Volume 11, No.4 Pages 202 - 219
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
第1期パワーユーザー活動報告(2)
粉末結晶による精密構造物性の研究
Accurate Crystal Structure Physics Utilizing Powder Crystals
(1)
〔採択時課題番号/ BL〕2003A0889-PU0(BL02B2)
〔実験責任者〕黒岩芳弘(広島大学(採択時は岡山大学))
〔パワーユーザー〕
黒岩芳弘(広島大学)久保田佳基(大阪府立大学)西堀英治(名古屋大学)坂田誠(名古屋大学)
〔実施シフト〕
2003A0889-PU1 0シフト
2003B2889-PU1 33シフト
2004A3889-PU1 36シフト
2004B4889-PU1 33シフト
2005A5889-PU1 36シフト
2005B7002-PU1 30シフト
*********************** 計168シフト
〔支援課題数〕
2003A/7 2004B/10
2003B/5 2005A/12
2004A/5 2005B/13
〔BL調整来所件数〕
2003A/1 2004B/0
2003B/0 2005A/0
2004A/1 2005B/2
(2)研究目標・目的
X線回折の手法は原子の結合状態を電子密度分布の中に直接可視化できる実験手段である。格子定数や原子位置だけを問題にする構造解析から一歩進んで、電子密度レベルで精密構造解析を行うことができれば、構造解析は電子論的な立場から物性を議論する場の主役になることができる。一方、量子論の舞台で構造物性を議論するためには第一原理電子構造計算が示す結果と対比できるぐらいの精密な電子密度分布が要求される。我々は、そのような精密電子密度分布を実験から求め、それに基づいた「精密構造物性学」を展開する目的で、SPring-8 BL02B2粉末実験専用ビームラインの立ち上げに協力してきた。精密な電子密度分布を得るためには、多くの精密な回折データを測定する必要があるが、SPring-8のような第3世代の放射光実験施設が建設され、高エネルギーX線を用いた透過法による粉末回折実験ができるようになったことは実験面において最も重要な進展であった。また、解析面では、マキシマムエントロピー法(MEM)とRietveld法を組み合わせた新しい粉末解析法の方法論が確立され、飛躍的に大きな研究成果が得られるようになった。ビームラインを立ち上げた比較的初期の段階で一定の成果が得られる環境がそろったが、ユーザーの実験に対する要求は、年々、多様化し複雑化する傾向にあった。また、優れたアイデアや新奇な機能性材料をもちながら実験・解析法に不慣れなため、課題申請できないグループの存在も聞こえていた。
本研究課題では、次の3項目の達成を目標・目的とする。
1.SPring-8 BL02B2での「粉末結晶による精密構造物性の研究」において、先導的な社会的にインパクトのある研究成果をあげる。
2.当該装置を用いたユーザー支援と新規ユーザー開拓を行い、これらのグループとの共同研究を推進する。
3.粉末結晶回折装置の整備と測定技術開発を行い、ビームラインの高度化に協力する。
本研究では、最終的には、SPring-8 BL02B2が精密構造物性学における高スループットを実現する世界的な研究拠点になることを目指している。そのために、ビームラインの立ち上げメンバーであり、実験装置の特性をよく理解している申請者らがパワーユーザー(PU)となり、既存の実験装置の性能を十分に発揮させながら様々な興味ある物質に対して構造研究を行う。この種のルーティン的な実験では、BL02B2常設の大型デバイシェラーカメラとイメージングプレートを組み合わせて、迅速にかつ精密な粉末回折データを収集し、MEM/Rietveld法により精密電子密度分布を求める。 一方、ルーティン的ではない新たな実験分野への対応を図るために、ビームライン担当者と協力して、実験ステーション設備の開発および高度化を行う。また、利用研究の推進と分野拡大のためにユーザー支援と新規ユーザーの開拓も同時に行う。このようなグループとは、共同研究の関係を結び、ビームライン担当者やSPring-8スタッフと協力しながら実験技術やデータ解析に関する支援を行う。
(3)研究・支援の内容
1)研究内容
PUとして世界最高性能の第三世代放射光施設SPring-8の特性を生かした粉末X線回折構造研究の更なる発展・展開を目指し、「マキシマムエントロピー法を用いた粉末構造研究」と「遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた放射光粉末による分子性結晶の未知構造決定」の2つのテーマについて研究を進めてきた。
この2つのテーマに関して、PU課題の中で実施した研究成果と支援課題の中で共同研究の形で実施した研究成果のうち、主なものについてテーマ別に分けて以下にその内容を記す。
(1-1)マキシマムエントロピー法を用いた粉末構造研究
(a)Zn4Sb3の精密構造決定(登録番号:6218、6219)
エネルギー利用の省力化、効率化が求められる今日において、廃熱から電気を得ることができる熱電変換材料は、エネルギー問題の解決法の一つとして注目されている。熱電変換材料の特性は、zT=α2σT/κ(ここで、Tは温度、αはゼーベック係数、σは電気伝導度、κは熱伝導度)で示される性能指数によって決定される。この式から、性能の高い熱電変換材料には、高いゼーベック係数と高い電気伝導度、及び低い熱伝導度が要求される。1997年にβ-Zn4Sb3が、150℃から400℃の領域で、p型の熱電変換材料として高い熱電性能指数zTを持つことが報告された。β-Zn4Sb3の400℃における熱電性能指数zTは、1.3であり既に実用化されているPbTeに代わる物質として注目を集めている。β-Zn4Sb3の高い性能指数は、他のp型熱電変換材料と比較して半分以下の著しく低い熱伝導度に起因していた。より高性能熱な電変換材料の開発の指針として、β-Zn4Sb3の持つ低い熱伝導度の原因の解明が望まれてきた。熱伝導度と関係の深いβ-Zn4Sb3の結晶構造はMayerらによって1978年に報告された。この構造には、Zn4S b 3の組成比を合わせるために、11%がZnで89%がSbであるZn、Sb両方の原子が占有するサイトが存在した。この構造に基づき、第一原理計算が行われたが、低い熱伝導度の機構は解明されなかった。
最近、β-Zn4Sb3の試料密度の測定から、高い熱電変換性能を示す試料の密度は6.36gcm-3であり、Mayerらが報告した構造の密度(6.09gcm-3)と異なっていることが判明した。このことは、β-Zn4Sb3の高い熱電変換性能を生み出す低い熱伝導度の機構解明のためには、Mayerらが報告した構造では不十分であり、より確度の高い構造情報が必要なことを示している。このβ-Zn4Sb3を詳細構造の決定を目的としてSPring-8で精密X線構造解析を行った。SPring-8で得られた放射光粉末X線回折データのMEM/Rietveld法による解析を行ったところ、3つのZnのinterstitial siteを持ち、MayerらのモデルよりもX線回折データと高い一致度を示し、組成、密度などの他の測定値とも矛盾しない構造を求めることに成功した(図1)。このinterstitial siteの存在のために結晶中にはZnの欠損が存在し、Znがdisorder構造をとる事が判明した。このdisorderしたZnによって、フォノンの伝播が抑制され熱伝導度が低下すると考えられる。この結果に関しては、Cargnoniらによって構造に基づく第一原理計算が行われ、計算に基づく熱伝導度を含めた熱電変換材料に必要な物性値がすべて実験値と一致することが確認され、最終的に低い熱伝導度の機構が解明された。
熱電材料の構造研究に関しては、この研究以外にNiをドープしたCoSb3の研究(登録番号:9021)、Ge、GaクラスレートにおけるSr、Baドープに伴う構造の温度変化(登録番号:9014)など幾つかの研究例がある。Sb、Ge、Gaなどの重原子を含む熱電変換材料の構造研究にとって、高エネルギーX線が利用可能なSPring-8でのデータ測定は極めて有利である。重原子の試料の吸収を避けて、微量試料から高い統計精度のデータが得られるためである。また、これらの材料は結晶系がcubicやhexagonalなど対称性、高エネルギー粉末回折でも反射の重なり合いはそれほど問題にならない。今後も熱電材料の構造研究に関しては継続していく。
図1 Zn4Sb3の構造
(b)Y2金属内包フラーレンのC2内包構造(登録番号:9016)
金属内包フラーレンは、ナノテクノロジー材料として最も注目されている物質の一つである。フラーレンに内包する金属原子の種類や個数を変えることにより、特性の異なったナノサイズの分子の生成が可能なためである。最近、13CNMR及び吸収スペクトルの結果から、Y2金属内包フラーレンY2C84(III)が炭素を内包している可能性が示された。Y2C84(III)の17本のNMRシグナルを説明しうるC84ケージは、存在しておらず、C80からC84の中でC82-C3V異性体のみがこのシグナルを満たしていた。また、Y2C82(III)においても、同じ17本のNMRスペクトルが観測された。このことから、Y2C84(III)とY2C84(III)は同じケージ構造をもつと推測された。しかしながら、内包C2に関するNMRシグナルが得られていないこと、2個の金属による対称性の低下から17本のシグナル得られるとは考えにくいことからX線回折による構造の解明が望まれていた。本研究では、Y2C84(III)とY2C82(III)の構造決定を目的として、SPring-8の放射光粉末X線回折データのMEM/Rietveld法による解析を行った。
Y2C84(III)とY2C82(III)の粉末回折パターンはピーク強度の関係・ピーク位置共に非常に類似していた。また、LeBail法により求めたそれぞれの格子定数も各軸1/100Å程度の違いしかなかった。これらの粉末X線回折データをMEM/Rietveld法により解析したところ、Y2C84(III)がY原子2個と炭素原子2個を内包した(Y2C2)C82(III)であることがわかった。また、Y2C84(III)は炭素を内包していないY2@C82(III)であった。(Y2C2)@C82(III)、Y2@C82(III)の分子構造は、どちらも、C82-C3Vのフラーレンケージを持ち、内包Y原子が20箇所にDisorder状態で存在した。また、(Y2C2)@C82(III)のC2はケージの中心に円形の1つのピークとして観測された(図2)。これらのことと、13C-NMR測定で、17本のシグナルが観測されたことから、2つのYとCはケージ内で高速に動いていると考えられる。C2やYが一箇所に局在した場合C3Vの対称性を満たさず、シグナル数は一般に17本より増加するためである。
本研究によって、同じNMRシグナルを示す2種類の金属内包フラーレン(Y2C2)@C82(III)とY2@C82(III)の構造が明らかになった。Y原子位置、フラーレンの炭素配列もほぼ同じであり、C2の内包構造のみが異なる2金属内包フラーレンの発見は、今後の内包フラーレンの物性研究、応用研究に大きな知見を与えると考えられる。なぜなら、分子サイズなどがほぼ同一で、わずかに特性の異なったフラーレンが生成可能なことが示されたためである。また、これまで、炭素数が違う金属内包フラーレンと考えられてきた物質についても構造解析が必要なことも判明した。今後、金属内包フラーレンを炭素内包の有無も踏まえて分類しなおすことにより、金属内包フラーレンの生成に対する理解も進むことが期待される。
金属内包フラーレンに関しては、Y2金属フラーレン以外にもGd@C82(登録番号: 6208)、Eu@C82(登録番号:9015)などに関して、原著論文の形で成果が上がっており、Phys.Rev.BやAngew.Chem.Int.Ed.など物理・化学分野でインパクトファクターの高い雑誌に掲載されている。これらの結果に関しては、2005年5月にケベックで行われたECS Meetingにて招待講演を行った。また、Y2金属フラーレンの研究において、C2の内包構造を検出するには最低d>1.7Åの範囲のデータが必要なことが判明した。過去の幾つかの研究について、この分解能の問題を考慮していない結果が見られるため、SPring-8でのデータ再測定、再解析も進めている。これらの一部は原著論文を投稿中である。
図2 MEM電子密度分布
(c)多孔性配位高分子ナノ細孔への吸着ガス分子の観測(登録番号:7272、9033)
多孔性配位高分子は、金属イオンと有機分子を組み合わせてできる結晶性固体である。この物質は極めて均一なナノスケールの細孔構造を持ち、その優れた吸着特性を利用して、天然ガスなどの燃料の低圧で安定な大量吸蔵や燃料電池への応用、CO2など温暖化ガスの選択的吸着、有害物質の分離といった様々な応用が考えられ、次世代の素材として大きな期待が寄せられている物質である。この物質は、特殊な条件を一切用いなくても、1気圧、室温の条件で化学合成できることから、産業化も容易である。そして、組み合わせる金属イオンと有機分子を変えることにより様々な大きさや形の細孔構造を自在に設計、合成することができる。これまでは、気体分子が細孔のどの位置に、どのような向きに吸着されるか全くわかっていなかったが、PU設置に先行して2002年からスタートした京都大学の北川進グループ、JASRIとの共同研究において、SPring-8の放射光を用いた粉末回折実験とMEM/Rietveld法により、細孔内に吸着した気体分子の直接観測に世界で初めて成功した。この後、共同研究を継続し、PU課題や支援課題において種々の配位高分子、ガス分子の吸着構造に関する先導的研究が現在に至るまで続けられている(登録番号:6600、7281、7283、9034)。成果の中からここでは、水素分子およびアセチレン分子の吸着構造について報告する。
(c-1)多孔性配位高分子のナノ細孔に吸着した水素分子の直接観測(登録番号:7272)
水素は環境に対する負荷が少なく、地球上に無尽蔵に存在するので、次世代のクリーンエネルギー源として期待されている。そして、その利用のために水素ガスを大量にかつ効率的に貯蔵する技術の開発が求められている。近年、大量の水素ガスを吸着する多孔性配位高分子の合成の報告が急速に増えているが、水素分子がナノ細孔内のどのような位置に吸着しているかはこれまで全く明らかにされていなかった。水素はX線散乱能が低いため、これまでX線を使って水素の構造決定することは難しいとされてきたが、粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2において、銅配位高分子CPL-1(Cu2(pzdc)2(pyz)ここでpzdc=pyrazine-2,3-dicarboxylate, pyz=pyrazine)に水素ガスを吸着させた状態で高精度の粉末回折データを測定し、得られた回折データを情報理論に基づく新しい電子密度解析法を用いてイメージングを行った。その結果、細孔内に吸着した水素分子を直接観測することに世界で初めて成功した。
図3は水素分子吸着状態での配位高分子細孔部分の電子密度分布であり、骨格構造の原子モデルが重ねて描いてある。水素分子は細孔の中央ではなく、少し細孔壁に寄った位置に存在している。水素分子は細孔壁と化学結合を作るのではなく、細孔とは独立に存在し、出し入れが容易な状態で吸着されていることがわかる。そして、水素分子は銅原子に結合した酸素原子(図中赤で示している原子)の近くに存在しており、金属原子-酸素原子の構造ユニットが何らかの水素を誘引する効果を持っているのではないかと考えられる。また、この物質の細孔壁面は平坦ではなく凹凸があり、水素分子は細孔壁のくぼみの部分にすっぽりはまるように存在していることがわかった。つまり、この物質では水素分子の大きさと、細孔のくぼみの大きさがちょうどうまくフィットして、細孔壁からの引力を効果的に受けていると考えられる。
本研究の結果は、水素分子の吸着初期段階における構造情報を与え、水素貯蔵物質としての多孔性配位高分子の設計指針を与え得るものである。今後、この設計指針に基づいた高性能水素貯蔵物質の合成が期待され、将来の水素エネルギー利用技術の発展に貢献できるものと考えられる。本研究の成果は化学分野で最もインパクトファクターが高い雑誌の一つであるドイツ科学雑誌Angewandte Chemie InternationalEditionに掲載され、その号の表紙を飾った。また、掲載に際しプレス発表を行い、日経産業新聞をはじめ数紙に取り上げられた。
図3 水素吸着CPL-1のMEM電子密度分布
(c-2)多孔性配位高分子へのアセチレン分子の高密度濃縮(登録番号:9033)
アセチレンは燃焼時に多量の熱を発生するので、金属の溶接や切断に用いられるバーナーの燃料として用いられている。また、化学合成においては様々な化学反応の出発物質として大変重要な物質である。アセチレンは不飽和3重結合を持つため極めて反応性が高く、0.2MPa程度の低い圧力下でも常温で爆発する。そのためアセチレンガスを貯蔵するにはこの圧縮限界圧力(CompressionLimit)以下の圧力で充填・貯蔵しなければならない。一方で、高純度ガス精製のためにはアセチレン分子とCO2分子の分離が重要となるが、分子の大きさや沸点、吸着挙動などが非常に似ているため、これまでは効率良く分離することは難しかった。しかし、北川進グループで作製した多孔性配位高分子CPL-1にアセチレンガスを吸着させたところ、CO2に比べてはるかに大量に、かつ圧縮限界圧力のおよそ200倍にも相当する高密度で吸収された。この特異な吸着特性のメカニズムを解明するために、放射光粉末回折法を用いて吸着したアセチレン分子の構造を調べた。
構造解析の結果、アセチレンは細孔あたり1分子が分子軸をチャンネルに対してほぼ垂直に向けて整列し、これまで我々が明らかにしてきた酸素分子などの棒状分子とは全く違った配列をとっていた。分子軸の向きは相対する細孔壁にある非結合酸素原子を結ぶ線に沿っていることがわかった。図4は両方の酸素原子を含む断面の電子密度分布である。酸素原子とアセチレン分子の水素原子との間には電子密度のつながりが観測された。以上の結果から、アセチレン分子は細孔壁の酸素によって水素結合で両側から捉えられ、一定距離をおいて整列することにより分子同士が反応することなく高密度に濃縮された状態が実現しているものと考えられる。
アセチレンはノーベル賞を受賞した白川博士らが発見した伝導性ポリアセチレンの原料であり、また医薬品など様々な有機化合物の元となる重要な基本分子である。従来はアセチレンを使用するためには有機溶剤に溶解させて濃縮、運搬する必要があったが、この物質を用いることにより有機溶剤の必要がなくなり、純粋で高密度のアセチレンを安全かつ簡便に取り扱う事が可能となり、アセチレンを核とした物質科学の発展が期待される。またナノ孔物質中の吸着活性点の配列様式をオーダーメイドに変えることにより、他の分子に対しても、アセチレンと同様の選択的な吸着や高密度濃縮を実現することが可能となることから、有害物質の分離、温室効果ガスの除去といった環境問題を解決し得る次世代のナノ機能材料開発へ一つの道が開けたといえる。以上のようにこの研究成果は化学合成、機能性吸着材料、エネルギー利用技術といった、科学分野のみならず社会的にも大きなインパクトを与えるものであり、世界的に評価の高いイギリス科学雑誌Natureに掲載された。
また、この研究に付随して、アセチレン吸着は2段階で起こることが明らかになっている。これまで、飽和吸着状態に関しては、吸着ガス分子ならびに骨格の構造情報が明らかにされてきたが、柔軟性が高い骨格構造を持つ配位高分子における吸着の研究は、今後は吸着過程の解明が重要な課題となる。この系については吸着中間相の構造解析により吸着過程に関する知見が得られつつあり、結果については現在論文投稿準備中である。
図4 アセチレン吸着CPL-1のMEM電子密度分布
(d)ペロブスカイト型誘電体の立方晶の結晶構造と相転移との関係(登録番号:6916、8465)
化学式がABO3と書ける化合物の中で、ペロブスカイト型誘電体を探索する際には、一つの指針がある。t=(rA+ro)/ √2(rB+ro)で定義されるパラメータ(tolerance factor)の値がほぼ1になる元素の組み合わせを選ぶとその構造はペロブスカイト型構造となる場合が非常に多い。ここで、rA、rB、rOはそれぞれA、B、O原子のイオン半径である。また、tの値によりどのようなソフトモード変形が起こりやすいかといったことまで予測可能である。t > 1の時には、B原子のサイト周りに空間的なゆとりがあり、ゾーン中心に帰属するΓ15モード変形が起こりやすい。従って、強誘電体はこのようなトレランスを持つ物質群の中から見つかる場合が多い。一方、t < 1の時には、A原子のサイト周りに空間的なゆとりがあり、ゾーン境界に帰属するM3やR25モードに対応するモード変形が起こりやすい。従って、反強誘電体になる場合がある。このような寛容因子による相転移の分類は経験的に知られているものであるが、非常に多くのペロブスカイト型誘電体の相転移を分類することができる。この考え方が指摘する空間的なゆとりと実際のペロブスカイト型誘電体の結合状態、およびそれらと相転移との関係を系統的に整理することは相転移を電子構造物性論の立場から議論する上で非常に重要であると考えてきた。
(d-1)電子密度分布の特徴から相転移を予想する(登録番号:6916)
PU課題の中で、様々な種類のペロブスカイト型誘電体の電子密度分布を放射光粉末回折実験により調べてきた結果、立方晶の電子密度分布の特徴をその物質の相転移に関連づけて整理できることがわかってきた。
常誘電相(立方晶)では、多くの場合、A原子はイオン的でB原子とO原子の間には共有結合が観測される。その中で、ゾーン境界型の相転移をする物質では、例外なく、O原子の電子密度分布がB-O間の共有結合に対して垂直な方向に伸びるという異方性が観測された。これは酸素八面体の回転に関連した特徴であり、B原子の周りが窮屈という構造上のトレランスと密接な関係がある。この特徴を電子密度分布の中に見出せばそのペロブスカイト型誘電体はゾーン境界型の相転移をすると予想できる。また、B-O間の電子密度の高さから、相転移温度の高低までも予想可能であることを見出した。強誘電相転移をするペロブスカイト型誘電体ではその立方晶において、B-O間の電子密度が高いものほど相転移温度が高いことがわかった。一方、反強誘電相転移をするものでは、逆に、B-O間の電子密度が高いものほど相転移温度が低いことがわかった。誘電体の物性は長距離のクーロン力と短距離の反発力の間のデリケートなバランスに因るが、共有結合の形成が後者を弱める方向に働くと考えると理解されることを示した。
誘電体研究では従来、格子系を取り扱ってきた。従って、その物性については微視的な原子配置や巨視的な外形変化等の構造に関する静的・動的性質を調べればある程度理解できるという意味で、構造物性研究の恰好の対象であった。本研究では、このような従来の誘電体研究に電子論的な議論を取り入れ、結合状態と相転移に関する相関がABO3型ペロブスカイト全般に敷衍できる可能性を示した。この成果は、非常に高い評価を得、Pb系ペロブスカイト(PbTiO3、PbZrO3、PbHfO3)についてまとめた論文(登録番号:6916)が2004年に出版された強誘電体の相転移に関する論文の中で最も優れた論文として池田賞論文賞を受賞した。また、国際会議の招待講演もいくつか受けた。ここで示したような研究成果が得られたのは、PU課題のような継続課題を得て長期的な研究計画が立てられたことに因る。現在、レビュー論文を投稿する準備をしている。
(d-2)PZTの相転移を特徴付けるPb原子の熱的挙動(登録番号:8465)
(d-1)では、クラシカルなペロブスカイト型誘電体について、立方晶の精密構造研究の成果を示した。ここでは、それらを互いに固溶させることにより誘電特性あるいは圧電特性をより高めたペロブスカイト型酸化物について、同様の実験を行い、立方晶の結晶構造と相転移との関係について得られた成果を示す。
反強誘電体PbZrO3と強誘電体PbTiO3の固溶体であるPbZr1-xTixO3(PZT)は、組成比が1対1の付近にMPB(morphotropic phase boundary)を持つ。このMPB近傍でPZTは非常に優れた圧電特性を示し、様々なデバイスに応用されている。その相図は極めて複雑な様相を呈するが、高温相の結晶構造については立方晶系に属する、所謂一般によく知られたペロブスカイト型構造であると見做されてきた。解析の結果、図5に示すように、PZTの立方晶の結晶構造はPbイオンの熱的挙動に注目すると同一の構造ではないことを見出した。エンドメンバーであるPbZrO3の立方晶ではPbイオンは、(0,0,0)サイトから〈110〉方向にわずかに変位した等価な12サイトを等確率で占有するようなdisorder状態にあり、Ti原子の濃度が増すとその方向は〈111〉に変化した。さらにTi原子の濃度が増すと、50%Ti以上の組成において再び〈110〉方向へと変化した。もう一方のエンドメンバーであるPbTiO3では、Pbイオンは(0,0,0)サイトにorderしていた。図5を見ると、cubic相で1対1の組成比付近(50%Ti)に境界があるように見える。また、この立方晶でPb原子の変位方向が変化する境界と低温相の相境界とはうまく対応していることから、PZTにおけるMPB形成はAサイトのPb原子の熱的振る舞いと密接な関係があるように思われる。
この研究成果は、Pbのような重元素を含む試料に対して入射X線に35keV(0.354Å)の高エネルギー放射光を用いることにより、消衰効果や吸収効果等の強度補正を必要としない統計精度が十分のデータを測定することにより得られた。また、構成原子の熱的挙動に敏感な高角の反射強度を広い逆格子空間の中で測定できたことにも因る。これら一連のPb系ペロブスカイト型誘電体の相転移の起源に関する結晶学的研究に対して、日本結晶学会から学術賞を受賞した。
図5 PZTのcubic相おけるPb原子disorder状態(850K)
(e)マキシマムエントロピー法を用いた粉末構造研究に関するその他の研究
(e-1)粉末回折データの確度・精度の評価
マキシマムエントロピー法を用いた粉末構造研究の基盤となる、BL02B2で得られた粉末回折データの確度・精度の評価についても、結合電子の影響が大きく、理論・実験共に確度の高い研究が多数行われているシリコンやダイヤモンドを用いて進めている。現状、IPの検出限界近く(100,000カウント程度)まで測定した低角データで0.1%以下、数千カウントの高角でも10%以下の精度で強度データが得られることが判明している。データ全体を用いた構造研究としては1%前後の精度である。この研究に対しても、現在、成果を原著論文としてまとめている。また、この研究の一部は、2004年7月にマサチューセッツにて行われた精密電子密度解析に関するGordon会議の招待講演にて発表した。この発表の反響は大きく、例えばフランスLune大学のP.Rabillerは、この講演を聴きSPring-8に課題申請を行っている。MEMを用いた構造研究に求められる次の展開は、データ分解能や回折積分強度に基づく電子密度分布の精度・定量性の評価と、軌道を占有する電子量算出などの物理パラメータの導出であろう。今後は、こうした方向を踏まえた研究を先端材料の構造研究とともに進めていく。
(e-2)相変化光ディスク材料の構造解析(登録番号:7276、7277、8366)
現在、DVD-RAM、Blu-ray disc等の書換型光ディスクに用いられる相変化材料としてGeTe-Sb2Te3擬二元系化合物がよく知られている。これはSb-Te化合物に第3元素としてGeを添加して得られるNaCl型構造を基本とする単純な結晶構造が高速相変化に重要な役割を演じていると考えられている。しかし、実用化の現状とは逆に、ベースとなっているSb-Te化合物でさえ結晶構造は未解明の部分が多い。我々は25at.%Te組成付近にNaCl型構造を基本とする一連の長周期層状構造を見出し、それらの構造解析に成功した。組成Sb2nTe3と層数(2n+3)との関係が明らかにされ、より優れた特性をもつ相変化材料の探索、開発に重要な知見を与えるものと考えられる。本研究は松下電器グループとの共同研究により進められ、現在も継続進行中である。
(e-3)シリカメソ多孔体の構造解析
メソスケールの細孔をもつシリカは界面活性剤を用いた自己組織化により合成される。この物質は大きさや形状が制御されたメソ孔を持つことからDDS(Drag Delivary Sytem)を始めとして様々な応用が期待されている。しかし、この物質自体はアモルファスであるため、その構造解析は高分解能電子顕微鏡観察によるものが主流である。細孔壁の微細な構造、さらには細孔に取り込まれた分子の構造情報を得るために、Stockholm大学の寺崎治グループと共同研究のもと、放射光回折法による構造解析を試みている。BL02B2のガス吸着システムを利用してガス吸着による回折強度の変化は観測できた。現在、メソ孔のより詳細な構造およびガス吸着構造について解析を進めているところである。
(e-4)透明電子活性材料C12A7
ナノポーラス結晶12CaO・7Al2O3(C12A7)は、いわゆるアルミナセメントの構成成分の一種であるが、結晶は無色透明で、その構造は大きさがおよそ5Åのケージから成る。このケージ内に包摂されたO2-イオンをO-やH-などのアニオンに置き換えることにより、電子伝導性の発現や、酸化プロセスや電子放出源への応用を始めとして注目されている材料である。この物質はERATO「細野透明電子活性プロジェクト」で開発研究が進められたが、包摂イオンの構造情報は明らかにされていない部分が多く、我々は東工大の細野秀雄グループ、JASRIと共同で放射光粉末回折法による構造研究を進めている。予備的な解析結果であるが、包摂イオンを引き抜いたエレクトライドについては電子密度解析により、電子はケージ内に局在することなく一様な分布をしていることが明らかになった。
(e-5)Pd/Ptコアシェル型ナノ粒子の水素吸蔵
高い水素吸蔵能を持つPdと水素分解、透過性に優れたPtを組み合わせたコアシェル型ナノ粒子は、高密度の水素吸蔵材料として期待されている。BL02B2のガス導入システムを用いた粉末回折データのその場測定より、水素の吸蔵、放出過程でコアシェル型から固溶体型への変化が観測された。特にこの変化は水素放出過程で起こることがその場測定により明らかになった。シェルの厚さや吸蔵、放出時の温度をパラメータとして構造変化についてのデータを収集している。これらの一部については現在論文投稿準備中である。本研究は九大北川宏グループとJASRIとの共同研究で現在も継続進行中である。
(e-6)ナノ結晶の構造と相転移
チタン酸バリウム(BaTiO3)は、結晶構造が室温で正方晶であり、すぐれた強誘電特性を示すことからコンデンサー等のエレクトロニクスデバイスにおいて主要な材料として使われている。しかし、強誘電体メモリー等、最近の強誘電体ナノデバイス開発過程の中で、室温でも立方晶のままで強誘電性を示さないBaTiO3が存在することが広く知られるようになってきた。MEM/Rietveld解析を行い、このようなBaTiO3ナノ微粒子1粒の構造は、粒子サイズに係わらず核が正方晶で表層の約8nmが立方晶のcore/shell型の構造をしていることを見出した(登録番号:8464)。
一方、強弾性体CsZnPO4は、mmサイズの単結晶は相転移するがμmサイズの粉末は相転移しないことを我々が以前発見していた。この相転移における巨大サイズ効果についても実験を行い、その起源がドメインの形成にあることを東京工業大学応セラ研と行ってきた従来の研究成果とまとめて固体物理に解説記事を書いた。その成果は、表紙に掲載されるほど注目された。
(e-7)無容器法で作成したチタン酸バリウム系酸化物の巨大誘電率と結晶構造の関係
静電浮遊法により通常の立方晶BaTiO3を雰囲気制御下で溶融凝固したBaTiO3結晶は六方晶の対称性を持ち、室温での誘電率が100,000以上、損失が0.01以下で、通常のBaTiO3(室温の誘電率は約3,000)の誘電率より遥かに高い。一方、同じ方法でBaTi2O5バルクガラスを作成することも可能であり、このアモルファス試料が高温で結晶化する時に、誘電率が10,000,000以上にも上昇する。特筆すべきは、その誘電率が発散した状態を室温にクエンチできることであり、次世代の非Pb系高誘電材料として大きな期待が寄せられている。2005B期に、アモルファス状態から何らかの結晶相が析出した状態(α相と命名)が高誘電性を示すことを見出し、その成果の一部を論文投稿し、受理された。全くの結晶やアモルファス状態では誘電率は相当低いので、α相での析出物が誘電特性に非常に大きな役割を果たしていると思われる。現在、BL02B2で結晶構造、BL04B2でアモルファス構造を調べる共同研究を試料作成元である宇宙航空研究開発機構およびJASRIと推進している。
(1-2)遺伝的アルゴリズムを用いた放射光粉末による分子性結晶の未知構造決定
(a)単成分からなる分子性金属の構造決定(登録番号:6325)
これまで、1種類の中性分子からなる分子性金属の実現は、分子間反発エネルギーの増加によりバンドが形成されにくいため不可能であると考えられてきた。2001年にこの常識を覆す特性を持った単一中性分子からなる分子性金属Ni (tmdt)2(tmdt:trimethylene - tetrathiafulvalene - dithiolate)が合成された。Ni(tmdt)2は、常温で400S/cmという高い電気伝導度を持ち、0.6Kまで金属的な振る舞いを示す。この報告以来、単一中性分子からなる金属・磁性体・超伝導体材料合成の期待から、Ni(tmdt)2の配位子や中心金属を変えた多くの類似物質の合成が行われている。これらの研究から、伝導性で磁気モーメントを持つCu(dmdt)2、半導体的な電気伝導を示すPd(dt)2などの生成が報告された。これらの物質の多彩な物性を理解するためには、構造情報が重要である。しかし、電解により合成されるこれらの物質は、試料量が微量であり単結晶試料が得られないものが多い。このため、SPring-8の粉末回折データを用いた遺伝的アルゴリズム(GA)による粉末構造決定の研究を進めてきた。これらの構造決定の中からPd(dt)2のab-initio構造決定について紹介する。
SPring-8で得られた粉末回折データのピーク位置からPd(dt)2の格子定数をもとめた。その結果、monoclinicの格子と格子定数を決定した。消滅側から空間群をP21,P21/mに絞り込んだ。格子体積から単位格子中の分子数について検討した。既知構造の類似物質Ni (tmdt)2は単位格子の体積が543.7Å3で、その中に1分子が入っている。格子定数から、Pd(dt)2の単位格子の体積は、918.3Å3であった。また、1分子の長さを計算したところ、Ni(tmdt)2は23.09Å、Pd(dt)2は18.48Åでありその比率は約0.80倍であった。このことから、Pd(dt)2は単位格子に2分子入るとした。GAによる構造決定を行い、Rwp=13.8%の解を得た。GAの解の結晶構造を初期構造としてRietveld解析を行い最終的に、Rwp=3.6%、RI=6.0%の精度で構造を求めた。Pd(dt)2の電気伝導度の特性は、室温で0.3S/cmから温度の低下により低下し半導体的である。決定した結晶構造(図6)を基に、強束縛近似バンド計算が0.001〜0.5eVの範囲でHOMOLUMOギャップの値を変えて行われた。その結果、いずれの場合においてもHOMO由来バンドとLUMO由来バンドの間にエネルギーギャップが見られ、この物質の半導体的挙動を説明できた。これは、本研究で求めた構造が定性的に物性を説明しうることを示している。
単成分からなる分子性金属の構造決定については、Au(tmdt)2やZn(tmdt)2、Co(dt)2など多数の成果(成果番号:6054、3659、3658)が上げることに成功している。これらの研究で、単成分からなる分子性金属の電気伝導度と構造の関連が解明されつつある。最近では中心の金属を2種類に変えた混晶の物質も生成され、化学分野だけでなく物理分野でも注目を集め始めている。
図6 Pd(dt)2の結晶構造
(b)医薬品関連物質コハク酸プレドニゾロンの構造決定
創薬分野において医薬品の粉末試料からその構造を決定することが望まれている。多大な手間と、時間を要する単結晶試料の作成が不要となれば、生成物の確認、新薬の開発の加速が期待できるためである。また、医薬品は、粉末もしくは粉末を押し固めた錠剤として使用するため、粉末の構造が製造プロセスでも望まれている。実際に使用されている医薬品についても粉末しか得られないため構造が知られていない物質が多い。日本薬局方の薬品名から有機化合物ケンブリッジのデータベースを検索したところ、構造が未知にも関わらず医薬品として用いられている物質が多数存在する。分子の原子数とともに例をあげると、Indometacin(41原子)、Clinofibrate(72原子)、Prednizolone Succinate(65原子)などがある。本研究では、これら我々が開発発展させてきたSPring-8 BL02B2の回折データを用いたGAによる構造決定の医薬品に対する性能評価として、Prednizolone Succinate(コハク酸プレドニゾロン)の構造決定を行った。
最初に室温でSPring-8において測定した粉末回折データのみを用いて構造決定を行ったが、幾つかの局所解に陥り、正解を得ることが出来なかった。そこで、ガス噴きつけ高温・低温装置を用いて100Kから400Kの範囲で回折パターンの温度依存性を測定し、格子定数、結晶系をより高い確度で決定し、最終的に信頼度因子Rwp=1.3 % 、RI=3.9 %の精度で構造を精密化することに成功した。この信頼度因子の値は、既知物質のRietveld解析に匹敵しており、局所解から抜け出し正解にたどり着くことが出来たことがわかる。この精密化のプロセスにはCCDCなどのデータベースの情報を最大限に利用し、MEMの利用さらにはMEM、Rietveld法の手法改良など極めて高度な技術が要求された。
コハク酸プレドニゾロンは、1種類の分子からなるにもかかわらず、結晶学的に非等価な2つの分子が非対称単位に存在した。そこで2種類の分子について、その分子構造の違いを調べた。分子モデルをコハク酸部、プレドニゾロン部と分けて考えた場合、特にコハク酸部に違いが見られた。6つの炭素と1つの酸素からなるコハク酸の一次元鎖のうち、プレドニゾロン部との接合部から最も遠い2つの炭素の位置が大きく異なっていた。以上のことから、コハク酸プレドニゾロンは結晶を形成する際、コハク酸部分が異なった2種類の分子となることがわかった。さらに、この分子は水素結合を介して分子同士が2次元的な面を形成すること、この面の積層に伴い水素結合部が変形し非対称な2分子が結晶中に生まれることが判明した。
現在、世界的に放射光を用いた医薬品の粉末X線構造決定が行われているが、実際に正解にたどり着いている例は、Peter Stephensなどの高度な粉末X回折の知識を有した一部の専門家によるものばかりである。本研究から、この理由の一つは、医薬品の解析にはGAやシミュレーテッドアニーリング(SA)、モンテカルロ(MC)などの実空間法だけでは全く不十分で、高度な粉末構造精密化技術が必要となることにあることが判明した。このことは、最近の論文でも指摘されており、例としては、KIANGらによって行われたマレイン酸エナラプリルの構造決定などがある。今後はこのことを認識した上での戦略的な手法開発が必須であると考えられる。
(c)GAを用いた未知構造決定に関するその他の研究
これらの研究の基盤となるGAを用いた構造決定システムに関しては、2005年に特許を出願した。また、GAを用いた研究についても、前述した成果以外にも金属錯体、有機導体、イオン性液体関連物質などについて研究を進めており、幾つかの研究については原著論文として成果が上がっている。特に、我々が構造決定した[EMI]2FeCl4の構造を含めた論文は、2005年11月号のBull.Chem.Soc.Jpn.誌のBCSJ賞受賞論文として掲載された。また、フェロセン-アントラキノン共役接合錯体の研究例では、分子を構成する原子数86の世界的に見ても粉末としては最大規模の構造決定に成功した。この研究についても、現在、成果をまとめている。
未知構造決定の研究を進めて感じているのは、分子性結晶の放射光を用いた構造研究が未だ極めて発展途上であることである。IUCr2005でBNLのPeter StephensがKeyNote講演で示していたように“Refine,Refine,Refine,Refine,Refine・・・”とまさに専門家の知識と技量を集約した極めて高度な解析技術が求められる。これは放射光を用いるとデータの精度が高まり、実験室系では誤差に埋もれて見逃されていた構造の間違いがくっきりと浮かび上がることによる。このデータに対し、正確な構造を探索するには、GAやSA、MCによる実空間法だけでは全く不十分であり、精密化・モデル構築を含めたシステム開発の重要性を感じている。今後は、これらの開発が急務の課題である。
2)ユーザー支援内容
ユーザー支援は、2003A期から2005B期までの各期において、1期7〜13グループ(平均8.7グループ)に対して行った。各期シフト数は39〜51シフトであり、1期平均は約42.5シフトとなる。具体的な支援内容は、測定用の試料調整法の指導、測定用の最適キャピラリーサイズ等の情報の提供、実験時の装置・ソフトの操作方法に関する指導、温度変化や波長等の実験条件の最適化等である。実験用の試料調整・キャピラリー封入等の準備に支援が必要な場合には、マシンタイムの前に、PUメンバーが支援者の研究室に行く、もしくは、支援者にPUメンバーの研究室に来ていただく形で支援した。支援課題のマシンタイムには、必ずPUメンバーが実験に参加し、マシンタイムの最初から最後まで責任を持って対応した。マシンタイム終了後の測定データの解析方法に関しても助言、指導の形で支援した。この場合にも、状況によっては、PUと支援者が相互に研究室に出張する形で対応した。
ユーザー開拓は、主に、学会や研究会の会場で潜在的なユーザーにSPring-8の利用を紹介する形で進めた。特に、SPring-8の利用で研究が飛躍的に進むと考えられる場合には、そのようなグループと学会後に個別で話をするなどしてSPring-8を利用するよう積極的に働きかけた。PUメンバーの公表論文や学会発表によりSPring-8利用に興味を持ったグループには、課題申請の情報等を知らせるだけでなく、それらのグループが有機的にSPring-8を利用できるよう様々な形で支援した。例えば、PUメンバーと研究分野・測定方法が類似しており、実験支援が十分に行えると判断した場合には、PUメンバーが共同研究者として加わり、課題申請書の作成についても助言した。また、研究分野・測定方法から直接の支援が困難と判断した場合には、JASRI側にユーザーを紹介する形で対応した。この場合には、PUメンバーの理解の範囲内で、ユーザーの実験のポイントについて研究の意義や論文・解説をJASRI側に送付して詳しく説明するよう努めた。このようにして開拓した全てのユーザー数は3年間で17グループ以上に上る。
これらの支援・ユーザー開拓で得られた成果は、全くの支援直後では動向を知らない場合もあるため全て把握出来ているわけではない。把握している範囲内でも、幾つかの原著論文の形で成果が上がっている。例を挙げると、成果リストの最後に挙げた論文登録番号、8949、7820、8590、7821、8951などがある。
3)測定技術開発など、その他内容
PU課題、支援課題を実行していく上で生じた問題点や改良点については、常にビームライン担当者に提案、相談し、改善に努めた。例えば、回折計制御プログラムについて、測定条件設定や誤操作防止対策などについて提案を行い、ビームライン担当者の協力を得ながら改善を図った。その結果、現在、長時間にわたる連続測定を快適にプログラムできる環境が実現している。一方、BL02B2での粉末回折実験のバリエーションを多様化させ、PUグループを含む他のユーザーの高度な利用要求に対応するために、以下に記すような試料環境を調整・制御するアクセサリーの新規導入・立ち上げを行った。
(3-1)ガス吸着システム
構造物性研究を中心課題としたBL02B2では、測定環境として試料温度を調整するシステムが当初から完備されていた。このシステムを用いて温度制御を行いながら、かつ、試料周りのガス雰囲気も制御した状態でデータ測定を可能とするガス吸着システムの開発を行った(図7)。この測定技術開発は、京大北川進グループ、岡山大小林達生グループとBL担当者ら施設側との共同研究の中で推進された。開発したシステムは、キャピラリーの中の試料を外気から遮断し、真空またはガス雰囲気に保つための試料ホルダーおよびガス導入ライン、調整用バルブ、ゲージから構成されている。このシステムにより真空またはガス雰囲気での「その場測定」が可能となり、既存の温度調整装置と組み合わせることによりガス圧力と温度をパラメータとした条件下での測定が可能になった。
多孔性配位高分子に関する実験課題では、ガス吸着および脱着による回折データの変化を同一試料でその場測定することに成功した。また、真空引き加熱することで、合成後に細孔内に含まれている水分子などのゲスト除去も容易にできるようになった。このシステムを利用してX線回折による吸着ガス分子の観測という世界に類を見ない先導的な研究が現在も引き続き推進されている。また、支援課題で行ったPt/Pdコアシェル型ナノ粒子の水素吸蔵特性に関する研究では、水素吸蔵、放出サイクルにおける回折データのその場測定を行い、コアシェルから固溶体への構造変化は水素放出過程に起こることを明らかにした。この成果は水素圧力を変えて封入した個々の試料の測定からは得難いものであり、本システムを用いたその場測定により初めて明らかになった成果であると自負できる。
(3-2)ヘリウムガス吹付け型低温装置(Helijet)
BL02B2では試料の温度変化については、窒素ガス吹付け型低温および高温装置、ヘリウム循環型クライオスタットを用いることにより、およそ10Kから1000Kまでの温度領域での測定が可能である。2004年にビームラインに導入されたヘリウムガス吹付け型低温装置は窒素温度以下、20Kまでの測定を通常のガス吹き付け測定とほぼ同じ状態で行うことを可能にした。また、基本的に吹き付け法はクライオスタットに比べて窓材による強度の減少を抑え、バックグラウンドノイズの少ないデータを得ることができることと、複数の試料を測定する場合、試料交換に要する時間が短縮されることなど利点は多い。PUグループはBL担当者の指導を受け本装置の使用方法を習得し、PU課題および支援課題の中で状況に応じて本装置を用いた測定を行ってきた。
例えば、ガス吸着実験では、より低い温度での回折データの測定が確度の高い構造情報を与えるが、ヘリウムガス吹付け装置の導入以前は、窒素ガス吹付け装置を用いた90Kまでの測定を行ってきた。一方、クライオスタットを使えば10Kまでの実験が可能であるが、クライオスタットの中の試料にガスを導入することは難しく、吹付け型低温装置の利用は大きなブレークスルーとなった。現在、窒素温度以下で生じる導入ガス分子のバルクの散乱を実験的にあるいは解析的に除去する改善策を、色々なトライアルを通して検討しているところである。
図7 ガス導入システム模式図
(4)研究成果目標達成度の自己評価
研究目標・目的に掲げた、「1.研究成果」、「2.ユーザー支援・開拓」、「3.装置整備・測定技術開発」、を総合して、本パワーユーザー課題の達成度を100点満点のうち80点と自己評価する。満点に満たない部分は、特に、2と3の評価項目について満足できない点があるためである。
「1.研究成果」に関しては、PUメンバーが主導的に行った研究およびユーザー支援により行われた研究の成果を合わせて、53報以上の学術論文、6件の招待講演、4件の受賞が得られており当初目標は達成できたと考えている。学術論文の中にはNature誌、Nature Materials詩、Angew. Chem.Int.Ed.誌などの飛びぬけてインパクトファクターの高い学術雑誌も含まれており、数件の新聞報道等もなされている。したがって「1.研究成果」に関しては当初目標は達成できたと考えている。
「2. ユーザー支援・開拓」については、17の独立な新規ユーザーグループの開拓、1期平均42.5シフトの支援実験とその量に関しては評価できる。しかしながら、全ての開拓・支援が成果に繋がったとは言い難い部分もある。開拓してもその後の研究成果の把握やサポートが十分でなかった点も見られた。この部分は改善すべき点であると考えている。
「3.装置整備・測定技術開発」について、ガス吹き付け装置などNature誌に掲載される成果を生み出す装置・技術を開発したことは評価できる。He吹き付け装置についても同様である。しかし、これら以外の従来同様の測定をするための常設装置とソフトウエアーについてはBL担当者にその保守と整備をほとんど任せていた感がある。事実BL調整の来所は、3年間で4件しかなかった。現状でBL02B2の汎用の測定装置とソフトウエアーはよく整備されていると思われる。しかし、今後はユーザー個々の意見を組み入れる形でより特殊な実験にも対応できるソフト・ハードの開発を行うことになるであろう。PU課題の中だけでこのような長期にわたるタフな装置整備・測定技術開発を行うにはマシンタイム期間が短くタイトであるので、如何に目前の成果達成とバランスさせるかが今後の課題であると考えている。
以上のことから、2と3の項目で10点ずつ減点し、総合評価で80点とした。
(5)成果リスト
1. 9016 E.Nishibori,S.Narioka,M.Takata,M.Sakata,T.Inoue,H.Shinohara,“Entrapping C2 molecule into pentagonal-dodecahedral Y2-cage in(Y2C2)@C82(III) metallofullerenes.”,ChemPhysChem 7(2006)345-348.
2. 未登録 Y.Yoshida,A.Otsuka,G.Saito,S.Natsume,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata, M.Takahashi,T.Yoko,“Conducting and magnetic properties of 1-ethyl-3-methylimidazolium(EMI) saltscontaining paramagnetic irons:Liquids [EMI](MCl4)-Cl-III] (M = Fe and Fe0.5Ga0.5) and solid [EMI]2[(FeCl4)-Cl-II].”,Bulletin of the Chemical Society of Japan.78(2005)1921-1928.
3. 8444 H.Fujishita,Y.Ishikawa,A.Ogawaguchi,K.Kato,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,“A study of structures and orderparameters in antiferroelectric PbHfO3 bysynchrotron radiation.”,Journal of the Physical Society of Japan.74(2005)2743-2747.
4. 未登録 E.Dova,R.Peschar,M.Takata,E.Nishibori,H.Schenk,AF.Stassen,JG.Haasnoot,“Low-spin state structure of [Fe(chloroethyltetrazole)6] (BF4)2 obtained from synchrotron powder diffraction data.”,Chemistry-A European Journal.11(2005)5855-5865.
5. 未登録 K.Yamamoto,E.Fujiwara,A.Kobayashi,Y.Fujishiro,E.Nishibori,M.Sakata,M.Takata,H.Tanaka ,Y.Okano, H. Kobayashi,“Single-componentmolecular conductor[Zn(tmdt)2] and related Zn complexes.”ChemistryLetters.34 (2005)1090-1091.
6. 8293 K.Hori,Y.Iwai,M.Yano,R.Orihara-Furukawa,Y.Tominaga,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,K.Kato,“Phase relationships of crystalline polymorphs of mesogenic 4-cyano-4 '-heptyloxybiphenyl(70CB) and 4-cyano-4'- octyloxybiphenyl(80CB).”,Bulletin of the Chemical Society of Japan.78(2005)1223-1229.
7. 8026 S.Ishiwata,M.Azuma,M.Hanawa,Y.Moritomo,Y.Ohishi,K.Kato,M.Takata,E.Nishibori,M.Sakata,I.Terasaki,M. Takano,“Pressure/temperature/substitution-inducedmelting of A-site charge disproportionation in Bi1-xLaxNiO3(0 <= x <= 0.5).”, Physical Review B 72(2005) 045104.
8. 9014 A.Bentien,E.Nishibori,S.Paschen,BB.Iversen,“Crystal structures, atomic vibration,and disorder of the type-I thermoelectric clathrates Ba8Ga16Si30,Ba8Ga16Ge30,Ba8In16Ge30,and Sr8Ga16Ge30.” Physical Review B 71(2005) 144107.
9. 7799 S.Niitaka,M.Azuma,M.Takano,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,“Crystal structure and dielectric and magnetic properties of BiCrO3 as a ferroelectromagnet.”,Solid State Ionics 172(2004)557-559.
10. 9021 M.Christensen,BB.Iversen,L.Bertini,C.Gatti,M.Toprak,M.Muhammed,E.Nishibori,“Structural study of Fe doped and Ni substituted thermoelectric skutterudites by combined synchrotron and neutron powder diffraction and ab initio theory.”Journal of Applied Physics 96(2004)3148-3157.
11. 6219 F.Cargnoni,E.Nishibori,P.Rabiller,L.Bertini,GJ.Snyder,M.Christensen, C.Gatti,BB.Iversen,“Interstitial Zn atoms do the trick in thermoelectric zinc antimonide,Zn4Sb3:A combined maximum entropy method X-ray electron density and ab initio electronic structure study.”Chemistry-A European Journal 10(2004)3862-3870.
12. 6328 M.Takata,E.Nishibori,M.Sakata,H.Shinohara,“Charge density level structures of endohedral metallofullerenes by the MEM/Rietveld method.”,FULLERENE-BASED MATERIALS:STRUCTURES AND PROPERTIES STRUCTURE AND BONDING 109(2004)59-84.
13. 6218 GJ.Snyder,M.Christensen,E.Nishibori,T.Caillat,BB.Iversen,“Disordered zinc in Zn4Sb3 with phonon-glass and electron-crystal thermoelectric properties.”,Nature Materials 3(2004)458-463.
14. 6106 H.Fujishita,Y.Ishikawa,A.Ogawaguchi,K.Kato,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,“Temperature dependence of structures and order parameters in antiferroelectric PbHfO3.”,Ferroelectrics 301(2004)139-143.
15. 6054 A.Kobayashi,E.Fujiwara,W.Suzuki,M.Sasa,Y.Fujishiro,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,Y.Okano,H.Fujiwara, H.Kobayashi,“Recent progress in development of single-component molecular metals.”,Journal De Physique IV 114 (2004)419-424.
16. 6208 E.Nishibori,K.Iwata,M.Sakata,M.Takata,H.Tanaka,H.Kato,H.Shinohara,“Anomalous endohedral structure of Gd@C82 metallofullerenes.”,Physical Review B 69(2004)113412.
17. 6234 T.Ishimasa,K.Oyamada,Y.Arichika,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,K.Kato,“Structure ana lysis of Zn-Mg-Ho icosahedral quasicrystal by modified Rietveld method using ellipsoid and sphere windows.”,Journal of Non-Crystalline Solids 334(2004)167-172.
18. 未登録 H.Shimotani,T.Ito,Y.Iwasa,A.Taninaka,H.Shinohara,E.Nishibori,M.Takata,M. Sakata,“Quantum chemical study on the configurations of encapsulated metal ions and the molecular vibration modes in endohedral dimetallofullerene La2@C80.”,Journal of the American Chemical Society.126(2004)364-369.
19. 未登録 M.Saitoh,M.Sano,M.Fujita,M.Sakata,M.Takata,E.Nishibori,“Studies of capacity losses in cycles and storages for a Li1.1Mn1.9O4 positive electrode.”,Journal of the Electrochemical Society 151(2004)A17-A22.
20. 5804 M.Tsubota,F.Iga,T.Nakano,K.Uchihira,S.Kura,M.Takemura,Y.Bando,K.Umeo,T.Takabatake,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,K.Kato,Y.Ohishi,“Hole-doping and pressure effects on the metal-insulator transition in single crystals of Y1-xCaxTiO3(0.37 <= x <= 0.41).”,Journal of the Physical Society of Japan 72(2003)3182-3188.
21. 6325 W.Suzuki,E.Fujiwara,A.Kobayashi,Y.Fujishiro,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,Y.Okano,H.Kobayashi,“Structures of a single-component palladium complex with extended TTF-type dithiolate ligands, bis (tetrathiafulvalenedithiolato) palladium determined by powder X-ray diffraction.”,Chemistry Letters 32(2003)1106-1107.
22. 5813 T.Noritake,S.Towata,M.Aoki,Y.Seno,Y.Hirose,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,“Charge density measurement in MgH2 by synchrotron X-ray diffraction.”,Journal of Alloys and Compounds 356(2003),84-86.
23. 5081 K.Kirihara,T.Nagata,K.Kimura,K.Kato,M.Takata,E.Nishibori,M.Sakata.“Covalent bonds and their crucial effects on pseudogap formation in alpha-Al(Mn,Re)Si icosahedral quasicrystalline approximant.”,Physical Review B 68(2003)014205.
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27. 未登録 M.Takata,E.Nishibori,M.Sakata,C.R.Wang,H.Shinohara,“Sc2 dimer in IPR-violated C66 fullerene:a covalent bonded metallofullerene.”,Chemical Physics Letters 372(2003)512-518.
28. 3675 K.Matsuno,T.Katsufuji,S.Mori,M.Nohara,A.Machida,Y.Moritomo,K.Kato,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,K.Kitazawa,H.Takagi,“Charge ordering and spin frustration in AlV2-xCrxO4.”,Physical Review Letters 90(2003)096404.
29. 3658 W.Suzuki,E.Fujiwara,A.Kobayashi,Y.Fujishiro,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,H.Fujiwara,H.Kobayashi,“Highly conducting crystals based on single-component gold complexes with extended-TTF dithiolate ligands.”,Journal of the American Chemical Society 125(2003)1486-1487.
30. 6327 M.Takata,E.Nishibori,M.Sakata,H.Shinohara,“Synchrotron radiation for structural chemistry-Endohedral natures of metallofullerenes found by synchrotron radiation powder method.”,STRUCTURAL CHEMISTRY 14(2003)23-38.
31. 6600 S.Horike,R.Matsuda,R.Kitaura,S.Kitagawa,T.Iijima,K.Endo,Y.Kubota,M.Takata, “Motion of Methanol Adsorbed in Porous Coordination Polymer with Paramagnetic Metal ions”,Chem.Commun.(2004)2512.
32. 7281 R.Matsuda,R.Kitaura,S.Kitagawa,Y.Kubota,T.C.Kobayashi,S.Horike,M.Takata,“Guest Shape-Responsive Fitting Porous Coordination Polymer with Shrinkable Framework”,J.Am.Chem.Soc.126(2004)14063-14070.
33. 7283 R.Kitaura,F.Iwahori,R.Matsuda,S.Kitagawa,Y.Kubota,M.Takata,T.C.Kobayashi,“Rational Design and Crystal Structure Determination of 3-D Metal-Organic Jungle-Gym-like Open Framework”,Inorg.Chem.43(2004)6522-6524.
34. 7276 T.Matsunaga,N.Yamada,Y.Kubota,“Crystal structures of stable and metastable Ge2Sb2Te5,an intermetallic compound in GeTe-Sb2Te3 pseudobinary system”,Acta Cryst.B 60(2004)685-691.
35. 7272 Y.Kubota,M.Takata,R.Matsuda,R.Kitaura,S.Kitagawa,K.Kato,M.Sakata,T.C.Kobayashi,“Direct Observation of Hydrogen Molecules Adsorbed onto a Microporous Coordination Polymer”,Angew.Chem.Int.Ed.44(2005)920-923.
36. 8366 K.Kifune,Y.Kubota,T.Matsunaga,N.Yamada,“Extremely long period stacking structure in Sb-Te binary system”,Acta Cryst.B 61(2005)492-497.
37. 9033 R.Matsuda,R.Kitaura,S.Kitagawa,Y.Kubota,R.V.Belosludov,T.C.Kobayashi,H.Sakamoto,T.Chiba,M.Takata,Y.Kawazoe,Y.Mita,“Highly ControlledAcetylene Accommodation in a Metal-Organic Microporous Material”,Nature 436(2005)238-241.
38. 9034 R.Kitaura,R.Matsuda,Y.Kubota,S.Kitagawa,M.Takata,T.C.Kobayashi,M.Suzuki,“Formation and Characterization of Crystalline Molecular Arrays of Gas Molecules in a 1-Dimensional Ultramicropore of a Porous Copper Coordination Polymer”,J.Phys.Chem.B 109(2005)23378-23385.
39. 未登録 T.Matsunaga,R.Kojima,N.Yamada,K.Kifune,Y.Kubota,Y.Tabata,M.Takata,“Single Structure Widely Distributed in a GeTe-Sb2Te3 Pseudobinary System:A Rock Salt Structure is Retained by Intrinsically Containing an Enormous Number of Vacancies within its Crystal”,Inorg.Chem.45(2006)2235-2241.
40. 8981 K.Takase,T.Shimizu,K.Makihara,H.Sato,H.Negishi,Y.Takahashi,Y.Takano,K.Sekizawa,Y.Kuroiwa, S.Aoyagi,A.Utsumi,A.Wada,A.Ino,H.Namatame,M.Taniguchi,“Electrical Resistivity and Photoemission Spectra of Layered Oxysulfide (La1-xCaxO)Cu1-xNixS”,Physica B 329-333(2003)898-899.
41. 8982 K.Takase,T.Shimizu,K.Makihara,Y.Takahashi,Y.Takano,K.Sekikawa,Y.Kuroiwa,S.Aoyagi,A.Utsumi,“Structural Defects Effect on Ferromagnetism of Layered Oxysulfide (La1-xCaxO)Cu1-xNixS”,Physica B 329-333 (2003) 961-962.
42. 6743 Y.Yamamura,N.Nakajima,T.Tsuji,A.Kojima,Y.Kuroiwa,A.Sawada,S.Aoyagi.S,H.Kasatani,“Drastic Lowering of the Order-Disorder Phase Transition Temperatures in Zr1-xMxW2O8-y(M = Sc,Y,In)Solid Solutions”,Phys.Rev.B 70 (2004)104107(1-6).
43. 6916 Y.Kuroiwa,H.Fujiwara,A.Sawada,S.Aoyagi,E.Nishibori,M.Sakata,M.Takata,H.Kawaji,T.Atake,“Distinctive Charge Density Distributions of Perovskite-Type Antiferroelectric Oxides PbZrO3 and PbHfO3 in Cubic Phase”, Jpn.J.Appl.Phys.43(2004)6799-6802.
44. 6222 H.Kasatani,H.Ootaka,S.Aoyagi,A.Kimura,Y.Kuroiwa,“Charge Density Study on the Ferroelectric Phase in LiTaO3 by Synchrotron Radiation Powder Diffraction”,Ferroelectrics 304(2004)163-166.
45. 7128 Y.Kuroiwa,H.Fujiwara,A.Sawada,H.Kawaji,T.Atake,“Disorder in the Cubic Phase of PbHfO3 Studied by High Energy Synchrotron-Radiation Diffraction”,J.Korean Phys.Soc.46(2005)296-299.
46. 8464 A.Aoyagi,Y.Kuroiwa,A.Sawada,H.Kawaji,T.Atake,“Size Effect on Crystal Structure and Chemical Bonding Nature in BaTiO3 Nanopowder”,J.Thermal Anal.Calorimetry 81(2005)627-630.
47. 8465 Y.Kuroiwa,Y.Terado,S.J.Kim,A.Sawada,Y.Yamamura,S.Aoyagi,E.Nishibori,M.Sakata,M.Takata,“High-Energy SR Powder Diffraction Evidence of Multisite Disorder of Pb Atom in Cubic Phase of PbZr1-xTixO3”,Jpn.J.Appl.Phys.44(2005)7151-7155.
48. 未登録 J.Yu,Y.Arai,T.Masaki,T.Ishikawa,S.Yoda,S.Kohara,H.Taniguchi,M.Itoh,Y.Kuroiwa,“Fabrication of BaTi2O5 Glass–Ceramics with Unusual Dielectric Properties during Crystallization”,Chem.Mater.18(2006)2169-2173.
49. 8949 M.Tachibana,H.Kawaji,T.Atake,“Heat Capacity and Magnetic Properties of Pyrochlore Hg2Os2O7”,Solid State Commun.131(2004)745-748.
50. 7820 M.Inoue,T.Atake,H.Kawaji,T.Tojo,“Structural and magnetic properties of the phase transition in absorbed and non-absorbed copper(II) trans-1,4-cyclohexanedicarboxylate”,Solid State Commun.134(2005)303-306.
51. 8590 H.Kawaji,Y.Jobayashi,T.Atake,T.Toji,N.Sakai,H.Yokokawa,“Heat Capacity of Ce0.8Y0.2O1.9 and the Effects of Dissolution of Water/Hydrogen”,Thermochim.Acta 431 (2005)49-52.
52. 7821 M.Tachibana,K.Kiyama,M.Yoshizawa,H.Kawaji,T.Atake,“Strongly Correlated Behavior in Magnetoresistive Fe1-xCuxCr2S4 Spinels”,Phys.Rev.B 71(2005)180403(R1-4).
53. 8951 T.Tachibana,K.Akiyama,H.Kawaji,T.Atake,“Lattice Effects in Mulitiferroic RMn2O5 (R = Sm-Dy,Y)”,Phys.Rev.B72(2005)224425(1-4).
(プロシーディングス、解説 等)
1. 6326 坂田誠、西堀英治、高田昌樹、“マキシマムエントロピー法による電子密度分布”、熱測定 31、(2004)29-31.
2. 未登録 西堀英治、G.Jeffrey Snyder,Bo Brummerstedt Iversen、“マキシマムエントロピー法による高性能熱電変換材料β-Zn4Sb3の構造”、日本結晶学会誌 Vol.47(2005)204-210.
3. 未登録 西堀英治、成岡晋太郎、坂田誠、高田昌樹、井上崇、篠原久典、“イットリウム2金属内包フラーレンにおける、2金属2炭素内包構造”、豊田研究報告 No58(2005)167-172.
4. 7277 T.Matsunaga,N.Yamada,“Crystal Structure and Bonding Nature of Ge8Sb2Te11,a Suitable Material for High-Speed,High-Density Phase-Change Recording”,Proceedings of Phase Change Optical Information Storage (PCOS2004).
5. 8968 K.Takase,O.Shoji,K.Sato,S.Koyano,Y.Kuroiwa,S.Aoyagi,Y.Takahashi,Y.Takano,K.Sekizawa,“Structural Studies of Layered Magnetic Semiconductor (La1-xCaxO)Cu1-xNixS”,AIP Conf.Proc.772(2005)325-356.
6. 4927 黒岩芳弘、澤田昭勝、青柳忍、“ペロブスカイト型酸化物誘電体の電子密度分布”固体物理 Vol.38(2003)488-496.
7. 7738 黒岩芳弘、“ペロブスカイト型誘電体の相転移を類別する立方晶の結晶構造”、日本結晶学会誌 Vol.47(2005)147-153.
8. 8953 山下勲、川路均、阿竹徹、黒岩芳弘、澤田昭勝、“誘電体結晶の構造相転移における巨大サイズ効果-強弾性体CsZnPO4の相転移における特異なサイズ効果-”、固体物理 Vol.40(2005)493-502.
9. 未登録 坂田誠、西堀英治、青柳忍、黒岩芳弘、久保田佳基、高田昌樹、加藤健一、“BL02B2に設置された大型デバイ-シェラーカメラについて”、SPring-8利用者情報10(2005)191-193.
(口頭発表(招待講演など主だったもののみ)
1. 未登録 E.Nishibori,et al.,“The Endohedral Nature of Lanthanide Endohedral Mono-metallofullerene, M@C82 (M=La,Ce,Gd,Eu,Er,Lu)”(Invited Talk).The Electrochemical Society,Inc.207th Meeting(May 15-20,2005,Quebec City).
2. 未登録 E.Nishibori,“Recent progress of MEM charge density study from powder diffraction at SPring-8”(Invited Talk).Gordon Research Conference 2004 on Electron Distributions and Chemical Bonding,(July 4-9,2004,Mount Holyoke College,Massachusetts, USA).
3. 未登録 E.Nishibori,“The Structures of Y and Ti Di-Metal Carbide Endohedral Metallofullerenes.”(Invited Talk).The Electrochemical Society,Inc.205th Meeting(May 9-13,2004,San Antonio,Texas,USA).
4. 未登録 黒岩芳弘、“ペロブスカイト型誘電体の電子密度分布の特徴と相転移との関係”(招待講演)日本セラミックス協会第18回秋季シンポジウム(Sep 27-29、2005、大阪府立大学、大阪)
5. 未登録 Y.Kuroiwa,A.Kimura,A.Sawada,S.Aoyagi,H.Tanaka,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,“SR Diffraction Evidence for the Covalent Bonding Nature and the Ferroelectric Phase Transition in Perovskite Oxides”(Selected Paper).10th European Meeting on Ferroelectricity(Aug.3-8,2003,Cambridge,UK).
6. 未登録 Y.Kuroiwa,H.Kowaka,A.Kimura,A.Sawada,H.Kasatani,K.Kitamura,“Bonding Nature in Ferroelectric Crystals LiNbO3 and LiTaO3”(Selected Paper).8th Int’l Symp.on Ferroic Domains and Micro-to Nanoscopic Structures(Aug.24-27,2004,Tsukuba).
7. 未登録 Y.Kuroiwa,S.Aoyagi,E.Nishibori,M.Sakata,M.Takata,“Electron Charge Density Study on the Phase Transitions in Perovskite-Type Oxides”(Invited Talk).8th Russia/Cis/Baltic/Japan Symposium on Ferroelectricity (May 15-19,2006,Tsukuba).
8. 未登録 Y.Kuroiwa,“High-Energy Synchrotron-Radiation Powder Diffraction Study of Ferroelectric Materials”(Invited Talk).6th Japan-Korea Conference on Ferroelectricity(Aug.17-20,2006,Sendai).
(受賞)
1. 未登録 西堀英治“放射光粉末X線回折法による精密結晶構造解析法の開発と展開”、日本結晶学会進歩賞受賞講演、2005年12月6日、日本結晶学会2005年度年会、姫路.
2. 未登録 吉田幸大、他“Conducting and magnetic properties of 1-ethyl-3-methylimidazolium(EMI) salts containing paramagnetic irons:Liquids [EMI](MCl4)-Cl-III] (M = Fe and Fe0.5Ga0.5) and solid [EMI]2[(FeCl4)-Cl-II].” Bull. Chem.Soc.Jpn.BCSJ賞2005年11月15日.
3. 7887 黒岩芳弘、他.“Inrecognition of Excellent X-ray Work on Cubic Phases of Perovskite-Type Oxides”、第1回池田賞論文賞(登録番号6916)、2004年5月26日、第21回強誘電体応用会議、京都.
4. 9038 黒岩芳弘“ペロブスカイト型誘電体の相転移の起源に関する結晶学的研究”、日本結晶学会学術賞受賞講演、2005年12月6日、日本結晶学会2005年度年会、姫路.
(特許)
1. ハイブリッドGAによる複数パラメータの最適化方法、その応用技術たる放射線回折データに基づく物質構造の推定方法、ならびに両方法の関連発明.
出願国 :日本
出願日 :2005年12月5日
出願番号:特願2005-350770
出願人 :国立大学法人名古屋大学
発明者 :坂田誠、西堀英治
黒岩 芳弘 KUROIWA Yoshihiro
広島大学大学院 理学研究科 物理科学専攻
〒739-8526 東広島市鏡山1-3-1
TEL:082-424-7397 FAX:082-424-7398
e-mail : kuroiwa@sci.hiroshima-u.ac.jp