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Volume 10, No.4 Pages 240 - 249

3. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

高圧下における実験的精密構造物性研究手法の開発
The development of charge density level structure analysis method under high pressure.

高田 昌樹 TAKATA Masaki

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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実験責任者:高田昌樹
      (財団法人高輝度光科学研究センター 主席研究員(採択時は名古屋大学))
共同研究者:坂田 誠
      (名古屋大学大学院工学研究科、教授)
      西堀英治
      (名古屋大学大学院工学研究科、講師)
      大石泰生
      (財団法人高輝度光科学研究センター、副主幹研究員)
      綿貫 徹
      (原研関西、SPring-8、研究員)
      石松直樹
      (広島大学大学院理学研究科、助手)
      守友 浩
      (筑波大学大学院数理物質科学研究科、教授)
      小林達生
      (岡山大学理学部、教授)

〔実施シフト/ビームライン〕
2001A0004-LD-np    BL10XU    45シフト
2001B2004-LD-np    BL10XU    36シフト
2002A3004-LD-np    BL10XU    42シフト
2002B4004-LD-np    BL10XU    38シフト
2003A5004-LD-np    BL10XU    33シフト
2003B6004-LD-np    BL10XU    39シフト

計233シフト


1.はじめに
 近年の高圧技術の進歩により、10GPa付近での電子輸送現象を始めとする物性研究が盛んに行われるようになった。高圧力下での物性研究の利点は、元素置換効果等とは異なり、系をかえることなく連続的な変化を追尾する事ができる事にある。高圧下での構造物性研究の興味深さを示す具体例の一つとして、酸化物超伝導体の超伝導転移温度が加圧によって変化することが上げられる。圧力範囲は10GPaと比較的低圧領域であるにもかかわらず、YBa2Cu4O8の様に加圧によって20K近くTcが上昇する物質や、逆にTl系(Tl2Ba2CaCuO6、Tl2Ba2CuO6+y)のように圧力に対して大きな負の依存性を示す物質、ほとんど圧力に対して不変なSr0.92Sm0.08CuO2のような物質など、非常に多様である[1] [1]H. Takahashi and N. Mori, in Studies of High Temperature Superconductors, edited by A. V. Narlikar (Nova Science, New York, 1996), Vol. 16, p. 1.。この一例を持ってしても、高圧下での構造物性研究の多様性、重要性は理解できる。近年では、マンガン酸化物の圧力誘起絶縁体金属転移も報告されており[2][2]Y. Moritomo, K. Hirota, H. Nakao, T. Kiyama, Y. Murakami, S. Okamoto, S. Ishihara, S. Maekawa, M. Kubota and H. Yoshizawa : Phys. Rev. B62 (2000) 17.、軌道整列との関連が議論されている。
 このような物性と関連して構造を理解する構造物性の研究では、電子密度レベルで構造を明らかにする精密な構造解析が望ましい。その理由は、一般的に表現するならば、多くの場合物性発現の機構が、電子に依拠しているからである。我々は、そのような構造と物性の精緻な関係を電子密度レベルで明らかにする精密構造物性の研究をBL02B2粉末X線回折BLで展開し、マキシマムエントロピー法を用いた精密構造解析により、フラーレン関連物質[3][3]E. Nishibori, M. Takata, M. Sakata, A. Taninaka and H. Shinohara : Angew. Chem. Int. Ed. 40 (2001) 2998.や強相関係物質、有機導体[4][4]S. Aoyagi, K. Kato, A. Ota, H. Yamochi, G. Saito, H. Suematsu, M. Sakata and M. Takata : Angew. Chem. Int. Ed. 43 (2004) 3670.などの新材料について電子密度レベルの構造を明らかにしてきた。
 しかしながら、本研究課題をスタートさせたときの状況では、高圧下で精密な構造を解明する研究は活発に行われているとは言い難かった。最大の理由は、非常に大きな実験的制約があることによる。一般的に考えられている主な制約を列挙する。本研究は、ダイアモンドアンヴィルを念頭においているので、ダイアモンドアンヴィルに関する項目を掲げる。
①ダイアモンドアンヴィルセルの開口角が限定され、測定可能な反射が低角に限られる。
②微量試料しか使用出来ないため、十分な回折強度が得られない。
③圧力媒体、ルビー、ダイアモンドなど試料以外からの散乱が避けられない。
④一般に、10GPa以上の高圧下では、静水圧性が悪くなり、ピークプロファイルが悪化する。そのために、プロファイルフィッテイング法などの、高度な解析法を使用することが出来なくなる。
 本研究の目的は、SPring-8の高圧構造物性ビームラインBL10XUにおいて、高輝度・高エネルギー放射光とHeガス加圧のメリットを十分に活かし、ダイアモンドアンヴィルセルを使用した時に生じる全ての困難を克服することにより、高圧下における粉末結晶の精密構造物性研究手法を実験的に確立することとした。そして、本研究により、物性と関連して構造を明らかにする精密な構造物性の研究分野において、電子密度レベルで構造を明らかにする精密な構造解析技術を、ほぼ確立できた。


2.SPring-8における高圧下での精密構造物性手法の開発
 上述した実験的制約のうち、
①はSPring-8の高エネルギービームを利用することにより克服できる。
②もSPring-8の高輝度光源により克服できるが屈折レンズシステムの導入によりさらにX線源の高輝度化を実現する。
③は、実験技術を磨くことにより、ほぼ、克服することが出来る。しかし、問題はそれほど単純ではなく、SPring-8を利用することにより生じる問題もある。それは、
⑤微量試料に対して、SPring-8の非常に平行性の高い放射光を用いると、強度分布が均一なデバイリングを得ることが著しく困難になる。
と言うことである。そこで、
1)まず、本研究の第1段階の戦略的課題として、10GPa以下の圧力範囲における精密構造物性の研究法を確立した。この圧力範囲でも、前述したように多くの興味ある研究テーマがある。この圧力範囲では静水圧性の問題は、ほとんど生じず、高度な解析法に耐える測定データは収集しやすいことがわかった。
2)キュレットの大きな(〜1mm)ダイアモンドアンヴィルセルにより、試料の量を出来るだけ多量にすることができる。試料の量を増やすことにより、強度分布が不均一になる問題は、深刻な課題にはならないと考えた。それ故、10GPa以下の圧力領域では、キュレットの大きなダイアモンドアンヴィルセルを使用し、ほぼ全ての問題を克服することが可能となった。
3)10GPa以下における精密構造物性の研究として圧力誘起金属絶縁体転移を示す物質について電子密度レベルでの構造変化の有無を明らかにした。
 次に、第2の戦略目標として、10GPa以上における精密構造物性の研究法の開発を試みた。10GPa以上の圧力領域では、キュレットの大きなダイアモンドアンヴィルセルを使用できない。そのために、静水圧性の問題とデバイリング強度分布の不均一性の問題を克服することが非常に重要になる。
4)静水圧性の問題は、圧媒体としてHeを使用することにより克服を試みた。
5)強度分布の不均一性の問題は、まず、沈降法を精査に行い、出来るだけ粒径が揃った試料を作成する事に成功した。粒径は、1ミクロン程度までコントロールできた。それでも強度の不均一は、多少残ったため、ダイアモンドアンヴィルセルを揺動しながら実験を行った。これにより、ほとんどの場合、強度不均一の問題を克服することが出来るようになった。


3.高圧下での高精度粉末データ測定法
 電子密度レベルでの精密な構造解析を行うためには、精度の高い観測強度を得る必要がある。これまでの常圧での電子密度解析の経験から、原子の結合形態などを明らかにするために必要とされる精度は、約1%程度である。研究開始当初の標準的な方法で測定したBL10XUのデータを評価したところ、強度の精度に1%以上の影響を及ぼす新たな要因が幾つか見られた。それらの要因のうち、まず、デバイリング上の強度変動を1%以下に抑えるための①試料調整法、試料揺動データ測定法の開発をし、低温測定におけるマイラ窓の散乱を取り除くため、②ビームストッパを作成した。また、新たに、最も影響が大きい要因として、③IPのフェーディング効果、④IPの斜め入射効果が問題となった。これらの影響を見積もり、取り除くためのデータ測定法、データ補正法を開発した。高精度回折データの測定法の開発として①、②、③、④それぞれについて以下に述べる。
①試料調整法、試料揺動データ測定法の確立
 電子密度レベルの構造変化を明らかにするためには、デバイリング上の強度分布が均一な粉末回折データを得ることが必要不可欠である。このため、BL10XUにおいて、デバイリング上の強度分布が均一なデータを得られる最適な実験条件の導出を行った。CeO2標準試料を用いた測定より以下の条件を算出した。i)試料揺動角度1度以上。ii)試料厚み50μ以上。iii)ビームサイズ50×50μ以上。試料揺動のための、回転中心の導出法を確立し、室温測定では、高い精度のデータをルーチンワークで得られるようになった。低温測定では、クライオスタット用の試料揺動機構を納入し、その立ち上げを行った。この揺動機構を用いることで、低温高圧下でも均一なデバイリングのデータが得られるようになった(図1)。



(a)         (b)

図1 試料揺動機構とデバイリングの強度への影響
(a)低温試料揺動機構(b)試料揺動によるデバイリングの変化

 また、試料の調整法として、2段階もしくは多段階の沈降法を導入する事により、試料の粒径サイズを1ミクロン程度まで調整できるようになった。これにより、試料揺動法と合わせてデバイリングの強度の不均一性の問題を克服する事が可能となった。図2に試料沈降法のプロセスを示す。



図2 2段階試料沈降法

②IPのフェーディング効果に対する対策
 IPのフェーディング効果とは、回折X線を記録後、読み取るまでの時間に応じて検出X線量が減衰することである。フェーディングによる検出X線の減衰量は、X線露光直後が最も大きく、時間とともに少なくなる。この効果による回折強度の変動は、通常20〜30%と言われており、IPの種類、検出に用いるレーザーの種類により異なる事が報告されている[5][5]Y.Amemiya : J. Synchrotron Rad, 2 (1995) 13.。本研究では、BL10XUで得られる回折パターンのIPフェーディング効果を見積もった。試料は標準試料CeO2を用いた。X線を90秒間試料に露出し、露光後、それぞれ10分、20分、30分、40分、50分、1時間、5時間の時間を置き、IPを読み取った。それぞれの回折パターンからプロファイルフィッティング法によりBragg反射積分強度を求めた。10分後に読み取った回折パターンの(111)反射の積分強度を1として、それぞれの回折パターンの(111)反射の積分強度をリングカレントで規格化した。露光後の読み取り開始時間に対する積分強度を図3に示す。この結果からIPの読み取り時間である3分間で強度変動を1%以下にするためには、30分以上たってからIPを読む必要があることが分かった。



図3 読み取り開始時間に対する回折強度の減衰

 IP露光後30分時間を置く方法は、限られたマシンタイムの有効に使用するためには適切ではない。この解決法として、IPの読み取り方向である水平方向にデータを測定する方法を考案した。水平方向のデータを利用するもう一つのメリットとしては水平方向の試料揺動機構がデバイリング強度の均一化により有効に働くという事もわかった。水平方向に記録されたデータを解析する場合、X線の偏光が問題となったため、CeO2の回折データを用いて偏光因子を実験的に見積もった。CeO2(400)反射のデバイリングに沿った強度分布を図4に示す。この図から実験的に偏光因子を見積もった。この偏光因子で補正したCeO2のデータのRietveld解析を行ったところ信頼度因子Rwp、RI=1.0%程度となり値、構造パラメータも誤差の範囲で、30分時間をおいて読み取ったデータと一致した。この測定法により、IP読み取りの待ち時間を少なくして高い精度のデータを得ることが可能となった。



図4 BL10XUにおける偏光因子

③IPの斜め入射効果の補正
 IPの斜め入射効果は、平板IP使用時に、回折角度によって回折線のIP通過距離が変化し、IPによる回折X線の吸収量が変化することによって、引き起こされる。この効果によって、回折積分強度は、回折角が高角に行くにつれ真の値より増加する。その増加量は、BL10XUで使用される25keV〜35keVの波長で、2θ=30°の時、20〜35%である。吸収が原因であるため、X線のエネルギーによって強度増加率が異なり、入射X線のエネルギー毎での補正値の決定が必要となる。このため、BL10XUにおける回折パターンの斜め入射の影響を評価した。評価は、BL10XUと、斜め入射効果のない湾曲IPによるSPring-8 BL02B2で測定したCeO2の粉末回折データの比較により行った。入射X線のエネルギーの違いによる、効果を見積もるため、25keV、30keV、33keVの3つのエネルギーで回折パターンを測定した。得られた回折パターンからプロファイルフィッティング法によりBragg反射積分強度を求め、BL02B2の積分強度と比較した。33keVにおけるBL02B2のデータに対するBL10XUのデータのBragg反射積分強度比を図5に示す。最低角の最強線における強度比を1とし、規格化して示した。強度比の増加は最大測定角度2θ=40°で30%に達している。図中線で示したのはJ. Zaleski[6][6]J. Zakeski, G. Wu and P. Coppens : J. Appl. Cryst, 31 (1998) 302.らによって報告された補正式によるフィッティングである。この補正式により、精度よく補正可能であることがわかる。25keV、30keVのデータについても、同様に、補正式の係数を変化させることにより補正可能であった。Cs2Au2Br6のデータ補正のプロセスの例を図6に示す。



図5 CeO2のBragg反射積分強度比



図6 回折強度補正のプロセス

 補正の正確さを評価するため、補正を行ったデータに対し、Rietveld解析を行った。比較のためにBL02B2で測定した同じエネルギーのデータも解析した。解析の結果、信頼度因子Rwp、RI=1.0%程度と値が得られ、構造パラメータもBL02B2データの解析結果と誤差の範囲で一致した。図7にCs2Au2Br6の高圧下での粉末回折データのリートベルト解析の結果を示す。



図7 Cs2Au2Br6の高圧下での粉末回折データのリートベルト解析

 このことから斜め入射の補正は正確に行えたと判断した。この様にしてBL10XUにおける斜め入射効果の補正式、および補正値を決定した。

④ビームストッパの開発
 構造物性研究において試料の温度変化の実験を行う事は重要である。BL10XUにはDisplexタイプの試料低温装置が設置されている。この装置を用いて低温高圧実験を行う際に、冷凍機のマイラ窓からの散乱の回折パターンへの混入の問題が存在した。窓材の散乱を取り除くため、窓材直前まで延長したビームストッパを作成し、回折パターンから窓材の散乱を取り除くことに成功した(図8)。



図8 作成されたビームストッパと回折パターンの変化

 ここに示した、①〜④以外にも、Be放物面レンズの設置、Heガス充填用治具作成、低温高圧用ガスケット材料の探索等いくつかの技術的な開発研究を行い、高圧下での高精度粉末X線回折実験の問題点をほぼ解決する事ができた。


4.高圧下での物質の電子密度解析
 本研究による技術開発により、Rietveld解析が可能なデータがルーチンワークで得られるようになり、超伝導体や遷移金属酸化物を中心に多くの成果が得られた(成果リスト:1〜12)。また、MEM電子密度解析も進められ、室温高圧下でのCs2Au2Br6の電子密度レベルでの構造変化(成果リスト:13)、予備的ではあるがPrxCa1-xCoO3の低温高圧金属絶縁体転移に伴う電子密度レベルの構造変化の成果が得られた。それらの成果の例を簡単に示す。
 Cs2Au2Br6は図9のような結晶構造を持ち、常圧ではAu3+とAu+の混合原子価錯体として知られている。



図9 Cs2Au2Br6の結晶構造(常圧)

 しかし、高圧下でのラマン散乱の結果[7][7]X. J. Liu et al : Phys. Rev. B 59 (1999) 7925.から、6GPaより高い圧力で、いずれもAu2+の単一原子価錯体に転移する事が予測された。その直接的な実験証拠を得るため、我々は、今回開発した実験法により高圧下で精密粉末回折実験を行い、MEM/Rietveld法による電子密度解析を行い、高圧下で図10の様な詳細な電子密度を得える事が出来た。Rietveld解析の結果は図7に示してある。



図10 Cs2Au2Br6のMEM電子密度

 その結果、
(i)2.2GPaのMEM電子密度分布において、AuBr4、AuBr2の孤立したクラスターが形成されていた。
( ii )8.1GPaのMEM電子密度分布では、002面にAuとBrの結合による2次元ネットワークがみられた。
(iii)Auの原子価状態は、2.2GPaでAu+、Au3+の混合原子価状態であり、8.1GPaでAu2+の単原子価状態に近づく。
ことが明らかになった。
 Auがほぼ単一原子価になっていること、それに伴い、AuとBrの結合形態が大きく変化している見出すことに成功した。
 最近、名古屋大学佐藤正俊教授らのグループにより、Pr1-xCaxCoO3が低温・高圧下において金属絶縁体相転移を起こすことが報告された[8][8]T. Fujita, T. Miyashita, Y. Yasui, Y. Kobayashi, M. Sato, E. Nishibori, M.Sakata, Y. Shimojo, N. Igawa, Y. Ishii, K. Kakurai, T. Adachi, Y.Ohishi and M. Takata : J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 1987.。そこで、Pr0.7Ca0.3CoO3の低温高圧下で起こる金属絶縁体相転移に伴う原子構造の変化や電子レベルでの構造変化を明らかにするために低温高圧下でのMEM電子密度解析を行った。図11にその結果を結晶構造とともに示す。予備的ではあるが、低温高圧下で構造相転移が起こり、それに伴いCoO2面でのCo-O間の結合の異方性が生じることが明らかになった。また、Pr-Oの結合にも変化が起こる事も明らかになった。この様に、本特定利用課題により、低温高圧下での精密構造物性の研究が可能となった。



図11 Pr0.7Ca0.3CoO3の高圧下での電子密度の温度変化


5.おわりに
 本研究によって、高圧精密構造物性研究のための〜10GPa、10K〜300Kの領域におけるデータ測定手法、解析手法が確立され、電子密度レベルの精密構造物性研究が可能となった。開発された手法を、超伝導や金属絶縁体転移を示す遷移金属酸化物(Mn、Co、Ti、Fe)の構造物性研究、電子密度レベルの精密構造物性研究に適用することにより、13報の論文発表、13件の口頭発表を含む成果をあげることができた。現在、解析中のデータも存在するため、最終的には15〜20報の論文発表が見込まれる。物性研究が最も盛んな〜10GPa、10K〜300K領域の精密構造物性研究手法が確立されたことにより、今後、遷移金属酸化物だけでなく、有機超伝導体、フラーレン関連物質など幅広い新規材料を対象とした高圧下での精密構造物性研究が行われることを期待している。
 当初の目標のひとつであった、10GPa以上の領域の精密構造物性研究手法の開発については、SrTiO3の圧力誘起相転移による微弱超格子反射の観測などを行った。機器の納入を伴った低温高圧実験の技術開発に予想外の時間を費やしたが、低温高圧実験においても、当初の研究開発目標を達成することはできた。ただ、10GPa以上の高圧における開発技術の応用までは、十分な時間をかけることができなかった。
 しかしながら、低温高圧実験に対する集中的な技術開発により、10GPa以下、低温の領域の精密回折実験がルーチンワーク的に行えるようになった。このことは、SPring-8における高圧下での精密構造物性研究における新規ユーザー開拓と新たなサイエンスの展開とを生み出すものとして、当初の目標以上に意義があると考えている。


謝 辞
 本研究は、岩佐義宏教授(東北大学)、小島憲道教授(東京大学)、佐藤正俊教授(名古屋大学)、清水克也教授(大阪大学)、黒岩芳弘助教授(岡山大学)やJASRIのスタッフの協力によって遂行されたものである。ここに謝意を表します。

本特定課題による研究成果リスト
1)K. Prassides, Y. Iwasa, T. Ito, Dam H. Chi, K. Uehara, E. Nishibori, M. Takata, M. Sakata, Y. Ohishi, O.Shimomura, T. Muranaka and J. Akimitsu : “ Compressibility of the MgB2 superconductor”, Physical Review. B64 (2001) 012509. 成果番号 1238
2)A. Kuriki, Y. Moritomo, A. Machida, E. Nishibori, M. Takata, M.Sakata, Y. Ohishi, O. Shimomura and A. Nakamura :“ High - pressure structural analysis of (Nd,Sm)1/2Sr1/2MnO3: Origin for pressure- induced charge ordering” Physical Review. B65 (2002) 113105. 成果番号 1918
3)Kuriki A, Moritomo Y, Ohishi Y, Kato K, Nishibori E, Takata M, Sakata M, Hamada N, Todo S, Mori N, Shimomura O and Nakamura A : "High-pressure structural analysis of Fe3O4"Journal of the Physical Society of Japan. 71 (2002) 3092-3093. 成果番号 3105
4)Chi DH, Iwasa Y, Uehara K, Takenobu T, Ito T, Mitani T, Nishibori E, Takata M, Sakata M, Ohishi Y, Kato K and Kubozono Y. : "Pressure-induced structural phase transition in fullerides doped with rare-earth metals"Physical Review. B67 (2003) 094101. 成果番号 3697
5)Moritomo Y, Ohishi Y, Kuriki A, Nishibori E, Takata M and Sakata M. : "High-pressure structural analysis of Mn3O4" Journal of the Physical Society of Japan. 72 (2003) 765-766. 成果番号 3422
6)Moritomo Y, Hanawa M, Ohishi Y, Kato K, Nakamura J, Karppinen M and Yamauchi H : "Physical pressure effect on the charge-ordering transition of BaSmFe2O5.0"Physical Review. B68 (2003) 060101 (R). 成果番号 5060
7)Y. Moritomo, M. Hanawa, Y. Ohishi, K. Kato, M. Takata, A. Kuriki, E. Nishibori, M. Sakata, S. Ohkoshi, H. Tokoro and K. Hashimoto : "Pressure- and photoinduced transformation into a metastable phase in RbMn[Fe(CN)6]" Physical Review. B68 (2003) 144106 成果番号  5122
8)M. Tsubota, F. Iga, T. Nakano, K. Uchihira, S. Kura, M. Takemura, Y. Bando, K. Umeo and T. Takabatake E. Nishibori, M. Takata, M. Sakata, K. Kato and Y. Ohishi : "Hole-doping and Pressure Effects on the Metal-Insulator Transition in Single Crystals of Y1-xCaxTiO3 (0.37≤x ≤0.41)" Journal of the Physical Society of Japan. 72 (2003) 3182
9)Toshiaki Fujita, Takeshi Miyashima, Yukio Yasui, Yoshiaki Kobayashi, Masatoshi Sato, Eiji Nishibori, Makoto Sakata, Yutaka Shimojo, Naoki Igawa, Yoshinobu Ishii, Kazuhisa Kakurai, Takafumi Adachi, Yasuo Ohishi and Masaki Takata : "Transport and Magnetic Studies on the Spin State Transition of Pr1-xCaxCoO3 up to High Pressure.",  Journal of the Physical Society of Japan. 73 (2004) 1987
10)H. Ishikawa, Sh. Xu, Y. Moritomo and A. Nakamura, Y. Ohishi and K. Kato : "High-pressure Structural Investigation of Ferromagnetic Nd2Mo2O7." Physical Review. B 70 (2004) 104103 成果番号 6369
11)Y. Moritomo, M. Hanawa, Sheng Xu, H. Ishikawa, Y. Ohishi, K. Kato, T. Honma, P. Karen, M. Karppinen and H. Yamauchi : "Physical Pressure Effects on Charge-Ordering Transition of BaYCo2O5.0." Physical Review. B69 (2004) 134118 成果番号 5689
12)M. Hanawa, Y. Moritomo, J. Tateishi, Y. Ohishi and K. Kato : "Pressure-induced Spin State Transition in Co-Fe Cyanide." Journal of the Physical Society of Japan. 73 (2004) 2759.
13)Makoto Sakata, Takafumi Itsubo, Eiji Nishibori, Yutakata Moritomo, Norimichi Kojima, Yasuo Ohishi and Masaki Takata : " Charge Density study under high pressure." Journal of Physics and Chemistriy of Solids. 65 (2004) 1973.



参考文献
[1]H. Takahashi and N. Mori, in Studies of High Temperature Superconductors, edited by A. V. Narlikar (Nova Science, New York, 1996), Vol. 16, p. 1.
[2]Y. Moritomo, K. Hirota, H. Nakao, T. Kiyama, Y. Murakami, S. Okamoto, S. Ishihara, S. Maekawa, M. Kubota and H. Yoshizawa : Phys. Rev. B62 (2000) 17.
[3]E. Nishibori, M. Takata, M. Sakata, A. Taninaka and H. Shinohara : Angew. Chem. Int. Ed. 40 (2001) 2998.
[4]S. Aoyagi, K. Kato, A. Ota, H. Yamochi, G. Saito, H. Suematsu, M. Sakata and M. Takata : Angew. Chem. Int. Ed. 43 (2004) 3670.
[5]Y.Amemiya : J. Synchrotron Rad, 2 (1995) 13.
[6]J. Zakeski, G. Wu and P. Coppens : J. Appl. Cryst, 31 (1998) 302.
[7]X. J. Liu et al : Phys. Rev. B 59 (1999) 7925.
[8]T. Fujita, T. Miyashita, Y. Yasui, Y. Kobayashi, M. Sato, E. Nishibori, M.Sakata, Y. Shimojo, N. Igawa, Y. Ishii, K. Kakurai, T. Adachi, Y.Ohishi and M. Takata : J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 1987.




高田 昌樹 TAKATA Masaki
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