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Volume 13, No.2 Pages 128 - 130

3. 利用者懇談会研究会報告/RESEARCH GROUP REPORT (SPring-8 USERS SOCIETY)

X線スペクトロスコピー利用研究会
Research Group of X-ray Spectroscopy Users

田中 庸裕 TANAKA Tsunehiro

京都大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Kyoto University

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1. はじめに

 X線スペクトロスコピー利用研究会(Group of X-ray Spectroscopy Users、以下GXSUsと略す)は、2006年から発足した利用者懇談会の第一期研究会の一つである。扱っているのは、X線微細構造(XAFS)法および蛍光X線法で、SPring-8一般利用課題のカテゴリーX(XAFSはXa、蛍光X線はXb)に相当する研究手法をバインダーとするグループであり、とりわけ、XAFS法が中心となっている。SPring-8利用者懇談会利用促進委員会のエネルギー環境分野に属している。

 

 

2. 設立趣旨

 XAFSは、サイエンスという観点から見ると、21世紀になっても未踏の大地が広がっているわけではなく、また、XAFS領域の研究者が解明すべきだと共通で持っているテーゼの大きなベクトルも存在しない。現在は、種々固有な現象観察と理論の精密化が行われているのである。つまり、コミュニティとしてのサイエンスの共通目標は現在ないといってもよい。一方、研究手法としてのXAFSは、物質を扱う物理学、化学、材料学はもとより生命科学、地学、環境学における必要不可欠な要素技術となっている。本研究会GXSUsは、先述したようにXAFSという研究手法をバインダーとした研究グループであり、従って、GXSUsは、共通するサイエンスでグループ化された他の研究会とその性格は異なっているものとなる。

 本研究会は、XAFSを主要な研究手段の一つとする種々の、科学者、技術者によって構成されており、会員の多くはエンドユーザーである。主な、活動目標は、会員個人の持っているサイエンス、テクノロジーを、XAFSを通して円滑に発展させる事や支援する事、また、潜在的ユーザーを発掘し新たなサイエンスをXAFSに持ち込み、SPring-8ユーザーの健全な発展を促す事である。研究会を通して、エンドユーザー、施設担当者、XAFS専門家が忌憚なく情報交換することをその趣旨においている。

 現在のGXSUsの主要キーワードは、in situ、時分割、空間分割であり、施設関係者ならびにユーザーの努力によって、これらのキーワードに関連した実験が容易に行われるようになってきたのは、大変喜ばしい事である。

 

 

3. 活動内容

 2006、2007年度の代表は田中庸裕(京大工学研究科)、副代表は高岡昌輝(京大工学研究科)、SPring-8担当は宇留賀朋哉(JASRI)、谷田肇(JASRI)である。2007年から庶務として寺村謙太郎(京大次世代)が加わった。JASRIから3名、産学から3名の幹事がいる。

 

2006年度

 第一回の研究会は、2006年9月に福岡大学で開催された第9回XAFS討論会に会場をお借りする形で開催された(9月2日)。図1の写真はその旗揚げの様子である。田中代表から、研究会の趣旨説明があり、宇留賀氏から、XAFS関連のビームラインのステータスと今後の予定等の説明があり、石井真史氏(当時JASRI)より、キャパシタンスXAFSの報告、寺田靖子氏(JASRI)より、マイクロビームを用いた生体分光、XAFSについての講演があった。尚、同討論会においては、寺田氏は特別講演講師にも招かれている。

 

 

図1 第一回研究会(福岡大学)

 

 

 2006年11月1日、2日に開催されたSPring-8シンポジウムにポスター発表で参加した。

 また、高エネルギー加速器研究機構で開催された日本XAFS研究会・Photon Factory主催のXAFS講習会にPF懇談会とともに後援団体として参加した。同様に、キャンパスイノベーションセンター東京地区で開催された、JASRI主催・SPring-8利用推進協議会「産業利用研究会」共催のSPring-8講習会「産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析」に後援団体として参加した。

 

2007年度

 第一回に続く次の研究会は、2007年7月にJSTイノベーションプラザ北海道で開催された第10回XAFS討論会のユーザーズミーティング(7月25日)に協力する形で実施され、宇留賀氏より施設報告があり、その後松村大樹氏(原子力機構)により、BL41XUでのミリ秒時分割Quick XAFSのユーザー報告があった。この研究会は、GXSUsの主催ではないので、研究会の回数にはカウントしない。なお、第10回XAFS討論会においては、同討論会特別講演として発光材料デバイスのXAFSならびにマイクロビームを用いた研究に関する講演として宮嶋孝夫氏(ソニー)が招待されている。

 第二回研究会は、10月29日、30日に開催されたSPring-8シンポジウムに合わせて開催された。代表挨拶、施設報告のあと、2件の報告講演があった。一件目は奥村和氏(鳥取大)による、in situ時分割XAFS(QXAFS)の講演であり、固体触媒上での貴金属の還元、酸化による、凝集と分散を詳細に扱ったものであった。二件目は、今井英人氏(NEC)による、in situ時分割XAFS(DXAFS)の講演であった。燃料電池の白金触媒の劣化を扱ったものである。

 2006年度と同様に、SPring-8シンポジウムにはポスタープレゼンテーションを行った。

 第三回研究会は、2008年1月18日(金)、京都リサーチパークにおけるSPring8講習会に合わせて開催された。代表挨拶、副代表による利用者懇談会拡大評議員会報告、施設報告のあと、3件の報告講演があった。一件目は、Paul Fons氏(産総研)による講演で、磁気記録媒体の記録機構についてXAFS、光学スペクトルによる結果の概略を話していただいた。局所的にレーザー光を当てる事によって、結晶−アモルファスの転移が10ナノ秒の間に起こるわけであるが、その転移のダイナミクスをリアルタイムで観察するストラテジーについて現在進行中の研究から講演された。二件目は、高岡昌輝氏(京大院工)による、ゴミ焼却場から出る飛灰中の重金属の化学状態分析と銅を触媒とするダイオキシン発生機構に関する講演である(図2)。特に、銅触媒に関するダイオキシン発生機構については、SPring-8、京都大学からのプレスリリースに加え、毎日、朝日、日経、京都の各紙が採り挙げたものである。三件目は、寺村謙太郎氏(京大次世代)による、固体懸濁液中の粉体表面に形成するナノ結晶の形成過程をin situ DXAFSで追跡したものであった。これについては、後述する。

 第三回研究会と同じく京都リサーチパークで開催された、JASRI主催・SPring-8利用推進協議会「産業利用研究会」共催のSPring-8講習会「産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2」に後援団体として参加した。

 

 

図2 第三回研究会(京都リサーチパーク)

 

 

4. 懸濁液粉体表面での微小金属形成

 最後に、最近のトピックスを一つ紹介させていただいて筆を擱くことにする。これは、第三回研究会における寺村氏の発表を要約したものである[1][1] K. Teramura et al.: J. Phys. Chem. C, submitted.

 一時、大きく注目を集めた材料として、酸化チタン光触媒がある。この光触媒は、助触媒として貴金属で修飾する事により、高活性化される事はよく知られている。貴金属修飾の方法としては、光電着法が最も効果的で、科学的根拠はともかくとして、酸化チタン上にナノ粒子が選択的に形成されるという特徴を持っている。

 光電着法とは、犠牲剤と呼ばれるアルコールや酢酸などの親水性有機物の水溶液に貴金属塩を溶解し、酸化チタン粉末を懸濁させ、光照射を行い、酸化チタン表面に金属ナノ粒子を析出させる方法である。酸化チタンへの光照射により生じた正孔は犠牲剤を酸化し、励起電子は金属イオンを還元する。光電着法によるこのナノ粒子形成過程については永らく調べる方法がなかったが、寺村氏は、BL28B2のDXAFSによって懸濁する固体微粉末上での金属ナノ粒子形成過程に迫る事に成功した。

 図3は、測定に供した懸濁液である。メタノール水溶液に塩化ロジウムを溶解させ酸化チタン粉末を懸濁し続ける。上方から紫外線照射を行い、懸濁液側面からX線光路が通過する。常に窒素パージを行いながら測定されている。これは酸素が混じると、金属イオンのかわりに酸素が還元され、有機物の酸化ばかりが進行するからである。

 

 

図3 光電着懸濁液

 

 

 図4に、懸濁された酸化チタン上に形成するロジウム金属のEXAFSフーリエ変換強度(Rh-Rh散乱ピーク高さ)の時間変化を示す。興味深い事に、ピーク高さは、光照射時間に比例して増加しており、途中で一定となる事である。一定になった時点で懸濁液中のロジウムイオンは消費され、すべて、ロジウム金属に還元されている。このときのピーク高さはロジウムバルク金属の80%程度で、3ナノメートル程度の微粒子が生成している事が分かる。ピーク高さ(つまり配位数)が照射時間に比例して増加する事から、粒子が時間成長するのではなく、均一な微粒子が時間とともに増えて行く事を表している。測定の1ショットが0.267秒であるので、金属イオンの還元による粒子成長は、少なくとも100ミリ秒以下で生じている事が分かる。つまり、光電着法とは、短時間で3ナノメートル粒子が成長し終わり、時間経過とともに均一な粒子数を増加させる手法であることが見出されたのであった。

 

 

図4 Rh-Rh散乱ピーク強度の時間変化

 

 

5. おわりに

 本稿が読者諸賢の目にとまる頃には、第一期研究会が終了する頃となる。X線スペクトロスコピー利用研究会は、引続き第二期を継続申請する予定である。XAFS、蛍光X線をご利用の懇談会会員の皆様は、どうぞ、ご入会いただきたい。

 

 

 

参考文献

[1] K. Teramura et al.: J. Phys. Chem. C, submitted.

 

 

 

田中 庸裕 TANAKA Tsunehiro

京都大学大学院 工学研究科 分子工学専攻

〒615-8510 京都市西京区京都大学桂

TEL:075-383-2558 FAX:075-383-2561

e-mail : tanakat@moleng.kyoto-u.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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