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Volume 10, No.3 Pages 200 - 205

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

ERL-2005会議報告およびSLAC訪問記
Report on ERL2005 and Visit to the SLAC

冨澤 宏光 TOMIZAWA Hiromitsu

(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI

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 SPring-8等の第三世代放射光源に続く次世代放射光源といわれるものの一つに、エネルギー回収型リニアック(Energy-Recovery Linac; ERL)がある。このほど、ERLに関する国際ワークショップ(ERL-2005)が3月18日〜23日に米国ヴァージニア州のThomas Jefferson National Accelerator Facility(JLAB)にて開催された。本ワークショップは、加速器の将来計画を議論する国際組織であるICFA(International Committee for Future Accelerators)が主催する一連のワークショップの一つ(The 32nd Advanced ICFA Beam Dynamics Workshop)として、JLab、Cornell大学 Brookhaven Lab.,Daresbury Lab.の共催で開かれた。今回のワークショップはERLに関する初めての国際ワークショップである。
 まず初めにエネルギー回収型リニアック(Energy-Recovery Linac; ERL)について簡単に説明する。ERLでは線型加速器(リニアック)から一旦出射された電子ビームを上流側に戻してやり、高周波(RF)のタイミングを180°ずらして再度加速空胴に入射する。そのとき電子ビームは加速空胴内で減速されて、そのエネルギーだけが空胴に回収される。これをERL放射光として用いる場合は、アンジュレータ等の挿入光源がこのリターンアーク軌道内の途中に多数設置され、多数のユーザに同時に放射光を提供できるようにする。一見、形状からするとリング加速器のようであるが実質はリニアックそのものである。平均輝度や平均フラックスなどのERL放射光パラメータを計算したメモ(Cornell大学のQun Shen氏による)の図を引用するので参考にして頂きたい。



ERL放射光源での各運転モードの説明:3つのモードについて、放射光パラメータを計算したメモ(Cornell大学のQun Shen氏による)の図、説明から引用。
"hi-coherent mode" と呼ぶ運転モードでは、6 GeV に加速した時に0.1 nmのX線で回折限界となる(コヒーレントとなる)条件として電子ビームのエミッタンスは0.1 mm·mrad。この時の電荷量は8 pC(1.3 GHz で 10 mA)が目標。
これとは別に "hi-flux mode" があり、こちらは電流100 mA(77 pC × 1.3 GHz)が目標。この時のエミッタンスは1 mm·mradを想定。
最後の "ultrafast mode"は、100 fsのバンチ生成が目標で、それぞれ1 nC、1 mm·mrad。

 さて、このERLやX-FEL等のリニアックを基本加速器とした、次世代放射光源には最高品質(極低エミッタンス)の電子源が必要不可欠とされる。第3世代放射光源までは、入射器の電子ビームの品質(エミッタンス)には寄らず、蓄積リングで電子ビームが放射光を出しながら周回することで、最終的に平衡エミッタンス(電子ビームの放射減衰と励起の平衡状態によって決まる)と呼ばれる品質になる。したがって、従来は電子源にそれほどの電子ビームの品質(低エミッタンス)を求められなかったため、熱カソード電子銃を用いても十分であった。しかし、次世代放射光源ではこの平衡エミッタンスよりさらに良質の電子ビームが光源として求められるために、最上流の電子銃から極低エミッタンスの電子を供給する必要が出てきた。ERLではこの極低エミッタンスの電子ビームを蓄積しないで一周で捨て、放射励起で電子ビームのエミッタンスが悪化しないうちに放射光を取り出す。そのために連続運転、すなわち大電流動作が必要となる。電子ビームを捨てるときにそのエネルギーを高周波(RF)エネルギーとして回収して、大電流動作ができないリニアックの課題を克服するというものである。この方式がエネルギー回収型リニアックと言われる所以である。これに必要な新世代電子銃がレーザを火種として電子を生成するフォトカソード電子銃である。このタイプの電子銃はレーザパルスをコントロールすることで、電子ビームの品質を自由にできるのが特徴である。当然ながら、今度はレーザの品質が問題となるわけである(電子ビームの品質保証の責任は全てレーザに転嫁されるため、レーザ光源担当者の著者は苦しんでいるわけである)。
 私はこれまでERLに関する仕事をしてきたわけではないが、JASRI加速器部門で開発している次世代電子銃(フォトカソードRF電子銃)用の世界最高品質レーザ光源を開発している。このレーザ光源がそのまま連続運転のERLで使えるわけではない。しかし、我々が開発しているレーザパルス整形に関する技術がERLにも有用であるとのことで、招待講演の依頼によろこんで応えることにした。次世代X線光源には輝度に加え、短パルス性(フェムト秒)、コヒーレント性などの進化が必要になり、その実現にはいろいろな要素技術の開発が不可欠になる。今回、ワークショップに参加する機会を与えられたことで、ERL関連の他分野の技術情報も得られた。ワークショップ終了後、少し回り道をして、スタンフォード線型加速器センター(SLAC)に立ち寄り、そこのTheory Clubで1時間ほどJASRI加速器部門でのRF電子銃開発の現状について講演してきた。その訪問記もあわせて報告する。
 参加者数は158名であり、うち日本からは10名(原研:5名、KEK:4名、JASRI:1名)であった。パラレルセッションが多く、残念ながら全ての会議報告・議論を聞くことはできなかった。したがって、直接参加できた範囲での会議の様子を中心に報告する。



JLab ERL加速器施設(3月20日のERL Tourにて著者撮影)

 会議初日は全体講演として、まずは現在運転中の3つのERL施設の報告があった。JLabと原研は、それぞれ160 MeV、17 MeVの超伝導ERLを運転している。それぞれ高出力自由電子レーザ、コヒーレント放射光(テラヘルツ、ミリ波)の発生と利用を進めている。このうちJLab ERL施設は3月20日にラボ・ツアーがあったので、そのときに撮影したものを掲載する。これに対して、Budker研究所(ロシア)では、12 MeVのERL(唯一の常伝導ERL)で、テラヘルツ帯のFEL発生を行っている。さらに50 MeVの電子エネルギーを得るために、4周回のERLへの改造が来年には完了するそうである。全体講演の後半は、エネルギー回収技術に基づく加速器の将来計画として、高出力FEL、X線放射光源(フェムト秒放射光源)、原子核実験用高エネルギー衝突加速器(イオンビームをその高品質化(低エミッタンス化)のために低エミッタンス電子ビームで冷却する)の3種類が紹介されていた。ERLがこのように広範な加速器の将来計画と関係していることを初めて知った。さらに、要素技術のレビューとして、電子銃/入射器、ビーム動力学、超伝導空胴、タイミング同期とビーム診断についての講演が続き、最後に超伝導空胴の量産化への課題が示された。超伝導空胴は国際協力で建設される予定のリニアコライダーにも昨年度正式に採用されたこともあり、量産化技術は今後進むであろう。
 ERL放射光施設として世界で4箇所がシミュレーション等により、具体的な計画へ向けての詳細検討しているが、そのうち2つの計画がすでに資金を獲得している。Daresbury Lab.(英国)では700 MeVの放射光源4GLSが計画されており、2006年3月までにプロトタイプ(35 MeV-ERL)が完成予定である。放射光源(700 MeV)についても設計研究の予算が手当されている。もう一方のCornell大学では5〜7 GeVのERL放射光源が計画されているが、このほど入射器建設予算として1800万ドルの予算が認められた。この入射器は放射光源として使用可能なように、100 mAの大電流連続入射と、0.1 mm·mradの規格化エミッタンス(X線放射光がコヒーレントになる条件を満たす)を実現する設計になっている。
 会議の二日目からは4つのワーキング・グループ(WG)に分かれて個別の課題について議論が続けられた。各ワーキング・グループでの印象に残った発表の要約とその個人的な感想を以下に述べていくことにする。WG-1以外の内容は羽島氏(原研)と諏訪田氏(KEK)の会議報告を参考にさせて頂いた(羽島氏のご好意による)。会議のプログラム、発表原稿など詳しくは以下のサイトを参照して頂きたい。
http://www.jlab.org/intralab/calendar/archive04/erl/index.html
 WG-1は電子銃と入射器(Electron Guns and Injector Design)についてである。私はこのワーキング・グループに会議開催中、終始参加していた。ここはレーザ光源、カソード開発、電子銃設計に亘る広範な課題を含んでいて、議論が様々な観点からなされ個人的に勉強になった。次世代放射光で用いられるフォトカソードDC電子銃開発に関しては、JLAB-ERL(10 mA)をたたき台にして100 mAまで電流を増大させる場合の様々な具体的な問題点が検討された。十分なカソード寿命を得るには、高い真空度を達成することに加え、逆流イオン(ion back-bombardment)の効果を抑止するために電極の暗電流を減らす必要がある。C.Sinclair氏(Cornell)は電極に特殊な誘電体を塗付することで暗電流を減らすアイデアを披露していた。特にインパクトが強かったのは、加速初期の電子ビームの理想パルス形状が従来のビール缶の形ではなく、ラグビーボール型の方が格段と低いエミッタンスを実現できるという、最新のシミュレーション結果をC.Limborg女史(SLAC)が明確に示していたことだ(WG-1のまとめでも“No more beer can!”と言われていたほどだ)。
 私がこのワーキング・グループの進行で感心したのは、発表よりも議論の時間の方が長くとってあることであった。細かく分かれたセッションで、それぞれの発表の後に5〜10分程度の質問時間があるのは通常通りであったが、細かく分かれた各セッションの終わりには1時間程度激しく議論がなされ、充実して面白かった。また議論の内容がまとめられてスクリーンにリアルタイムで映し出されるという、私が今まで参加した中では最も議論に重点を置いた会議だったと思う。日本での今後のワークショップでも参考にするべきである。しかし、こういう会議だと必ずといっていいほど、日本人は発言しない。したがって存在が無視され、結果としてアイデアが向こうの成果になってしまうこともしばしばである。非常に残念なことである。私はレーザ光源に関してのみ意見を述べていればよかったのかもしれないが、我々のグループの他の研究成果についても同僚を代弁して意見を述べることにした。特にシミュレーション(カソード直近での鏡像電荷効果の問題)やカソード(電子生成の応答性の問題)に関する問題点で意見し、欧米の研究者と激しく議論の応酬をすることになった。加速器部門では水野氏が独自のシミュレーション・コードを、谷内氏が独創的なRF電子銃空胴を開発しており、常にグループ内では基礎的な問題に関する議論が活発である。常日頃、先輩たちに鍛えられている甲斐があって、元来門外漢である私も十分に議論をわたり合うことができた。
 また、ここでの議論では遺伝的アルゴリズムの加速器パラメータ最適化に応用する可能性の議論が注目を集めていたように思う。遺伝的アルゴリズムとは生物の進化と同じように、世代交代を通じて適者生存の原理で選択することで最適解を求める方法である。3年前にCornell大学で、電子ビームが最小エミッタンスになるように、パラメータの多いレーザパルスの理想形状を最適化するための、遺伝的アルゴリズムの応用について講演してきたことがある。当然ながら、入射器の設計全体では低エミッタンス電子ビームを得るためにはさらに多数のパラメータを最適化する必要がある。今回、I.Bazarov氏(Cornell)が遺伝子アルゴリズムを用いて20以上のパラメータを同時に最適化する方法が有効であることを示した。彼の設計では、80 pCの電子バンチ(100 mAの平均電流に相当)で0.1 mm·mradの規格化エミッタンスが得られており、従来の値よりも1桁小さなエミッタンス(2桁高い放射光輝度に対応)となっている。彼らは動き出したら非常に早い。シミュレーションだけでとはいえ、この2年間で追い抜かれてしまった。このセッションの議論で、カソードの不均一性をレーザパルスの整形を通じて電子ビームを見ながら遺伝的アルゴリズムでできるという提案をしたところ、皆の印象に残ったのか最後に私の提案として全体のまとめで紹介されていた。実はこの提案は2年前の論文で既に発表してあるのだが、今回初めて認知されたらしい。やはり実際に発言する方が国際的に認知されるには一番有効なようである。
 レーザ光源に関してはMichelle Shinn女史(JLAB)と私の2人が発表者であった。彼女は主にERLの光源としてどのようなレーザを選んだらいいかという話で、ファイバーレーザがよいだろうという主張であった。私はレーザの安定化とレーザパルスの自動整形の話を中心にした。自動整形に関しては、レーザ強度の空間分布は補償ミラーと遺伝的アルゴリズムで、時間分布は空間位相変調器と焼き鈍し法による最適整形の実験結果を初めて報告した。また、我々の0.3 TWのTi:Saレーザは基本波で長期の安定度が0.2 %(rms)という世界の他の同等のものより一桁高く安定で、世界のトップである。このことは非常に重要であるにもかかわらず、彼らの関心はアクティブに制御してレーザ光源を高品質化する話の方であった。いつも思うことだがどうも欧米では、このような基礎的で地味な話はエンジニアの仕事と割り切っているようである。したがって、よりインテリジェンス?なアクティブに制御するお話の方が興味を持つようだ。多分、そこが彼らの弱点であると思う。
 WG-2は電子ビーム動力学と輸送系(Optics and Beam Transport)についてである。このワーキング・グループでは、大電流の電子ビームを安定に加速し、エネルギーを回収するための技術課題について議論がなされた。低エネルギー(入射)電子と高エネルギー電子の合流部で生じる空間電荷効果による入射電子のエミッタンス劣化は、ジグザグ合流方式を用いることで抑止できるとの提案がV.Litvinenko氏(Brookhaven)からなされた。また、大電流加速の障害となるビーム・ブレークアップ(BBU)の抑止には、電子ビームを(x,y)平面上で回転させるような輸送系が有効であるとのアイデアがT.Smith氏(Stanford)から出され、この方法に基づいたビーム輸送系の改造作業がJLAB-ERLで進められている。この改造によりBBUの閾値電流が100倍になり、不安定現象は解消される見込みである。電子ビーム軌道の安定化については、V.Lebedev氏がCEBAF(6 GeV超伝導リニアック)における例を紹介した。長時間の変動(気温、潮夕作用など)と短時間の変動(主に商用電源の周波数成分)のそれぞれについてフィードバックを施すことで、広い周波数帯域に亘り10 μm以下の位置精度で軌道安定性が(運動量分散のある位置で)得られている。高分解能のビーム位置モニタを用いれば、さらに高い安定度が得られ、次世代放射光源の要求を満たすことが可能であるとの結論であった。また実現のほどは分からないが、SPring-8と同じ第三世代放射光施設であるAPS(Advanced Photon Source)をERLにアップグレードする可能性についてM.Borland氏(APS)が発表していた。電荷量は100 pC以下、バンチ長が300 fs以上であれば、CSR効果(電子の短バンチ集群のエミッタンスが、自ら出したコヒーレント放射により悪化する効果)を入れても一周回は可能で輝度は一桁上がるとの結果を出していた。
 WG-3は超伝導空胴とRF制御(SRF and RF Control)についてである。超伝導空胴形状の最適化、クライオモジュールの設計、カップラーやチューナーの設計、RF源の選定などの話題は、すでに稼働中の超伝導リニアック(TESLA Test Facility、CEBAFなど)に加えて、急速に立ち上がりつつある国際リニアコライダー(ILC)の研究成果を大いに参考にしながら議論が進められた。これらのコンポーネントに関する限り、ERLの主加速器には技術的障害が基本的に存在しないが、低コスト化を目指す工夫が必要であるとの認識が示された。ERL固有の問題として、大出力のHOM(超伝導空胴の高次モード)を効率的に取り出す技術が必要である。その一例として、梅森氏(KEK)は半径方向に設けたスロットでHOMを取り出す手法を提案し試作装置における測定結果を報告した。
 WG-4はタイミング同期とビーム診断(Synchronization Diagnostics,and Instrumentation)についてである。これは特にフェムト秒のERL放射光ユーザーにはとっては重要なテーマである。超伝導加速器の特徴のひとつに高い位相安定性(電子バンチのタイミング安定性)がある。すでに20〜65 fs(1.5 GHzで0.01〜0.03度)の安定性が複数の加速器で得られている。ERL放射光を用いた時分割実験で鍵となる電子バンチと外部レーザとの同期には、基準信号の安定な分配システム(フィードバックを施した光ファイバー)に加えてレーザとRFの高精度な同期技術が必要となる。これらすべてを含んだタイミング精度として、100 fsは容易に実現可能、10 fsも十分に到達可能との力強い展望が示された。



ERL-2005参加者の集合写真(Lia Merminga 博士の御厚意による)

 最終日の全体講演では各ワーキング・グループのまとめがあるため、前日はサブ・グループに分かれて議論することになった。私はレーザとカソードの最適化に関するサブ・グループに参加することとなった。理想的なレーザ光源とカソードの組み合わせについて議論が白熱し、結局夜中までメールで議論が続くこととなった。翌朝にはようやく議論をまとめ、全体のワーキング・グループの中でI.Ben-Zvi氏によって報告された。実質四日半の会議であったが、各セッションともに議論が白熱し、内容の濃いワークショップであった。今回のERLワークショップは大成功だったのではないだろうか。2年後にDaresbury Lab.にてERL-2007が開催されることが決まり閉幕した。
 ワークショップが終わり、帰国前にカリフォルニア州に寄り、レーザ関連会社2社の訪問とSLACでRF電子銃開発の現状について講演してきた。3月25日の午前中はV.Dolgashev氏(SLAC)の招きで、SPring-8の世界最高加速電界で運転しているSバンドRF電子銃について、Theory Club(http://www.slac.stanford.edu/grp/ara/meetings/theoryclub/archive2004-2005.htm参照のこと)で話した。また、SLACで新規購入するレーザ光源検討の打ち合わせに午後は出席することになっていたため、ハードスケジュールになってしまったが、レーザ光源の高品質化に関して議論できたことは有意義であった。SLACで、我々がどのように安定な(世界よりも一桁良い)レーザ光源を実現したかと質問され、“これはSPring-8の文化です”と回答した。もちろん、技術的には恒温恒湿環境試験クリーンルームや温調ベースプレートの開発があったからである。しかし、この研究はSPring-8だからこそできたのではないかと思うのである。こういう安定化のために物事の本質を見極める精神は、短期的またはチャンピオンデータ的な成果をすぐに求める場所では育たなかったことと思う。この「文化」は、SPring-8研究者のユーザー・ファシリティを維持管理する義務とそれを研究成果につなげたいという熱意が結実したものと思う。最近まで日刊工業新聞で連載されていたSPring-8の挑戦Ⅰ&Ⅱの記事に目を通してみると、ここが建設前に各候補地での岩盤調査から始まり、蓄積リング電磁石の超精密アライメント、入射器の高度安定化、最近では、理想的なトップアップが「求める時間構造を持った高輝度光パルスが、一定の強度で安定に供給される」形で実現された等々、「安定」の文字が数多く見受けられる。昨年暮れにスイスで開催された第3回軌道安定化ワークショップ(SPring-8利用者情報誌Vol.10 No.2 2005.3 pp.125〜128参照のこと)が、SPring-8発祥の国際ワークショップであることも自ずとうなずける。先にも触れたが、欧米の研究者の関心はどちらかというとアクティブに制御して安定化するという感じであるが、SPring-8の研究者が行ってきたことは基礎的で地味ではあるが本質的な話である。こういう基礎的な話をエンジニアの仕事と割り切っていると、その先にある新しいサイエンスの芽を観る大切な眼を失ってしまうのではないだろうか。ここSPring-8には「本質的に安定化」するという「文化」が育まれていると思うのは私だけであろうか。シスコ発の帰国便の中で私はこんなことを考えていた。


冨澤 宏光 TOMIZAWA Hiromitsu
(財)高輝度光科学研究センター
加速器部門 線型加速器グループ 副主幹研究員
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
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