Volume 11, No.1 Pages 22 - 25
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第9回SPring-8シンポジウム報告
Report of The 9th SPring-8 Symposium
1.はじめに
11月17日、18日の両日、SPring-8普及棟において、第9回SPring-8シンポジウムが開催された。一昨年より本シンポジウムは、利用者懇談会とJASRIの共催によりSPring-8利用者懇談会総会とSPring-8シンポジウムの同時開催の形で行われており、今回もそれが踏襲された。会期の日程は、6月の実行委員会においてユーザービームタイム休止期間に設定されたが、諸般の事情で2005B期のビームタイムスケジュールが変更になり、第2日目は、ユーザービームタイム開始日と重なることになってしまった。特にビームライン担当者の方々には、参加し難い状況になってしまった点が残念であった。シンポジウムの構成は前回にならって行われ、1日目の午前に「SPring-8の現状」について、午後に「利用の現状」として、長期利用課題(2件)、SCSSおよびナノテクノロジー支援プロジェクトについての報告、夕方から「SPring-8利用者懇談会総会」が催された。またビームラインの現状についての「ポスターセッション」が午後に行われた。第2日目は、9:00から14:00まで「利用技術に関するワークショップ」(11件)が行われた後、「委員会等報告」があり、閉会された。
以下、シンポジウムの講演・発表について、実行委員会の運営を交えて、報告を行う。記憶違い等により記載内容に誤りがあれば、ご指摘頂ければ幸いである。なお、講演の詳細に関しては、別途作成されるSPring-8シンポジウム報告書を参照して頂きたい。
写真1 シンポジウム講演の様子
2.SPring-8の現状
まず、坂田利用者懇談会会長からの開会の挨拶があり、SPring-8を取り巻く環境の変化は大きく変動しており、今年度だけでも、「戦略活用プログラム」の開始、理研・原研・JASRIの「3者体制」から理研・JASRIの「2者体制」への移行などが起こっていることが報告された。また、国による評価が昨年度のBからA評価にアップしたこと、「課金問題」が10,300円+消耗品実費負担で最終的な決着に至ったことが報告された。
吉良理事長からは、SPring-8で未建設の残り14本のビームラインを建設することを目標とすることが述べられた。また、建設予算を得るためには、国を納得させる成果(ノーベル賞クラスの成果や産業応用での新技術開発など)を輩出することが必要であること、利用者による成果登録と施設側がそれを有効に取り扱う工夫が必要であること、SPrign-8で産業利用が数多く行われ有益な成果が挙がっていることを社会的に正しく認識してもらうようアピールする努力が必要であることなどが述べられた。
続いて、大野専務理事より、施設全体の管理・運営について報告があった。今年度急遽導入された戦略活用プログラムを2005Bに割り当てるために、一般課題枠のビームタイムに占める比率が一年平均で50%を切らないよう努力が必要であった件や、新規ビームラインの建設が検討されている件、来年度以降指定法人に関する法改正が計画されている件など、これからもSPring-8の環境の大きな変化があることが報告された。また、国や来年度実施される国際諮問委員会による施設評価を正しく受けるためには、成果などのデータを良く吟味して取り扱うこと(研究員一人当たりの成果報告数への換算など)が重要であることなどが述べられた。
利用促進部門長の交代が10月1日付けであったため、ビームラインの現状については、壽榮松前部門長(現・理化学研究所播磨研究所所長)の挨拶の後、高田新部門長から報告された。予算が減少傾向であり、外部予算を獲得していく必要があること、残された14本のビームライン建設ではユーザーグループと密接に連携して新しいサイエンスの創出を目指した予算獲得の方策を検討することが必要であること、利用者には萌芽的支援(旅費・消耗品の支給)や戦略課題を有効に活用して欲しいこと、パワーユーザーを増やしたいこと、などが述べられた。
加速器の現状については、熊谷加速器部門長より、2005Bからlow emittanceモード運転に対する随時Top-up入射が良好に行われていることが報告された。将来の展望としては、ユーザーの要望により種々の運転モードを変更できるような「柔軟な加速器」が可能であることが示された。例えば、バンチスライスによりパルス幅をsub-psecにすること、4 GeV×200 mA運転により現状の16倍のフラックスが得られることが示された。更に、ERLと比べてfluxに関してはSPring-8はそれほど遜色なく、ERLの出現前にSPring-8で実現可能な研究があることが指摘された。また、加速器の改造・改善には時間を要するので早期に検討を開始することが必要であることや、今後利用者と加速器の将来の可能性に関する情報を共有する必要性、特に若手研究者による積極的な加速器運用の展開に期待することが述べられた。
光学系・輸送チャンネルの現状としては、後藤氏(JASRI)により、BL17XU、BL08B2の完成と6本のビームラインの改造の件、分光結晶の高度化など要素技術に対する開発・改良に関する件についての報告が行われた。
3.利用の現状
一日目の午後はまず、現在進められている5件の長期利用課題のうちの2件の中間報告が行われた。一件は、守友氏(筑波大学)による「光照射下放射光X線粉末回折による光誘起現象の研究」、もう一件は小泉氏(兵庫県立大学)による「高分解能及び磁気コンプトン散乱測定による巨大磁気抵抗物質の電子・軌道状態の研究」である。
続いて、石川氏(理化学研究所)により、現在SPring-8サイトへの建設が計画中のX線レーザー光源:SCSS(SPring-8 Compact SASE Source)と、建設中のプロトタイプ(波長:60 nm)に関する報告がなされた。その圧倒的な性能仕様、欧米の計画と比べ非常にコンパクト化が計られることにより極めて現実的な設計となっていること、今後更なるダウンサイジング・ローコスト化を目指すことなどが紹介された。また、シンポジウム参加者に対し、SCSSを用いた全く新しいサイエンスの構築を期待することが述べられた。
ナノテクノロジー総合支援プログラムの現状については、木村(滋)氏(JASRI)より報告があった。今年度は、平成14年に開始された5年時限のプロジェクトの4年目にあたり、これまでの主な成果が紹介され、プロジェクトの評価は良好であることが報告された。
午後のセッションの最後に飛び入りで、来年度日韓で共催されるSRI2006のChairであるProf.Baik(PAL/POSTECH)によるwelcome presentationが行われた。
写真2 Prof. BaikによるSRI2006の紹介
4.ポスターセッション
一日目の午後の90分を割いて、ポスターセッションが開催され、ビームラインの現状報告(共用ビームライン:9件、理研・専用施設ビームライン:6件)、パワーユーザー活動報告(5件)および長期利用課題中間報告(5件)が行われた。共用ビームライン報告は、前回と同様にビームライン毎でなく、グループ毎にまとめて行われた。殆どのビームラインは建設期を過ぎて成果輩出期に入っており、より高度化されたビームラインの整備が進められていることが報告されていた。また最新の研究成果に対して活発な意見交換が行われていた。
写真3 ポスターセッション会場の様子
5.SPring-8利用者懇談会総会
今回の総会では、利用者懇談会の組織改革に関する会則の変更が主な議題となり、白熱した討論が展開された。幾つかの変更点の修正が行われた後、評決が行われ採択された。改革案については、放射光学会年会中に開催されるSPring-8利用者懇談会・拡大評議員会で更に討論される予定である。
6.ワークショップ
本ワークショップは、SPring-8で培われた利用技術に関する討論を行うことを目的としており、今回は「ハイスループット化とその周辺」というテーマで行われた。現在、成果輩出期に入ったビームラインでは、如何にして質の高い成果を高い効率で生み出すかを目指した高度化整備が進められている。本テーマは、ビームライン関係者・利用者の双方に有用な情報を与え、タイムリーであろうとの考えから、実行委員会で決定された。ハイスループット化の目的は、「測定の高効率化」にあり、それは「測定の自動化」へつながる。更に測定の高速化を進めると、「時分割測定」が実現される。講演の選定・依頼にあたっては、ハイスループット化を実現する際に用いられた手法を念頭において行った。
ワークショップでは、まず各ビームラインで共通に利用される機器制御の高速化・自動化について、古川氏(JASRI)が報告した。次に、特に利用者の多い分野である蛋白質結晶構造解析、粉末回折、XAFSで進められている自動化測定について、長谷川、加藤(健)の両氏、および宇留賀(JASRI)により報告が行われた。続いて、昨年より開始された蓄積リングのTop up入射によるデータの質の向上を含めたハイスループット化の報告が、核共鳴散乱と非晶質回折に対して、依田、小原(JASRI)の両氏より行われた。また、産業界の利用者が中心となって積極的に開発が進めている時分割X線回折と迅速表面回折について、米村(住友金属工業)、松野(旭化成)の両氏から報告が行われた。
午後は、軟X線領域での磁気円二色性実験における試料交換方法の開発などによる測定の効率化・迅速化についての報告が、中村(哲)氏(JASRI)から行われた。最後に、新しい測定原理を用いた手法の開発により、ハイスループット化が実現された話題として、表面ナノ構造体に対するX線逆格子イメージング法と硬X線光電子分光法について、坂田(修)、池永(JASRI)の両氏により報告が行われた。続いて、委員会等報告として、佐々木(聡)課題選定委員会主査による課題選定における戦略課題が加わった影響、発表成果の選定評価点へのフィードバックの導入について報告があった。また、的場利用業務部部門長から2005Bから導入される利用報告書の提出方法が日本語によるWEB入力になるなどの変更点について説明があった。
7.おわりに
シンポジウムは、最後に伊藤正久実行委員長から閉会の辞があり、無事終了した。今回のシンポジウムは、183名(施設内部:88名、外部:95名)の方々に参加頂くことができた。早朝のワークショップの開始時にやや空席が見られたが、会期全体を通すと概ね盛況だったように思われる。一方で、閉会の辞で実行委員長が触れたように、利用者懇談会会員の参加が会員数1400名余りに比べるとやや寂しい印象がある。これは、シンポジウムの開催時期が一定しないこと等にも理由があると思われるが、SPring-8が建設フェーズから安定利用フェーズへ移行するのに対応して、利用懇サブグループの在り方が検討される時期にあることを示唆しているものとも思われる。今回採択された利用者懇談会の会則変更に伴い、この件が検討されていくことが期待される。また、産業界の方がビームラインの装置開発にも積極的に参加していることがワークショップで報告されたことなど、産業利用がSPring-8の大きな特徴の一つとなっていることが改めて認識された。
最後に実行委員会のメンバーを掲載させて頂く。実行副委員長の手際の悪さを臨機応変にサポートして頂いたことに対し、この場を借りて感謝致します。特に、伊藤実行委員長、古川、中村(哲)、當眞の各氏には、シンポジウムの概要決定の場面や現場作業に対して様々な相談に乗って頂き、深謝致します。また、当日の会場係をお手伝い頂いた、谷田、加藤(和)、高垣(以上JASRI)、西野、松本、谷口(以上SES)の各氏と会場設営をお手伝い頂いたテクニカルスタッフ(SES)の方々に感謝いたします。
実行委員長:伊藤 正久 群馬大学
副委員長:宇留賀朋哉 JASRI
委 員:篭島 靖 兵庫県立大学
黒岩 芳弘 岡山大学
中川 敦史 大阪大学
難波 孝夫 神戸大学
石井 真史 JASRI
高雄 勝 JASRI
中村 哲也 JASRI
舟越 賢一 JASRI
古川 行人 JASRI
本間 徹生 JASRI
田中 良和 理化学研究所
三井 隆也 日本原子力研究開発機構
事 務 局:當眞 一裕 研究調整部
射延 文 研究調整部
平野 志津 利用業務部
(SPring-8利用者懇談会事務局)
宇留賀 朋哉 URUGA Tomoya
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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