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Volume 14, No.2 Page 59

理事長の目線

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 Director of JASRI

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 私は酒が飲めないので、酒と腹芸の組み合わせでことを成し遂げるという伝統的手法が使えない。代わりに、情報や意見をできる限り公にして、なるべく多くの人に理解してもらって、できれば共鳴してもらって物事を進めるしかない。この利用者情報は、利用者に対してそれを行う重要な場所であり、結果としてはこの程度の文章であったが、私としては相当の努力をして書いてきた。目線に書いたことに関して、思いがけない人から感想や意見を聞くことがあり、思ったよりは読まれているらしいと感じている。またJASRIの内部の人が結構読んでいて、理事長の判断力を占う目安にしている気配があり、それに引きずられて話の展開が所員向けになってしまって、あわてて書き直したこともあった。

 

 実際には、利用者にSPring-8の運営にかかわる問題の現状を知らせるだけではなく、時にはかなり辛口の意見を書いた。客商売であるSPring-8の長にはあるまじき行為かもしれないが、大げさにいえば首を覚悟でやっていた。利用者も施設の職員もほとんどが乗り気でなかった産業利用を軌道に乗せるには、そのくらいの覚悟が当然必要であった。その後、職員の中に賛同者やよく理解できないが協力しようという者が増えたのは嬉しかった。私が産業利用を懸命に行ったのは、それが今、SPring-8が社会に対して最も緊急に行わなければならないことと判断したからであり、また、それをやっても、学術の成果の高い部分を傷つけることはないと信じていたからである。

 

 SPring-8は共同利用施設ではない、という批判がある。皆で仲良く使うというのが共同利用施設の定義なら、確かにいまのSPring-8はこれに該当しない。しかし、高額を投じた世界一のSPring-8は、大勢の人が仲良く使っています、というだけでは建設した意義を説明したことにはならず、その優れた施設に見合う立派な成果を社会に示すことで初めて説明が完結する。幸いSPring-8は施設の性能と産業利用では一般社会の良い評価を得たが、主流である純学術利用での社会における評判はまだ確立しているとはいえない。学術の成果は一般社会に理解されにくいので、その啓蒙は今後の努力目標であるが、もう一つ、高い成果を得られるような利用体制を築くことが必要であると感じる。施設を建設の成功や産業利用数の増加の達成の場合には、施設側の努力が大きく寄与することができるが、学術の成果の質は、ユーザーの課題によって決まるものであり、施設側の努力だけでは向上するものではない。利用者コミュニティーは、課題審査に際して、万遍なく仲間にビーム資源を配分するのではなく、冒険的なものへの配分も含めて、各分野の将来を賭けて利用時間を配分するようにして頂きたいと願う。その前提として、これからは分野ごとの実績や将来計画に応じたビームラインの再配分などを行うことが必要となろう。

 

 JASRIの職員の大部分は、決して良くない条件下で良くやっていると私は思う。良くない条件の内容の議論はしないが、一言でいうと、このような施設にふさわしい制度設計ができていないのである。利用者に望むのは、頭からJASRIの職員を召使扱いするのではなく、JASRIの職員に尊敬されて、仕事に協力してもらえるようであってほしいということである。利用者と職員の関係が一層成熟して、より有効な利用が行われることを期待している。

 

 目線の原稿を書いていて、同じ話の堂々巡りになりそうなのを感じたのが2年位前のことであった。問題がなくなったわけでは決してなく、新しい問題に私の感性が適応できなくなったのである。辞め時だと思った。これまでの失礼の段は平にご容赦願いたい。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794