ページトップへ戻る

Volume 11, No.4 Pages 273 - 276

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

3極ワークショップ報告
The 10th SPring-8, ESRF, APS Workshop

櫻井 吉晴 SAKURAI Yoshiharu

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

Download PDF (49.21 KB)


 第10回3極ワークショップ(Three-WayMeeting)が2006年6月20日、21日の2日間、ESRFで開催された。参加登録者名簿がないので、20日に開かれた夕食会参加者名簿を代用すると、ワークショップ参加者数は57名であった。内訳は、ESRFから29名、APS8名、SPring-8 20名であった。外せぬ用事でAPSのGibson所長は参加できなかったが、最後に、Mills氏(APS)から次回3極ワークショップはAPSで開催する旨のアナウンスがあった。

 3極ワークショップの議題は主催者であるESRFから提案され、それをSPring-8とAPSが承認するかたちで決められた。詳細は、本文最後のプログラムを見て頂くとして、今回の特徴は、施設の老朽化(“Aging of accelerator components”)が議題として取り上げられたことである。3極の中で最初に稼動したESRFでは、放射光によるクロッチアブソーバー等の損傷が明らかになり、損傷部品の交換を速やかに行っている。また、ESRFで使用しているものと同型の加速器用電源が欧州内の他施設で故障していることから、その対応を考えているという話を夕食会の同席者から聞いた。現在、SPring-8において深刻化していないが、施設の老朽化対策の必要性を感じたワークショップであった。




ESRFの守衛所(坂尻撮影):ESRF(この道路の突き当り)とILL(左のドーム)の構内に入るためにはこの守衛所で入構許可証をもらう。以後は、この入構許可証を提示するだけで入れる。ちなみに、ユーザーはこの守衛所で、入構許可証と一緒に食堂のカードと宿舎の鍵をもらう。その後、ユーザーはそのままビームラインへ直行できる。いつもは、1~2名の守衛員で対応し、車用のバーを開閉したり、ユーザー対応したり、入構者に挨拶を返したり、と忙しそうである。



 ワークショップは各施設の状況報告から始まった。SPring-8の状況をここで報告する必要はないと思われるが、吉良理事長の話の中で、産業界の利用がSPring-8で着実に拡大している事実を統計データに基づいて説明していることが印象的であった。APSの現状についてはMills氏が報告した。2010年に施設のアップグレードの可能性があり、エネルギー省(DOE)に提出するアップグレード案をこの夏に作成するとのことである。また、一般ユーザーの拡大を進めており、その数はCATユーザーと同規模の年間総数4,500名に達している。ESRFはサイエンスオリエンテッドのアップグレードとして、ナノサイエンス、ポンププローブ、極端条件を中心に行っている。サイエンスパートナーとの協力による先端科学に特化したビームラインの設置、ナノフォーカス、蓄積リングの安定化を目指したR&D、また約1/3のBLの再構築アップグレードや約1/3のBLの建物等の物理的拡張を実施するとのことである。

 加速器関係の議題として、加速器機器の老朽化(“Aging of accelerator components”)の他、加速器の最近のハイライトと高度化(“Accelerator complex;recent highlight and future development”)、トップアップ運転(“Top-up;experience and future plans”)、が取り上げられた。ESRFやAPSにとってトップアップ運転は将来計画の一つであり実用化になっていない。ご存知のようにSPring-8は既に2年近い経験があり、トップアップ運転でリードをしている。ESRFのあるユーザーは、サイエンスディレクターにトップアップ運転の実現を強く要望しているが、加速器関係者はトップアップ運転よりも高蓄積電流化の方に興味があるようだと話していた。

 利用系の議題はいずれも施設サイドとして重点化している項目であった。マイクロ・ナノ集光(“Micro and nano focusing”)、極端条件(“Extreme conditions;science and techniques”)、イメージング(“X-ray imaging”)をテーマとして、各施設から発表があった。中でも、Baruchel氏(ESRF)が報告した卵の化石(恐竜か、鳥類か不明)の内部観察(“X-ray imaging”)は印象に残る。骨の破片をひとつひとつ抽出して示し、これから、不明の生き物の骨格を再構築するとのことである。また、挿入光源の議題として“ High energyinsertion devices”の議題が取り上げられた。この背景には、第3世代中型放射光施設の台頭に対するESRFの戦略を反映しているように思える。Diamond Light Source,Swiss Light Source,Synchrotron SOLEIL の場合、10keV以下の領域ではESRFの放射光特性に勝るとも劣らない性能が期待されている。ESRFの独自性、優位性を保つために、中型施設では手の出ない高エネルギー領域の開拓を目指す戦略は当然に思える。

 最後に、まとめとして各施設の代表者が話をした。石川氏(SPring-8)が講演内容をX線自由電子レーザー計画に変更し、試験加速器においてレーザー光の発振に成功した旨を示唆するまとめをした。また、SPring-8、APS、ESRFの共同開発テーマとして、Baron氏(SPring-8)から、アバランシェ検出器をベースにした高速X線検出器開発の提案がなされた。




山の中腹にあるレストラン、La Corne d,Or、での夕食会の風景(坂尻撮影):日本人が固まらないようにとの配慮かどうかわからないが、座席指定であった。テーブルにあった白ワインは地元産で、この辺の土壌にしてはよいワインと隣席のフランス人たち(ESRF)が言っていたが、味はよくわからなかった。適度のアルコールとフランス人の話好きのため、3時間半はあっという間に過ぎた。



 3極ワークショップ・プログラム


6月20日(火)


Session 1  Facility status reports

 1.1 SPring-8   A. Kira (SPring-8)

 1.2 APS      D. Mills (APS)

 1.3 ESRF     W. G. Stirling (ESRF)


Session 2

 2.1 Aging of accelerator components

  2.1.1 Radiation damage in SPring-8 storage ring

    H. Yonehara (SPring-8)

  2.1.2 Components aging of the Advanced Photon Source

    J. Quintana (APS)

  2.1.3 Review of equipment ageing problem anddamage due to radiations at the ESRF:facts and solutions

    L. Hardy (ESRF)

 2.2 Top-up;experience and future plans

  2.2.1 Top-up operation at the SPring-8

    M. Takao (SPring-8)

  2.2.2 Top-up:incremental changes

    R. Gerig (APS)

  2.2.3 Experience and perspective at ESRF

    J. L. Revol (ESRF)


Session 3

 3A.1 Optics Workshop report

 3A.2 Micro and nano focusing

 3A.2.1 XRF analysis of biological specimens using X-ray microbeam

    Y. Terada (SPring-8)

 3A.2.2 Multilayer Laue lens – A path towards nanofocusing of X-rays

    J. Maser (APS)

 3A.2.3 Nanofocusing and organization

    J. Susini (ESRF)

 3B High energy insertion devices

 3B.1 Cryogenic undulator development at SPring-8

    T. Tanaka (SPring-8)

 3B.2 Development of the superconduction undulatorat the APS and plans for future APS storagering

    E. Gluskin (APS)

 3B.3 Development of high energy undulator at ESRF

    J. Chavanne (ESRF)


Session 4 Extreme conditions;science and techniques

 4.1 Inelastic X-ray scattering from liquids at high temperature and pressure

    A. Baron (SPring-8)

 4.2 Inelastic X-ray spectroscopy under extreme conditions

    E. Alp (APS)

 4.3.1 Structure determination under extreme conditions at ID27

    M. Mezouar (ESRF)

4.3.2 30Tpulsed magnetic fields at ESRF;pressure and future plans

    P.v.d.Linden (ESRF)


6月21日(水)


Session 5 Accelerator complex; recent highlight and future developments

 5.1 Upgrading of signal processing of the SPring-8 BPM system

    T.Fujita (SPring-8)

 5.2 Accelerator components of APS upgrade planning

    R. Greig (APS)

 5.3.1 Upgrade of the ESRF X-ray source:lattice developments

    A. Ropert (ESRF)

 5.3.2 Upgrade of the ESRF X-ray source:RF-related developments

    J. Jacob (ESRF)


Session 6 X-ray imaging

 6.1 Element-specific magnetic imaging and micromagnetometry using hard X-rays

    M. Suzuki (SPring-8)

 6.2 Emerging developments in X-ray microscopy and imaging at the APS

    G. Long (APS)

 6.3 Advances in X-ray imaging at the ESRF

    J. Baruchel (ESRF)


Session 7 Synchrotron radiation instrumentation:optics,detectors,sample environment,computing……

 7.1 Summary and outlook

    T. Ishikawa (SPring-8)

 7.2 Instrumentation developments at the APS

    D. Mills (APS)

 7.3 Highlight projects of ESRF’s Instrument Support Group

    P. Fajardo (ESRF)


Session 8

 8.1 Discussion:

 8.2 Concluding remarks



櫻井 吉晴 SAKURAI Yoshiharu

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58- 2750 FAX : 0791-58-0830

e-mail:sakurai@spring8.or.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794