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Volume 11, No.2 Pages 106 - 108

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

ワークショップ「放射線検出器と電子回路の課題と展望」報告
Report of Detector and Its Electronics Workshop

豊川 秀訓 TOYOKAWA Hidenori

(財)高輝度光科学研究センター ビームライン・技術部門 Beamline Division, JASRI

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 ワークショップ「放射線検出器と電子回路の課題と展望」が平成17年12月5、6日の2日間、SPring-8中央管理棟講堂で独立行政法人理化学研究所(理研)と財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の共催で行われました。このワークショップは、原子核物理、宇宙物理、放射光分野の理化学研究所関連のグループが集まり、放射線検出器をキーワードに共通の課題を議論し展望を開くことを目的としていて、平成17年5月11日に和光で第1回目が開催されたのに引き続き、今回で2回目になります。前回は、和光からの原子核物理、宇宙物理グループの話題が15件に対し、播磨からの放射光グループの話題が4件にとどまったのに比べ、今回は和光から8件、播磨から9件とほぼ同数の発表がありました。
 ワークショップは、5日の午後より、理研播磨研究所放射光科学総合研究センター石川副センター長の挨拶より開会し、その後、理研延與放射線研の谷田氏が前回のまとめを報告しました。最初に、ワークショップの趣旨として、「高度な検出器の開発の必要性が最近さらに増していること」、「電子回路系に関してもこれまで使っていたものが使えなくなるため、開発をする必要性が生じていること」、「そのため、各グループがばらばらに開発していたのでは追いつかなくなることが予想されること」という問題意識があることが挙げられ、したがって、このような状況を打開する為に、理研内の各グループが、「どのようなことを現在しているのか」、「検出器・電子回路系での問題意識は何か」を持ち寄って、「どこが共通でどこが違っているか」、「どこは協力した方が良くて、どこは各グループでやった方がいいか」、「協力するならどういう協力体制を作るのが良いか」を議論(するきっかけに)することが本ワークショップの狙いであるとの趣旨説明がありました。また、前回のハイライトとして、「検出器/電子回路に関するこれからの課題(立教大学、村上氏)」、「ユビキタス検出器の構想(理研本林重イオン核物理研、馬場氏)」、「光ファイバーによるアナログパルスの伝送(理研延與放射線研、熊谷氏)」他の講演内容が報告されました。特に、ユビキタス検出器の構想は、重イオン核物理研、放射線研と計算宇宙物理研の連携プロジェクトへと発展し、理研理事長ファンドを獲得して実計画としてスタートしており、前回ワークショップの最大の成果ではなかったでしょうか。
 本題の講演は、理研播磨研石川副センター長による「SPring-8 Compact SASE Source(SCSS)の最近の状況」の報告から始まり、SCSSプロジェクトの重要課題である検出器開発への参加が呼びかけられました。X線自由電子レーザーは、これまでのX線源とは全く異なる自己増幅原理に基づき、その発するX線はフェムト秒のパルス幅を持ち、ピーク輝度は既存の放射光よりも9桁程度高くなります。このような超短パルス・超高輝度のX線を用いて、これまでは不可能であった超高速現象の観測や原子分解能のイメージングなどにより、物理・化学・生命・産業などの各分野に大きなインパクトを与えると期待されていますが、その一方で、X線自由電子レーザーの出現は既存の検出器性能の限界を露呈させ、新たな技術開発が急務であると世界的に考えられています。
 次のピクセル検出器とその応用のセッションでは、「PHENIXピクセル検出器(理研延與放射線研、浅井氏)」、「国内外におけるピクセル検出器開発の状況(JASRI共通技術開発グループ、豊川=筆者)」、「パルス強磁場下における時分割X線回折(東大物性研、鳴海氏)」の3件の報告がありました。PHENIXピクセル検出器は米国ブルックヘブン国立研究所の衝突型加速器RHICにおいての偏極陽子もしくは原子核衝突実験が目的であり、SPring-8のピクセル検出器はCCD型検出器に継ぐ次世代型2次元検出器と目的は異なりますが、どちらも欧州合同素粒子原子核研究機構(CERN)での大型ハドロン衝突型加速器実験(LHC)で開発された技術を応用しており、製作技術は全く同じです。ここで言うピクセルは、それ自身が単一放射線の計測が可能な機能を内部に有する微小機能体であり、数十から数百ミクロン間隔の微小電極を有する半導体センサー板とサブミクロンCMOSプロセスを用いた読み出し集積回路とを直接バンプ結合して製作されます。しかし、アナログとデジタルが混在する回路設計には非常に高度な技術が要求される点と、初期投資が高額である点から、CERNやSwiss Light Sourceの協力を仰いでいるのが現状です。これは、谷田氏のまとめの中のワークショップの趣旨の言うところの典型であり、同様の問題意識を持つ複数のグループが協力して解決すべき課題であとうかと思います。東大物性研の鳴海氏は、BL19LXUに導入したパルス磁場発生装置にピクセル検出器を応用し、常磁場から最高40テスラでの反強磁性体CoO粉末回折イメージを測定し、磁気体積効果よる散乱角依存性の観測に成功したことを報告しました。ピクセル検出器の特徴である高速時分割測定技術を利用した好例であり、ピクセル検出器は今後より多くの応用が進む事が期待できます。
 SPring-8からの話題のセッションでは、「Report on the APD Workshop at ESRF(JASRI構造物性Ⅱグループ、Baron氏)」、「CMOSフラットパネル検出器(JASRI構造物性Ⅲグループ、八木氏) 」、「高分解能X線検出器(JASRIイメージンググループ、鈴木氏、上杉氏)」、「CCD型X線検出器(理研前田構造生物化学研、伊藤氏)」の4件の報告がありました。APDは、2004年11月8日に開催されたSPring-8、ESRF、APSの三極による検出器ワークショップで多素子化に関する共通技術開発が提案されており、放射光利用での重要課題の一つです。CMOSフラットパネル検出器は、大面積かつハンディで設置が容易な事を特徴とし、また、価格も比較的安いことから、回折・散乱測定から各種のモニター検出器として広い応用が可能であることが紹介されました。鈴木氏と伊藤氏からは、CCD型X線検出器に関して、それぞれ、SPring-8で用いられている事例の紹介と将来的な要請、及び、技術解説がありました。CCD型X線検出器は、10μmを切る高い空間分解能を達成できる事が利点です。種類としては、X線光子をCCD内部で直接電子−正孔対に変換して検出する直接型と、蛍光体などで可視光に変換した後、レンズや縮小型光ファイバー(FOT)等によりCCDへ転送したものを可視光像として検出する間接型とがあり、直接型の長所は高空間分解能で、感度、歪み&感度均一性が良いこと、短所は受光面積が狭くダイナミックレンジが浅いこと、また、間接型の長所は直接型に比べて、受光面積、ダイナミックレンジが広くとれ、時間分解能、空間分解能にも優れていること、短所は歪み&感度均一性に関しての補正が必要である点との解説がありました。
 宇宙物理のセッションでは、理研牧島宇宙放射線研の寺田氏から、2005年7月10日に打ち上げられたばかりのASTRO-EII/MV-6号機による「すざく衛星搭載X線検出器」に関して、10〜700 keVの範囲の硬X線を観測するGSOシンチレーターのバックグランド及びエネルギー応答特性を中心に、打ち上げから観測のホットな話題が紹介されました。
 第二日目は、さまざまな検出器開発の事例として、「マルチグリッッド型MSGC(東大工原子力国際、高橋氏)」、「ガス電子増幅フォイルの開発とガスPMTへの応用の可能性(理研牧島宇宙放射線研、玉川氏)」、「シンチレーターを用いた中性子2次元検出器の開発(理研延與放射線研、広田氏)」、「超伝導転移端温度計(TES)を用いた低エネルギー粒子線検出器の開発(理研延與放射線研、大野氏)」の4件の報告から始まりました。マイクロストリップガス検出器(MSGC)は、微細加工技術により製作したアノード・カソードストリップ電極を用いたガス比例計数管で、アノードカソード間隔を狭くできるので、従来のマルチワイヤー型に比べて100倍以上高計数率が得られる事を利点としています。しかし、カソードのエッジに強い電場が生じるため、基板表面を走る放電が顕著となり、他の殆どのグループは開発を断念しています。高橋グループは、表面電極構造を工夫し、アノードとカソードの間にグリッド電極を設けで電場配置を制御して強い電場を分離してMSGCの安定化を図り、108 cps/mm2の高係数率を達成しています。また、フローティングパッドを用いた新しい2次元位置読み出し方法の紹介がありました。ガス電子増幅フォイル(GEM)は、微細加工を応用し、ポリイミド箔の両面に銅を蒸着し無数の小さな穴を開けた構造を形成し、穴の中での電気力線が密になり、電子がそこを移動する際にガス増幅される原理を用いており、1996年にCERNのグループにより開発され、その後、多くの応用が試みられています。理研グループ及び東大CNSグループは、標準的なケミカルエッチング法では100μmピッチが限界のところを、レーザーを用いた独自加工の方法を検討・実行し、50μmピッチのGEMの製作を可能にしました。GEMは、1光子検出が可能で、イメージング能力があり、磁場中でのオペレーションが容易、管内を1気圧に保てる、大面積の光電子増倍管が実現できる等の利点があります。今回は、その中で大面積の光電子増倍管への試みについての報告がありました。広田氏からは、日本の研究用中性子源とそこで中性子検出器に求められる性能に関する説明と開発しているフラットパネル電子増倍管を用いたアンカー方式2次元検出器及びその読み出し回路系の紹介がありました。また、「せっかく作った検出器、回路はみんなで使ってこそ意味がある」という動機から立ち上げられた理研ベンチャーの紹介がありました。大野氏からは、中性子β崩壊の精密測定による素粒子標準模型の検証を目的とし、β崩壊で発生する陽子のスペクトロスコピーを目指し大面積かつ高速な応答特性を有するTESマイクロカロリメータ開発に関して、Ti/Au近接層薄膜を用いたTESの超伝導転移特性評価と信号読み出しSQUID回路の開発及びX線入射信号検出についての報告がありました。
 電子回路に関しては、「ユビキタス型汎用デジタル信号処理システム開発プロジェクト」と、「汎用ロジックボード開発の現状(JASRI制御グループ、広野氏)」の報告がありました。ユビキタス型汎用デジタル信号処理システム開発プロジェクトに関しては、理研延與放射線研の渡邉氏から「ユビキタス型汎用デジタル信号処理システム開発概要」、理研戎崎計算宇宙物理研の川崎氏から「試作デジタル処理ボード」、理研本林重イオン核物理研の馬場氏から「波形解析」と1時間の枠を設けてより詳細な報告をお願いしました。このプロジェクトは理研リングサイクロトロン実験での検出器群からのデータ収集系構築の将来構想として、各検出器群に自律性(制御・記憶能力)を持たせる事により、①Scalability(プラグアンドプレイを可能にし、1チャンネルの計測は至極簡便に、多チャンネルの場合にも特別な仕掛けを必要としない)、②Robustness/Availability(故障しにくい、故障予想が可能、故障部分の特定・交換が容易)、③Flexibility(検出器の組み換えに際して、特別な操作(再キャリブレーション等)なしに、データ収集を可能とする、全ての検出器の生(波形)データを得ることが可能)の機能を実現する画期的なアイディアで、放射線検出器を用いるあらゆる分野への応用が可能だと思います。SPring-8制御グループからは、SPring-8及びSCSSのコントロールに関して、表題の汎用ロジックボードの開発に加えて、開発済みのCompactPCI-Counterボード、高速AD/DAボードの紹介がありました。汎用ロジックボード開発の動機として、単純なデータ収集以外に複雑なシーケンスや計算を含む制御も必要な場合があり(例えば、フィードバック、パターン駆動、etc.)、しかし、ソフトウェアで実現させるには、CPUでは〜100μsecが限度で、また、ハードウェアで実現させるには、専用のハードウェアを個別に開発すると時間、コストがかかり、試行錯誤しながら開発しにくい点があげられました。一方で、共通点も多いので、汎用的で、高速・リアルタイム性を持つ、カスタマイズが容易なロジックボードが開発されています。
 開催当日は、雪の舞う悪天候にもかかわらず、理研・JASRI以外の研究機関、関連企業からも多数の方々に参加して頂き、密度の濃い議論が行えました。ユビキタス型汎用デジタル信号処理システム開発プロジェクトに引き続き、今回のワークショップからも新しいプロジェクトが誕生する下地は出来たのではないかと思います。特に、自由電子レーザーに関する検出器開発は最も重要な課題の一つであると思います。また、SCSS、BL29XU、BL33LEPの各グループ、及びBL46XUで実験中のワークショップでも紹介のあった東大高橋研のMSGCグループには施設見学にご協力頂きました。JASRI研究調整部の當眞さん、射延さんには事務局をしていただきました。理研播磨研の石川氏、山本氏、西野氏、理研延與放射線研の谷田氏、JASRIビームライン部門の浅野氏、及び、JASRI共通技術開発グループには、ワークショップ企画、実行にご協力を頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。

豊川 秀訓 TOYOKAWA  Hidenori
(財)高輝度光科学研究センター ビームライン・技術部門
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TEL : 0791-58-0831 FAX : 0791-58-0830
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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