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Volume 12, No.5 Pages 391- 397

2. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

複合高分子の精密分子設計と階層的多相構造制御
Precise Molecular Design of Complex Polymers and Morphology Control of Their Hierarchical Multiphase Structures

松下 裕秀 MATSUSHITA Yushu

名古屋大学大学院 工学研究科 Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Nagoya University

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1.はじめに
 非相溶系#1#1 非相溶系
 長鎖状の高分子物質2種類を混ぜようと試みる場合、その構成要素(セグメント)の空間配置に制限が加わり、低分子物質の混合系と比べて混合エントロピーの得が著しく小さいために混ざり合うことは希である。このような混合系を非相溶系とよぶ。
のブロック共重合体等の複合高分子ではナノメートルレベルでの階層的な周期的自己組織化構造を示すため、それらの分子は様々な機能材料としての期待を集めている。私たちの研究グループでは高分子複合凝集系の構造形成とその制御を目指し、特に異種高分子の結合性すなわちトポロジカルな拘束が凝集体としての構造におよぼす効果ついて研究している。本稿では、2-1.3成分多元ブロック共重合体からの階層構造構築及び 2-2.星型共重合体の二次元タイリングパターン 2-3.ブロック共重合体の複合化により生まれる新しい高次構造、の3つについての研究成果を紹介する[1][1]Y. Matsushita : Macromolecules, 40 (2007) 771.


2.試料調製と構造観察
 試料はアニオン重合を基盤に合成した。複合高分子構築の高分子成分としてはpolystyrene(S)、polyisoprene(Ⅰ)、poly(2-vinylpyridine)(P)、及びpoly(4-hydroxystyrene)(H)の4種を用いる。以下これらは、S、I、P、Hと略す。試料フィルムは、希薄溶液からの溶媒キャスト/熱処理により得た。試料の内部構造観察は、透過型電子顕微鏡(TEM)とマイクロビームX線小角散乱を併用して行った。TEM実験では、試料フィルムをオスミウム酸でバルク染色し、ミクロトームで切り出した約50nm厚の超薄切片を加速電圧100kVの下で観察した。またX線小角散乱実験では、約30µm厚に切った切片を試料とし、SPring-8のビームラインBL40XUにて構造観察を行った。使用X線のエネルギーは12.4keV(波長0.1nm程度)であり、試料位置のビームサイズは直径約5µm、カメラ距離は約300mmある。X線イメージインテンシファイア(浜松フォトニクス)とCCDカメラを組み合わせて試料からの回折強度を検出した。


2-1.3成分多元ブロック共重合体からの階層構造構築
 3成分6元及び11元ブロック共重合体のフィルム状試料の構造をその断面方向から観察した[2,3][2]J.Masuda et al.: Phys. Rev.Lett., 97 (2006) 098301.
[3]J.Masuda et al.: Macromolecules, 40 (2007) 4023.
。 11元ブロック共重合体は、PISISISISIPのつながりを持ったもので、中央のI、Sブロックの鎖長は短く一定とし、両端のPブロックの長さを変数とする分子設計をした。また、6元ブロック共重合体はPISISIで表され、11元と同様にPのみの鎖長を変えた。6元分子を2分子線状につなげたものが11元分子という関係にある。
 図1に11元((a),(b),(c))及び6元((d),(e),(f))のTEM写真6種を比べる。写真(a),(b),(c),(d),(e),(f)各々の試料中のPの体積百分率は8%、21%、53%、64%、75%、88%である。オスミウム酸染色のため、Ⅰ相が最も濃く、P相が中間コントラストとして得られる。(a)ではI、Sが作る交互ラメラ状のマトリックス中にPの孤立球状ドメインが浮かんだ構造である。また(b)はやはりI−S交互ラメラのマトリックス中にPのシリンダーが六方充填した構造である。これに対して(c)はPの厚いラメラとⅠ(黒)3層、S(白)2層からなる合計5層の薄いラメラが1つの繰り返しを作った二重周期ラメラ構造である。SAXSより、長い周期は88nm、SIを単位とした短い周期は16nmと求められている。この構造の特徴は、高分子のミクロドメインとしては長距離秩序が非常に良くラメラの配向性が著しく高い事があげられる。また(d)では(c)と類似の二重周期ラメラ構造が見られるが、ブロック数の減少に対応して薄いラメラは3層に減っている。また(e)ではI、Sが同心軸をもった柱状薄層ドメインを形成し、Pのマトリックス中に六方充填している。(f)ではI、Sが同芯をもった球状薄層ドメインを形成し、Pのマトリックス中に浮かんでいる。図1を総合して見ると、P相はその体積分率が増すに連れ、球、柱、ラメラ、マトリックスと形状転移している。この転移様式は、AB、ABAなどの単純なブロック共重合体と同様である。但し、本研究で観察した多元ブロック共重合体では、I−Sは常に交互ラメラ状ドメインを作り、階層的な二重周期構造を保っているのが大きな構造上の特徴となっている。




図1 3成分11元(a,b,c)及び6元(d,e,f)ブロック共重合体の組成変化にともなうモルフォロジー変化。P成分の体積百分率は(a)8%(b)21%(c)53%(d)64%(e)75%(f)88%である。 


2-2.ABC星型共重合体の二次元タイリングパターン
(1)アルキメデスタイリング
 一点から3種の異なる高分子成分が分岐する共重合体を設計すると、結合点は線上にしか配列できないため、図2のように異方性を持った棒状構造が作られやすく、これまでにない新しい構造構築/材料設計が可能となる。構造解析は 棒状構造の断面の模様、すなわち二次元平面に敷き詰められたタイルの充填様式を調べることに帰着される。正多角形のみで作られる二次元規則タイリングとしては、図3に示すような12種の「アルキメデスタイリング」#2#2 アルキメデスタイリング
 2次元平面を正多角形のみで規則的に敷き詰める様式。アルキメデスの時代の幾何学を天文学者のKevlar がまとめたとされ、12種類のみしか存在しない事が知られる。例えば図3の上段左端のように正3角形のみで作られるものは、どの頂点の周りにも6個の3角形があるように、一つのタイリングでは、頂点の周りの環境はすべて同じである。
が知られる[4][4]B.Grünbaum and G.C.Shephard :"Tilings and Patterns"Freeman




図2 (a)ABC星型共重合体の分子内相分離の様子と(b)バルクの集合状態





図3 12種のアルキメデスタイリングの比較


 ここでも3種の高分子成分としてI、SとPを選び、3分岐ポリマーを調製した。まずI、Sの長さを固定してPの鎖長を変数としたシリーズI1.0S1.0PYの3種の星形分子がバルクのフィルム状態で作る構造を調べた。図4には、TEM観察像を比べる[5,6][5]A.Takano et al.: Macromolecules 37 (2004) 9941.
[6]A.Takano et al.: J.Polym.Sci.Part B Polym.Phys. 43 (2005) 2427.
。どれも正偶数多角形のみから構成されるタイリング構造が見られる。例えば、図4(a)では3つの高分子が作る黒、白、灰の領域(ミクロドメイン)がどれも6角形であり、すべての頂点の周りには3種の6角形ドメインが配置されるので(6.6.6)とよぶ。同様に(b)、(c)は(4.8.8)、(4.6.12)構造である。すべての構造に対して放射光X線を用いた散乱実験を行った。図5にはそれらの一例として(4.6.12)構造のマイクロビームSAXSパターンおよび対応する実格子模型を示す。図5(a)には、低角領域に6個の一次散乱スポットが見られる。解析の結果、図5(b)のように、六方格子からは幾分歪んだ格子定数が得られている。このように星型共重合体ではアルキメデスタイリングのような二次元規則タイリングを作りやすいことが分かる。




図4 I1.0S1.0PX からのアルキメデスタイリング(a)I1.0S1.0P0.7(b)I1.0S1.0P1.2,(c)I1.0S1.0P1.9



図5 (a)I1.0 S1.0 P1.9のマイクロビーム SAXS パターン(b)回折像に対応する実空間模式図


 次にI,Pの長さを固定してSの鎖長を変数としたシリーズI1.0SYP2.0のTEM観察結果を図6に示す。図6(a)では図4(c)と同様の(4.6.12)が、図6(d)ではドメインの役割は違うものの、タイリングパターンとしては図4(b)で見られたものと同類の(4.8.8)が各々見られる。一方、図6(b)(c)はこれらよりもさらに複雑な規則性を持っていて、単純なタイリング様式でないことは明らかである。これらの試料のSAXSパターンを図7に比べる、図7(a)はきれいな6回対称のパターンを示している。詳しい解析の結果、図7(b)に模式的に示した実空間像で表されるP6mmの対称性を持つ構造であることが分かっている。この構造では、Sは6角形1種のみだが、I(4角形と6角形)、P(8角形と12角形)は2種のドメインを持つことが特徴である。図6(c)の構造を持つ試料I1.0S2.3P2.0は、図7(c)に見られるSAXS パターンを示す。この回折パターンの解析から図7(d)に示した複雑な規則構造であること分かったが、ミクロドメインへの直接のタイリングではうまく対称性を表現できない。そこで図8(a)のように6角形、8角形の2種のSドメインに大きな3角、4角を乗せてタイリングしてみると規則性が明らかになった。すなわち、この構造では3角、4角が集まるすべての頂点は、3角−3角−4角−3角−4角で囲まれ、しかも図6(c)の下段模式図に赤の波線で示したように結晶としての繰り返しを持っている。その結晶空間群はP4gmで表され、(3.3.4.3.4)構造と言われるアルキメデスタイリングの1種であることが確かめられた。この構造では架空の3角/4角の比は丁度2であることが知られる[7][7]K.Hayashida et al.: Macromolecules 39 (2006) 9402.




図6 I1.0 SY P2.0シリーズのTEM像(上段)と模式図(下段)
(a)I1.0 S1.3 P2.0 (b)I1.0 S1.8 P2.0 (c)I1.0 S2.3 P2.0 (d)I1.0 S2.7 P2.0




図7 (a)I1.0 S1.8 P2.0 のマイクロビーム SAXS パターンと(b)実空間模式図(c)I1.0 S2.3 P2.0 のマイクロビーム SAXS パターンと(d)実空間模式図。


(2)12回対称準結晶築
 (3.3.4.3.4)構造観察の過程でI1.0S2.3P2.0とは少し異なる組成を持つ試料から、図7(c)の12個に相当する回折スポットが丸みを帯びてくる兆候が見られた。そこで、試料の組成をもっと細かく変化させてタイリングを研究したところ、試料I1.0S2.7P2.5から図8(b)に示す TEM像が得られた[8][8]K.Hayashida et al.: Phys.Rev.Lett. 98 (2007) 195502.。図8(b)にも図8(a)と同様の間接タイリングを施した。その特徴は3角形が6枚集まる部分が見られることであり、規則性は図8(a)とは明らかに異なるが、実空間観察による解析のみでは限界がある。そこでマイクロビームの回折パターンを図9に示す。図9の小角領域の回折点は、ほぼ等間隔に12個見られ、12回対称準結晶の特徴を示している。そこでさらに図10に示すような、広範囲のTEM図の解析を行った。この図には661個の3角形と4角形が書かれており、3角/4角の比は461/200=2.305である。この解析値が準結晶の理論値4/√3=2.309に非常に近い事からも、観察像は12回対称準結晶の特徴を持っていることが裏付けられた。




図8 (a)(3.3.4.3.4)アルキメデスタイリング(I1.0 S2.3 P2.0)、(b)準結晶タイリング(I1.0 S2.7 P2.5)。




図9 12回対称マイクロビーム SAXS パターン
  (I1.0 S2.7 P2.5





図10 I1.0 S2.7 P2.5 の広範囲TEM像と三角/四角タイリング

 このような準周期性を持つ構造は、これまでに合金やデンドリマー#3#3 デンドリマー
 一般に有機物で作られる3次元球状分子で、分子の中心から一定の距離毎に繰り返し枝分かれ(3分岐が多い)した分岐高分子。一定の化学結合を基本としているので原則として、分子の構成単位が等しい単分散性を示す。
など基本構成単位が比較的小さな他の物質系では見られているが、ポリマーでは初めて観察された。物質間での階層性が表れた顕著な例である。


2-3.ブロック共重合体の複合化により生まれる新しい高次構造
 ブロック共重合体の構成成分間に選択特異的な相互作用が働けば、これまでにない構造の構築とその制御が期待できる。ここではポリ(2−ビニルピリジン)(P)のピリジン基とポリ(4−ヒドロキシスチレン)(H)のヒドロキシル基の間に働く水素結合を利用した構造構築を試みた。

 2種類のブロック共重合体IP(I/P=9/1),SB(S/B=9/1)(B:ポリ4−ブトキシスチレン)を用意し溶媒中で1:1で混合したのちに溶媒蒸発/バルクフィルム調製の方法で試料を得た。電子顕微鏡観察の結果を図11(a)にのせる。マクロスケールの相分離が見られる。次いで、SBのB部を塩酸処理することによってポリ(4−ヒドロキシスチレン)Hに転換、IPとSH(S/H=9/1)を1:1で混合して、同様にフィルムを作成した。その構造観察結果を図11(b)に比べるが、図11(a)とは全く異なる構造が見られる。これは、PとHが水素結合相互作用により混合相を作り、それが巨大な結合点の役割を果たしているからである[9][9]T.Asari et al.: Polym.J. 38 (2006) 258.




図11 水素結合相互作用によるブロック共重合体の自己組織化構造の変化
(a)非相互作用系ブレンド (b)相互作用系ブレンド

 さらに2成分3元ブロック共重合体PIP(I/P=9/1)も用意し、SH(S/H=9/1)との混合物 PIP/SH=2/1の構造を観察した[10][10]T.Asari et al.: Macromolecules 39 (2006) 2232.。図12(a)は試料の超薄切片をオスミウム酸(Ⅰを強く染色)で染色したものであり、6角形のドメインが六方充填した構造が観察できる。またb)はヨード(Pを選択的に染色)染色を施したものであり、P/H混合ドメインが6角ドメインの頂点部分に位置している事が明白である。この小さなドメインを結ぶと3角形、4角形、6角形からなる規則パターンが見える。これは(3.4.6.4)型のアルキメデスタイリング構造である。ここでもP−H相溶部が巨大な結合点として作用している。このように、水素結合相互作用をブロック共重合体に導入することで、これまで単独の共重合体では見られなかった新しい階層的周期構造が容易に構築できることが明らかになった。




図12 PIP3元/SH2元ブロック共重合体ブレンドの階層構造
ブレンド比:3元/2元=2/1


3.終わりに
 以上述べたように、新しい分子構築概念を持ち込むことで種々の階層的な規則パターンが次々と生まれている。ナノメートルから数百ナノメートルに及ぶ空間周期を、高分子の大きさ、結合法、混合法などの工夫で自在に操ることができる。その時、水素結合等による結合構築と解離を可逆的に制御することで、ソフト光学材料や分離材料への幅広い応用が期待されている。


謝辞
 本研究は、名古屋大学大学院工学研究科の高野敦志准教授、同研究科博士課程学生の林田研一君、浅利壮史君、野呂篤史君、永田裕君、川島渉君、増田淳君、京都大学大学院工学研究科の堂寺知成准教授との共同研究である。本実験の一部は、文部科学省科学研究費補助金基盤研究A(課題番号:17205021 代表者:松下裕秀)の実施を目的として高輝度光科学研究センターの共同利用に申請・採択された課題[課題番号: 2006A1238, 2006B1490、課題名:ABC星型共重合体により形成される自己組織化メゾスコピック準結晶構造の精密X線構造解析]のマシンタイムを用いて行われたものである。X線回折実験では同施設の井上勝晶博士、太田昇博士に大変お世話になった。また実験のセットアップなどに東京大学大学院新領域創成科学研究科雨宮慶幸教授、篠原佑也助教にはひとかたならぬお世話になった。一方TEM実験では名古屋大学100万ボルト電子顕微鏡室の荒井重勇博士の助力が不可欠であった。これらの方々にこの場を借りて深く感謝申し上げたい。


脚注
#1 非相溶系
 長鎖状の高分子物質2種類を混ぜようと試みる場合、その構成要素(セグメント)の空間配置に制限が加わり、低分子物質の混合系と比べて混合エントロピーの得が著しく小さいために混ざり合うことは希である。このような混合系を非相溶系とよぶ。

#2 アルキメデスタイリング
 2次元平面を正多角形のみで規則的に敷き詰める様式。アルキメデスの時代の幾何学を天文学者のKevlarがまとめたとされ、12種類のみしか存在しない事が知られる。例えば図3の上段左端のように正3角形のみで作られるものは、どの頂点の周りにも6個の3角形があるように、一つのタイリングでは、頂点の周りの環境はすべて同じである。

#3 デンドリマー
 一般に有機物で作られる3次元球状分子で、分子の中心から一定の距離毎に繰り返し枝分かれ(3分岐が多い)した分岐高分子。一定の化学結合を基本としているので原則として、分子の構成単位が等しい単分散性を示す。



参考文献
[1]Y.Matsushita : Macromolecules, 40 (2007) 771.
[2]J.Masuda et al.: Phys.Rev.Lett., 97 (2006) 098301.
[3]J.Masuda et al.: Macromolecules, 40 (2007) 4023.
[4]B.Grünbaum and G.C.Shephard :"Tilings and Patterns"Freeman
[5]A.Takano et al.: Macromolecules 37 (2004) 9941.
[6]A.Takano et al.: J.Polym.Sci.Part B Polym.Phys. 43 (2005) 2427.
[7]K.Hayashida et al.: Macromolecules 39 (2006) 9402.
[8]K.Hayashida et al.: Phys.Rev.Lett. 98 (2007) 195502.
[9]T.Asari et al.: Polym.J. 38 (2006) 258.
[10]T.Asari et al.: Macromolecules 39 (2006) 2232.




松下 裕秀 MATSUSHITA Yushu
名古屋大学大学院 工学研究科
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