Volume 10, No.1 Pages 4 - 6
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
ユーザーニーズに関するWebアンケートの結果
On the Questionnaire Survey to the SPring-8 Users
1.はじめに
当財団では本年6月中旬に、「ユーザーニーズに関するWebアンケート」を実施しました。冒頭、御協力頂きました方々に篤く御礼申し上げます。同アンケートは、現行の支援業務に対するユーザー各位の満足度・要望を調査し、その結果を利用制度・支援体制の向上に活用することを目的としました。対象者は、一般共同利用課題利用者4637名、産業利用講習会等参加者435名、総計5072名に上り、大規模なアンケートとなりました。また、調査事項も、項目数13、設問数60に達する網羅的なアンケートでした。
対象者各位には電子メールにてアンケートへの御協力をお願いしました。今回のアンケートへの回答は、インターネットを利用してWeb上に開設した回答ページを利用する形態(所謂、インターネット調査)を採りました(注1)。10日間の回答期間内(平成16年6月11日~21日)に、2514件のアクセスがあり、有効回答数は927件を数えました。今回のWebアンケートへの回答率は、配信不能メールによる相手方への非通知分を考慮して、24%程度と推測されます。回答所要時間は、平均29分間/人と分析され、回答者各位には多大な御協力を賜ったものと存じます。
アンケートの集計は単純統計処理を基本とし、クロス統計処理は単純統計処理の妥当性を確認する上で用いました。アンケートの集計・分析結果に関しては、外部アドバイザー(メンバー:佐々木聡利用課題選定委員会主査、坂田誠諮問委員会委員長代理、太田公廣産業利用方策検討委員会委員長、松井純爾ひょうご科学技術協会理事、高橋秀郎諮問委員会委員)にて、妥当性等を御評価頂きました。アドバイザーよりのコメントにより追解析を行った事項に関しては、本文中、文末に*印を施しました。
2.主なアンケート結果から
アンケートの全結果は、既にWeb(http://project.spring8.or.jp/docs/info0501.pdf)を通して公開していますので、本稿では、主たる結果を概観するに止め、詳細は割愛させて頂きます。
今回のアンケートは、そのフェースシートに対する回答の分析から、有効回答者群には、所属機関、職位、所在地、研究分野、研究手法、利用経験、申請経験等の属性に関して特に偏りは認められず、一般共同利用課題利用者、及び産業利用講習会等参加者の意識を代表していると考えられます(図1参照)。
図1 回答者の分布
(注1)Webアンケートの結果を補う目的で、平成16年6月14日~7月13日の期間、利用業務部の窓口にてアンケート票を配布し、利用者各位に直接記入をお願いする形態も部分的に採りました。
課題申請手続きへの電子提出システム導入に関しては「賛成」との回答が83%に達する一方、「分からない」との回答も16%存在しました。現行の課題募集の頻度に関しては、「妥当」とする回答が82%でした。課題選定時に実績を反映する新たな基準の導入に関しては、「妥当」52%、「妥当でない」13%、「どちらとも言えない」35%という結果になりました。同基準導入に躊躇する主な理由として、「試行錯誤を要する挑戦的な課題が衰退し、直ちに実績に結びつく課題に偏る」、「実績に乏しい新規利用者が排除され、実績に富む既存の利用者が優遇される」、「学術論文発表を前提としない民間企業の課題が排除される」等が指摘されました。
採択率・充足率の現状に関しては、「妥当」とする回答は57%、「採択率を上げて充足率を下げるべきだ」とする回答は14%、「採択率を下げて充足率を上げるべきだ」とする回答は7%、「どちらとも言えない」とする回答は22%との結果になっています(図2参照)。これをさらに細かく見ると、新規参入グループ(申請回数1~2件)では採択率拡大を望む比率が19%に増加する一方、熟練利用グループ(申請回数7件以上)では現状を妥当とする比率63%に増加し、採択率・充足率の拡大を望む比率は何れも10%で拮抗しています(*)。
図2 採択率・充足率に対する回答
利用業務部の対応に関しては、「妥当」以上とする回答が98%、休日講習の措置に関しても、「妥当」以上とする回答が95%に上りました。また、ビームラインを利用する上で手助けとなる説明書・マニュアル(電子文書を含む)の整備状況に関しては、「妥当」以上とする回答が86%に達しました。
割り当てられた利用実験が始まってから、データ収集開始までに要した時間に関する質問からは、回答者の50%は1時間以内にデータ収集開始に至っている一方、回答者の10%近くが8時間経過後もデータ収集に至っていないと集計されました。また、データ収集開始までに要した時間の長短に関わらず、ビームライン、測定装置、試料の調整が三大遅延要因となっていることが分かりました(*)。
また、利用される検出器・測定装置の種類は分野・手法に依存する傾向が認められましたが、信号強度を測定時間の主たる律速要因とする回答者が47%に上りました。また、測定装置の自動化に関して不満を呈した回答者は14%に、試料交換の自動化に関して不満を呈した回答者は10%に止まりました。
学術論文1編を執筆するのに必要な課題数、シフト数に関しては、平均して1.8課題、10.7シフトという結果になりました。これについては別途集計している2003年度の発表論文データからは36シフト/論文との実績が得られており、利用者の意識と実績との間に大きな乖離が認められました(*)。また、実験終了後、1年以内に学術論文1編を執筆するとした回答は74%でした。産業利用に於いて評価される発表形式として、回答者の43%が学術論文を選択し、実際、学術論文の発表を産業利用の成果とする回答者が42%に達しました。
情報支援については、利用研究を遂行する上に於いて、立案、課題申請、実験実施、成果報告の各段階で、SPring-8ホームページを主たる情報源とする回答が30%以上を占めました。同時に、印刷物(利用者情報誌、Research Frontiers、User ExperimentReport、ユーザーガイド、Beamline Handbook)も利用研究の遂行過程で活用されていることが分かりました。
産業利用に関しては、啓蒙活動(講習会、ワークショップ)、実施研修会、トライアルユースに関する情報を、「電子メール、或いはSPring-8ホームページで知った」とする回答者が78%に上りました。
また、啓蒙活動に関しては、何らかの成果を得たとする回答が98%に達し、今後は実験手法(XAFS、回折等)に関する講習会を望むとする回答者が半数を超えました(54%)。実施研修会、トライアルユースに参加した回答者の内、何らかの成果を得たとする回答は、夫々、96%、及び99%に達しました。さらに、トライアルユースに参加したとする回答者の内、78%が実際の利用研究に移行している(予定を含む)実態が分かりました。
コーディネータ、技術支援スタッフについては、対応に不満を呈した回答者は皆無でしたが、一方、コーディネータ、技術支援スタッフの存在を知らなかったとする回答が50%近く存在しました。しかし、その職位依存性を調べると、コーディネータの存在と役割を認識している回答者は、研究職・技術職では6割以上に上り、教官・教員では2割程度であることが分かりました(*)。技術支援スタッフに関しても同様の職位依存性が認められました(*)。
国際協力については、国際的指導者を招聘する形での国際共同研究を望む回答者は54%に止まったのに対して、将来性・発展性に富む研究課題、或いは若手研究者を対象とする萌芽的研究への支援を望む回答者は86%に上りました。
現行の支援体制に対する不満要因の序列は、①支援範囲(35%)、②支援要員数(31%)、③支援機器(19%)、④支援要員の資質・水準(9%)となりました。新たに希望する支援については、①旅費支援(34%)、②高度IT環境(21%)、③分析・解析サービス(16%)、④共同利用時の滞在環境の向上(12%)、⑤JASRIとの共同研究(11%)となり、旅費も研究経費の一部という考え方が定着しつつも、依然、若手研究者の育成上、旅費の支援を必要とする学界の現状を表す結果となりました(図3参照)(*)。
図3 今後期待する支援
3.アンケートを終えて
今回のアンケート結果からは、ユーザー各位の支援技術・機器に関する満足度は、今後検討すべき事柄はあるものの、概ね良好と判断されました。また、コーディネータ制度、或いはトライアルユース等、産業利用拡大に向けた取り組みの有効性も確認できたと考えています。
その一方で、利用研究の形態は2局化する傾向が示されました。技術支援の拡大、支援要員の増強、解析・情報環境の向上を希望し利便性を追及する主体的な利用形態と、分析・解析サービス、受託研究の拡大を希望し委託形式への移行を志向するニーズとが顕在化しており、今後の運営に反映すべきと考えます。
冒頭にも述べましたように、JASRI利用業務部の協力により実施されました今回のアンケート結果は利用制度・支援体制の向上を検討する際に活用させて頂きますと共に、今後は定期的にアンケート等を行い、多様化する放射光利用研究に対する利用者の皆様のご要望をとりまとめて、適宜、施策に反映したいと存じます。