Volume 18, No.2 Pages 146 - 147
5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告7 −長期利用分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair - Long-term –
SPring-8利用研究課題審査委員会 長期利用分科会主査/関西学院大学 理工学部 School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University
私は、2011年度から2年間、長期利用課題分科会の主査をさせていただきました。長期利用課題は、SPring-8が供用開始をして間もなく導入されたものです(導入当初は特定利用課題と呼ばれていたように思います)。これは、SPring-8を長期的かつ計画的、戦略的に利用することによって、SPring-8 の特長を活かし、科学技術分野において傑出した成果を生み出す研究、新しい研究領域および研究手法の開拓となる研究、あるいは産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図ることを目的として導入された応募カテゴリーの一つです。
このような目的を達成するために課題採択基準は、課題が SPring-8の特長を活かしているか、さらにそれが科学的・社会的意義が高いことは当然ですが、それらに加え提案されている課題が長期的な戦略性を持っており、その結果の目指すところが科学的・社会的にインパクトが高いことが要求されています。採択されれば、最大で3年間のビームタイムを計画的に利用できるため、特に大学院の博士課程学生を育成するにも非常に有効的なシステムであると思います。
審査は、書面審査、ヒアリングの2段階になっています。書面審査では、課題の専門分野に応じて4名の本分科会委員が当たりますが、課題によっては分科会委員以外の方にも委員をお願いすることがあります。書面審査で合格した応募代表者がヒアリングを受けることになります。ヒアリングは、原則本分科会委員全員が参加し、質疑、応答を含め1時間かけて審査を行います。私の2年間では書面審査を含め採択率は約70%程度でしたので、かなり厳しい審査であると思います。しかし、大変魅力あるシステムであることを反映してか、他の一般課題と比べて海外からの応募課題の割合が多いのが特徴でしょう。海外からの応募者は、わざわざヒアリングのために来日される場合もありますし、テレビ会議でヒアリングに臨む場合も多々ありました。お世辞 にも高度なテレビ会議システムを導入しているとは言えませんが、研究提案や研究成果を発表し、それに対する質疑、応答を目的とする程度であれば十分目的が達成される方法であったと思います。しかし、この裏には事前準備や当日のスムースな進行のため、JASRI担当者の働きがあったからこその結果と推測いたします。それを感じさせないJASRIサポ ートスタッフの能力の高さに関心いたしました。
長期利用課題は、最大3年間のビームタイムが認められますが、1.5年経過した時点で書面とヒアリングによる中間評価を受けなければいけません。そこでは、課題申請した内容に沿った研究を実施し成果が出ているか、採択時に分科会委員から出されたコメントを反映しているか、などを評価します。たとえ、研究成果が有名雑誌に出版されていたとしても、それが当初の計画になかった研究であればその理由を厳しく聞くようにしており、後半の研究計画の見直しをコメントすることもあります。貴重なマシンタイムを長期に利用するのですから他のユーザーのためにもこのようなきちっとした評価をする責任があると思っています。
私の任期2年間で新規に採択いたしました長期利用課題は次の9課題です。
〔2011B期採択〕
清水克哉 課題 | BL10XU |
藤田 誠 課題 | BL38B1, BL41XU |
Nieng Yan 課題 | BL41XU |
Claudia Felser 課題 | BL47XU |
Jonathan Duffy 課題 | BL08W |
渡辺真仁 課題 | BL39XU |
Stuart Hooper 課題 | BL20B2 |
豊島 近 課題 | BL41XU |
青柳 忍 課題 | BL02B1 |
これらの課題の他にすでに採択されている課題の中間評価、事後評価も行いました。すべての課題で素晴らしい研究成果を出されています。これは研究提案者の研究遂行能力が高いことはもちろんですが、厳しい評価を行っているからともいえるのではないでしょうか。
長期利用課題は、SPring-8の特長が十分に生かされ、科学技術分野、あるいは社会的にもインパクトの高いテーマを採択しています。SPring-8が供用開始して15年以上が経過しており、初期のできるだけ多くのユーザーに使ってもらおうというフェーズから、研究課題に対して施設者側がミッションを持って課題設定をすることも必要なフェーズに入っていると思います。その意味においてこの長期利用課題制度は重要な位置づけになっていると認識しています。この重要さを十分に理解した分科会委員の皆様の深い学問知識に基づいた公平かつ真摯な働きに感謝いたします。
関西学院大学 理工学部
〒669-1337 三田市学園2丁目1番
TEL:079-565-7433
e-mail:mastery@kwansei.ac.jp