Volume 17, No.3 Pages 244 - 246
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第3回SPring-8-Diamond放射光産業利用ワークショップ
3rd SPring-8-Diamond Joint Workshop for Industrial Applications of Synchrotron Radiation
第3回SPring-8-Diamond放射光産業利用ワークショップ(3rd SPring-8 - Diamond Joint Workshop for Industrial Applications of Synchrotron Radiation)が、5月21日(月)から23日(水)の間、SPring-8キャンパスおよび神戸(ニチイ学館 神戸ポートアイランドセンター)で開催された。平成21年8月の第1回(於:神戸St. Catherine's College Kobe Institute、およびSPring-8キャンパス)、平成22年7月の第2回(英国Oxford(Diamond Light Source、および St. Catherine's College)に引き続き、日本側は(独)理化学研究所、並びに(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)が、また英国側はDiamond Light Source(DLS)が主催者の任に当たった。
SPring-8-Diamond放射光産業利用ワークショップは日英友好通商条約締結150周年の記念行事「UK-JAPAN2008」の一環として、放射光産業利用に関する報告および協議を目的に第1回が開催されて以降、放射光産業利用における研究協力の重要性を共有する為に、その後も持ち回りで開催している。これまでに開催された第1回、第2回のワークショップは放射光産業利用に関する濃密な議論を行うために参加者を限定していたが、今回は幅広い分野で放射光の産業利用が行われているSPring-8で開催されたため、さまざまな立場から放射光利用にかかわる方々に広く参加していただき、産業利用について多面的な議論を行うために公開ワークショップとして開催した。このため関係者(講演者、座長など)以外も多数参加し、第2回の約2倍にあたる85名(うち英国側の参加者15名)が参加した。
これまでのワークショップは幅広い分野での産業利用の可能性を探るためにテーマを限定せずに行っていたが、今回は第8回日英科学技術協力合同委員会(平成23年11月、英国於開催)の議論を踏まえ設定されたテーマ「エネルギー」に沿って、基調講演および研究成果が報告された。また、Diamondの招待でCanadian Light Source(CLS)のJ. Cutler 氏(Director of Industrial Science)とNSLSのJ. Wang氏(Industrial Program Coordinator)も参加した。
ワークショップの初日(5/21)はSPring-8キャンパス内のXFEL実験研究棟大会議室で行われた。大野研究顧問(JASRI)の司会で白川理事長(JASRI)、石川所長(理研)、G. Materlik CEO(Diamond)、原室長(文部科学省)、K. Knappet一等書記官(英国大使館)による挨拶により開会した。引き続いてG. Materlik CEOの座長でSPring-8とSACLA、およびDiamondのOverviewが石川所長とT. Rayment教授(Director of Physical Sciences)より行われた。DiamondのOverviewではビームラインの整備および利用の現状が紹介された。これまでと同様にDiamondにおいてはタンパク結晶構造解析が産業利用の中心であり成果専有利用の占める割合は6%である。また、製造業分野での産業利用を念頭に整備が進められているビームラインI12(JEEP:Joint Engineering, Environmental and Processing)は、一昨年訪れた際には建設途上にあった第二ハッチが完成して利用がはじまったとのことである。I12をはじめEngineering、Environment and Processing に分類される3本のビームラインは“make accessible and simple for non-SR users”を念頭に機器整備を進めているとのことで産業利用の促進を目指すDiamondの意気込みを感じることができた。
更に、N. Pratt氏(Science & Technology Facilities Council:STFC)による“UK Capital Investment Roadmap”、NSLSのWang氏による“Overview of Industrial Research Program at NSLS”と題した講演があり、英国の科学技術政策においてDiamondが重要な役割を占めていること、2011年のNSLSの企業利用は約6.5%であることが紹介された。21日午前のセッション最後はCLSのCutler氏が“Minerals, Metals and Materials: Understanding the World around Us”と題して講演し、第一次産業の占める割合が高いカナダの産業的特徴に沿って鉱業分野での利用拡大に向けた活動事例を紹介した。
“Industrial Applications at SPring-8”と題した21日午後のセッションでは、石川所長の座長で“Industrial Applications at SPring-8/SACLA Today”(JASRI 山川常務)、“Shaping the Future of the SR Applications by the Industry-Academia Alliance”(JASRI 高田部門長)、“RISING Beamline Lights up Reactions Inside Batterires”(京大 小久見特任教授)、”Time- and Space-Resolved XAFS Techniques for in situ Characterization of Polymer Electrolyte Fuel Cells”(電通大 岩澤特任教授)と題した4件の講演があった。午前のセッション終了後にSACLAの見学が行われたためかSACLAの産業利用についても関心が高いようで“SACLAの企業利用課題数は?”“SACLA企業利用課題のテーマは何か?”(実施中なので回答できない質問)といった質問が出た。また、BL28XUやBL36XUについては“測定用セルは何に留意して設計するのか?”といった技術的な質問の他に、Diamond側から“ビームラインの運営方針はどこで決めるのか?”、“研究開発のロードマップはどのようにして作成したのか”など研究開発方針に関する内容の質問が複数出されたことが印象的であった。
2日目以降はワークショップ会場をニチイ学館 神戸ポートアイランドセンターに移して行われた。22日午前前半のセッション“Management Approaches for Industry Beamlines at SPring-8”は広沢が座長を務め、産業界が活発に利用している専用ビームラインBL08B2、BL24XU(兵庫県ナノテク研究所 松井所長)、BL16XU、BL16B2(産業用専用ビームライン建設利用共同体 淡路合同部会長(富士通研究所))、BL03XU(九大 高原教授)、BL33XU(豊田中央研究所 堂前室長)の現状が紹介された。前日にBL03XU、BL24XU、BL33XUの見学があったためか、運営に関する質問よりも“BL24XUで現在測定可能な元素種は何種類か?”、“BL16B2での二次元検出器を用いた深さ分解XAFSにおいて出射角の較正はどのように行っているのか?”といった技術的な質問が多かった。
22日午前の後半より今回のワークショップのテーマである“エネルギー”に関連した利用研究成果の講演が行われた。DiamondのT. Rayment教授が座長を務めた“Energy I: Fuel cells and Catalysis”では昼食を挟んで午前3件、午後2件の講演が行われた。SPring-8の3件の利用成果の講演(“Structure and Electrocatalytic Properties of Non-Platinunm-Group-Metal Catalysts used for Polymer-Electrolyte Fuel Cell(日産アーク 今井氏)、“XAFS Analysis of Functional Ceramic Materials for SOFC”(ノリタケ 河野氏)、“Operand XAFS Analysis of Fuel Cell Electrocatalysis at the TOYOTA beamline”(豊田中研 西村氏))はいずれもXAFSを利用した成果報告であったが、日産アークの今井氏はHAXPESや粉末X線回折も含めた検討結果も報告され、特に印象深い講演であった。Diamond側の講演はJohnson MattheyのT. Hyde氏による“The use of Synchrotron Radiation in Vehicle Emission Control Catalyst Characterization”と Oxford Catalysts のL. Richard氏による“Fischer-Tropsch Performance Correlated to Catalyst Structure: Trends in Activity and Stability for a Silica-Supported Co Catalyst”の2件で、前者はPt触媒のXAFS測定、後者はCo酸化物微粒子のX線回折測定の結果を紹介していた。どちらの講演も紹介された測定データが少なく放射光利用は緒に就いたばかりとの印象を受けた。
佐野コーデイネータが座長を務めた22日午後後半のセッション“Energy II: Saving”ではSPring-8の利用事例としてJSRの富永氏が極小角散乱による自動車タイヤ用合成ゴム中のシリカフィラー分散状態評価、三菱電機の上原氏がBL16B2で行ったXAFSによる変圧器銅配線の腐食反応の研究が紹介された。Diamond側からはCLSのCutler氏が“Understanding the Mechanism of Antiwear Performance using Synchrotron Radiation-based Techniques”と題して潤滑油中に含まれるリンのXAFS測定よる潤滑油分子の吸着状態の検討結果を紹介した。潤滑材は日本国内でも多数生産されているにもかかわらずSPring-8の共用ビームラインでのこれに類する利用例はないため、新しいSPring-8での新しい利用分野開拓のヒントとなった。
最終日の午前のセッション“Energy III”ではDiamondのSchotton氏とPizzey氏が座長で前半に2件、後半にDiamondの機器整備状況紹介を中心とした3件の講演があった。前半の2件はBirmingham大学のDavenport教授と神戸製鋼の中山氏による講演で、いずれも金属材料の腐食現象を電気化学的に検討していた。特にDavenport教授はDiamondでの成果に加えてSLSやESRFで行った測定結果も含めて講演し、それぞれの放射光施設の特徴を活かして精力的に研究する姿勢に圧倒された。
23日午後の“Wider Application of Synchrotrons in Industry”と題したセッションでは、佐野コーデイネータ、江崎グリコの田中氏、アシックスの立石氏がSPring-8の利用研究事例を紹介するとともに、Rolls-RoyceのKoyama氏が放射光利用に対する期待について講演した。Rolls-Royceは一昨年のワークショップでも放射光利用への期待を紹介していたが、実際の利用には未だ至っていないようである。
ワークショップの最後はエネルギーを扱った各セッションの座長からの概要報告で、山川常務とMaterik教授による閉会挨拶で終了した。この中で次回ワークショップは2014年にDiamondで開催する予定であることが宣言された。
3rd SPring-8 - Diamond Joint Workshop for Industrial Applications of Synchrotron Radiation 21-23 May 2012, SPring-8, Japan
廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
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