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Volume 13, No.2 Page 82

理事長の目線

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 Director General of JASRI

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 年が明けて1月に、供用10周年記念の行事の一環として、産業利用講演会が東京で行われた。今回は、産業利用の先導的ユーザーである会社の責任者に講演をお願いし、経営戦略にかかわるような方に多数招待状を送った。その招待に対して、10周年のご祝儀的な意味もあろうが、代理を含めて83名の出席者があり、それ以外の関係者を加えて聴衆は全部で約120名程度であった。

 

 講演はどれも大変面白かった。聞き終わったあと、これは産業界の指導者だけでなく、SPring-8の学術利用者やJASRIの研究者・技術者にも一度聞いてもらいたい、という思いが強く湧いてきた。参会者からも同じ感想を聞いた。秋に行われた10周年記念式典の時も、産業利用に関する報告を聞いて、何人かの学術関係者が、予想以上にしっかりやっている、という驚きの念をこめた感想を述べていたが、今回は、各事業分野の世界的展望から始まって、その中におけるSPring-8の利用の話が、具体的な成果の紹介と将来展望という形で提示されたので、印象はもっと強かった。産業利用はいつの間にか私の想像を超えた水準に達していたのである。強い関心を持って推進してきた私がそう感じるくらいであるから、無関心であった多くの学術利用者もきっと驚くのではなかろうか、というのが私の素朴な感想である。ついでにいえば、素直に驚いて欲しい、というのが私の願いである。

 

 これまで産業利用を軌道に乗せるために、JASRIは、産業利用支援室を利用促進部門から独立させるという無理な運営をしなければならなかった。しかし、学術と産業の利用がこのような形で分かれているのは過渡的な姿であって、本来は学術も産業も同じ枠の中にあって相互に影響しあいながら発展するのが望ましいことはいうまでもない。産業利用が力をつけ、周囲への説得力を持ってきたことによって、学術側の理解と共感を得て、学術との融合へ大きく近づいたように思う。そのための第一歩として、ここに述べた10周年記念産業利用講演会のような内容のものを、学術関係者を対象として行うことは有意義ではなかろうかと思う。

 

 このような時期に、学術のリードの下に企業体が集まり、より高度な成果をあげることを目指してフロンティアソフトマター開発産学連合体が発足し、この新しい形を具現するための専用ビームラインの建設の準備に取りかかっている。これこそ産学が共通に利用するSPring-8のあるべき姿の一つと思うので、大いに期待しているところである。過去の経緯を乗り越えて、お互いを認め合った協力関係を作り出すのに、機は熟してきていると私は感じる。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794