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Volume 12, No.2 Pages 119 - 120

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

利用研究課題選定委員会を終えて、分科会主査報告4 − 分光分科会 −
Report by the Chief Examiner of the Division of the Proposal Review Committee – Spectroscopy Subcommittee –

平谷 篤也 HIRAYA  Atsunari

広島大学大学院 理学研究科 Graduate School of Science, Hiroshima University

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 2年前の4月にJASRIから利用研究課題選定委員の依頼をいただき、快くお引き受けしたのですが、利用研究課題選定委員会の仕組みを知らなかったこともあり、依頼内容であった「分光分科会(主査)S2光化学小分科担当」のうち、後ろ半分の「光化学小分科」だけに目が行き、「(主査)」については、ほとんど認識せずにお引き受けしたというのが実状でした。そのような「覚悟不足」の私が、なんとか無事に任期を務めることができたのは分光分科会の前任の主査であり、小分科担当を継続されていた物性研(現 JASRI)の木下先生を始め、小分科の先生方からの多大なご協力の賜物と感謝しております。1ユーザーから利用研究課題選定委員会の分光分科会主査となり、任期初めから利用シフト枠の配分などを含め、課題選定についていくつかの変化を体験した者として、所感を述べさせていただきます。

 一般利用課題の審査の流れですが、まず課題選定委員会の全体会が開かれ、一般利用課題への配分可能シフトがJASRIから提示されます。このシフト数は例年ですと、当該期の供給可能シフト数から施設留保分と成果専有、長期、優先利用、重点などの課題分を差し引いて決まるそうです。しかし、私が着任した平成17年度は文部科学省研究環境・産業連携課の「SPring-8戦略活用プログラム」が開始されることとなっており、そのためのシフト数を「産連課」枠として確保する必要がありました。特に、2005B期は17年度分のシフト枠を半年で確保する必要があったことから、SPring-8全体での一般課題シフト数をかなり少なくせざるを得ない状況でした。また、この「産連課」枠の課題では産業利用という観点から、ビームラインごとに需要が異なっているため、需要の高いビームラインでは例年の一般課題配分可能シフト数をかなり割り込むものにならざるを得ませんでした。この点については、課題選定委員会でも激しい議論が行われました。一般課題を受け入れて実施することの大前提となるSPring-8の運転時間(予算)確保の必要性などから、2005B期だけを見ればいくつかのビームラインで一般利用課題が極端に減少するものの、2005B期と2006A期を合わせれば、どのビームラインでも一般利用課題が50%を確保できる配分となりました。

 一般課題への配分可能シフト数の決定を受けて、申請課題の審査が行われます。分光分科会で審査する申請課題の研究分野は、固体の光電子分光、磁気円2色性分光(MCD)、光電子回折、赤外分光、気相のイオン・電子分光、軟X線発光分光など広い範囲にわたっており、これらを分科Ⅰ、分科Ⅱ、分科Ⅲの小分科で分担して審査する仕組みになっています。研究分野だけでなく、この分科会での審査に関連するビームラインもBL23SU、BL25SU、BL27SUと途中から加わったBL17SUの軟X線ビームライン、BL43IRの赤外ビームライン、BL39XU、BL15XU、BL19LXU、BL46XU、BL47XUの硬X線ビームラインと、エネルギー領域も主たる実験内容の範囲も多岐にわたっています。これだけ広い分野の研究課題審査を小分科2名ずつ計6名で審査すると聞いた時には、どうなることかと心配しましたが、実際の審査過程は思ったより簡単というか、課題選定委員の裁量が効く部分はほんの僅かでした。それは4年前から採用されているレフェリー制のおかげです。各分科での審査段階では1課題あたり3~4人のレフェリーが付けた審査結果点数の平均値が資料として用意されていたからです。このレフェリー審査点数とあわせて、各ビームラインの一般課題への配分可能シフト数も資料として配布されますので、各小分科での課題審査は基本的に希望ビームラインごとにレフェリー審査点数の高いものから採用することになります。それぞれの課題に対する各レフェリーの審査点数には、多少のバラつきはありましたが、平均点数の高かった課題は、おおむね全レフェリーの点数が高いものでした。また、レフェリーの点数の付け方にも、担当した全課題中で4点満点の3点以上を付ける課題数は60%以下とするという規制があります。この規制はレフェリーの方々に良く守られており、特定の小分科だけが平均点が高いというような不公平は見られませんでした。審査の結果不採用となった課題、つまりレフェリー審査点数の低かった課題には、いくつかの共通するコメントが見受けられました。その第1は、何を明らかにするのか不明瞭。第2は、放射光以外の方法や他施設で実施可能。第3は、試料を変えただけで、期待される結果に新しいものがない。申請書作成では、これらの点についての工夫が必要と思われます。

 審査段階での配分シフト数は、必ずしも申請者の希望シフト数と同じではなく、ビームライン担当者が判断したシフト数となります。希望シフト数より少ない配分シフト数で採用された課題のほとんどはこの理由によるものです。また、利用希望ビームラインが複数ある場合は、まず各ビームラインでの実験実施可能性に関するビームライン担当者の評価が不可能あるいは他のビームラインの方が適しているとなっている場合は、例え申請者の第1希望であっても、そのビームラインでは不採用となり、第2希望以下のビームラインでの審査対象になります。希望ビームラインがひとつだけの場合は、ほぼ間違いなくレフェリー審査点数の高い課題から採用されることになります。ただし、1研究グループから複数の課題が申請されていて、かつそれぞれの課題のシフト数が多い場合には、若干の調整が行われる場合もあります。特に、1グループからの申請をレフェリー審査点数に基づいてすべて採用すると、ビームラインの一般課題配分可能シフト数のほとんどを占有してしまうことになる場合には苦慮しました。これは、利用期ごとにビームラインの配分可能シフト数が増減する、特に私の任期中にかなり減少したということも一因となっていると思いますが、申請者側にもビームラインの利用シフト数などの利用状況に関する情報不足があったと思われます。

 私の任期開始と共に始まった産連課枠シフト数確保による一般利用シフト数の減少は、ビームラインによっては課題審査の点でも深刻な問題を引き起こしました。産業利用にも適したビームラインでは、一般課題への配分可能シフト数が激減したことによって、ビームラインの立ち上げに中心的役割を果たし、利用研究でも世界的な成果をあげてきた研究グループからの申請の採用率が下がり、極端な場合は一般課題枠では一件も採用されないという事態が生じたことです。それ以外にも、SPring-8の利用開始以来、利用研究を続けてきたグループからの申請が連続して不採用となり、ある年から申請そのものがされなくなったという事例もありました。このような事態は、基本的には関係するビームライン利用研究の巾が広がり、新しい研究内容での課題申請数が増えたことに起因するものですが、4年前から採用された課題そのものを厳密に審査するレフェリー制により、レフェリーの審査点数が低い課題は採用できなくなったことも一因となっていると思われます。課題審査という観点からは、しかたない面もあるのですが、長い目で見た利用研究の発展という観点からは憂慮すべきことであり、何らかの改善が必要と思われたため、課題選定委員会委員長とも相談したうえで、小分科の中にいくつかの分野を設け、分野間のバランスを考慮した審査を行いました。

 私の任期が終了した後も「重点産業利用課題」と「重点ナノテクノロジー支援課題」枠へのシフト数配分が続きますので、一般課題への配分シフト数は減ることはあっても、増加する見通しはありません。より質の高い利用申請を目指すことはもとより、利用者間の協力体制も含めて、SPring-8での分光分野での研究がよりいっそう発展することを望みます。



平谷 篤也 HIRAYA Atsunari
広島大学大学院 理学研究科 物理科学専攻
〒739-8526 東広島市鏡山1-3-1
TEL:082-424-7499 FAX:082-424-7489
e-mail:hiraya@sci.hiroshima-u.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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