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Volume 12, No.2 Pages 127 - 128

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

2007A採択長期利用課題の研究紹介
Outline of Long-term Proposals Approved for 2007A

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRIn

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 今期は2件の長期利用課題が採択されました。今回採択された課題の研究概要を以下に掲載します。

(1)
〔課題名〕 高時間・空間分解能X線イメージングを用いた凝固・結晶成長過程における金属材料組織形成機構の解明
〔実験責任者〕 安田秀幸(大阪大学)
〔採択時課題番号〕 2007A0014
〔ビームライン〕 BL20B2
〔3年間の要求シフト〕 80シフト

〔研究概要〕
 金属材料の多くは凝固・結晶成長プロセスにより製造されるが、製造プロセスの省エネルギー化、材料組織の高次制御などが求められている。しかし、凝固組織や欠陥の形成過程には未解決な課題がある。課題の解決には、組織・欠陥の形成機構を深く理解することが必要不可欠であり、ブレークスルー技術が求められる。組織形成過程のその場観察は、現象の理解、モデル化にもっとも有益であるが、融点が高温であり、不透明な金属材料内部のその場観察は困難であった。
 第三世代放射光SPring-8における高輝度硬X線単色光の利用により、高空間・時間分解能のその場観察が可能になりつつある。これまでに、Sn合金、Zn合金、Al合金といった比較的低融点の金属材料のその場観察を可能にした。本課題では、融点が1000℃以上であり、工業的に重要なCu系、Ni系、Fe系合金の凝固過程のその場観察を目指している。高温炉、試料セルなど観察系の開発と、高空間・時間分解能で、高コントラストの透過像を得るイメージング技術により、その場観察を実現する。
 Ni系、Fe系合金の直接観察は、凝固組織形成の理解、実証的物理モデルの構築、さらに、より高度な組織形成・欠陥生成予測シミュレーションに結びつく。学術面の貢献と同時に、産業応用に繋がる成果が期待される。


〔分科会での評価コメント〕
 本課題は、合金の凝固・結晶成長過程を理解するために、高分解能X線イメージング観察を行おうとするもので、高性能金属材料の開発に貢献するものと大いに期待される。また、固液界面を扱う研究では電子線を用いる測定が困難であり、金属系で結晶成長過程をリアルタイムで観測できる点で、SPring-8の硬X線SRの特徴が充分活かせる研究と見なせる。しかしながら、本研究はその提案のままでは、研究対象が分散しており、技術的にも目的とする試料サイズや空間分解能が定まらず、その発散のため研究目的や使用ビームラインを絞ったロードマップが提示できない状況に陥っている。
 以上のことから委員会としては、2~3年での目標として、以下のような戦略で研究目的を絞ることを条件に、長期課題として採択するのが妥当と考える。すなわち、今までほとんど画像が観察されていないNi合金系やFe合金系などに研究対象を絞り、1000℃以上の高温炉を開発した上で、高温での組織形成その場観察に集中する事が重要と考える。この場合、実験はBL20B2で実施することになる。一方、BL20XUあるいはBL47XUで提案されていた高時間・高空間分解能観察については、本長期課題とは切り離し、一般課題として取り組むべきである。
 以上のような研究テーマの絞り込みにより、Sn合金系で観察された溶断現象が高融点合金系で観測されるかどうかなど、科学的・工業的にインパクトのある成果がでるものと期待される。また、実用合金系への産業界の関心の高さから、本研究で成果がでれば、産業界への大きな波及効果が期待できると判断する。


(2)
〔課題名〕 Nuclear Resonance Vibrational Spectroscopy (NRVS) of Iron-Sulfur Enzymes for Hydrogen Metabolism, Nitrogen Fixation, and Photosynthesis
〔実験責任者〕 Stephen P. Cramer(University of California Davis)
〔採択時課題番号〕 2007A0015(BL09XU)
〔3年間の要求シフト〕 189シフト

〔研究概要〕

Our research focuses on two critical iron-sulfur enzymes-nitrogenase (N2ase) and hydrogenase (H2ase).  N2ase catalyzes the reduction of dinitrogen to ammonia and this biological ammonia synthesis is responsible for about half of the protein available for human consumption.  H2ase catalyzes the evolution (or consumption) of dihydrogen.  H2 catalysis is crucial for the metabolism of many anaerobic organisms, and knowledge about the mechanism of H2 evolution may prove critical for a future hydrogen economy.  In addition, direct connections between these enzymes and human health have recently been discovered.  H2ase catalyzed H2 oxidation has been shown to support he virulence of certain pathogenic bacteria such as Helicobacter pylori, which is involved with stomach ulcers, and has been proposed for other disease-causing enteric species such as E. coli and Shigella.


Our program aims to use nuclear resonance vibrational spectroscopy (NRVS) to answer structural and dynamic issues about these proteins that are beyond the reach of protein crystallography and other methods.  NRVS is proving to be a valuable probe of these enzymes, yielding detailed vibrational spectra of the enzyme Fe sites.  The broad questions we seek to address are: How does structure change during the catalytic cycle?  Where do substrates and inhibitors bind?  What are the undefined light atoms?  In short-how do these exquisite catalysts work?


The NRVS technique involves scanning high resolution (~1 meV) monochromatic x-rays through a nuclear resonance (in this case 57Fe) and monitoring the inelastic transitions that correspond to the nuclear excitation in combination with excitation (Stokes) or deexcitation (anti-Stokes) of vibrational modes.  We are the first group to report NRVS spectra of iron-sulfur proteins and we have been pioneers in the application of both empirical force fields and DFT calculations to this technique. We anticipate that this work will yield better understanding of (a) the structure and dynamics of N2ase and H2ase, (b) how these enzymes are biosynthesized and ultimately (c) their molecular mechanism of catalysis.



〔分科会での評価コメント〕
 本課題は、X線核共鳴振動分光法(NRVS法)で、生体高分子内の金属原子固有の振動を解析することから、水素や酸素などの生体触媒の活性作用を解明しようとするものである。本課題は、NRVS法のユニークな特性を利用しており、化学や生物領域へと研究拡大をはかる点で貴重である。金属タンパク質の構造機能研究の一般化に向けた努力に期待する。先の長期課題では、エネルギー分解能や数値計算の精度を向上させるなど、本手法の有効性と可能性を示したと評価された。まだ、確たる研究成果となっているとは言いがたいが、前長期課題で得られた測定解析技術を継承することの意義は大きく、再度、手法確立を含む開発型の長期課題として採択するのが妥当と考える。
 ただし、研究成果の公表や論文執筆において、APSとSPring-8の施設貢献を分離して表記するなど、混合が生じないような表現に心がけることを要請する。なお、BL19LXUの利用要求は、理研から共同利用へのビームタイム供出がないため実施不可能であり、該当部分を取り消した上での採択とする。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794