ページトップへ戻る

Volume 13, No.4 Page 283

理事長の目線

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 Director of JASRI

pdfDownload PDF (15 KB)

 先日、利用研究促進部門長の名前で、利用者へのお願いの文章が張り出された。以前の植木部門長のものを久しぶりに少し改定したのであるが、お願いしていることは基本的に、JASRIの担当者の労働時間への配慮である。これは、以前からある問題であるが、最近、利用実費を徴収するようになってから、一部の利用者が要求をエスカレートさせていて、現場が悲鳴を上げ始めたと聞いている。なお、利用実費は、本来国の予算からその項目が消えて利用者負担に変わったということであって、JASRIの儲けになっているわけではなく、ましてビームライン担当者の利益には全然なっていないことをこの際申し上げておきたい。以前にも同じようなことが起きて、私が利用者懇談会の会合で配慮をお願いしたことがあったが、そのとき聞いた話に、JASRIの担当者を昔の指導教官が時間を構わずこき使うというのがあった。今はどうなのであろうか。いずれもごく少数の例で、大部分の利用者はビームライン担当者と適切に接してくださっていることはよく理解しているつもりである。また、JASRIの職員も、すべてが過剰要求に悲鳴を上げているわけではなく、おそらく一部の有能なあるいは気の良い職員に限られているのかもしれないとも思う。しかし、これは少数の問題であっても、放置しておくと施設の運営全体が危機に瀕するような問題であると私は認識している。

 JASRIの支援はかなり利用者本位になってきたと思うが、それでも利用者から見ればまだ足りない点もいろいろあろう。それなのに利用者に対して、要求を少し控えてくれとは何事かと叱られそうであるが、それを承知でまたお願いしているのである。JASRIは財団法人であって、そこは法人化以前の大学のように事実上の治外法権の世界ではなく、たとえば労働条件については、労働基準法をまず遵守すべき世界なのである。それで研究ができるかという議論もあろうが、SPring-8は設立時にそういう制度設計が行われたのである。このように研究活動に最適とはいえない条件下で、JASRIはSPring-8が研究活動の場所であることを最大限に考慮した職員の労働環境を用意して、利用者の研究活動がスムースに行われるように努力している。たとえば、利用者による夜中の緊急呼び出しに対しては、それに応じて手当てを払うようになっていて制度上はきちんと対応している。したがって、お願いしていることは、「夜中の緊急呼び出しをするな」ということではなく、それはここでは特別なことなのだ、という意識を十分持ってやっていただきたい、ということである。法人化した今の大学のことは知らないが、それ以前の大学の研究室では、時間のことなどは気にせずに研究に没頭するのは当然のことであり、先生が徹夜の仕事を命じればそれに従うのもまた当たり前であった。そのような常識を、JASRIの職員相手にそのまま持ち込むのは勘弁していただきたい、というお願いである。

 JASRIの研究系職員も、研究本位の大学型の精神構造を根底に持つものが多く、利用者の上記の大学常識をできるだけ受け入れようとする傾向がある。それでもごく一部で受容の限界に達しているのであろう。この問題の根本的解決には人員増が必要であるが、その困難さはお分かりいただけると思う。今重要なのは、そこに責任を転嫁することではなく、現実の与えられた条件の中で、SPring-8を最善の状態で運転し続けることである。そのかなめになるビームライン担当者をこのようなことで消耗させても良いことは何もない。組織としてのJASRIは、ビームライン担当者が仕事をしやすいように最善を尽くすつもりであるが、ユーザー各位も現在のビームライン担当者の状況にご配慮いただければありがたいと思う。なお、この問題についてのご意見は、ビームライン担当者にではなく、利用研究促進部門長か研究担当理事または理事長に直接申し出ていただきたい。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794