Volume 13, No.1 Pages 71 - 76
7. 告知板/ANNOUNCEMENTS
2007年におけるSPring-8関係功績の主な受賞
Award-winning Achievements on SPring-8 in 2007
2007年一年間に、SPring-8関係の研究で受賞した主な功績を以下に紹介します。
「加速器学会奨励賞」を財団法人高輝度光科学研究センター 冨澤宏光副主幹研究員が受賞
加速器学会では、主として若手研究者を対象とし、特に主体性、意欲が顕著と認められる、加速器の物理および技術に関する優れた研究(博士論文を含む)に対して奨励賞を授与している。
受賞者紹介
冨澤 宏光 財団法人高輝度光科学研究センター 加速器部門 副主幹研究員
功績名:フォトカソードRF電子銃の高安定化・高性能化に関わる技術開発
冨澤氏は、フォトカソードRF電子銃の研究において、極低エミッタンス電子ビームの実現と評価において必要不可欠な3つの成果を挙げた。
1. レーザー光源の長期安定化と3次元パルス形状制御技術の開発。このうち、「透過型カソード用ファイバーバンドル3次元パルス整形技術」の発明では特許を取得。
2. 化学エッチングによる表面処理によるRF電子銃空洞の世界最高カソード表面電界190 MV/mを実現。これによりRFエージング時間の大幅短縮が実現した。
3. 電子銃空胴内のエージング状態を残留ガス元素から分析する放電分光装置の開発と電子銃空胴内の残留ガス元素分析方法を確立した。
これらの研究成果は、米国、欧州、ロシア、アジア等の第一線の加速器・レーザー研究者等から非常に高く評価され、特に「3次元パルス形状制御技術」は、国内外の研究機関ですでに採用、あるいは採用見込みとなっている画期的な技術である。また、これら研究開発において、独自のアイディアを提案し、それを自身が実験で実証し、科学技術の進展にとって最も重要な、安定性と再現性の高いデバイスを実現した。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。
「第5回ひょうごSPring-8賞」を株式会社東芝 佐野雄二技監が受賞
ひょうごSPring-8賞とは、SPring-8における様々な成果の中から、社会経済全般の発展に寄与することが期待される研究成果をあげた方々を顕彰し、SPring-8についての社会全体における認識と知名度を高めることを目的として平成15年度より兵庫県が設置した賞である。
受賞者紹介
佐野 雄二 株式会社東芝 電力・社会システム技術開発センター 技監
功績名:レーザーピーニング衝撃法による材料改質の研究-安全性向上への寄与-
時間幅が数ナノ秒でピーク出力の高いレーザーパルスを水中の材料に照射すると、材料の表面に高圧のプラズマが発生する。そのときの衝撃作用を利用して材料表面の改質処理を行う技術がレーザーピーニングである。処理により材料の表面には圧縮の残留応力が形成されるため、応力腐食割れ(SCC)や疲労によるき裂の発生とその進展が抑制される。佐野氏が行った研究では、SPring-8の高輝度・高エネルギーで透過性の高いX線を使用することにより、レーザーピーニング処理した材料の残留応力の深さ分布を非破壊で測定した。それにより、レーザーピーニング処理の効果を検証するとともに、適正な処理条件を確立した。また、SPring-8の平行なX線を使用した断層撮影(CT)を行うことによって、疲労き裂の3次元形状とその進展の様子を非破壊で確認した。その結果、レーザーピーニング処理した材料では疲労によるき裂の進展が大幅に抑制されることを確認した。レーザーピーニングは、既に国内の原子炉への適用が進められているが、航空機や自動車部品、橋梁などへの応用も検討されている。また、海外の原子炉への適用も期待されている。この功績が高く評価され、今回の受賞となった。
授賞式は12月21日に兵庫県公館において行われた。
「N. L. Bowen Award」を東北大学大学院 大谷栄治教授が受賞
実験岩石学の権威であるN. L. Bowenの名を冠したこの賞は1981年に創設され、火山学・地球化学・岩石学の分野において優れた業績のある研究者に授与される賞で、毎年1~2名が選ばれている。
受賞者紹介
大谷 栄治 東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 教授
功績名:地球深部条件における地球物質(特にメルト)の物理的・化学的性質
(Physical and chemical properties of Earth materials(particularly melts)underdeep Earth conditions)
地球内部のマントルに存在する水は、マントルを構成する珪酸塩鉱物の物理・化学特性に大きく影響を及ぼすため、地球深部物質を研究する上で欠かすことのできない非常に重要な要素である。
大谷教授のグループは、SPring-8の高輝度X線回折を用いた高温高圧下における含水珪酸塩鉱物の実験的研究により、マントル構成鉱物の相平衡関係および鉱物の相転移に及ぼす水の影響を解明し、地球内部の水の挙動について明らかにしてきた。また同グループはX線吸収法を用いて、珪酸塩マグマおよび鉄合金融体の高温高圧下における密度を精度よく測定することにも成功し、メルトの密度に対する温度・圧力の効果についても解明している。
大谷教授が長年にわたって取り組んできた超高温高圧下における地球内部物質の物理的・化学的性質に関する研究により、地球内部における水・マグマの果たす重要な役割が明らかとなった。その中でも特に放射光X線を用いた含水鉱物の相平衡関係と珪酸塩メルトの物性測定といった先駆的な研究が国際的に高く評価され、今回の受賞となった。
なお、大谷氏は、この賞における日本人として初の受賞者である。
授賞式と受賞講演は2007年12月にサンフランシスコで開催されるAGU fall meetingで行われた。
過去掲載分
平成19年度「文部科学大臣表彰・科学技術賞(開発部門)」を独立行政法人理化学研究所 石川哲也放射光科学総合研究センター長が受賞
受賞者紹介
石川 哲也 独立行政法人理化学研究所 播磨研究所放射光科学総合研究センター長
功績名:大型放射光X線光学系の開発
詳細は2007年7月号(Vol.12, No.4)の343ページをご覧ください。
「本多記念研究奨励賞」を財団法人高輝度光科学研究センター 中村哲也主幹研究員が受賞
受賞者紹介
中村 哲也 財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 主幹研究員
功績名:放射光を用いた新しい磁気測定に関する研究
詳細は2007年7月号(Vol.12, No.4)の343ページをご覧ください。
「アレキサンダー・フォン・フンボルト研究賞」を愛媛大学 入舩徹男 地球深部ダイナミクス研究センター長が受賞
受賞者紹介
入舩 徹男 愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター長
詳細は2007年7月号(Vol.12, No.4)の344ページをご覧ください。
「平成18年度高分子学会賞」を京都大学化学研究所金谷利治教授、名古屋大学大学院工学研究科 松下裕秀教授が受賞
受賞者紹介
金谷 利治 京都大学 化学研究所 教授
功績名:高分子結晶化と高次構造形成機構の精密解析と制御
受賞者紹介
松下 裕秀 名古屋大学 大学院工学研究科 教授
功績名:複合高分子の精密分子設計と階層的多相構造制御
詳細は2007年7月号(Vol.12, No.4)の345ページをご覧ください。
「日本物理学会第12回論文賞」を独立行政法人日本原子力研究開発機構 野村拓司研究員が受賞
受賞者紹介
野村 拓司 独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門
放射光科学研究ユニット放射光量子シミュレーショングループ 研究員
論文(功績)名:Perturbation Theory of Spin-Triplet Superconductivity for Sr2RuO4
詳細は2007年11月号(Vol.12, No.6)の515ページをご覧ください。
「日本物理学会第1回若手奨励賞」を大阪大学大学院基礎工学研究科 関山明助教、財団法人高輝度光科学研究センター 鈴木基寛主幹研究員、独立行政法人日本原子力研究開発機構 服部高典研究員、妹尾仁嗣研究員が受賞
受賞者紹介
関山 明 大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻物性物理工学領域 助教
功績名:バルク敏感光電子分光の開拓と強相関物質電子状態の解明
受賞者紹介
鈴木 基寛 財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 主幹研究員
功績名:X線円偏光変調法による磁気分光法の開発とナノスケール磁性体への応用
受賞者紹介
服部 高典 独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門
放射光科学研究ユニット放射光高密度物質科学研究グループ 研究員
功績名:放射光を用いた高圧下におけるX線回折手法の開発および液体・結晶の精密構造解析
受賞者紹介
妹尾 仁嗣 独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門
放射光科学研究ユニット放射光量子シミュレーショングループ 研究員
功績名:分子性導体における電荷秩序の理論研究およびその物性の系統的理解の探求
詳細は2007年11月号(Vol.12, No.6)の515ページをご覧ください。
「第21回日本IBM科学賞」を東京工業大学 廣瀬敬教授、財団法人高輝度光科学研究センター 佐々木裕次主幹研究員が受賞
受賞者紹介
廣瀬 敬 東京工業大学大学院 理工学研究科 地球惑星科学専攻 教授
功績名:ポストペロフスカイト相の発見と地球コア・マントル境界域の研究
受賞者紹介
佐々木裕次 財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 主幹研究員
功績名:X線1分子追跡法の考案とその融合領域への応用
詳細は2007年11月号(Vol.12, No.6)の517ページをご覧ください。