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Volume 13, No.3 Pages 268 - 271

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第5回三極X線光学ワークショップ
3-way X-ray Optics Workshop V

後藤 俊治 GOTO Shunji

(財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI

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 2008年3月17日にAPSにおいて三極X線光学ワークショップが開催された。三極ワークショップのサテライトとしてX線光学ワークショップが始められたのは2001年11月のESRFにおいてのことであり、今回は二周目半ばの第5回目となる。それぞれの施設のビームライン光学系の現状、トピックス、問題点、方向性などを持ち寄り紹介することにより、問題の解決策を見出したり、互いの方向性を認識したり、コラボレーションのテーマを見つけたりというスタイルは2001年の開始当初から変わっていない。結晶分光器、ミラー、多層膜、窓、光学素子の研磨・加工、光学素子計測技術など話題は多岐にわたり、その時々により多少の流行があるものの、Overviewも含めればほぼX線光学系の全般を網羅したプログラムとなっている。プログラムは以下に示した通りであるが、1日のワークショップにしては若干詰め込みすぎた感があり、時間的に厳しい進行を余儀なくされた。この点はオーガナイザの一人として反省している。
 

 
三極X線光学ワークショップの参加者
 
 最初のセッションはAPSのX-ray science division directorであるG.Longの開会挨拶に引きつづき、そのままLongによる司会にて三施設のOverviewが行われた。A.Macrander(APS)、J.Hartwig (ESRF)、後藤(SPring-8)によりそれぞれの施設の現状が報告された。
 コーヒーブレークのあと山内(大阪大学)により高精度ミラーの加工、表面形状評価、多層膜蒸着等の現状が報告された。多層膜により視射角を大きくし高いNAを実現すること、1nm以下の形状(高さ)誤差に仕上げることなどいくつかの厳しい条件を克服することによりサブ10nmの集光が実現できる見込みであり、現状ではその一歩手前まで来ていることが示された。
 C.MoraweによりESRFにおいてこの2〜3年にて新たに整備され稼動を開始した多層膜ラボの現状報告があった。APSの多層膜のスタッフとの情報交換は盛んに行われているようであり、それぞれの施設において同じ条件にて製作した多層膜ミラーのX線評価結果の比較も交えて報告があった。1層 1nm×60層程度の多層膜ミラーで十分に反射が得られている。立ち上がりは順調で、品質は高いレベルにあることが示された。ESRFでは多層膜ミラーは重要なビームライン光学素子として位置づけられており質の高い活動が維持されている。
 C.LiuはAPSにおいてProfile coatingを行っている中心人物である。この手法は、マスクを用いて場所によりコーティングの厚さを変え、平面もしくはシリンドリカルの基板上に楕円ミラー形状を形成するもので、彼は2001年のワークショップにおいてすでにこの手法について紹介している。以降地道に性能向上の努力が続けられており、今回はその現状報告である。計算によって求められた比較的単純な形状のマスクを用いた一回目のコーティングにあとに表面形状を計測し、その結果に応じて誤差補正用の細かいパターンをもったマスクを作製し形状誤差を減らすようにしている。現状では85nmの集光を実現している。
 Multilayer Laue Lens(MLL)はナノメータビームを得る一手法として2006年ごろから注目されている集光光学素子である。R.Conley(APS)は対向二基のスパッタ装置の間で試料を回転させながらMLLを形成する多層膜形成技術について報告した。ビームの進む方向に層の厚さを変化させ傾斜をつけることにより、理想的なMLLの構造に近づけ、より集光性能を上げる手法が紹介された。
 このあと昼食に入り、そのまま同じ会場にてサンドイッチなどを食べながら議論が続けられた。チャンネルカットシリコン結晶製作時の "不十分な" 研磨により反射ビームに現れるスペックルとその解決策、シリコンや石英などの基板の研磨とエッチング処理後の表面の密度や粗さの変化などの話題提供・問題提起とそれらに対する議論が繰り広げられた。その他高品質のFZシリコン結晶の入手性やその加工に関する情報交換が行われた。昼食後はラボツアーを予定していたが、強い希望がなかったことと時間的におしていたこともありキャンセルして午後のセッションに入った。
 まず、A.Khounsary(APS)により非球面のミラーを形成するいくつかの手法が紹介された後、3件の光学素子の形状評価に関する話題が続いた。
 L.Assoufid(APS)によるミラー表面形状計測のRound-robinの現状報告は、2006年のESRFでのワークショップで報告された平面ミラーを用いた1st Round-robinの続編である。今回の2nd Round-robinでは非球面ミラーの形状についてESRF、APS、SPring-8および大阪大学における計測結果が比較された。非球面ゆえの計測の難しさがあったが、計測のプロトコルをしっかりと定め施設間にて同等のデータが引き出された。
 大橋はSPring-8における光学素子評価の現状について報告した。まずはミラーな形状測定に使用されるLong Trace Profilerの大規模な改造の状況が報告された。スロープ計測の分解能として次世代ミラーの製作・評価に必要とされる高い目標値の50ナノラジアンが掲げられた。また、MSI、RADSIといった干渉計に基づく新たな表面形状計測の大面積化に関する開発状況が報告された。これらは光学干渉計による狭い領域のデータを順次つなぎ合わせて大面積ミラー全体での形状計測を実現するもので、従来のLTPの代替となり得るばかりでなく、より高い性能が期待できるものである。
 J.Qian(APS)はWYKO(大型のフィゾー干渉計)を用いたミラー表面形状測定とLTPの比較結果について報告した。ここでも干渉計型の表面形状測定装置の有効性が示されていた。
 人工ダイヤモンド結晶に関しては、午前最初のOverviewでそれぞれの施設から概要が報告されたが、三施設ともダイヤモンド結晶には強い関心がありそれぞれで評価と利用が積極的に行われている。玉作(理研)により高品質のⅡaダイヤモンドの高分解能のX線評価結果について報告がなされた。1kmビームラインにおける高分解能X線トポグラフや、ダイヤモンド結晶二枚を並べてX線反射ビームプロファイルを観察する二結晶分光器模擬実験において、実際のダイヤモンド二結晶分光器において観察される強度ムラと同様のものが見られ、これが積層欠陥等の結晶欠陥によりもたらされていることが示された。Ⅱaダイヤモンド結晶の結晶性についてはさらなる改善が求められていることが強調された。
 三村(大阪大学)によりXFEL用ミラーの開発状況が紹介された。XFELにおける集光ミラーには表面付近での吸収パワー密度を低減しなければアブレーションによりミラー表面が耐えられないという問題があり、このためできるだけ吸収の少ない軽元素のミラーをできるだけすれすれの入射にて使いたいという要請がある。研磨型の集光ミラーとしてSPring-8で通常使用されているミラーよりもずっと長い400mm長のシリコンミラーを加工・評価した結果が示された。1kmビームラインでの評価結果では80nmの集光ができ所定の性能が得られそうであることが報告された。
 T.Mairs によりESRFにおいて比較的多く使用されているチャンネルカット型分光器の状況が紹介された。これらは9本のアンジュレータビームラインにおいて使用されているが、コストと性能や機能を比較した場合、方向性としてこれでよいのだろうかという疑問が残った。
 ESRFでは施設のアップグレード計画とリンクしナノテクノロジープラットフォーム計画があり、R.Barrettによりナノビーム形成のための光学素子の基本技術、対象ビームラインのアップグレードやR&D、予算化、他施設とのネットワーク形成などについて紹介された。
 R.KhachatryanおよびM.WieczorekはAPSにおける結晶加工の現状について報告した。APSやESRFでは施設内に結晶加工、研磨のラボがあり数名のスタッフにより運営されている。いろいろと話を聞いてみると加工および研磨技術の維持、伝承は共通の課題のようである。
 ワークショップ終了後、一時間ほどバスに乗ってFermi Laboratoryへ見学に行った。夕暮れ時で施設の全容を見渡すには多少難があったが、それでも研究棟の最上階から周長6kmのTevatronの輪郭を見ることができとても壮大なものであった。その後施設内のレストランにて夕食となり、遅くまであれこれと議論が続いた。
 さて、次回はSPring-8がホストの順番である。1年半後くらいになるであろうが、ワークショップが始まってからおよそ8年間2周目の区切りとなる。それぞれの施設のアップグレード計画ともリンクしてビームラインの重要な要素技術である光学系についてもより厳しい要求がでてくるであろう。シリコン結晶、ダイヤモンド結晶、ミラー等々やるべきことはたくさんある。それぞれの目標に向かって再び動き始めなければならない。
 
三極X線光学ワークショップのプログラム
 

後藤 俊治 GOTO  Shunji
(財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0831 FAX:0791-58-0830
e-mail : sgoto@spring8.or.jp


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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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