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Volume 10, No.4 Pages 235 - 239

2. ビームライン/BEAMLINES

2004年度共用ビームライン評価委員会の報告概要
Report of the Public Beamline Review Committees in 2004

下村 理 SHIMOMURA Osamu

(財)高輝度光科学研究センター 研究調整部 Research Coordination Division, JASRI

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1.2004年度共用ビームライン評価の経緯
 (財)高輝度光科学研究センター(以下JASRI)では、共用ビームラインにおけるさらなる成果創出を考えるために、個々のビームラインの性能と整備状況、共同利用の状況及び利用研究成果並びに将来計画等に関して、2002年度から共用ビームラインの外部評価を行ってきている。この評価のために、ビームライン毎にJASRI理事長の下に評価委員会を設置している。各評価委員会による評価報告書は、諮問委員会、特定放射光施設連絡協議会等に報告し、より優れた成果を目指した供用業務と利用支援の推進、及び今後のビームライン整備・改造、移設、建設等の検討に充分に活用される。
 2004年度は、供用開始後5年を経過した以下の5本のビームラインを評価対象とした。
(1)BL02B2(粉末結晶構造解析)
(2)BL04B2(高エネルギーX線回折)
(3)BL20B2(医学・イメージングⅠ)
(4)BL28B2(白色X線回折)
(5)BL40B2(構造生物学Ⅱ)
 各ビームラインの評価委員会委員及び日程については、表1に示す。
 これらの評価報告書は、後述のSPring-8 Overview 2004 for Beamline Review Committeesとともに、SPring-8のホームページに掲載されているので、詳細はそれらを参照されたい。ここではその概略を紹介する。
評価報告書;
 http://www.spring8.or.jp/j/for_users.html
SPring-8 Overview 2004 for Beamline Review Committees;
 http://www.spring8.or.jp/j/publication.html

2.評価方法
 評価用資料として、当該ビームラインの“Beamline Report”と、共通資料として“SPring-8 Overview 2004 for Beamline Review Committees”を用意した。“Beamline Report”には、ビームライン建設の経緯、ビームラインと実験ステーションの仕様と現状、利用研究成果、今後5年間の計画などが記載されており、当該ビームラインのグループリーダーとビームライン担当者により作成したが、研究成果の項についてはユーザーにも協力を求めた。“SPring-8 Overview 2004 for Beamline Review Committees”はマシンの運転状況、ビームラインの整備状況、課題申請、利用成果、発表論文リストなどの統計を中心としたもので、評価委員会事務局(JASRI・研究調整部)により作成された。評価委員会の委員には、事前にこれらの資料を送付し、予備評価を行った。委員会は国内委員のみで一日半の日程で開催し、担当チームによる説明とビームラインの視察の後、議論と評価のまとめをお願いした。
 評価委員会における評価項目として、以下の4項目を設定した。
①ビームラインおよび実験ステーションの性能・整備状況
②共同利用・支援体制
③研究成果
④今後5ヵ年の計画

3.評価結果の概略
(1)BL02B2(粉末結晶構造解析)
①ビームラインの性能・整備状況
 ビームライン・装置は、高精度データ採取のために細心の注意を払って開発・整備されており、適切に維持・管理できている。さらには、水平方向集光ミラー導入による入射X線輝度の増強を図ることが望ましい。
②共同利用・支援体制
 ビームラインスタッフとパワーユーザーの努力が最先端の研究成果に結び付いている。
 一方、アクティビティを維持しながら将来計画を立案・実行していくために、マンパワーの増加が必要である。また、マシンタイムの不足を補うために、新たな実験ステーションの増設を行い、先端的研究とハイスループットに分離することが望まれる。
③研究成果
 広範な分野から質・量共に充分な成果が挙げられている。このアクティビティを今後も維持するとともに、工学的応用につなげるために、成果の産業界へのアピールの強化も必要である。
④今後5ヵ年の計画
 試料環境整備を中心とした高度化計画は適切な方向である。さらには、IP読取自動化、試料自動交換システム導入による測定のハイスループット化と、粉末回折専用ステーションの増設、あるいは他ビームラインの有効活用を検討すべきである。
⑤まとめ
 本ビームラインはSPring-8の中で最も成功したビームラインである。すべての点において、本ビームラインの成果は突出しており、非常に高く評価することが出来る。今後、これまでの研究活動と同程度のレベルを維持することが重要である。さらに発展するためには、綿密な将来計画に基づいた、マンパワーとビームラインに関する施設側の積極的なサポートが必要である。

(2)BL04B2(高エネルギーX線回折)
①ビームラインの性能・整備状況
 水平面内1回反射の水平湾曲モノクロメーターで単色化した高エネルギーX線を用いるという特徴を有効に利用するための各種の工夫が行われており、同種のビームラインとしては国際的に最高性能を発揮している。このビームラインでは、2軸X線回折装置、高圧実験用DAC、液体金属小角散乱装置、ワイセンベルグカメラの4台の装置がタンデム配置されているが、ビームラインの特徴を生かすためには、これらの適切な再配置が望まれる。
②共同利用・支援体制
 4台の装置の相乗り状態のために利用者の申請自己規制の可能性がありそうである。一方、実績をもっとアピールして、より一層海外から魅力的なビームラインとして認知されるよう努力すべきである。
③研究成果
 2軸X線回折装置による非晶質・液体、並びにDACによる高圧構造解析は、高い評価を得ており、今後も引き続き発展させるべきである。一方、ワイセンベルグカメラによる錯体の構造解析などは、他の適切な設備で行うことが望ましい。
④今後5ヵ年の計画
 2軸回折計を中心とした高度化計画と実験ステーションの再配置計画は適切である。すなわち、ガラス・非晶質などの研究推進のための構造測定用ステーションとして充分に整備し、また、ワイセンベルグカメラによる錯体構造解析は他のビームライン、グループとの融合により実施すべきである。さらには、現行のスタッフに加え、広い視野を持ったインハウススタッフの増員が必要である。
⑤まとめ
 本ビームラインは、高エネルギーX線の有効性を利用する各装置の寄り合い世帯的様相を呈しているが、それは大型施設では避けられない第1期試用期間での経過措置であろう。この4台の装置の中で真にSPring-8として世界を主導するサイエンスを発信する装置に重点を置き、第2期に備えることが肝要と思われる。すなわち、汎用から専用にフェイズをシフトするのが望ましい。そのためには、波及効果の大きなガラス・非晶質などの優れた特徴ある研究を推進することが望ましく、今後はランダム系(非平衡系)物質の構造測定専用ラインとして整備が充分になされていくことが大切と考える。

(3)BL20B2(医学・イメージングⅠ)
①ビームラインの性能・整備状況
 X線イメージングの、大画面化、高精細化、高速化、高感度化のすべての基本要求に応えるように整備されている検出器の多彩性と検出技術はESRFなどと比べても優位にあり高く評価できる。また、骨・摘出臓器・岩石・鉱物などを対象として、単色X線を生かした定量性の高いCT実験が行われているとともに、放射光施設としては世界で唯一の優れた動物実験施設、および動物実験のためのインフラが完備している。
 さらには、本ビームラインの特長の一つである高エネルギーX線に対応する検出器の開発も行うべきであろうし、ビームの垂直方向への拡大も検討してみるべきである。また、今後は再生医療を目指した中型動物実験が必須であり、それに対応する設備・人員などの整備が望まれる。また、検出器の更なる大画面化・高速化などが望まれる。
②共同利用・支援体制
 実験装置の入れ替えや実験動物の管理に関してユーザーの負担を軽減するような支援や異なった分野の多様な研究の支援に、充分な努力が行われている。さらには、各分野の多様な実験に対応するために、実験動物の扱える者も含めて、ビームラインスタッフ又はポスドクの人数を現状よりも増加させることを勧める。
 また、医学分野に於いては、特に画像解析などへの支援が期待されており、他分野からの画像処理技術の導入などが検討されることが望まれる。特に、連携大学院制度などを利用しての、医学と工学の連携を目指す共同研究体制の強化が必要である。
③研究成果
 X線イメージングの基礎研究、300mm幅のビームを生かした大画面トポグラフィの可能性、微小循環イメージング解析結果、基盤研究としての小動物でのCTなどの分野で質・量ともにかなりの成果が挙げられており、高い評価ができる。一方、癌の早期診断、経静脈冠動脈診断の領域に絞った本ビームラインの研究の継続は再検討を必要とする。むしろ、これまでの基盤的な成果を医療へ還元できる形で発展させる必要がある。また、成果を医療・産業界へ積極的に広報する必要があり、そのためには、画像アーカイブを整備するのも一案であろう。
④今後5ヵ年の計画
 イメージング技術の高度化と中小動物のイメージングへの重点化などの計画は適切である。一方、再生医療を目指した中型動物実験に対応するための設備・人員の整備を検討すべきであるし、また、高分解能イメージングや極小角散乱実験については、他のビームラインとの棲み分けを考慮すべきである。
⑤まとめ
 本ビームラインは中尺ビームラインの基盤技術の確立に貢献し、このビームラインの特長を生かしたユニークな研究成果も数多く挙がっている。これらは国際的にも高く評価されている。総合的に判断して、本ビームラインは成功したビームラインであると言える。今後、これまでの研究成果を生かして、目標に向けての更なる発展が期待される。そのためには、上記の提言に沿った対応が望まれる。

(4)BL28B2(白色X線回折)
①ビームラインの性能・整備状況
 本ビームラインの装置は高輝度・高エネルギーの白色X線対応としての必要条件を満たしており、第3世代放射光に相応しいものと考える。白色X線トポグラフィについては、必要とされる基本性能を満足しており、回折計の機能・精度も充分な性能を有している。DXAFSについては、2年間の短い立ち上げにもかかわらず、Laueタイプのポリクロメーターを使用することにより、世界的にもESRFのDXAFSと比肩できる成果を挙げている。しかし、全反射ミラーの整備、湾曲ミラーの導入、試料周り、特にガスハンドリングシステムの整備が求められる。また、微小血管造影では実時間高分解能動画像取得に特徴がある。
 高温・高圧実験はBL04B1から移動するとともに改良された装置とで超臨界金属液体研究に特化している。
②共同利用・支援体制
 ビームライン・実験技術の構築と個別実験に対しては強力な支援体制である。一方、利用研究者と連携して新規分野・利用者の開拓を行うことが望まれる。
③研究成果
 建設終了直後から運用が開始された白色X線トポグラフィの分野を除くと、各分野の報文の数はそれぞれ2〜3報なので、これらの分野の今後の成果に期待したい。
 トポグラフィについてはこれまでの成果の新規性はそれほど高くないので、研究対象領域の拡大を図るために、多成分化合物結晶に対するSpectro-Scattering-Topographyや、極低温域の白色トポグラフィなど新しい手法活用に取り組む必要がある。
 DXAFSについては、触媒的に興味あるシステムに適用した成果が上がっているが、時分割XAFSでしか測定できないシステム、たとえば中間体の構造などが求まればよい。
 冠状動脈の高分解能動画撮影は技術的には高い水準にあり、将来的には血管再生治療の研究などへの発展が期待される
④今後5ヵ年の計画
 光学系と試料環境整備に重点をおいた計画は妥当である。しかし、さらに戦略的な側面から研究計画を検討すべきである。より重点的な装置配分(例えばトポグラフィとDXAFS)に整理することを検討すべきである。
⑤まとめ
 本ビームラインでは白色X線の利用という特色を生かした研究を引き続き展開することが望ましいと考える。すなわち、白色X線トポグラフィおよびDXAFSは引き続き放射光利用技術の向上を図るとともに、成果・可能性を積極的に外部に宣伝し、新たなユーザー・新たな応用を開拓することを期待したい。また、ユーザーグループとの連携を密にして、実験ステーションの基盤機構やインフラストラクチャをさらに整備するよう希望する。

(5)BL40B2(構造生物学Ⅱ)
①ビームラインの性能・整備状況
 本ビームラインは、タンパク質単結晶回折(PX)モードと、小角散乱・回折(SX)モードの二通りのモードの変更が、PX用のゴニオメーターをビームライン上に出し入れするだけの操作で簡単に行えるように設計されている。このような汎用のX線回折・散乱ステーションの設置は重要であり、その目的のために、光学系などは最適化されている。モードの変更に伴う時間的ロスをできるだけ少なくする点についても装置面・運用面で充分に配慮されている。一方、測定範囲の広角化、簡便なカメラ長可変機構の導入による多様な試料への対応が望まれる。
②共同利用・支援体制
 きめ細かい支援体制とユーザーフレンドリーな実験環境整備は高く評価できる。一方、研究内容をより深めるためにはスタッフの増員が必要である。
③研究成果
 PXモードでは特筆すべき成果(水素原子の位置決定などを含む)が数多くの論文がインパクトの高い国際的な雑誌に掲載されており、また、タンパク3000プロジェクトの国家プロジェクトにも貢献している。SXモードでは生体物質の標準的な溶液散乱研究に加えて、高角領域の散乱を精密に測定する新しいタイプの研究が増えてきている。高角領域の解析は今後ますます重要性が増すと思われ、理論的にも興味ある課題を含んでいる。また、カーボンナノチューブや機能性の高分子材料を用いた研究が、異常分散の利用も含んで、多数なされており、SXの有効性を示すことに役立っている。
④今後5ヵ年の計画
 構造解析実験を他へ移し、小角散乱実験に特化する提案は時宜を得ている。さらに、生物関連非結晶分野の拡大と生物以外の分野への質・量の拡大を図るべきである。また、定量的解析法の開発、解析に関する理論研究者の導入が望まれる。
⑤まとめ
 生体試料のための汎用のX線回折・散乱実験ステーションとして、本ビームラインは所期の目的を達成した。今後の研究目的、実験法の広がりから考えると、本ステーションをSXモード専用に特化させる計画は、時宜を得たものであると評価する。それによって、生物関連非結晶試料の研究をさらに拡大するとともに、生物以外のSX研究の多様な展開に対応して行くことが望ましい。そのことによって、今後はSXモード利用者の増加と研究成果が質・量とも向上することが期待される。また、ビームラインスタッフの増員とともに解析に関する理論家の導入も望まれるところである。

4.謝辞および2005年度の予定
 各評価委員会の委員の皆様には、ご多忙にもかかわらず貴重な時間を割いて熱心に作業をしていただき、貴重で適切なご意見や勧告を頂き深く感謝いたします。
なお、2005年度は“BL35XU 高分解能非弾性散乱”、“BL40XU 高フラックス”、“BL43IR 赤外物性”の3本のビームラインについて、ビームライン評価を実施する予定である。

表1 2004年度 SPring-8 BL評価委員会委員及び日程

○BL02B2評価委員会(2004年10月28日〜29日)
 神山 崇    高エネルギー加速器研究機構
 高野 幹夫    京都大学
 藤井 博信    広島大学
 村上 洋一(委員長)    東北大学大学院
 M.J.Rosseinsky    University of Liverpool

○BL04B2評価委員会(2004年12月2日〜3日)
 北川 宏        九州大学大学院
 鈴木 謙爾(委員長)    (財)特殊無機材料研究所
 藤井 保彦        日本原子力研究所
 水谷 宇一郎         名古屋大学大学院
 David L.Price        Oak Ridge National Laboratory
 Henning Friis Poulsen    RisφNational Laboratory

○BL20B2評価委員会(2004年11月25日〜26日)
 大隅 一政         高エネルギー加速器研究機構
 佐藤 史郎        日本放送協会
 菅 弘之(委員長)    国立循環器病センター研究所
 菱川 良夫        兵庫県立粒子線医療センター
 Stephen Wilkins        CSIRO

○BL28B2評価委員会(2004年11月15日〜16日)
 朝倉 清高        北海道大学
 飯田 厚夫(委員長)    高エネルギー加速器研究機構
 入戸野 修        福島大学
 本堂 武夫        北海道大学
 José Baruchel         ESRF

○BL40B2評価委員会(2004年11月4日〜5日)
 浦川 宏        京都工芸繊維大学
 片岡 幹雄        奈良先端科学技術大学院大学
 中川 敦史        大阪大学
 若林 克三(委員長)    大阪大学大学院
 J.Gnter Grossman    Daresbury Laboratory 
 

下村 理 SHIMOMURA  Osamu
(財)高輝度光科学研究センター 研究調整部
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2731 FAX:0791-58-0878
e-mail:simomura@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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