面ごとの4f電子の寄与の大小を実験的に調べることが可能であることがわかりました。
図7 (a)&(b) CeRu2Si2と(c)&(d) CeRu2(Si0.82Ge0.18)2について共鳴エネルギーで測定した角度分解光電子スペクトル[3][3] T. Okane, T. Ohkochi, Y. Takeda, S.-i. Fujimori, A. Yasui, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Matsumoto, M. Sugi, N. Kimura, T. Komatsubara and H. Aoki: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 216401-216404.。
図8 共鳴エネルギーでの角度分解光電子スペクトルから得られた(a) CeRu2Si2と(b) CeRu2(Si0.82Ge0.18)2についてのΓ-Z-X平面内のフェルミ面イメージ[3][3] T. Okane, T. Ohkochi, Y. Takeda, S.-i. Fujimori, A. Yasui, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Matsumoto, M. Sugi, N. Kimura, T. Komatsubara and H. Aoki: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 216401-216404.。赤線はCeRu2Si2についてのバンド構造計算により求められたバンド4によるフェルミ面のkz = 0.3 π/cの位置での形状[14][14] 共鳴でのエネルギーでは、kz方向についての位置が、Γ-Z(X-X)の距離をπ/cとして、非共鳴で観測していた高対称面と平行に0.3 π/c程度ずれた平面についての観測となっており、これによってフェルミ面の形状が異なってきている可能性がある。しかし、計算によって得られたバンド4によるフェルミ面の3次元形状(図6(f))を0.3 π/cのkz位置で切って得られたフェルミ面形状を求めると、図8(a)、(b)に重ねた赤い線のようになり、共鳴での実験で観測されている四角がかったフェルミ面と良い一致を見せる。
CeRu2(Si0.82Ge0.18)2についての共鳴でのフェルミ面イメージ(図8(b))に目を向けてみますと、やはりCeRu2Si2の場合と同様に、非共鳴のものとは全く異なるイメージが得られており、CeRu2Si2の場合に比べると全体的にぼけてはいるものの[15][15] CeRu2(Si0.82Ge0.18)2の共鳴での結果で観測されたZ点を囲むフェルミ面がCeRu2Si2で観測されたものに比べてぼけているように見える点についてはいくつかの理由が考え得る。まず一つは、実際にCeRu2(Si0.82Ge0.18)2の測定ではCeRu2Si2での測定に比べてエネルギー分解能を落として測定してしまっていることである。もう一つは、結晶格子の大きさの違いから、CeRu2(Si0.82Ge0.18)2では共鳴のエネルギーに対応するkz位置がCeRu2Si2に比べてさらに高対称面からずれてしまっていることで、3次元的形状(図6(f))のより端に近いところに来てしまっている可能性がある。さらに考え得ることは、本質的な4f電子の性質の変化によると考えるもので、劇的な遍歴・局在転移は起こさないまでも、4f電子の局在的な性質がCeRu2(Si0.82Ge0.18)2では強まっていると考えるならば、4f電子の寄与の大きい準粒子バンドのエネルギー分散がさらに小さくなり、EFをより緩やかな角度で切るようになることによってフェルミ面イメージがぼけるということが起こり得る。このあたりのより微妙な4f電子の性質の変化の議論は今後の課題として残っている。、Z点を四角く囲むブリルアンゾーン境界(破線)のすぐ内側にフェルミ面が存在するように見えます。これはCeRu2Si2のケースとの類推から考えると重い4f電子によるフェルミ面と推定されますので、CeRu2(Si0.82Ge0.18)2における遍歴的な4f電子のフェルミ面形成への参加を示す結果です。非共鳴での実験結果とも合わせて考えると、CeRu2(Si1-xGex)2置換型混晶化合物の場合、近藤温度程度の低温域(常磁性状態)では、量子臨界点に相当すると考えられる臨界組成を超えてもCe 4f電子の遍歴・局在転移に相当するような劇的なフェルミ面変化は存在しないということが結論されます。これはf電子の量子臨界点近傍で振る舞いを説明する理論模型を造る上で重要な情報となります。
5.今後の展望
重い電子系化合物の置換型混晶試料に対する共鳴角度分解光電子分光実験によるフェルミオロジー研究はまだその端緒についたばかりであり、今後明らかにしていかなければならない課題が山積みの状況と言えます。まず、今回の研究対象であるCeRu2(Si1-xGex)2置換型混晶化合物を例にとって述べますと、今回の研究では、近藤温度程度の低温域(常磁性状態)において、(極低温での反強磁性秩序発現境界である)臨界組成の前後で劇的なフェルミ面変化が無いことを確かめました。しかし、相図上のCeRu2Si2の常磁性状態(4f電子が遍歴的なフェルミ面)とCeRu2Ge2の強磁性状態(4f電子が局在的なLa化合物的なフェルミ面)を結ぶどこかでフェルミ面の変化が存在しなければならないわけで、それがどこにあるのか、或いは徐々に連続的に変化していっているのか、という点は明らかになっていません。これを明らかにしていくために、今後磁気転移温度以下でのフェルミ面形状の組成依存性を調べていくことを計画しています。また、重い電子の形成というのは基本的に低温での現象であり、近藤温度より上の温度域では 4f電子が局在しているという可能性も指摘されています。そこで、今回の実験で共鳴でのエネルギーで観測された 4f電子に起因すると考えられますフェルミ面が近藤温度より高温側で消失するかどうかという点は興味深い問題といえます。さらに、先行する実験から量子臨界点でf電子の遍歴・局在転移が起こるような描像が妥当と主張されているCeCu6-xAux[16][16] A. Schröder, G. Aeppli, R. Coldea, M. Adams, O. Stockert, H.v. Löhneysen, E. Bucher, R. Ramazashvili and P. Coleman: Nature 407 (2000) 351-355.やYbRh2(Si1-xGex)2[17][17] S. Paschen, T. Lümann, S. Wirth, P. Gegenwart, O. Trovarelli, C. Geibel, F. Steglich, P. Coleman and Q. Si: Nature 432 (2004) 881-885.といった化合物に対して角度分解光電子分光実験を行った場合に臨界組成付近でフェルミ面の劇的な変化が観測され得るかという点も興味が持たれる今後の課題です。
軟X線領域の放射光を用いた高エネルギー分解能の角度分解光電子分光実験が行える施設として、SPring-8の軟X線ビームラインは世界的に見ても整備の進んだ実験環境と言うことができます。原子力機構専用ビームラインBL23SUでは、新型のツイン・ヘリカル・アンジュレーターの導入により光の強度が約2倍に増強されました。今回の研究のように異なるエネルギーで角度を詳細に振るような測定において重要なポイントは、測定点が多いため、試料表面が劣化する前に全ての必要なデータを取得することにあるのですが、エネルギー分解能を落とすこと無く十分なS/Nのデータを取得することに成功した要因の一つが高輝度軟X線放射光源でした。今後もSPring-8から重い電子系のフェルミオロジー研究において重要な成果を発信していくことが期待されています。
本研究は東北大学大学院理学研究科の青木晴善教授の研究グループとの共同研究です。本研究に関する実験は SPring-8の利用課題2008A3822において行われたものです。本研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「重い電子系の形成と秩序化」No.20102003の援助を受けて行われました。ここに感謝いたします。
参考文献
[1] テキストとしては例えば上田和夫、大貫惇睦:「重い電子系の物理」(裳華房物理学選書23、1998).
[2] 関山明、矢野正雄、今田真、菅滋正、室隆桂之:SPring-8利用者情報 Vol.12, No.2 (2007) 180-188.
[3] T. Okane, T. Ohkochi, Y. Takeda, S.-i. Fujimori, A. Yasui, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Matsumoto, M. Sugi, N. Kimura, T. Komatsubara and H. Aoki: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 216401-216404.
[4] M. Sugi, Y. Matsumoto, N. Kimura, T. Komatsubara, H. Aoki, T. Terashima and S. Uji: Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 056401-056404.
[5] Y. Matsumoto, private communications.
[6] C. A. King and G. G. Lonzarich: Physica B 171 (1991) 161-165.
[7] H. Ikezawa, H. Aoki, M. Takashita, C. J. Haworth, S. Uji, T. Terashima, K. Maezawa, R. Settai and Y. Onuki: Physica B 237-238 (1997) 210-211.
[8] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 61 (1992) 2388-2398.
[9] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 62 (1993) 592-603.
[10] H. Yamagami and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 63 (1994) 2290-2302.
[11] この研究分野の最近のレビューとして例えばP. Gegenwart, Q. Si and F. Steglich: Nature Phys. 4 (2008) 186-197.
[12] M. Yano, A. Sekiyama, H. Fujiwara, T. Saita, S. Imada, T. Muro, Y. Onuki and S. Suga: Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 036405-036408.
[13] M. Yano, A. Sekiyama, H. Fujiwara, Y. Amano, S. Imada, T. Muro, M. Yabashi, K. Tamasaku, A. Higashiya, T. Ishikawa, Y. Onuki and S. Suga: Phys. Rev. B 77 (2008) 035118-035125.
[14] 共鳴でのエネルギーでは、kz方向についての位置が、Γ-Z(X-X)の距離をπ/cとして、非共鳴で観測していた高対称面と平行に0.3 π/c程度ずれた平面についての観測となっており、これによってフェルミ面の形状が異なってきている可能性がある。しかし、計算によって得られたバンド4によるフェルミ面の3次元形状(図6(f))を0.3 π/cのkz位置で切って得られたフェルミ面形状を求めると、図8(a)、(b)に重ねた赤い線のようになり、共鳴での実験で観測されている四角がかったフェルミ面と良い一致を見せる。
[15] CeRu2(Si0.82Ge0.18)2の共鳴での結果で観測されたZ点を囲むフェルミ面がCeRu2Si2で観測されたものに比べてぼけているように見える点についてはいくつかの理由が考え得る。まず一つは、実際にCeRu2(Si0.82Ge0.18)2の測定ではCeRu2Si2での測定に比べてエネルギー分解能を落として測定してしまっていることである。もう一つは、結晶格子の大きさの違いから、CeRu2(Si0.82Ge0.18)2では共鳴のエネルギーに対応するkz位置がCeRu2Si2に比べてさらに高対称面からずれてしまっていることで、3次元的形状(図6(f))のより端に近いところに来てしまっている可能性がある。さらに考え得ることは、本質的な4f電子の性質の変化によると考えるもので、劇的な遍歴・局在転移は起こさないまでも、4f電子の局在的な性質がCeRu2(Si0.82Ge0.18)2では強まっていると考えるならば、4f電子の寄与の大きい準粒子バンドのエネルギー分散がさらに小さくなり、EFをより緩やかな角度で切るようになることによってフェルミ面イメージがぼけるということが起こり得る。このあたりのより微妙な4f電子の性質の変化の議論は今後の課題として残っている。
[16] A. Schröder, G. Aeppli, R. Coldea, M. Adams, O. Stockert, H.v. Löhneysen, E. Bucher, R. Ramazashvili and P. Coleman: Nature 407 (2000) 351-355.
[17] S. Paschen, T. Lümann, S. Wirth, P. Gegenwart, O. Trovarelli, C. Geibel, F. Steglich, P. Coleman and Q. Si: Nature 432 (2004) 881-885.
岡根 哲夫 OKANE Tetsuo
日本原子力研究開発機構 放射光科学研究ユニット
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-2604 FAX:0791-58-0311
e-mail:okanet@spring8.or.jp
藤森 伸一 FUJIMORI Shin-ichi
日本原子力研究開発機構 放射光科学研究ユニット
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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竹田 幸治 TAKEDA Yukiharu
日本原子力研究開発機構 放射光科学研究ユニット
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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保井 晃 YASUI Akira
日本原子力研究開発機構 放射光科学研究ユニット
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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斎藤 祐児 SAITOH Yuji
日本原子力研究開発機構 放射光科学研究ユニット
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藤森 淳 FUJIMORI Atsushi
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山上 浩志 YAMAGAMI Hiroshi
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