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Volume 11, No.4 Pages 220 - 223

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

第1期パワーユーザー活動報告(3)
コンプトン散乱法を用いた研究の範囲拡張に関わる実験的技術の整備及び開発
Development of Experimental Technique on the Expansion of the Field to Be Studied by Using Compton Scattering Method

小泉 昭久 KOIZUMI Akihisa

兵庫県立大学大学院 物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo

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(1)
〔採択時課題番号/ BL〕2003A0890-PU0(BL08W)
〔課題名〕コンプトン散乱法を用いた研究の範囲拡張に関わる実験的技術の整備及び開発
〔実験責任者〕小泉昭久(兵庫県立大学(採択時は姫路工業大学))

〔実施シフト〕
2003A0890-PU0    0シフト
2003B2890-PU1   21シフト
2004A3890-PU1   27シフト
2004B4890-PU1   24シフト
2005A5890-PU1   48シフト
2005B7003-PU1   42シフト
**********************計162シフト

〔支援課題数〕
2003A/ 0   2004B/ 2
2003B/ 1   2005A/ 2
2004A/ 2   2005B/ 1

〔BL調整来所件数〕
2003A/ 0   2004B/ 0
2003B/ 1   2005A/ 1
2004A/ 1   2005B/ 1


(2)研究目標・目的
 上記の課題名にもあるように、コンプトン散乱法を用いた研究の範囲拡張に関わる実験的技術の整備及び開発を目的とした。以下に、具体的に示す。

1)磁性多層膜における磁気コンプトンプロファイル(MCP)測定:磁性多層膜・薄膜試料は、応用的観点からも興味を持たれている物質であり、コンプトン実験に携わる研究者の間でも、今後の研究対象として、国際的に関心が寄せられている。このような状況に逸早く対処するため、磁性多層膜試料における磁気コンプトン散乱測定の実行可能性について検証すると共に、測定手法として確立することを目的とした。

2)低温・高圧力下でのMCP測定:磁気コンプトン散乱法は、磁性を担う電子を運動量空間で観測する手段である。一方、圧力は格子定数を減少させることで、バンド幅や混成効果を直接変えることが可能な外部変数である。圧力と磁気コンプトン散乱法を組み合わせることで、バンド幅や混成効果を変えることによる磁性を担う電子の特徴(遍歴性や局在性)の変化を直接測定可能な実験手法を確立することを目的とした。

3)Ni屈折レンズの開発:上記の目的にも関連し、基板上の磁性薄膜や、ダイアモンド・アンビル・セルを用いた高圧下磁性試料の磁気コンプトン散乱実験を効率よく行うために、円偏光した175keVのX線の縦方向を集光し、試料位置で縦5μm以下のX線ビームが得られるNi屈折レンズを開発することを目的とした。


(3)研究・支援の内容

1)研究内容
 磁性多層膜における磁気コンプトン散乱測定(前述研究目標・目的の1))

 今回のパワーユーザー課題において、①薄膜試料のコンプトンプロファイルの測定手法が確立した。②実用材料の異方的特性(磁気ストレージ材料における垂直磁気異方性)と波動関数の異方性との関連をatomicな波動関数のモデルを用いて明らかにした。
 以下具体的に示す。

Pd/Co人工格子の垂直磁気異方性
 Pd/Co人工格子は垂直磁気異方性を示し、次世代垂直磁気ストレージ材料の候補の一つである。
 Pd/Co人工格子の磁気異方性の起源は、Co-3d電子の波動関数の異方性に起因しており、その異方性はCo-3d電子の磁気量子数―m―=2、1の分布に起因していることを始めて実験的に指摘した。これまで、X線磁気円二色性の実験から、垂直磁気異方性を有するPd/Co人工格子のCo-3d電子の軌道磁気モーメントに異方性があり、理論的にはCo-3d電子の磁気量子数―m―=2に起因することが指摘されていた。

TbFeCoアモルファス合金の垂直磁気異方性
 TbFeCoアモルファス合金は光磁気記録材料として現在実用化されている。最近になってその大きな垂直磁気異方性が着目され、新たな垂直磁気記録材料の研究も進められている。しかし、等方的であるはずのアモルファス合金がなぜ垂直磁気異方性を示すのか、その起源は明らかではない。本課題では、ほぼ組成が等しい、垂直磁気異方性を示す薄膜と、示さない薄膜とでMCP測定を行った。その結果、各試料でMCPの形状が異なることがわかったが、いずれの試料においてもプロファイルの異方性(膜面に垂直及び平行な方向で測定されたMCPの差)は観測できなかった。このことは、TbFeCoアモルファス合金の垂直磁気異方性が、Co/Pd人工格子と異なり、波動関数の異方性に起因するものではないことを示唆している。

Gd/Fe磁性多層膜のMCP測定
 Fe/Gd磁気多層膜はFeとGd間に反強磁性的相互作用が存在することから、多様な磁化過程が出現する。そのことから基礎科学的に興味が持たれてきた。本研究は相互作用の強さを人為的に制御することを目的として、層間に非磁性のAl膜を挿入し、その効果を磁気コンプトンプロファイル法、X線円二色性測定法およびバルク磁化測定法により定量的に評価した。この研究により、Al挿入膜が磁気多層膜の磁性に及ぼす効果を定量的に評価することに初めて成功し、今後の応用に必要となる数値的データを得た。

波及効果
 薄膜材料の波動関数の「形」を観測する手法が確立されたこと。今回は垂直磁気異方性に視点をおいて磁気ストレージ材料に着目したが、電子機器に利用されている材料に薄膜が多い(誘電体、有機フィルムなど)ことから、新しい分析手法が開拓されたと考えられる。

2)ユーザー支援内容
・上記のTbFeCo:アモルファス合金の実験は、PUメンバーが行っている共同研究の中から新規ユーザーを開拓し、PU課題の中で実施した。

・「低次元導体ZrTe3のコンプトンプロファイル測定」(課題番号:2005A0435):電子運動量密度の観点から、実験と理論計算を定量的に比較することにより、その電子状態を議論することを目的に行った高分解能コンプトン散乱実験において、測定及びデータ処理についての支援を行った。

・「高分解能コンプトン散乱によるCa1.8Sr0.2RuO4のメタ磁性転移における軌道状態の研究」(課題番号: 2005B0140):電子の二次元運動量密度分布の変化から、多様な相を生み出す軌道状態の役割を明らかにすることを目的とした。磁場強度に依存した高分解能コンプトンプロファイルの2次元再構成測定において、測定及びデ-タ解析についての支援を行った。

・特定の課題に対する支援ではないが、MCP測定において使用する超伝導マグネットへのHeトランスファーの補助や、解析プログラムの整備等、ソフト面での活動も行い、その一部はBL08Wのホームページで公開されている。

3)測定技術開発など、その他内容
 低温・高圧力下での磁気コンプトンプロファイル測定(前述研究目標・目的の2))
 本研究では、単結晶Fe2P試料、加圧にはダイアモンド・アンビル・セル(DAC)を用い、高圧力下磁気コンプトンプロファイル(MCP)測定の可能性の検証を行った。測定に用いたFe2Pは、六方晶系に属し局所対称性の異なる2種類のFeのサイトが存在する。常圧力下では強磁性金属(Tc=209K)であるが、低温で圧力を加えることで反強磁性相へと転移する。さらに、その反強磁性相で[0001]軸に磁場を印加すると、メタ磁性転移を起こすことが知られている。加圧に用いたDACには、2㎜Φキュレット、1.3㎜厚さの2組のダイヤモンドと、ガスケットには非磁性体であるリン青銅とを用いた。
 DACからの磁気コンプトン散乱成分がないことを実際に確認し、試料の測定を行った。最適なガスケット及び試料サイズの検討を行い、加圧試料には、(0001)面に切り出した0.6㎜Φ×0.5㎜円筒型のFe2P単結晶を使用した。圧力媒体としては、フロリナートを使用し、準静水圧条件を実現した。MCP測定は、試料の[0001]軸方向に2.5Tの磁場を印加し、温度50Kの2.5GPaで行った。その結果、24時間の測定時間で十分なSN比のMCPを得ることができた。
 また、この結果を用いてDACからの電荷散乱強度を見積もり、高圧下でのMCP測定の実行可能性についても検討した。その結果、試料自体の磁気散乱比(磁気散乱強度÷電荷散乱強度)が、およそ0.7%以上を示すと期待できるものであれば、DACを用いたMCP測定を行うことができると考えられる。

Ni屈折レンズの開発(前述研究目標・目的の3)):
 本開発は、①シミュレーションによる集光性能と屈折レンズの諸パラメータの最適化、②Fe合金屈折レンズの試作と集光性能の評価、③Ni製屈折レンズの製作、の3段階からなる。シミュレーションの結果、縦方向の集光で3μmのビームサイズが得られることを確認し、Fe合金屈折レンズの試作機を用いた実験により、シミュレーションは実験結果をよく再現することを確認した。本試作機は長めの集光距離になっているため集光位置でのビームサイズは測定できていないが、屈折レンズから離れるにしたがってビームサイズは小さくなり、実験ハッチ最下流で約30μmのビームが得られた。この集光特性はレンズ形状から理論的に予測される集光サイズとよい一致を示している。この結果は、シミュレーション結果が示すように、現状の設計で5μ以下の集光が可能であることを示唆している。
 現在、Ni屈折レンズの製作を行っている。Fe合金屈折レンズ試作機では、レンズ最薄部での形状変形が認められたが、Ni屈折レンズではこの変形問題はほぼ解決されている。このNi屈折レンズの評価実験は2006Aに実施される予定である。


(4)研究成果目標達成度の自己評価

1)磁性多層膜における磁気コンプトン散乱測定:
 一般ユーザーに提供できる測定と解析手法の両面において、それらの基盤が確立できたため、80%の達成度と判断する。研究が進められている多層膜系、合金系、アモルファス系の垂直磁気ストレージ材料の測定を概ね網羅された(Pt/Co、Pd/Co、TbFeCo、SmCo合金)。一方、今後、
1.引き続き新しい薄膜材料の測定及び新規ユ-ザ-の開拓を行う必要がある。

2.解析モデルとしてatomicな波動関数を用いていたが、今後は、化学結合を考慮した理論計算を検討したい。実用材料を測定するので、band計算(結晶材料)やクラスター計算(アモルファス材料)の結果からプロファイルを求め、実験と比較する必要があると考えられる。

2)高圧力下の磁気コンプトン散乱測定:DACを用いた低温・高圧力下磁気コンプトン散乱測定に世界で初めて成功した。従って、本PU課題で十分に目標が達成された。

3)Ni屈折レンズの開発:本開発は3年計画で実施されており、PU終了時は2年目にあたる。
 現在、最終段階の「Ni製屈折レンズの製作と評価」に入ったところであり、ほぼ当初計画に沿って進んでいる。


(5)成果リスト

(査読有論文)

1.8086  R.Chai-Ngam,N.Sakai,A.Koizumi,H.Kobayashi and T.Ishii,“Experimental Studyon Interlayer Magnetic Coupling in Sputtered Al/Fe/Al/Gd Magentic Multilayer Films. I”,J.Phys.Soc.Jpn.74(2005)1843-1848.

2.7147  M.Ota,H.Sakurai,F.Itoh,M.Itou and Y.Sakurai,“Magnetic Compton Profiles of Fe Thin Film and Anisotropy of Co/Pd Multilayer”,J.Phys.Chem.of Solids.65(2006)2065-2070.

3.9037  H.Sakurai,M.Ota,F.Itoh,M.Itou,Y.Sakurai,and A.Koizumi,“Anisotropies of magnetic Compton profiles in Co/Pd multilayer system”,Appl.Phys.Lett.88(2006)062507.

(プロシーディングス等)
1.A.Andrejczuk,Y.Sakurai and M.Itou,“A Compound Refractive Lens for 175-keV for Magnetic Compton Profile Measurement at SPring-8”,to be published in JJAP,Conference Series (2006).

(口頭発表(招待講演など主だったもののみ))
1.第46回高圧討論会「低温・静水圧下での磁気コンプトン散乱によるFe2Pの磁性電子の観測」
梅村純平、小林寿夫、風神 豊、小泉昭久、永尾俊博、伊藤真義、大石泰生、上床美也、坂井信彦.

2.5th International Conference on Inelastic X-ray Scattering(IXS2004),“Advances in Magnetic and High-resolution Compton Scattering (Invited)”(September 19-24, 2004, Argonne, Illinois, USA)Y.Sakurai.

(特許)
特願2004-290664   出願日 平成16年10月1日
特願2005-255565   出願日 平成17年9月2日




小泉 昭久 KOIZUMI Akihisa
兵庫県立大学大学院 物質理学研究科
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TEL:0791-58-0529 FAX:0791-58-0146
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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