Volume 13, No.3 Pages 208 - 211
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
平成19年度(2007B期、2008A期)の課題選定を終えて
Report of the Proposal Review Committee in the 2007 Fiscal Year
1. はじめに
2006年に共用促進法が改正され、SPring-8の運営形態が大きく変更されました。念のため課題選定にかかわる部分について復習しますと、利用研究課題審査委員会(PRC=Proposal Review Committee)はJASRIの下に配置されることになり、またPU課題および施設内部の直接関与する委員会を除いた一般課題と重点研究課題、長期利用課題が利用研究課題審査委員会の分科会として審査活動を行うことになりました。2007A期の課題審査は第6期課題選定委員会が継続して行いましたので、新しい制度に基づき平成19年度に選任された利用研究課題審査委員会は2007B期の課題より審査に当たることになりました。分科会も新しい制度に基づき衣替えすると同時に、レフェリー(200人弱)、分科会委員(50人弱)そして利用研究課題審査委員会委員もかなりのメンバーが新任となりました。2007年度は、5月10日に第2回利用研究課題審査委員会兼合同分科会が開催され、課題選定に関する基本的考え方や審査分科会の構成、審査基準などに関する説明と年間スケジュールなどの確認が行われました。利用研究課題は平和目的であること、挑戦的な課題を積極的に選定することを心がけることなど、これまでの基本方針に変更はありません。本報告では、2007年度に行われた2007B、2008A期の課題選定のための2回の利用研究課題審査委員会について報告いたします。
2. 2007B期の課題募集と審査
2007B期の課題選定の経過と結果は、本情報誌に詳細が掲載されています(SPring-8利用者情報、Vol.12,No.5(2007)350)。要点をまとめると以下のようになります。
2007B期の運転は平成19年9月から平成20年2月まででした。この間の放射光利用時間は270シフト(1シフト=8時間)であり、共同利用に供されるビームタイムは216シフト(全シフトの80%)とされました。その中でそれぞれの課題種別に応じたシフト枠の目安があらかじめ定められました。募集案内は4月から行われ、課題の種類に応じて5月末から6月初めに募集が締め切られました。長期利用課題(応募数1件。以下同じ)の面接審査は6月28日に開催されました。一方成果専有課題(35件)と成果公開・優先利用課題(10件)を除く一般課題(655件)および重点研究課題(171件)の分科会による審査は、7月10日、11日に行われ、引き続き7月11日に第3回利用研究課題審査委員会が開催されました。総応募件数は872件であり、総採択件数は604件となり、全体としては70%程度の採択率となっています。応募総数、採択件数ともほぼ最近の期の平均値に近いものになっており、SPring-8の利用が定常状態になっていることを示しています。2007B期の重点研究課題(領域指定型)は「メディカルバイオ・トライアルユース課題」、「ナノテクノロジー支援課題」、「産業利用課題」の3種類でした。それぞれの課題は対応する分科で審査され、平均採択率は67%で全体の採択率に近いものとなっています。重点ナノテクノロジー支援課題は一般課題との重複申請が認められ、ナノテクノロジー支援課題が不採択の場合でも一般課題で採択される可能性があります。なお長期利用課題は今回1件の応募があり、長期利用課題分科会により従来通り書類審査および面接を行いましたが、長期の研究計画にあいまいな部分があり今回は採択に至りませんでした。この時点で有効な長期利用課題は9課題でした。
生命科学分野で認められている留保ビームタイム(生体高分子結晶構造解析分野で、試料結晶が作製されたタイミングで実験が実施できるように、予め配分しないビームタイムを設ける制度)には45シフトを確保し、重点産業利用分科会で新しく始まった2007B第2期募集用留保ビームタイム(A、B期合わせて年間4回の課題募集が可能になります)には3本のビームライン(BL)で252シフトを確保しました。ビームタイムを使った成果を課題審査にフィードバックする試みは2005A期から始まっていますが、今回も同様な方法で行っています。ちなみにdV値がマイナスの課題(利用時間の割に登録論文数が極端に少ないと判定された申請者による課題)は審査課題の内1%程度です。これらの課題は審査評点が減点されている場合があります。SPring-8に限らず大学を含めてどの研究機関でも成果の把握とその評価の重要性が増しています。成果非専有課題で成果を発表した場合に施設のデータベースに登録することを忘れないようにお願いします。
BL毎の配分結果をみますと、BL25SU(軟X線固体分光・選定率36%)およびBL47XU(光電子分光・マイクロCT・同42%)がきわめて高い競争率(低い選定率)になっており、高エネルギーX線による光電子分光に対する高い要望を選定率が示すことになっています。これらに続いて選定率が低いBLは、BL13XU(表面界面構造解析・59%)、BL19B2(産業利用・56%)、BL37XU(分光分析・53%)、BL40B2(構造生物学II・53%)などとなっており、それぞれの分野に対する要求の高さを示しています。
その他委員会当日議論されたこととして、生命科学1分科よりデータ収集の高速化に対応するために最小配分シフト単位を従来の3シフトから1.5シフトとする提案があり、試行的にBL41XUにて実施することとなりました。また産業用BLで測定代行を試行的に実施する提案があり、XAFS測定の近年の動向を反映した提案と理解され、これも実施されることとなりました。
3. 2008A期の課題募集と審査
2008A期の課題選定の経過と結果の要点をまとめます。
2008A期の運転は平成20年4月から平成20年8月までです。そのうち放射光利用時間は282シフトであり、共同利用に供されるビームタイムは225シフトとされました。募集案内は10月から行われ、課題の種類に応じて11月末から12月初めにかけて募集が締め切られました。長期利用課題(2件)の面接審査は12月25日に開催されました。一方成果専有課題(26件)と成果公開・優先利用課題(13件)を除く一般課題(632件)および重点研究課題(198件)の分科会による審査は1月28日、29日(一部の分科はそれ以前に開催されました)に行われ、引き続き1月29日に第4回利用研究課題審査委員会が開催されました。総応募件数は872件であり、総採択件数は637件となり、全体としては73%程度の採択率となっています。応募総数、採択件数ともほとんど2007B期と同じでした。今期の重点研究課題(領域指定型)には2007B期の説明で述べた3種類に「拡張メディカルバイオ課題」(SPring-8利用者情報、Vol.12,No.6(2007)490)が加わりました。それぞれの課題は対応する分科で審査され、平均採択率は75%でした。
BL毎の配分結果をみますと、BL47XU(光電子分光・マイクロCT・選定率30%)とBL25SU(軟X線固体分光・同46%)が相変わらずきわめて高い競争率になっています。今回はBL02B1(単結晶構造解析・同47%)が低くなっていますが、これはBL装置の高度化作業に伴う現象と理解されます。これらに続いて選定率が低いBLは、BL08W(高エネルギー非弾性散乱・同53%)、BL09XU(核共鳴散乱・同56%)、BL37XU(分光分析・同52%)などとなっています。BL37XUも定常的に採択率が低くなっています。
長期利用課題は今回2件の海外からの応募があり、1件についてはTV会議方式の面接を行い、2件とも採択されました。1件は2008A0017課題(実験責任者:Claudia FELSER, Johannes Gutenberg-University, Mainz、実験課題名:Spin Polarized high resolution hard Xray photo emission spectroscopy SPIN HAXPES)であり、もう1件は2008A0018課題(実験責任者:Nieng YAN, Tsinghua University, Beijing、実験課題名:Structural study of Regulated Intramembrane Proteolysis)でした。FELSER課題は、近年大きな注目を集めているバルク電子状態の研究に有効な硬X線光電子分光と、スピン分解検出器を組み合わせたスピン分解高分解能硬X線光電子分光(SPIN HAXPES)を実現することを目的とした挑戦的かつ先端的な課題です。国内外の共同研究者により提案された本手法が確立されれば、磁性材料の基礎的な研究やそのスピントロニクスへの応用研究が大きく進展すると期待されます。またYAN課題は、タンパク質の膜貫通ドメインを切断する膜内在性のタンパク質分解酵素であるRhomboidプロテアーゼファミリーの構造解析を目指しています。この解析が進めばアルツハイマー病発症原因の解明にも繋がる可能性のある野心的な研究です。これらはいずれも良質な結晶を作成するのが困難な膜内在性タンパク質ですので、SPring-8を利用しての効率の良いデータ収集の必要性が十分認められました。今回提案の2課題は極めて質の高い課題と判断されました。この2課題の採択により、2008年度当初に有効な長期利用課題は、2005Bに採択された3課題(Lewis課題、雨宮課題、財満課題)、2006A期の1課題(寺崎課題)、2006B期の2課題(櫻井課題、豊島課題)、2007A期の2課題(安田課題、Cramer課題)と合わせて計10課題です。
2007年度秋には2004A期採択の長期利用課題である小賀坂課題の事後評価を行い、また寺崎課題、豊島課題、櫻井課題の中間評価を本年3月に行いました。小賀坂課題(実験課題名:飛翔体搭載用硬X線結像光学系システムの性能評価実験)は、まずX線天体観測装置の性能評価のための評価技術の開発を行い、次にそれを用いて気球観測実験搭載用装置の性能評価を行ったものです。3年間の研究を通して初期の目的を十分達成したと評価されました。次期X線天文衛星計画(NeXT)に向けて、今後も引き続きSPring-8と密接な関係を保って研究を進めてほしいとの要望が出されました。また中間評価を行った3課題はいずれも実験開始以来これまでに顕著な進展が認められました。3年目の最終年に向けて一層の成果が期待されます。
2008A期の利用研究課題審査委員会では、(私も含めて)委員の方もシステムに慣れ、また、選定課題を入力するシステムも利用しやすくなったことから、前回に比べて、委員会の効率が大幅に改善された印象がありました。
4. 利用者懇談会からの意見について
2007年10月に開催された第11回SPring-8シンポジウムに向けて、シンポジウム実行委員会はSPring-8利用者懇談会研究会代表へのアンケートを実施しました。寄せられた意見のうち課題選定にかかる部分について第4回利用研究課題審査委員会において検討いたしました。ユーザの皆様の課題選定の理解に役立つと思われますので少し詳しく説明いたします。この内初めの2点については、これまでのシンポジウムや種々の広報を通して周知済みの点でしたので、SPring-8シンポジム当日にも説明をしています。
a)「複数BLを利用したい場合、1つの申請で済むようなシステムはできないか。」
1年前の2006年度のSPring-8シンポジウムでも同様の意見があり、その後の利用研究課題審査委員会で検討済です(SPring-8利用者情報、Vol.12,No.2(2007)124)。簡単に復習しますと、複数BLを利用したい場合はBLごとに申請してください。BLごとに申請していただくのは、それぞれのBLで何がしたいのかを明確にしてもらうためです。利用研究課題審査委員会は複数BL利用の必要性を十分理解していますので、審査上不利になることはありません。複数課題採択されている実績もあります。
b)「1年課題を作ってほしい。」
2回に分けて実験を行うことに重要な意味がある課題が多い分野(BL02B1、BL04B1、BL10XU、BL27SUおよび産業利用分野)では既に実施しています。これ以外の分野で希望がある場合は具体的に申し出ていただければ検討します。なお既実施のBLで1年課題を希望する申請は現状では約10%です。
c)「不採択になった課題へのコメントは詳細にしてほしい。」
分科会でコメントを付ける際、レフェリーおよびBL担当者のコメントで参考にすべき内容があれば、出来るだけ具体的なコメントを付けることが確認されました。また、レフェリーにはなるべくコメントを付けてもらうよう依頼することにいたしました。
d)「課題審査のレフェリーは、実験手法ごとではなく、内容ごとにその専門家に審査を委託すべきである。」
現在もサイエンスごとに審査を委託していますのでこの要望は実情とはあっていません。しかし、勿論申請研究課題内容の細目まで対応したレフェリーをすべての課題に準備するのは困難です。ある程度周辺の研究者にも本筋が理解できるような記述をお願いします。
e)「ビームタイム充足率を下げても、採択率をあげてほしい。」
利用研究の実施方法に関してはいくつかの考えがありますが、この件に関しては従来通り、技術的に妥当な範囲で申請ビームタイムを尊重するという方針が確認されました。
平成19年度より委員長を務めることになりましたが、審査のプロセスに慣れないところが多く、委員の皆様と利用業務部の皆様に助けられています。SPring-8は順調に成果を上げていると思いますが、一層優れた研究成果を出すためには先導的な課題選定を行う必要があり、ピアレビューをベースにした利用研究課題審査委員会の役割がますます重要になってきます。審査にかかわる研究者・関係者の皆様の膨大なエネルギーが有効に働くよう努めていきたいと思います。
飯田 厚夫 IIDA Atsuo
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
放射光科学第1研究系(放射光研究施設)
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
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