Volume 13, No.1 Page 13
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
平成20年度に指定されたパワーユーザーの紹介
A Newly Designated Power User FY 2008
平成15年度より導入したパワーユーザー制度について、従来のパワーユーザー指定制(非公募)から、平成20年度より全てのユーザーに対しパワーユーザーになり得る機会を設ける公募制に変更しました。今回の応募に対して、パワーユーザー審査委員会で審査の結果、次の方がパワーユーザーに指定されましたので、紹介いたします。
利用者指定型に指定するパワーユーザー(平成20年度)
1. 氏名(所属)
小賀坂 康志(国立大学法人名古屋大学)
2. 期間
平成20年4月1日から平成24年度末まで
3. 主題
研究テーマ:次世代X線天文学に資する、X線望遠鏡システム評価技術の開発
装置整備:X線天体観測装置の評価技術の高度化
利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援
4. ビームライン:BL20B2
5. 概要
硬X線領域(10~100 keV)における光学系による撮像観測研究は、次世代天文学の大きな柱の一つであり、2010年代の衛星計画実現に向けて国際的な開発競争が展開されている。我が国は2013年打ち上げのNeXT衛星計画を推進しており、世界に先駆けて硬X線撮像観測の実現を目指している。
こうした背景をふまえ、BL20B2の新しい利用技術として、長期利用課題「飛翔体搭載用硬X線結像光学系システムの性能評価実験」(2004A~2006B)において開発・確立した実験技術の基盤化を行い、我が国の次期X線天文衛星プロジェクトNeXT計画に搭載予定のX線望遠鏡システムの性能評価研究を推進する。
さらに、当該ビームラインを我が国のみならず海外の宇宙開発研究のための放射光利用拠点とするべく、パワーユーザーグループを組織して、先導的利用研究を展開する。これにおいては、X線天体観測装置の特性評価実験を行うユーザーに対して支援を行い、この分野における新規放射光利用を開拓促進する。また、評価技術の高度化のための研究開発を、新規開拓したユーザーと協力して行う。
硬X線撮像観測装置開発の分野では、較正実験の標準施設というものが存在しない。今後、各国が衛星搭載装置を開発するにあたって、性能評価の標準技術を整備提供することで、次世代のX線天文学研究へ大きく貢献することが期待できる。
6. パワーユーザー審査委員会での評価コメント
本申請は、我が国の次期X線天文衛星プロジェクトNeXTに搭載予定のX線望遠鏡システムの性能評価実験を中心に、BL20B2ビームラインを我が国のみならず海外の宇宙開発研究のための放射光利用拠点とすることを視野に入れた、大変特色のあるものである。硬X線を対象としたX線望遠鏡システムの評価技術は、次期X線天文衛星プロジェクトNeXTのみならず、次世代X線天文学にとっての基幹技術である。第3世代放射光源SPring-8は、この様な次世代X線天文学にとっての基幹技術開発に最も適したX線光源であることは、疑問の余地はない。実際に、実験責任者は、この事実に気が付きこれまで2004A期から2006B期に亘る期間、長期課題として「飛翔体搭載用硬X線結像光学系システムの性能評価実験」を遂行し、個別研究としての成果を挙げている。この長期課題により、硬X線を対象としたX線望遠鏡システムの評価技術にとって、SPring-8が極めて優秀な光源であることが実証されている。
パワーユーザー利用研究課題として見たときに、本申請は、(1)科学的技術的妥当性については、硬X線天文学推進に重要な貢献が期待できることから、非常に高く評価できる。また、(2)PUとして長期に利用する研究目標及び研究計画は、NeXT計画との関連も明確で、問題がないものと判断できる。
実験ステーション設備の観点からは、(1)装置の扱いの習熟度に関しては長期課題の経験があるので、十分な習熟度があるものと思われる。(2)装置開発の協力に関しても、長期課題の経験から判断して、問題がないものと思われる。
利用研究の拡大・推進の観点からは、(1)利用研究の推進・拡大に関しては、X線天文学という一分野での基幹技術であるので、科学者の数と言うような量的な部分で判断すれば、限定的なものがあるかもしれないが、その分野の研究者がほとんど全て利用するかどうかと言う質的な見方をすれば、可能性は非常に大きいものと判断できる。技術の基盤化と拠点形成と言う言葉にそれが表れている。現在、マックス・プランク研究所のPANTERが、いわば「硬X線較正標準施設」となっているようであるが、光源の性質としては、SPring-8の方が優れていることは、純粋科学的に判断して間違いがないので、是非、世界標準になるように努力して欲しい。(2)ユーザー支援に関しては、技術的側面からは問題がないものと思われる。
その他、(1)平和利用、技術的実施可能性、安全性に関しては、全く問題がないものと判断できる。