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Volume 09, No.5 Pages 333 - 335

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

2004B 利用研究課題選定委員会を終えて
Report of the Proposal Review Committee on the 14th Public Research Term 2004B

佐々木 聡 SASAKI Satoshi

東京工業大学 応用セラミックス研究所  Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology

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1.はじめに

 利用研究課題の採択率をみることで、SPring-8での共同利用について考えてみた。2004B期の場合、一般利用研究課題のうち成果非専有課題のみに絞ると、研究課題の平均採択率は54%程度になる。公募型の重点研究課題でも、「重点ナノテクノロジー支援」の採択率は56%、「重点トライアルユース」の採択率は50%と同程度である。問題はこれらの採択率が高いのか低いのかであるが、科学研究費等の申請と比べる場合には、SPring-8の特殊性を充分考慮する必要がある。研究費の申請とは異なり、大部分のSPring-8実験では、複数人数での24時間(徹夜)実験の体制を組むことが、利用申請をする前提となっている。また、放射光の強度が強いということは、裏を返せば、シグナルを貯めるために、じっと待ちながら長時間測定をやるという実験スタイルを許してくれそうにもない。SPring-8の場合、申請者や申請グループの実験遂行キャパシティを大きく超えるような課題申請は、出しづらいのが現状である。
 このように応募数や申請シフト数という母集団が押さえられている中で、平均2回に1回しか使えないという課題採択は、利用者にとって極めて酷であると思う。選りすぐった研究が行われると考える人もいるだろうが、個々の利用者の視点でみれば、自分の研究のスケジュールを立てられないことになる。実験データがなければ解析も進まず、研究の前段階での取り組みがSPring-8に大きく依存してしまう。自然は正直だと、予想どおりの結果が得られることもうれしいが、実験で予想外の結果がでて逆に理解が深められることも研究者冥利である。基本的には、実験する機会が多いことは良いことだと考えていたい。しかし残念ながら、利用研究課題選定委員会にできることは限られた資源の中での配分であり、公平な競争のもとで公正な審査に心がけるしか道がなさそうである。


2.今期の課題募集と審査

 今回、14回目の課題選定を行ったが、選定結果については、本利用者情報誌315頁の「第14回(2004B)利用研究課題の採択について」に詳しく掲載されている。2004B期の対象期間は、2004年9月から2005年2月までであり、234シフト(1シフトは8時間)のうち186シフトが共同利用に配分される。
 一般利用研究課題655件と重点研究課題231件の総計886件の応募に対し、レフェリー制のもとでの事前評価と一般課題分科会による最終審査を行った。その結果を受けて、7月15日開催の第34回利用研究課題選定委員会で、390件の一般利用研究課題と172件の重点研究課題を採択した。今回も、「共用ビームラインで一般利用研究課題の占める割合が50%を切らない」条件下で課題選定作業を行うことができた。また、従来どおり、選定課題のシフト充足率を満足すること、平和目的であること、挑戦的な課題に充分な配慮をすることに気をつけた。
 研究分野別では、生命科学203件(重点タンパク500の採択数102件を含む)、散乱・回折182件、分光70件、XAFS46件、産業利用44件、実験技術17件の採択であった。タンパク500関係の課題では、今回シフト枠の確定のみを行い、個別の課題へのシフト配分は実施1ヶ月前までに確定する。また、重点ナノテクノロジー総合支援で選定されなかった22課題、および、トライアルユース課題で選定されなかった13課題は、一般利用研究課題として再度審査された。これらの課題は、上の統計においては、重点研究課題として扱われている。重点ナノテクノロジー支援課題は、応募課題数99件のうち55件が、重点トライアルユース課題は、応募30件に対し15件が採択されている。
 共用ビームラインのうち応募数が多かったのは、BL01B1(XAFS)69件、BL25SU(軟X線固体分光)52件、BL02B2(粉末結晶構造解析)45件、BL40B2(構造生物学Ⅱ)42件、BL41XU(構造生物学Ⅰ)42件、BL04B2(高エネルギーX腺回折)41件であり、採択課題数が多かったのは、BL02B2(粉末結晶構造解析)35件とBL01B1(XAFS)29件であった。BL02B2とBL01B1の1課題あたりの配分シフト数は、それぞれ4.5シフトと6.4シフトで、平均シフト数の少ないビームラインの典型である。一方で、平均シフト数の多い共用ビームラインは、BL35XU(高分解能非弾性散乱)15.5シフト、BL39XU(磁性材料)15.5シフト、BL20XU(医学イメージングⅡ)14.3シフト、BL08W(高エネルギー非弾性散乱)14.0シフト、BL27SU(軟X線光化学)13.3シフトである。今回選定された課題全体での平均シフト数は9.1となっている。利用研究課題選定委員会では、シフト配分をビームライン担当者が見積った推奨シフト数に近づける努力をしている。この推奨シフト数を基に決めた配分シフト数と申請者の要求シフト数が少しずれるため、シフト充足率(採択課題の要求シフト数と配分シフト数の比率)は100%にはならない。今回の平均シフト充足率は80%となり、前回の87%よりやや低くなっている。採択率が50%を割り込んだ共用ビームラインは、BL25SU(軟X線固体分光、採択率40%)、BL01B1(XAFS、採択率42%)、BL27SU(軟X線光化学、採択率42%)、BL40B2(構造生物学Ⅱ、採択率45%)とBL41XU(構造生物学Ⅰ、採択率48%)である。
 今期から1年単位で課題申請が行えるビームラインを増やした。2002B期からBL02B1(単結晶構造解析、D1分科)で1年課題の募集をしていたが、これを少し方式を変えた上で、BL04B1(高温高圧、D2分科)、BL10XU(高圧構造物性、D2分科)、BL27SU(軟X線光化学、S分科)にも拡大した。2期に分けて実験を行うことに重要な意味がある課題に対し、応募21件のうち17件(222シフト)を選定した。1年課題の募集は今後もこれら4本のビームラインで継続するが、受付はB期開始分のみで、括弧内の分科に対して申請された場合のみ有効となる。また、1年課題の申請であっても、課題選定委員会の判断で、通常の半年課題に変更される場合もあることをご了承願いたい。


3.長期利用課題について

 長期利用は、一般利用研究課題の枠内にあり、ビームタイム配分枠の20%までを限度に優先的に利用できる研究制度である。ビームタイムを集中的・計画的に利用することで顕著な成果を出すことが期待されている。今回の公募では、3件の長期利用研究課題の応募があった。外部の専門家を含む長期利用分科会での書類審査の結果、1件が6月10日の面接審査に進んだが、最終的には不採択となった。
 2004B期に有効な長期利用課題は、2002A採択小泉課題(BL08W、36シフト)、2002B採択守友課題(BL02B2、6シフト;BL40XU、30シフト)、2003A採択巽課題(BL10XU、36シフト)、2003B採択Cramer課題(BL09XU、24シフト)、2003B採択村上課題(BL41XU、12シフト)と2003A採択小賀坂課題(BL20B2、24シフト)である。


4.研究者の成果を課題審査に反映させるには

 現在、一般利用研究課題(課題公募:従来型)の審査は、科学技術的な妥当性を中心に、すべての分科でレフェリー制による一次審査を行っている。各レフェリーは、評点が一定の分布になるように規格化した上で点数評価を行うよう依頼されている。そのレフェリーの評価点に基づいて、課題選定委員会とその分科会が最終的な課題の採否を決定している。
 現在、課題選定委員会を中心に、課題審査に「各研究者の成果に対する評価を反映させる」システムを導入することを検討しており、今秋の2005A期の募集から実際に運用する計画である。新評価システムでは、SPring-8に求められている研究成果とは何かを明確にし、優れた成果を出すことでSPring-8の成果に貢献した利用者を優遇し、合わせて社会への説明責任を果たすことを目指している。実際の審査では、レフェリーの点数評価に基づくことで公平な競争を維持しつつ、その評価点に対し、優秀な成果を出したリピーターには加点を、利用シフトの割に論文登録数が極端に少ないリピーターには減点を加味するという審査が考えられている。この方法では、どの程度のリピーターに網をかけるかで影響度が大きく違ってくるが、2005A期の試行では対象を1~2割程度に抑えるよう、余裕をもった定式化が試みられている。審査システムの詳細については、10月18~19日の第8回SPring-8シンポジウムで充分説明し、利用者の理解を得たい。なお、新評価システムによる審査であっても、課題選定の審査基準は従来どおりで、何ら変更がないことを強調したい。


5.おわりに

 SPring-8の課題選定システムは、健全で成熟している。2005A期から予定している審査システム導入は、「良い研究」を選ぶだけではなく、「良い研究」の結果が社会にしっかり発信されているかを問うものとみることもできる。審査に研究成果の評価を反映させなければいけない状況は、ある意味悲しいものである。自由な研究スタイルからは一歩後退である。しかし、巨費を必要とすることで社会に説明責任が生じる大型施設利用研究では、社会とのかかわりが特に重要であり、社会の要望に敏感に応えたいと思う。




佐々木 聡 SASAKI Satoshi
東京工業大学・応用セラミックス研究所
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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