ページトップへ戻る

Volume 18, No.2 Pages 144 - 145

5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告6 −グリーン/ライフ分科会−
Report on the PRC (Proposal Review Committee) of SPring-8 - Green/Life Innovation –

高尾 正敏 TAKAO Masatoshi

SPring-8利用研究課題審査委員会 グリーン/ライフ分科会主査/大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室 Support Office for Large-Scale Education and Research Projects, Osaka University

Download PDF (205.32 KB)

 重点グリーン/ライフ・イノベーション推進課題は、2011年後期まで実施されていた「重点ナノテクノロジー支援課題」を発展させた制度として実施されました。開始は2011B期からで、2013A期まで4回募集されました。グリーン・イノベーション、ライフ・イノベーションは、防災・減災、震災からの復興への科学技術の貢献と合わせて、第四期科学技術基本計画の根幹となるコンセプトであります。 この方針を受けて、本重点推進の考え方は、少し長くなりますが募集要項から引用いたします。
   『日本は、科学技術立国としての発展において蓄積した高度な科学技術を活かして、世界的な経済危機や地球規模の環境問題など、グローバルな課題解決に、世界を先導して取り組もうとしています。そのため、グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略、ライフ・イノベーションによる健康大国戦略を新たに掲げました。しかしながら、先の東日本大震災により、多くの科学技術研究施設が甚大な被害を受け、イノベーションの実現が危機的な状況に陥っています。  大型放射光施設SPring-8は、生命科学からナノテクノロジーまで広いサイエンス分野をカバーし、これらのイノベーションを先導できる世界一の研究ツールです。被災を免れたSPring-8は、科学技術支援による我が国の経済の復旧のみならず、イノベーション実現による震災復興の礎となる新産業・新学術の創成・育成・発展を支援する中心的なエンジンとならなければなりません。そのためには、グリーン・イノベーション、ライフ・イノベーションへのSPring-8の利活用を緊急かつ重点的に支援する必要があります。そこで、2011B期より重点領域として、重点グリーン/ライフ・イノベーション推進領域を設定し、イノベーション支援の研究開発の利用申請を広く公募することとなりました。』

 国レベルでは、第三期、第四期科学技術計画に則り、グリーン/ライフ分野にトップダウンで集中投資されています。個々の研究者・技術者にとっては、関連分野の貢献を見せるのは、なかなか難しいところもありますが、例えばSPring-8の様な大型共用研究施設が個別の貢献を束ねて、社会に大きく見せていくというのは、意味のあることです。グリーン・イノベーション関連では、地球環境問題克服、再生可能エネルギーへのシフト、希少資源対応としての元素戦略、省エネルギーの推進、エネルギー配送のスマート化、水素化等が重要な国家的テーマ群となっています。ライフ・イノベーションでは、再生医療、感染症対策等が国家的重点課題群となっています。特に再生医療では、iPS細胞等の進化を受け、基礎から臨床へ橋渡し(トランスレーショナル)研究のスピードを加速する「再生医療の実現化ハイウェイ」などの取組があります。重点グリーン/ライフ・イノベーション推進課題では、上記の関連テーマ群について、研究加速による所謂「死の谷」「ダーウインの海」克服を目指す多様で、積極的なアピールと応募を期待しましたが、残念ながら、必ずしも趣旨が大方に理解されていたとは言えないところがあります。特に上記の国家プロジェクトに参画されている研究者・あるいは現場の技術者にまだまだSPring-8の実力が周知されていない可能性があります。今後も本重点分野設定のような取組が継続されることが期待されますが、ユーザー層を拡げる取組が重要と思われます。

対象ビームラインとシフト割合は以下のとおりです。

BL01B1 BL02B1 BL02B2 BL04B2 BL08W BL10XU BL13XU BL17SU
BL20XU BL20B2 BL25SU BL27SU BL28B2 BL37XU BL38B1 BL39XU
BL40XU BL40B2 BL41XU BL43IR BL47XU

 これら21本のビームライン合計で、共用ビームラインが供出する全ユーザータイムの5%に相当するシフトを目安とし、各ビームラインでの配分上限シフト数は10%を限度としていました。ほとんどのビームラインが対象ですので、通常の分科会の審査に先行して、本重点課題として審査することとしました。
 本重点課題採択審査では、上記を踏まえ趣旨に沿ったものを採択いたしました。即ちSPring-8を用いた計測が研究開発を加速し、グリーン/ライフ・イノベーションに繋がるかという観点で審査いたしました。従って、分野的にはグリーン/ライフであっても、純粋に基礎研究であって、応用展開にはさらなる研究の深耕が必要と思われる課題提案は通常の課題審査での評価の中で行っていただきました。また、応用展開加速のために、必要なデータが要求されていると判断できる課題については、科学的な評価が多少低くても、敢えてSPring-8での利用によって、信頼性の基盤の担保が確実になると期待される場合は、本重点課題として採択いたしました。さらに、基礎的な研究であっても、新奇な測定治具の開発を行うなど、関連領域の発展に繋がるチャレンジングな課題提案も積極的に採択しました。シフト数に関しては、各ビームラインの上限一杯に課題採択するのではなく、趣旨に合致した応募課題のみを採択することを徹底しましたので、上限に満たないビームラインでは、余裕分を通常の審査枠に移管しています。

 本重点課題で採択した件数は以下の通りです。不採択となった応募課題は、通常の各分科で審査され、採択されたものもあります。


2011B期: 応募 38件(※) 採択 21件
2012A期: 応募 81件 採択 29件
2012B期: 応募 74件 採択 27件
2013A期: 応募 62件 採択 24件

(※) 重点ナノテクノロジー支援課題と並行していたため、応募数は少ない。



高尾 正敏 TAKAO Masatoshi
大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室
〒565-0871 吹田市山田丘2-1
e-mail:takaoma@lserp.osaka-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794