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Volume 11, No.2 Pages 109 - 111

3. 告知板/ANNOUNCEMENTS

最近のSPring-8関係功績の受賞
Award-winning Achievements on SPring-8

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「第10回日本放射光学会奨励賞」を財団法人高輝度光科学研究センター 山崎裕史副主幹研究員、独立行政法人日本原子力研究開発機構 石井賢司研究員が受賞


 日本放射光学会では、学術賞の一つとして奨励賞を設けており、この奨励賞は、若手研究員を奨励する趣旨から、放射光科学に関する特に優れた研究成果を対象に表彰するものである。


受賞者紹介

 山崎 裕史 財団法人高輝度光科学研究センター

       ビームライン・技術部門 副主幹研究員


功績名:回折過程におけるX線コヒーレンスの伝播の研究


 石井 賢司 独立行政法人日本原子力研究開発機構

       量子ビーム応用研究部門 放射光科学研究ユニット 研究員


功績名:共鳴非弾性X線散乱法による銅酸化物高温超伝導体の電子状態の研究


 山崎氏は、X線光学素子によってコヒーレンスがどのように変わるのかを解決するために、任意の入射波動場に対する動力学的回折現象を時間を含む高木-Taupin方程式のグリーン関数解から解析的に構成するというユニークな手法を開発した。この理論によれば、計測されるロッキングカーブは入射X線のコヒーレンス関数のフーリエ変換と試料結晶のイントリンシックなロッキングカーブのコンボリューションとして表現される。この理論を用いて、不等間隔X線干渉計の干渉パターンの解析を行い、また多数の反射面でロッキングカーブ計測を行うと、入射X線のコヒーレンス関数を実験的に求め得ることをも示した。これらが今後のコヒーレントX線利用の基盤をなす先駆的な研究であると評価された。

 硬X線領域の共鳴非弾性散乱は、第三世代大型放射光源が利用可能となった全く新しい物性研究手法で近年目覚しい発展を遂げている。石井氏は、この共鳴非弾性X線散乱法を固体物理で重要な問題となっている酸化物強相関電子系物質、特に巨大磁気抵抗効果や高温超伝導を示す遷移金属酸化物のエネルギーおよび運動量空間での電子励起状態の観測に成功した。これらの物質では、電子間に強い相互作用が働いているために予想もできない新奇な物性、機能が発現しており、電子励起状態を観測することは電子間相互作用を明らかにする上でも最も重要な物理量である。石井氏の研究は固体物理の中心課題に対して一石を投じたことが評価され、今回の受賞となった。



「第3回ひょうごSPring-8賞」を株式会社豊田中央研究所 長井康貴研究員並びに大阪大学生命機能研究科Fadel A.Samatey招聘助教授、今田勝巳助教授が受賞


 ひょうごSPring-8賞とは、SPring-8における様々な成果の中から、社会経済全般の発展に寄与することが期待される研究成果をあげた方々を顕彰し、SPring-8についての社会全体における認識と知名度を高めることを目的として平成15年度より兵庫県が設置した賞です。


受賞者紹介

 長井 康貴 株式会社豊田中央研究所 研究員


功績名:自動車排ガス浄化用助触媒の開発と機能解明


 近年の地球規模での環境問題に対応するクリーンな自動車排ガスの実現のためには、より高性能な排気浄化触媒の開発が急務となっている。SPring-8の高輝度・高エネルギーX線の特性を生かしたXAFSによる構造解析から、自動車触媒に含まれる助触媒セリアージルコニア(CZ)の酸素貯蔵・放出メカニズムや劣化メカニズムを、原子レベルで次々に解明した。これらの成果は大量酸素貯蔵材料CZを含む自動車触媒の実用化に大きく貢献したことが今回の受賞理由である。




写真は左から2番目が長井さん、4番目がSamateyさん、5番目が今田さん



受賞者紹介

 Fadel A.Samatey 大阪大学大学院 生命機能研究科 招聘助教授

 今田 勝巳 大阪大学大学院 生命機能研究科 助教授


功績名:X線結晶解析による細菌べん毛軸構造の動作機構の解明


 サルモネラ菌などの細菌は、菌体から生えたべん毛と呼ばれる繊維状器官を回して活発に泳ぐ。べん毛は蛋白質分子が多数集合してできたナノスケールの器官で、水素イオンで回るモーター、トルクをあらゆる方向に伝える自在継ぎ手、高精度スイッチ機能付きの繊維型プロペラから構成され、あたかも機械のように機能することから、生体超分子機械とも呼ばれる。両名はべん毛構成蛋白質を結晶化し、SPring-8の高輝度・微小サイズX線を利用して、従来は解析が不可能であった極薄結晶や微結晶から、立体構造を次々と決定した。べん毛繊維のスイッチ機構や分子自在継ぎ手の動作機構など、ナノサイズでの機械的動作のしくみを原子レベルで解明し、バイオサイエンスとナノテクノロジーの橋渡しをする成果を上げたことが今回の受賞理由である。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794